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その47 黛ピンチ?
しおりを挟む「みゅー!」
「んあ……寝てたのか……」
顔をぺちぺちと叩かれ目を覚ますと、リビングで寝入っていたらしくキサラギは俺の腹の上で丸くなり、コテツは顔を覗き込みながら鼻を叩いてくる。
「みゃー……」
「大あくびだなキサラギ」
「みゃ!」
「みゅー!?」
苦笑しながらキサラギを持ち上げて床に置くと、油断していたコテツにじゃれつき始めた。迷惑そうに相手をするコテツを気の毒に思いながら俺は朝食の準備を始める。
黛とエルフ村へ行ってから早三日。
俺も仕事で向こうへ行くことも無く、黛も次の週末まで来れないため子ネコと平和に過ごしていた。今日はまたホームセンターに行き、ペットショップで二匹のご飯を買ってやろうと思っていた。
「まだ10時だし、黛は頑張っている時間だな。とりあえず出かけるとするかー」
あくびをしながら体を動かし、パキパキと骨の鳴る音を聞きながら立ち上がり、顔を洗って着替えを済ます。財布とスマホを手にした瞬間、着信音が鳴り響く。
「この時間に珍しいな? ……課長?」
着信者を見ると『課長』と表示されていた。そういや仕事を辞めてから話していないなと思いつつ、俺は通話をタップする。
「もしもし、おはようございます課長」
『おお、永村! 久しぶりだな』
「はい、お久しぶりです。それで朝からどうしました?」
『そうだ、そっちに黛くんは居ないか?』
「え? い、いえ、来ていませんけど……」
課長が黛の名前を出し、俺はドキッとする。しかし、黛はすでに――
『そうか、恋人の君のところに居ないならどこ行ったんだ?』
「ぶっ!? あいつもう言ってるのかよ!? い、いや、それよりどこに行ったとは?」
『ああ、今朝出勤して打ち合わせに出て行ったんだ。書類を忘れていることに気づいたから連絡したんだが、電源を切っているみたいでな。どっかでサボってるとすればお前の家かと……』
「うん、流石に仕事中なら追い返しますけどね? にしてもそれは心配だな……」
『こっちも引き続き連絡をしてみるよ。はは、朝からすまなかった』
「いえ……何か分かったら教えてください」
課長が笑いながら通話を切った後、俺は猛烈に不安を覚えて黛に連絡をする。
「……ただいまおかけになった電話は電源を切っているかで電波が届かない場所にいるだって……!? って、電源切ってるんだけだな。でも会社貸与の携帯も繋がらないなんてあるか?」
気になるけど、今できることはないと子ネコを柵の中へ入れて家を出る。車を運転しながら目は黛を探していた。
「居ない……いや、見つかるわけないか」
事故にでもあっていたら連絡が行くだろうし、あいつが俺の家に来る以外でサボるとは思えない。車から見ていても仕方ないかと思ったところで、ふと考えがよぎる。
「打ち合わせと言っていたな……この前のホームセンター、か?」
あの園田とかいうやつとまた広告の打ち合わせかと思い車を走らせた。しかし、ホームセンター内にはおらず、ここはハズレかと思っていると――
「ボクには彼氏が居るんです、会社内でも疑われたくないのに他社の人と食事なんてもってのほかです。好意は嬉しいですけど諦めてください。ごめんなさい」
「彼氏は居ないってこの前言っていただろうが? そんなウソ信じられるか。俺は収入もいいし欲しいものは買ってやるぜ?」
「いりません。ボクが好きな人はひとりだけですから」
「ならこのまま既成事実ってやつを作ればいいってか?」
「ちょ、離してください!」
「どうせ昼まで帰らないんだろ、ちょっとホテルに付き合え」
「……!?」
ホームセンターの裏手で黛の声が聞こえ慌てて向かうと、そんなやり取りが聞こえ俺は思わずスマホの録音ボタンを押していた。あいつはこの前のやつだと、そのままふたりに突撃していく。
「黛!」
「あ、せ、先輩!?」
「なんだお前、こっちは立て込んでるんだ……って、真弓の知り合いじゃねえか」
邪魔をされたと舌打ちをして俺を睨みつけてくる園田に、俺も負けじと一歩前へ出て言う。
「立て込んでいるとはご挨拶だな。彼女に何をするつもりか知らんが、その子は俺の彼女なんだ、その手を離してくれないか?」
「……お前がそうなのか? ふん、こんな時間に普段着ってなんの仕事をしてるんだか。おい、真弓こいつより俺の方が稼げるんだって。だから、な?」
「いやいや、一応これでも自営業だ。多分それなりにあるって、付き合うのはそういうもんじゃないだろ? お互いが好きじゃないと付き合う意味なんてない。見たところ黛は嫌がっているし」
「うるせえヤツだな! 消えろって言ってんだよ!」
「……!」
園田が黛の手を離して俺に掴みかかろうと迫ってくる。俺は喧嘩なんてしないが、あの狼との戦いで少し度胸がついたのか恐怖や焦りはなかった。ぐっと腰をおとして身構えた瞬間――
「何するんですか!?」
「え? うわ……!?」
黛が園田の左手を掴んだとたん体がふわりと浮き、一瞬で尻もちをついた。足払いをしたか……? そんなことを考えながら目を丸くして驚く俺と園田とは対照的に、黛は園田の口をへの字にし、腰に手を当てて園田に詰め寄る。
「ボクの彼氏に手をあげようとしましたね? 黙って帰れば問題にしませんでしたが、ホテルに連れ込もうとしたり、先輩に暴力を振るおうとしたのは許せませんね。報告させてもらいます」
「ふ、ふん、ウチの会社の方が上位なんだぜ? お前の話なんか――」
「あ、録音してるから」
「な……!?」
「さっすが先輩!」
「くそが……! 覚えてろよ!」
「初めて生で聞いた捨て台詞だ……」
園田は黛を置いて車を出すと、そのままこの場を立ち去っていく。どちらにせよあいつには処分を下して貰わないと困るなと思っていると、黛がぎゅっと抱き着いて来た。
「お、ど、どうした?」
「ち、違うんですからね! ボクはちゃんと断ってますから! う、浮気とかしてませんよ! うええ……」
「お、おい、泣くな! 大丈夫だ、お前がそんなに器用じゃないのは知っている! ほ、ほら、会社まで送るから行くぞ」
「うええええん……」
ちょっと恐怖もあったのかもしれないなと、泣く黛の背中を撫でながら落ち着くまで待つのだった。
しかしなんか武術でもやってるのか、黛……?
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