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その73 永村の家
しおりを挟む「先輩! 先輩!」
「ん……真弓……? 俺は確か親父と母さんに――」
「亡くなったご両親がどうしたんですか? 寝たまま泣いているからちょっと心配になって起こしたんですけど」
「みゅーん……」
真弓に言われて頬を拭うと確かに涙の流れた跡があり、コテツが心配そうに鳴きながら頬を舐めてくれていた。
「みゃー!」
「おっと、キサラギそんなところにいたのか」
「二匹とも離れなかったんですよ。朝ごはん、出来ているから降りましょう」
「いや、その前に庭へ行こう」
「庭、ですか?」
不思議そうに首を傾げる真弓と子猫たちを抱きかかえてパジャマのまま庭へ出ると、俺はとある木の前で立ち止まる。
「これって桜の木ですよね?」
「……ああ、それも異世界、この世界の桜の木だ」
「え?」
「恐らくだけど――」
俺は夢で見たことを真弓へ語る。
親父と母さんはこの桜の木がもつ力で俺達のいる日本に来たことや、何故か元々この世界に居た存在として認識されていたことに加え、この世界に来た反動か不明だが何故か二人には子供が出来ず俺を引きとった経緯に苗木を庭に植えて大事に育てたといった全てのことを。
「それじゃあこの裏庭が繋がっているのはもしかして――」
『――そう、カイリとスミカがいつかこの世界に戻ることを夢見て作っていた魔法の扉なのです』
「……やっぱりか。桜の精霊、お前も生き残ったんだな」
『どういうわけか分かりませんが、貴方は『見てきた』ようですね。ええ、この地に来て約五十年……なんとかここまで成長することができました。惜しむらくは、この世界にあの二人が戻って来れなかったことでしょうか』
「親父たちはこっちへ戻るつもりだったんだな」
「やっぱり思い入れのある土地だからでしょうか?」
真弓が寂しげに言うと、桜の木は予想外の返事をする。
『それもありましたが、もし向こうの世界と繋がり、まだエルフが虐げられていたら日本へ避難させるつもりだったのです。カイリ……永村 海里と永村 澄香がどうして不動産業を選んだのか……それはエルフ達を住まわせるためにできるだけ部屋を確保したに他ならないのですよ』
「なんだって……!?」
確かに親父のマンションとアパートの数はそれなりに多い。四人家族として考えれば今、エルフ村に居る者達を匿ってもなんとかなる。
『だけど、人間になってしまった二人は寿命が来てしまった』
「親父……母さん……」
「……みゅーん」
「でも、どうして急につながったんですかね」
『恐らくですが、エルフと繋がる『猫』を私の木の根元に埋めたからでしょう。お猫様の精霊が私と猫、そして扉を作ったエルフの三つが重なった結果と見ていいでしょう』
因果なものだ……一人になって寂しくなったからペットを飼おうとした俺が拾った猫が扉を開くことになるとは……もう少し早かったら親父だけでも異世界へ戻れたかもしれないのに。
『だけど、スミタカ。貴方は二人の意思を継いでいるわ、エルフ達……それどころか他の亜人も助けているからね。二人も天国で喜んでいると思うわ』
「だと、いいけどな」
「みゃーん……」
二人の想いなど知らず生きてきた俺は涙が止まらず、抱いていたキサラギが俺の頬にすり寄ってくる。資産を蓄えていたのも、いざという時のためだったのかもしれないな……
最後は好きに使えと言っていたけど、結果的に親父の意向を組むことになって良かったと思う。
『私はここから動けないけど、あなた達をずっと見守っているわ。そうよね、シュネ』
<……ええ、まさかそんな接点があるだなんて思わなかったわ。どうして蘇った時に言わなかったの?>
「シュネ、いつからそこに……」
<少し前からよ>
影からシュネが姿を現し、俺は驚く。この桜の木と話はしていたようだが、この家の正体までは知らなかったようだ。永遠に住む村……それで永村ってことかな。
『この扉がいつまでもつかが分からなかったから。だけど、スミタカは知った。もうこの扉が閉ざされることはないでしょう』
「そうなのか? まあ、まだやることはたくさんあるし閉じられても困るけどな。……よし!」
「わ!? どこ行くんですか!」
俺は自分の頬を叩いた後、真弓に子ネコを渡し、一度家に戻り、仏間へ行ってから戻ってくる。
「遺影ですね!」
「ああ、この世界に帰りたかったんだ、せめて連れて行こうかってな。……親父、母さん、二人の願いは多分叶った。だけど、これからだ、人間が島に来ているからエルフ達を助けないといけない。守ってくれよ」
俺がそう言うと、シュネが微笑み、俺にすり寄ってきながら口を開く。
<そうね。とりあえずドワーフが神具の杖を修理できたそうよ、行く?>
「もちろんだ。それから、作戦会議と行こう。もしかしたら、マンションを使うかもしれないしな」
「はい!」
そこでふと気になったことがあり、俺は桜の木に尋ねてみた。
「そういえば、こっちは五十年だけど、エルフ達は三千年過ごしている。この差はなんだ?」
『そこまでは私にも、ね。もしかしたらあの二人がスミタカと会うためにこの時代に来たのかもしれないわね』
「俺は捨て子だったんだけどな……」
正直、赤ん坊のころに貰われたので覚えちゃいない。高校くらいの時にそれをカミングアウトされたけど、二人とも本当の両親だと思っていたし、なにかが変わったことも無い。
「いいですよそんなこと! ボクは先輩に会えたのはご両親のおかげですし! ありがとうございます!」
真弓が涙ぐみながら家に頭を下げるのを見て、俺もまた泣きそうになるがこれからのことを考え、なんとか堪えてみんなに言う。
「ミネッタさん達にも話をしないといけない、すぐに出発しよう」
「みゅー♪」
「みゃーん!!」
「はい!」
『頑張ってね』
真弓と子ネコ達が元気よく返事をし、俺達は早速エルフ村へ向かう。
そして――
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