36 / 81
その36 エルフ達の能力
しおりを挟む「みゅ♪」
「みゃー……」
「はは、キサラギが困ってるぞ。それで、俺に見せたいものってなんだ?」
「ふふ、きっと驚くわよ!」
ネーラが振り返ると得意げに笑い、それがなんなのかは教えてくれない。しかし、現場に到着するとネーラの言葉の意味が分かり、文字通り驚愕した。
「これは……!?」
「はっはっは! どうだい、エルフも捨てたものじゃないだろう? まあ、結構苦労したけどね」
何故驚くのか? なぜならそこには昨日失敗したログハウスが立派に建っていたからだ。歪んだ木材はその辺にあるので同じ木は使っていないので、これは乾燥するため放置した木を使って建てたのだろう。
「でも、乾燥してない木だとまた歪むんじゃないか?」
「そこは大丈夫。スミタカの持っていた板で見た乾燥小屋だっけ? それをあっちに作ってね。後は魔法で水分を抜いたのさ」
「おお……」
見れば小屋の周りにかなりの数のエルフ達が倒れていた。だ、大丈夫なのか?
「あれは一晩中乾燥作業をしたせいで疲れているだけだから心配ないよ。多分死んでないはずだ」
「恐ろしいな……」
「なあに退屈な日常より、こういう方が楽しいからね。スミタカには感謝しているし、他のエルフもスミタカがいつ来るかとか次はどんなことを教えてくれるかみたいな話をしているよ」
「へえ、それはちょっと嬉しいかも」
人間、頼りにされるのは悪い気がしないものだ、ログハウスも畑も俺が考えたものことじゃないけど、それが助けになっているなら嬉しい。俺が照れていると、ログハウスからミネッタさんが満面の笑みを浮かべて出てきた。
「おお、スミタカ! 見ておくれよエルフ達が頑張って建て直してくれたんじゃ! 中も前と同じで、一日過ごしておったが、歪んだりヒビが入ったりということは無かったわい!」
「ああ、そりゃよかった。すまなかったな、俺の知識がしょぼいせいで迷惑をかけた」
「気にするな、おかげで雨漏りをしない家ができたのじゃからな!」
「雨漏りしてたのか……」
「うむ、その度に修繕をしておってな。板を乗せて草を置きすぎてこんもりしておったわ!」
釘とか接着剤みたいなものはなく、板を作る技術も拙いので俺の宛がった家やミネッタさんの前の家はマシな方ということだろう。
それと娯楽も無いので、ちょっとしたことでも刺激があって楽しいのかもしれない。
「そんなわけで家屋についてはこれでいけそうだ。それと、板張りの家も設計図の中に入っていてね。相談した結果、丸太タイプと板タイプの家を選んでもらうってことになったんだ。後は僕たちでもなんとかなると思うけど、スミタカの意見も聞きたいから協力して欲しいね」
「もちろん構わないよ。にしても魔法は便利だなあ、まさかこんなに早く乾燥するとは……」
『魔法はこの世界でも貴重だからね。記憶によると、こっちの世界でも人間は使えないみたいよ? だからハーフエルフを実子に据えて……いや、今言うことじゃないわね』
「……すまんなお猫様。ワシは家におるから、用があったら尋ねておくれ」
シュネが言葉を切ると、ミネッタさんは困った顔でシュネを撫でるとそのまま家へと入っていく。まだ別の大陸に居た頃の話のようで、ハーフエルフに何か苦い思い出あったのだろう。
かける言葉が無いまま、ミネッタさんが家の中へ入っていくのを見送る。俺達はしばらく顔を見合わせて気まずい空気を出していたが、気を遣ったシュネがこちらにくる人物を見つけて声を上げた。
『あ、ほら、野菜を持ってきた子がいるわよ』
「あら、フローレね。そういえば他のエルフと一緒に野菜を採っていたんだっけ」
上機嫌、というか顔を赤くして立派なナスにほおずりしながらなにやら呟いている。
「んふふ……黒くて硬いですねえ。こんなに大きかったらはいら……あ! スミタカさん、来ていたんですね」
「あ、うん、ソウダヨー。り、立派なナスだな!」
「これもスミタカさんのおかげですよ。こんなに大きいと切らないと口に入りませんよー」
「あ、ああ、そうだな。口だよな」
「口以外に入れるところなんてないもの、おかしなことを言うわね」
「ネーラが眩しい……!?」
ま、そりゃそうだよなと俺はいかがわしい想像をしていたことを反省する。だが――
「ふっ」
「……おい、お前今何で笑ったんだ?」
「いえいえ、何でもありませんよー」
「確信犯か? まったく顔は可愛いのに、意地の悪いやつだな」
「か、可愛っ!?」
俺が頭を掻きながら口を尖らせると、フローレが意外な反応をして『おっ』となる。もしかしたら……と思い、俺はフローレの肩に手を置いて真面目な顔で言う。
「よく見れば目元はくりっとしているし、口も小さい。小顔だし可愛いよな」
「にゃ、にゃ……」
「お前ほど可愛いやつはみたことが無い、うん可愛い! ぐあ!?」
「にゃぁぁぁぁぁ! スミタカさんのえっち! 獣!」
「ふっ……勝った……」
「みゃー!」
「みゅー!」
フローレが振ったナスが顎に掠り、俺は膝から崩れ落ちる。だが、顔を真っ赤にして逃げ去るフローレを見て、一矢報いたと倒れながら意識が遠くなる。
「フローレばっかり! ねえ、スミタカ、私は?」
「お、おう!? 首をゆするな!? 脳が揺れる……!」
「ねえ、私はー?」
「はっはっは、モテるなあスミタカは! 羨ましいぞ!」
段々と意識が遠ざかっていく中、不満げなネーラと、ベゼルさんの笑い声が耳に入っていた――
0
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる