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その19 幸せ

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 「戻ったぞー!」
 
 タッ! っと、母猫が村の広場に降り立つと同時に俺は大声で叫ぶ。すると、ミネッタさんやネーラが俺のところへやってくる。
 
 「遅かったわね……帰ってこないかと思ったわ」
 「いや、流石に放置はしないって。それより、こいつを火にかけてくれ」
 「これは? お鍋? ……いい匂い……!」
 「ほう、人間の料理か?」
 「ああ、他にも作って来た。どれか一つずつになるかもしれないが、配ってくれ」

 俺は冷蔵庫に入っていた冷凍コロッケやフライドポテト、枝豆に唐揚げといった酒のつまみとしておいといたものを全て使い、揚げた。そして鍋の中身はビーフシチューで、鍋二つ分を使って作って来た。
 野菜と肉が残っていたのは僥倖だった……というかものぐさで野菜なんかを余らせているせいだが。
 冷蔵庫のチルド室の真価はこういう――

 「スミタカ、全員の配り終わったよ。いいのかい? 客人である君に料理をもらうなんて……」
 「いいって。まあ、意気込んで戻った割にはちょっと少なかったけどな」

 コロッケは10枚程度だし、唐揚げも30個あるかどうか。フライドポテトは大盛のものを使ったので、これが一番行き渡っただろうか? ま、まあ、メインはビーフシチューだしいいか……

 「ふむ、これは美味そうじゃわい。それじゃ、宴を再開するぞ!」
 
 わああああ! と、ミネッタさんの言葉で木のコップを持ったエルフたちが歓喜の声を上げて食事が始まる。俺ももう一度暖めてくれた猪の肉を口に入れると、じゅわっと脂が口の中に広がっていく。

 「都会じゃジビエは食べる機会がないけど、これは美味いな!」
 「はっはっは、森は危険だから中々獲れないだけのことはあるだろう? しかし、この黒いスープに勝てないかな。物凄く美味しい」
 「お、そりゃよかった!」

 ベゼルさんがうんうんと頷きながらビーフシチューを口にするのを見て俺は嬉しくなる。周囲を見ると、他のエルフも俺の持ってきた料理に舌鼓をうっているようで何よりだ。

 「これじゃがいもか? めちゃくちゃ美味しい!」
 「ぼくこれ好き!」
 「豆は良く食べるやつね」
 「もふもふ……ハンバーガーの方が美味しかったけど、これも美味しいわね……」
 「ハンバーガーってなんです?」
 「何でもないわ」
 「キリっとしてもダメですよ! 絶対美味しいやつですよ!」

 子供はフライドポテトが良かったらしく、大人はやはりビーフシチューと唐揚げだ。そんな中、ネーラはコロッケが気に入ったようだが、ぽろっとハンバーガーのことを言ってしまい、フローレに詰め寄られていた。

 「ふあ……美味しい……」
 「良かったわね。お猫様の使いは、神様みたい」
 「スミタカは神様?」
 「こら! 子供に変なことを植え付けるな!?」

 とまあ、色々と問題はあったが宴は気持ちよく進み、果実で作ったエルフ特製の酒なども貰い、程なくして解散となった。

 「それじゃ、また明日ね!」
 「ああ、といっても仕事があるから起きたら帰るけどな」
 「その時は見送ろう」

 ネーラとベゼルさんとあいさつをし、俺は今日くらいはとあてがわれた家へと戻っていく。子ネコを毛布にくるんで寝かせてやり、カバンからペットボトルの水を取り出して一息つくと、一緒に家へ入って来た母猫が口を開いた。

 『お疲れ様、スミタカ。大変な一日だったわね』
 「まったくだな……でも、お前が生きていて正直嬉しかったよ。こいつらもそうだろう」
 『ふふ、人のことばっかりねえ』
 「まあ、磔にされたけど、親父似の族長や母さんに似ているエルフに会えたし、もう家族が居ない俺にはちょっとこの雰囲気は羨ましかったんだよな。だからお前が死んだとき、子ネコは俺と同じ天涯孤独になったろ? だからウチで飼おうと思ったんだ」

 もし、こういう事態が何度もあったとして、全部を助けることはできない。偽善だとしても、俺はこいつらを助けたかった。エルフ達にも似た何かを感じたから料理を持ってきたわけだ。
 
 「ひとりは嫌だからな……」
 『え?』
 「いや、何でもない。それじゃ明日は仕事があるしそろそろ寝るか!」

 ……親父が死んだとき、本当に心がすっからかんになった気がした。本当の両親も知らない、育ての親も両方居なくなった。
 仕事は辞めなくても良かった。会社のみんなと話していれば気がまぎれるから。でも、家に帰るとふと胸が苦しくなるんだ。仕事のミスが増えてきたのは、恐らくそういうことだろう。

 「だから辞めた……幸い、親父の仕事を引き継げたのはラッキーだったな……」
 
 シュラフの中に入って目を瞑る。
 子ネコは枕もとに置いて潰さないようにと思っていたけど、母猫が床で毛布ごとお腹に入れて丸まったので安心して眠れそうだ。

 そんなことを考えていると――

 『そういえばこの子達の名前はつけてくれたの? 私もつけて欲しいんだけど?』
 「あ」

 そういえば名前つけてない!? 

 「……まだつけてなかった……どうするかなあ……」
 
 俺は母猫に言われて気づき、上半身を起こして頭を掻く。名前をつけるのは苦手なんだよな……ゲームとかでも名前が最初から決まっているのは楽でいい。

 すると――

 カタン……と、家の外で音がし身構える。

 「誰だ……?」

 一番可能性が高いのはネーラだけど……?
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