上 下
59 / 81

その59 スミタカ、不可解だと考える

しおりを挟む

 「ネーラやフローレはドワーフのこと知ってるのか?」
 「私達は村から大きく離れることは無いから会ったことはないわね」
 「同じく」
 「一緒にこの大陸へ逃げて来たのに親交は無いんですねえ」
 「みゅー♪」

 俺の質問にネーラ達が答えると、シュネの上で子猫と遊んでいた黛が不思議そうにつぶやくのが聞こえてきた。

 「ワシらはお互いできるだけ不干渉を決めておるからのう。別の仲違いしているわけではないが、人間との戦いで疑心暗鬼になっておったから、なるべく自分たちの種族だけで生きて行こうという暗黙のルールがいつの間にかできたというわけじゃ」
 「オーガ達も友好的だったし、こっちの人間は一体なにを考えているんだろうな……」
 「確かに町や村、衣服に食べ物……それにルールなど、人間の発展や考え方などは凄かった。故に自分たちが一番偉いと考えてもおかしくはないとワシは思っておるがな。今どうなっているのかさっぱりわからんが!」
 「仲良く人間同士で暮らしているんじゃないですかね?」

 フローレが肩を竦めて言うが、俺はそれに対し考えを述べる。

 「いや、多分そこまで発展はしていなんじゃないかな。こっちの人間はそうじゃないかもしれないけど、争いってやつは基本的に絶えないものなんだ。エルフたち亜人を迫害して大陸を手に入れた後、今度は自国民のためと言い、領地争いが必ず起こる。最初は亜人という共通敵がいたから協力関係にあったけど、それが居なくなったら次の敵は――」
 「同じ人間、というわけか。エルフは争いを好まぬから理解できん感情じゃわい」
 「人を磔にしたくせに……」
 「あ、あれはワシではないぞ!? それにあれは防衛手段じゃ、うん」
 <私が助けに入れて良かったわ……スミタカがあそこで亡くなっていたら、私も精霊としてエルフへの加護ができなくなっていたし>

 さらりとシュネが怖いことを言ってミネッタさんやベゼルさんが青い顔で冷や汗をかいて俯いていた。

 「ま、まあ、無事だったし、俺もこういうキャンプみたいなのは楽しいからいいけどな」
 「う、うむ! さすがはスミタカ殿、懐が深いっ!! ……さて、ドワーフの集落へ急ぐぞ!!」
 「誤魔化しましたね……」
 「あの日のことはエルフの汚点とも言えるものね……」

 フローレとネーラがため息を吐いて首を振るとミネッタさんが話題を変えてくる。

 「そういえばあの杖、一応まだ力は残っているようじゃがドワーフ達でなんとかなるかのう」
 「ああ、わかるんだ? 手に持った時、神秘的なものを感じたからまだ希望はあるかな? このまま湖の精霊に持って行ってもいいと思うけどどうだ?」
 「まあ、どうせドワーフ達の様子を見に行くし、そこでどうにもなりそうにないとなればそのまま返そうぞ」
 「ですね。ボクたちの世界で出てくる物語のドワーフ達は鍛冶に精通しているって設定ですし、期待したいです!」
 
 黛がシュネの上でそんなことを言う。
 しかし、俺はまたなんらかの理由で鍛冶ができないのでは、という疑心を持っていた。
 なにかがおかしい……俺がここに来たのは偶然だけど、逆に言えば俺が来なかったらゆっくりと死んでいた可能性も捨てきれない。
 驕りたくはないけど、野菜畑ができなかったらエルフも繁栄どころか、という感じだし。
 ミネッタさんに聞いたところ、エルフ、ドワーフの他にはやっぱりよく聞くノームという種族と、ミニマムなシルフがいるはずとのこと。
 人間達は徹底的に亜人を排除したがっていたらしく、獣人という俺にとっては夢のある種族も恐らく根絶やしにされているか奴隷になっているのではと言う。
 シュネが復活して結界が強固に戻ったと聞いているが、人間が上陸してこないかが目下の心配事だ。

 「……ここか?」
 「みたい、ですね。やっぱり寂れたみたいな感じになってますよ」
 「ともかく声をかけてみよう。ドワーフ達はわしらみたいに村ごとではなく、この集落だけで生きているはず――」

 と、ミネッタさんが声をかけようとしたところでシュネが俺達を咥えてその場を飛びのいた!

 「どわ!?」
 「みゅー!?」
 「みゃーん……」
 <ごめんなさいね、子供達。にしてもご挨拶じゃない、ドワーフの精霊さん?>
 「え?」
 <……ふん>

 俺達が立っていたところに大きな犬が立っていて、シュネの言葉に鼻を鳴らす。犬、とはいえ精霊だけあって威厳がある。あるのだが……

 「わ! 先輩、柴犬ですよ柴犬!! 大きいですねー!!」
 <うお!? な、なんだ!? 人間だと? い、いつの間に懐に……!? こら、顎を撫でるな!>

 渋い声に似合わず、つぶらな瞳が黛を魅了していた。あ、いいなあ……

 「みゅー!!」
 「みゃー!!」
 「あ、お前達の方が可愛いって」

 さて、少し順番が変わったけどまずは精霊に話を聞いてみるか?
しおりを挟む
感想 191

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...