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その9 別れの刻?

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 「世話になった」
 「ああ、気を付けてな」
 「みゅーん♪」
 「みゃー」

 結局、お猫様がどういうことなのかを聞くことなく勝手口で対面する俺とネーラ。奇妙な一日で気の休まらないことばかりだったが、不思議と悪くなかったなと思っている俺がいた。
 ……だけど冒険をするにはちょっと歳を取りすぎているしな。

 「じゃあな」
 「ああ。変だったけど、優しい人間のスミタカに感謝を」

 子ネコを抱いたまま片手をあげて挨拶をするとネーラは微笑みながら頷き、照れくさいセリフを言う。俺は鼻の頭を掻きながら見送るためその場に立っていて、勝手口は開け放たれている。

 しかし――

 「じー……」
 「早くいけよ!?」

 ずっと子ネコを見つめながらその場を動かなかったのだ。

 「そういやお猫様ってのはなんなんだ? 初めてみたってわけじゃなさそうだけど」
 「そういえば言ってなかったわね……。エルフやドワーフといった亜人種には共に生き、称える動物がひとつ存在するの。ドワーフなら牛、ノームなら犬といった具合にね」
 「エルフは猫ってわけか」

 俺が挟むと、ネーラはこくりとうなずいて話を続ける。

 「……でも、亜人種を根絶やしにしようとしている人間が森から猫をすべてさらっていったの。噂ではほとんど殺されたとか……それで、称える象徴が無くなったエルフは少しずつ力を衰退させているのよ。だから……その子たちは喉から手が出るほど欲しい」
 
 なるほど、猫が繁殖すればまた力を取り戻すことができるらしい。いわく、俺にこんな無様な姿を見せることもなかっただろうとか言っていたけどそれはどうだろう。

 「流石にこいつらはやらないぞ」
 「うん。お猫様に嫌われちゃうのは嫌だし、それはできない」
 「……」

 攫いたい気持ちはありそうだけど、俺が寝ている間に連れていかなかったところは好感がもてる。俺は少し考えた後、自分でも驚く提案をした。

 「なら、たまに遊びに来いよ。割と近いんだろ? 子ネコもお前のこと嫌いじゃないみたいだし、可愛がりに来てくれると嬉しい」
 「みゅー♪」
 「みゃー!」
 「……! ほ、本当か? ここを封鎖するんじゃなかったのか?」

 我ながらお人よしだとは思うけど、猫を称えるのに猫が居ないのは可哀想な気がする。どうせこの家は俺一人だし、たまに人が……いやエルフが来るのも悪くないと思ったのだ。
 
 「……ま、とりあえず様子見ってところだ。危険があるようなら、悪いがここは閉じさせてもらうが……」
 「だ、大丈夫だ! スミタカ、他のみんなも来ていいか? もちろん大人数で押しかけたりしない。お猫様を見れば力が返ってくると思う!」
 「あ、ああ、そりゃ構わないが……人間だぞ?」
 「私が話を付ける! 今から一緒に村へ来てくれ!」
 「え? い、いや、それは流石にまずいだろ。村についたら処刑されるとか嫌だぞ俺は」
 「だ、大丈夫だ……多分……」

 最後に小さく『多分』といったのを俺は聞き逃さなかった。なので、俺は頭を振ってネーラに返す。

 「駄目だ! お前は来てもいい。なんなら友達も構わない。が、俺がそっちの世界に行くのはちょっと困る。どうせ危ない動物とかもいるんだろ?」
 「それはそうだけど、大丈夫。私が守るから! お猫様を連れて村まで来て、本当にすぐそこだから!」
 「ええい離せ!? 俺はまだ死にたくない!?」

 懇願するように俺の袖を引くネーラを振りほどこうと暴れていると、腕にいた子ネコがかぷかぷと甘噛みをしながら大きく鳴く。

 「みゃーん」
 「みゅー」
 「なんだ?」
 「森へ行こうって言ってるのよ!」
 「都合よく解釈するな……ああ、トイレかな?」
 「みゅ!」
 
 違うといわんばかりにまったく痛くない猫パンチを繰り出す三毛猫。そこはオス猫だというところか。

 「みゃー!」
 「あ!?」

 そこでサバトラが腕から抜け出し、勝手口へ走っていく。慌てて追いかけると、外に出たところで小さな尻尾を振って俺の足にじゃれついてくる。

 「行ってみたいのか……?」
 「みゅー♪」
 「お願いっ!」

 子ネコ達とものすごい真剣なネーラに押され、俺はやむなく裏庭へと出ることになった。はあ……本当に大丈夫なんだろうな……? そう思いながら俺は準備をするためいったん家へと戻った。
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