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その12 母猫との再会、それと話し合い

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 「みゅー♪」
 「みゃー♪」
 『ようやく会えたわね、元気そうで何よりだわ』

 二匹の子ネコは驚きもせず、伏せた大きな猫の顔にじゃれついているところ見ると本当にこいつは母猫らしい。面影を追えるほど見ていないのでどうか分からなかったけど、これは間違いない。
 すると、母猫が呆然としているエルフたちに顔を向けて話し出した。

 『この世界の事情はあらかた把握しているわ。確かにあなたたちにとって人間は恐ろしいものだから仕方がない。けど、スミタカはこの世界の人間じゃないから安心していいわ』
 「し、しかし……」

 族長が困惑気味に口ごもると、先ほど俺を抱えていた筋肉エルフが爺さんに近づき声をかける。

 「族長、ネーラの誘導とはいえ彼はたったひとりでこのエルフの村に来たのです。その勇気は称賛に値するのでは? それにネーラも成人ですし、何かあったとしても自己責任。お猫様もああ言っているのです、ここは謝罪をすべきかと。スミタカ君と言ったか、先ほどはすまない」
 「あ、いや……」

 割と最初から俺をどうこうするつもりが無かった様子の筋肉エルフが潔く頭を下げ、今度は俺が困惑してしまう。

 「う、むう……」

 そしてこれ以上ないくらいの正論に、族長の爺さんは目を細めて呻く。すると、横に居た幼女が笑いながら族長の尻を叩いて言う。

 「わっはっは! お主の負けじゃ、ウィーキンソン。そやつの言う通り、ネーラは自己責任じゃ。それに人間と一晩共にしておったのなら、こうして帰ってくることも無かろう。そのまま奴隷か殺されるのが人間の所業。それにお猫様もこの人間を慕って居るようじゃ、むしろここにお猫様を連れてきてくれた救世主かもしれんぞ?」
 「最長老……」

 族長の上が居たのか……だからそこそこの権限ってことか? いや、今はどうでもいい。俺は最長老と呼ばれた幼女に声をかける。

 「こいつも行っていたが俺はこの世界の人間じゃない。その子ネコもだ。正直俺もこの状況はよくわからないんだ、お互いの情報交換をしながら、詳しく説明させてもらえないだろうか?」
 
 俺がそういうと、最長老は笑みを浮かべて俺に返す。

 「話ができる男のようじゃ、ワシはミネッタという。お猫様、ご無礼をお許し下され」
 『大丈夫よ。私のことも話さないといけないしね。とりあえずスミタカから話す?』
 「いいのか? 俺としてはお前のこともものすごく気になるんだが……」

 とはいえ、エルフにとってお猫様は既知でも俺という人間はまだ未知の存在だ。俺のほうから話す方がいいかと、族長に言う。

 「親父……じゃなかった、ウィーキンソンさん、そういうわけだから話をさせてほしい。いいか?」
 「お猫様に言われてはな。皆の者、解散だ。わしと最長老、それとベゼルで話を聞く。ベゼルよ、ネーラを連れて行ってくれ」
 「ああ、我が妹ながら呆れるしかないな。はっはっは!」
 「妹!?」
 「うむ。ベゼルだ、よろしくなスミタカ」
 「あ、ああ……」

 なんと筋肉エルフはネーラの兄だったらしい。俺を擁護してくれたり、さわやかに笑うこの人は信用できそうな気がする。

 「あ、あの……」
 「ん? あ、お前は!?」
 
 おずおずと俺の前に現れたのはさっきネーラを眠らせて人々を煽った、確かフローレとかいう子だ。さっきまでとはうって変わって大人しく、もじもじしながら目を泳がせていた。

 「な、なんだよ」
 「ご、ごめんなさい! 人間は凶悪って聞いていたので、みんなを守るため仕方なく……私はフローレといいます。スミタカ、さん?」
 「ああ、そういうことか。いや、謝ってくれたなら俺はもういいよ」
 「ありがとうございます! 人間は女エルフを見ると即孕ませにくるって聞いて期待して……あ、いえ怖かったんですが、あなたは残念なことに……いや、安心できそうですね!」
 「今、なにか不穏な……?」
 「なんですか?」
 
 小首をかしげて『何のことですか?』と返してきたので、俺は関わり合いにならない方が良さそうだと愛想笑いを浮かべながらそそくさと離れる。そこでエルフたちがこの場から去って行ったのを確認したミネッタが俺と母猫に声をかけてきた。

 「奥にお猫様の祭壇がある、そこへ行こうぞ」
 
 そう言って最長老のミネッタが歩き出し、俺達も後に続く。他のエルフたちが興味津々といった感じで見てくるので緊張する。
 
 「あれがおねこさまー?」
 「おっきいー」
 「ちいさいのもいるよ!」
 「みゅー!」
 「みゃー!」

 しかし子供のエルフは無邪気に母猫に触ったりして可愛らしいものだった。子ネコも母親の頭お上でご満悦のようだ。……母猫を枕にしたら気持ちよさそうだよな……

 そんなことを考えていると、程なくして神殿のような場所に到着し、中へと入る。
 シン……としていて、さっきまでの喧騒が嘘のような張りつめた空気を感じられ、ここが神聖な空間だなと直感的に判断する。

 『なるほど、ここが……』
 「どうした?」
 『何でもないわ』
 「?」

 母猫の呟きに質問を投げかけようとしたが、その前にミネッタが振り返り俺に話しかけてきた。

 「では、話を聞きかせてくれ異世界の人間よ」
 「……ああ」

 簡素な椅子とテーブルがあり、俺はそのひとつに腰かける。すると背後から俺達とは違うエルフが姿を現した。

 「今日の夕飯は何がいいか聞き忘れていたわ。それだけ教えて」
 「お、お前、今は大事な話の最中だ、すぐ戻るから帰っておれ」
 「準備しておきたいから食いたいものを言えばいいのよ! おや、見たことがない顔ね?」
 「……!?」

 族長が顔を赤くして追い払おうとしたが、銀髪のおばさんエルフは俺を見て不思議そうな顔をするだが、俺は銀髪エルフの顔見て思わず声を上げる。

 「か、母さん!?」
 「ええ? あたしにはあんたみたいな若い息子はおらんよ?」

 そう、族長の奥さんは俺の母さんにそっくりだったのだ!
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