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その34 敵視されるスミタカ

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 まさかこんなところで出くわすとは……
 スーツを着た黛がコテツを抱き上げてほおずりをしながらにこにこと笑う。そういえばこのホームセンター、俺が最後に広告の依頼をかけた店だったことを思い出す。そういえば黛に引き継いだんだっけ。

 「奇遇だな黛、俺の引継ぎか」
 「そうですそうです! この優秀なボクが先輩の仕事を完璧にこなしてみせますよ。ね、コテツ♪」
 「みゅー♪」

 のんきな三毛猫が喉を撫でられ甘い声を出す。コテツは黛がお気に入りのようで、遠目から見えただけで駆け寄ったのがその証拠だろう。

 「それじゃ、今から打ち合わせか」
 「……そうだよ。何だあんた?」

 黛と一緒に居たスーツの男が苛立たしいという雰囲気を隠しもせず、俺を睨みつけるような感じで尋ねてくる。俺のいた会社の人間じゃないなと思いながら、引き留めてしまったことを謝罪する。

 「ああ、申し訳ない。彼女は俺の元同僚で、永村という」
 「そうかい。おい、時間がおしているから早く行くぞ」
 「あ、そうですね。こちらは広告制作会社の『園田 幸雄』さんで、インターネット広告の製作を請け負ってくれた方なんです!」
 「チッ……紹介なんぞいい、早く来い」
 「あ、あ、引っ張らないでください!? コテツ、キサラギちゃん、先輩またねー!」
 「あ、ああ、頑張ってな」
 「みゅー」

 そこまで時間がおしているのかというくらい園田という男はイライラしながら黛を引いて立ち去っていく。最後はキサラギも不憫と思ったのか、黛に向かって一声鳴いた。
 
 「黛はそんなに焦って無かったけど、多分本当に遅刻しそうだったのかもしれないな……」
 「みゅー」
 「ま、ちゃんと仕事をしているところを見れたのは良かったかな? この前みたいに有休とってまでウチに来てたりするとどうもなあ……」

 仕事はできるのだが、どうも軽いイメージがあるため誤解されやすい黛のもったいないところだ。広告が上手くいったらまた飯でもおごってやるかと思いながら俺は車に子ネコ達を乗せて車を走らせる。
 それにしても、あの園田ってやつあんなにイライラして仕事になるのかねえ?
 
 「まあ、別会社の人間だしあんなもんか……? 黛、怒られてなければいいけど」

 課長に笑顔で詰められる黛を想像して苦笑する。
 意外と早く仕事と買い物が終わり、そのまま家へと帰りつくと時刻はまだ15時半だった。これならエルフ村で少し作業ができるかと買ってきた道具をまとめにかかる。

 「肥料は効果があったから絶対持っていくだろ。苗も早めに植えたいし……あ、ホースもだ」

 何だかんだと持っていくものが決まらず、結局買い物袋のまま持っていくかと思い、勝手口を出たところでふと思う。

 「……そういや、シュネのやつ来てくれるって言ったけどどうやって呼ぶんだ?」
 「みゅー」
 「みゃー」

 さあ? という感じで俺の呟きに反応してくれる。こいつらも呼べないのかな?

 「おおーい! シュネー! 来たぞー!!」
 「みゅー!」
 「みゃー!」

 もしかしたらと思い、勝手口から大声で叫んでみた。しかし、目の前に見える森は静寂を保ったままでシュネが来る様子はない。

 「……歩くか」

 俺は持ちきれない荷物を家の中へ置き、金属バットを片手に村に向かって歩き出す。まだ陽は出ているし、村の道は覚えているし、そう遠くないからすぐに辿り着く。

 と思っていたんだが……

 「グルルル……」
 「で、でかい犬!? いや、お、狼か!?」
 「みゅー……」
 「みゃーー!!」

 歩き始めて少しすると、三頭の狼らしき動物に行く手を阻まれた。獰猛な目を俺……いや、子ネコ達に向けて涎を垂らしていて、コテツは耳を下げて怯え、キサラギは震えながら威嚇をする。

 「じゅるり……」
 「みゃー!?」

 むしろいきのいい獲物だと認識されたらしく、狼が舌なめずりをして目を細める。俺は冷や汗をかきながら子ネコを胸ポケットに入れ、バットを持つ手に力を入れる。

 「今まではこんなことなかったのに……。でも、ひとりで森に出たことは無いな……いつもはエルフ達と賑やかに移動している」

 群れていない弱そうな獲物だと認識された可能性は非常に高い。とりあえず狼たちは胸ポケットの子ネコが食べたいようで、俺の周りをウロウロしながらも目は同じところをずっと見て――

 「グルォォォ!!」
 「う、うわ!?」

 ――いたと思った瞬間、その中の一匹が襲い掛かって来た……!!
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