29 / 81
その29 エルフ達の毎日
しおりを挟む「これは家屋の地図? か?」
「まあそんなもんだ。話が通じるのも不思議だったんだけど、聞いていると距離や時間の単位、実寸なんかは俺の世界と同じみたいだからこれで分かるかなと思ったけど正解だったな」
俺はいわゆるログハウスやコテージと呼ばれる宿泊施設の設計図をベゼルさんに見せた。昨今、インターネットがあればこれくらいはサクッと手に入る。コンパクトなやつなら何とか作れそうな気がすると思い昨晩、黛を送った後、探して印刷してきたのだ。
レンガやブロックは期待できないけど、木なら見渡せばたくさんあるし、今まで手を付けてないなら伐採してもそこまで生態系が狂うとも思えない。
「ふむ、これはいいな。正直スミタカにあげた家はマシな方で、人によっては枝の束で作っている家もあるからな」
「だろ? 木を切るのが大変だけど少しずつ家を作っていかないか? 冬、辛いんだろ」
「そうね!」
冬、というワードでネーラが即答する。今まで何とかしてこれたんだろうけど、その返事で如何に厳しいかということを物語っていた。
「そういえば向こうは二月で寒いけど、こっちはそうでもないな?」
「今は秋ですからね、これから寒くなってくるんです。その時はこう、身を寄せ合って……フフフ……」
「やめい!?」
薄目で体をぴたっと寄せてくるフローレを引きはがし、再びベゼルさんに話をする。
「もしやるなら手伝うし、道具を揃えてもいい」
「最長老と族長に話をしようか、道具はまあ何とかなるよ」
「?」
「これくらいなら何とかなるわよ」
「わたし、この家が欲しいです!」
「両親と一緒でも広すぎるわよ……でも、これはいいわね窓には何かつくのかしら?」
ベゼルさんとネーラの言葉の意味が分からないが三人のエルフは設計図を見ながら何とも楽し気に歩き出した。
子ネコはシュネが背中に乗せ、俺達は最長老の家へ向かう。途中、ベゼルさんが他に声をかけるからと一旦別れ、ネーラとフローレを連れて先に到着。
「こんにちはー、ミネッタさんいますか?」
「おお、スミタカか。入って良いぞ」
「お邪魔しますよ」
「よく来たのう、何もないところじゃがゆっくりして行ってくれ」
ゲームの村人みたいなセリフを言うミネッタさんに苦笑しながら、先ほど畑を作ったことを告げると、にこにこ笑いながら頷く。
次に家屋の話を最長老に言うと、興味深いと唸ってから設計図をみて口を開く。
「ワシらエルフは自然と暮らすことで最小限な生活しかせん。こういうものはやはり人間の知恵じゃのう」
「俺が考えた訳じゃないけどな。でも三千年前は人間と共存していたんだろ?」
「うむ。しかし、人間を恨むあまり人間の知識は捨てる者が多かった。そもそも当時も町で暮らさず森で似たような生活をしていたからの。で、その当時の生き残りは先日語った通り、ワシくらいしかおらん。だからエルフの生活は人間と出会う前に戻っただけ。気にするものもおらんというわけじゃ」
なるほど、と腕を組みながらミネッタさんの言葉に耳を傾ける。
悪い言い方をすればあまり成長をしない種族なのだろう。もしくは長寿故にゆっくり成長しているか、危機感が無いのか……もし人間とずっと共存していたらエルフそのものの存続が危うかったのではとも思える。
「なら木を切り倒すのは反対か?」
「いや、村をつくるときは切り開くからそこまで窮屈というわけではないから構わんぞ。新しい家はわくわくするしのう」
「俗っぽいな……」
「呼んだか?」
「うおおお!?」
「あ、おじい様……じゃなくて族長」
俺がミネッタさんさんに訝し気な目を向けていると、後ろから声がかかり俺は飛び上がるほど驚いた。見れば族長のウィーキンソンさんとベゼルさん、さらに比較的若いエルフの男女が控えていた。
「あれ? 族長あは分かるけど他のみんなは?」
「ベゼルから聞いたんだよ、新しい家を作るって話。俺達も手伝おうと思ってな!」
「そうそう、どうせ畑を耕すか木の実を取りに行くしかやることがないから楽しそうだと思ってね」
「うむ、家屋がキレイになれば子供達も病気になりにくくなるしな。ネーラとベゼルと共に私も手伝おう」
「おお、やる気満々だな……!」
意外なことに最長老以下、エルフ達はノリノリで家づくりに積極的だった。わいわい話している中、フローレが場を凍り付かせる一言を口にする。
「まあ、要するに暇なだけなんですけどね」
「「「……」」」
どうやら図星だったようだ。しかし、族長が咳ばらいをして話を戻す。
「今はそうでもないがオークやゴブリンといった魔物が襲撃してくるケースもある。その時、家が強固であるに越したことは無いから、協力するに決まっている」
「オッケー、なら木材調達からスタートだな。チェーンソー買ってくるか」
「ちぇーんそー? 大丈夫よスミタカ、とりあえず何人かで森へ行きましょう!」
「おおー!」
ちょっとちぇーんそーの言い方が可愛かったなと思いつつ、自信満々なエルフ達に首を傾げる俺。しかし、森行きは決定したらしく、口々に色めき立った感じで話しながら外へ出て行く。
そこでずっと黙っていたネコ達が口を開いた。
「みゅー……」
「みゃ!!」
「どうしたんです、お猫様?」
『お腹が空いたみたいね』
おっと、そろそろミルクの時間か。俺は外に出ると、サッと固形燃料をライターで燃やし、湯煎でミルクを温める準備をする。キャンプ道具大活躍だ。
「すまない、こいつらにミルクを作ったら行くぞ」
「兄さんには私から言っておくわね。みんな、待って!」
『ごめんなさいね』
「いいさ。急ぐものでもないしな。まあ待たせるのもアレだし、お前の背で飲ませながら移動でもいいか?」
『もちろんよ』
というわけで、ミルクを作った後シュネの背に乗って二匹にミルクを飲ませながら森へ向かう。一軒目は最長老の家かなと思いながら作業に入るのだが――
0
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる