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その80 そして巡る

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 「で、わしらに何をして欲しいのじゃ? ……これ美味っ!?」
 「我々の望みは……って美味ですねこれ!?」
 「おいしーい♪ なにこれ?」
 「それはいいから、早く要求を教えてくれ」

 席に着いたところで俺が非常食として持っていたバウムクーヘンをお茶うけに出してやるとその場にいた全員がそれどころじゃなくなったので、話をするよう促す。

 亜人種側は長全員と精霊が参加し、人間側はスティーブと護衛の魔法使いであるモフ子が会合の席について、『俺達の出した食べ物』を口にしていた。
 警戒心が無いという可能性と和解のため無条件でこちらに心を許しているというのが有力だが、一方で俺達を油断させるための罠という可能性も捨てきれない。

 ただ、話を聞く限り当時とは違う人類であるため信じてみたくはあるが――

 「お土産に欲しいですね、このお菓子。それはともかくこちらの要望ですが、我々人間に魔法をおしえていただきたいのです。もちろん報酬はお支払いしますし、向こうの大陸に戻っていただく許可をいただいております。まあキンクネリ王国だけなのですが、いずれ大陸全土に行けるよう交渉する予定です」
 「もちろん、生活基盤になる先立つお金や家屋なども人間側で用意します! 古代の技術を私達に伝授してくれないでしょうか?」

 モフ子も頭を下げてそんなことを言い出し、長たちは顔を見合わせて目配せをする。即答できない懸念点は俺が思っている、向こうへ戻るメリットが思い当たらない部分だろう。
 広い土地と獲物が増えるという可能性があるくらいで、むしろあちこちに分布して目が届かなくなったところで誘拐されたり襲撃をうけるなどがあれば後悔してもしきれない。俺ならこのままこの島で暮らすことを選ぶ。

 「うむ、気持ちはありがたいが向こうの大陸へ移り住むのは遠慮しておこう。それほど多くもないし、この島で十分やっていける」
 「そ、そうですか……」
 「ではここに来て教えを乞うというのは大丈夫でしょうか?」

 グランガスさんの言葉で落ち込むモフ子の背中を軽くたたきながら、スティーブは別の提案を投げかけてくる。するとそれにはミネッタさんが返した。

 「そうじゃのう……あの事件の生き残りとしては、正直お主らを信用できん。じゃが、いきなり襲い掛かってこなかったことと、向こう側が一度絶滅して別の人間という部分で歩み寄っても良いとは思う」
 <僕もノームをもっと知ってもらいたいしいいと思うよ>
 <欲望に忠実だなお前……>

 スネイルの発言にヤマトが殻を叩きながら呆れた顔をするが、スティーブ達の表情は明るくなっていく。

 「おお、それは是非に!」
 「やったぁ!」
 <ただし! エリアはこちらで決めさせてもらうわ、森の奥までは入らないようにね? 他にはなにか必要かしら?>

 シュネが俺に尋ねてきたので、少し考えた後いくつか提案を持ち掛けた。

 「結界を中和できるみたいだからあまり意味は無いかもしれないけど、下船してからチェックをしてもらうのと、上陸人数の制限は必須かな。それとそれなりに発展しなおしたなら家畜なんかも居るだろ? それを分けてもらいたい。ニワトリとか牛はいるだろ?」
 「それはいいな、スミタカの畑があるから肉を手に入れられるれば盤石じゃな」
 「人が増えればもしかしたら外の世界に行くかもしれないけど、エルフは長寿だからあんまり増えないのよね。だから島の中で十分かも」
 「そうですかぁ……わかりました! 私が通いますね!」

 この島から出ることはもう無いと亜人種が口を揃えて言ったので、モフ子が残念そうではあるが妥協点として受け入れた。

 「良かったですねえ姫様、これで陛下もお喜びになると思いますよ」
 「姫様!?」
 
 俺が驚くと、モフ子は笑顔で立ち上がりお辞儀をしてから名乗る。

 「申し遅れました、私はキンクネリ王国の王、カラードの娘、シゥリー=キンクネリと申します! エルフの魔法を独学で再現したんですけど、本場の魔法を習いたいと思いました……なので親善大使としてこの島への遠征を計画したんですよ。後、伝説にあった大きなお猫様にも会えて感激です!」
 
 ――王族が来ているともなれば、この和解は本気でやるつもりなのだろうと思い、今後のことを計画していく。
 とりあえず魔法や鍛冶、細工といったものを学びたい人間は各授業に対して十人までに絞り、学校を作ることに決めた。
 武器の持ち込みは禁止で、オーガを門番にし、ホビットの女性がボディチェックを行うという厳格な態勢をとるがモフ子ことシゥリーとスティーブは快諾してくれるのだった。

 「この猫や犬達はどうする?」
 「もしよろしければこの島においてあげてくださいませんか? 向こうにもまだたくさんいますし」
 「うむ、ワシはそれでええぞ」
 「アタシんところもね、絶滅したと思ってたから、嬉しい悲鳴だよ」
 <カタツムリがたくさんだ、嬉しいなあ。>
 <ふむ、犬たちも元気だ>

 という感じで、各種族を象徴する動物を持ち帰ることが決まり一旦解散することに。見張りはオーガ達がメインで、精霊が交代でやってくれる……と思っていたところで襲来してくる影があった!

 『人間め、覚悟ぉぉぉ!』
 「やめろ!?」
 『ふぎゃ!?』

 湖の精霊ディーネだった。
 いきなり現れて躊躇なくシゥリーに飛び掛かったので、俺は慌てて拳骨をかますと、地面に落ちる。

 「えっと、この方は?」
 「エルフ村の近くにある湖の精霊さんだ。というかお前とオーガは別に追いやられてないだろ」
 『いや、なんかノリで……というか人間がいっぱいいたらそうなるでしょ?』
 「ノリで襲うな!? 姫さんになんかあったらおかしなことになるだろうが……すみません、言い聞かせておきますので……」

 俺が頭を下げると、シゥリーは一瞬ぽかんとした顔をした後、目を輝かせて口を開く。
 
 「す……」
 「……す?」
 「素敵です……! 精霊に拳骨できて、かつ、身を挺して私を助けてくれました……! よく見ればイケメン……結婚しましょう!」
 「はあ!?」
 「おお、そういえば精霊や亜人種に信頼を置かれている模様。いいかもしれませんね。姫様はまだ14歳ですけど」
 「スティーブぅぅ!」

 笑顔を絶やさず適当なことを言うスティーブに文句を言おうとするが、その前にネーラが前に出てきてシゥリーに声をかける。

 「スミタカは私とマユミとフローレの旦那よ? だからもうあなたの入る隙は無いわ」
 「へえ……もう三人も妻が……よほどいい男のようね? 結婚するかどうかは私が決めますよ!」
 「ダメよ」
 「うふふ」
 「やめろ!? せっかく上手くいきかけているのにこんなことでおじゃんにされたらかなわん!!」
 <苦労するわね、スミタカは>
 「みゅー♪」
 「みゃーん!」

 俺の叫びはむなしく空に響き、子猫達が楽しそうに俺の足元でじゃれつくのだった。

 ――そして、この出来事から一年の月日が流れ、俺達は――
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