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FILE5.キョウキノカガクシャ
86.
しおりを挟むガイラルがエリザの母親であるクレーチェの名を頭のおかしい男の『妹』だと口にして驚くカイル。
彼女とは面識が無いものの、エリザが生きていたころの母について話をしていたのをよく聞いていたので、なんとなくだが優しい人だったことくらいは知っている。
「あんたの奥さんがあのイカれてるやつの妹だってのか……!?」
「……そうだ。カイル、この話は後だ、まずはここを制圧する」
「その通りだな……! さっきの一撃で目が覚めたぜ。来いよ兄弟、ケリをつけるぞ」
『……』
同じ‟終末の子”であるNo.8に赤い刃を突きつけながら鼻血を拭う。
目が覚めた、との言葉に偽りなくカイルは身を低くして一気に懐に飛び込む。
『……!?』
「へえ! プロトタイプがいい動きをするね! おっと……!」
「余所見をするならいくらでもするがいい、その首が要らぬならな」
カイルの攻撃でわずかに眉を動かすNo.8。それを見ていたモルゲン博士が歓喜の声を上げていた。
それでもガイラルの攻撃をいなすあたり、その実力は侮れない。
「ハッ! 食らいな!」
『……!』
『お父さんイリスも戦います!!』
片手で刃を振るい、No.8がそれを受ければ空いた手で銃を脇腹に押し付けて発砲。だが相手も同じ‟終末の子”なので、素早く射線をずらして致命傷を避ける。
舌打ちをするカイルと対角線に移動していたイリスが声を上げ、ここぞとばかりにNo.8を押し切るため踏み込んでいく。
「そら!」
『やああ!』
『……!』
カイルの刃を避け、銃弾を弾いたところ、背後からレーヴァテインを振り上げるイリス。
直撃すれば確実に腹を貫かれるところだが、No.8は身を捻ってそれを回避すると腹部から右胸部にかけて赤い筋が入る。
「顔色が変わったな、操られているって訳じゃなさそうだが……!」
先ほどまでと違い明らかに動きが鈍くなったことに気づいたカイルの刃が首を狙い、薄皮一枚を切り裂く。
これはいける、そう判断し一気に攻め立てる。
「つぉりゃぁぁぁぁぁ!!」
『……!!』
『こっちにも居ます!!』
カイルとイリスの猛攻にNo.8が防戦一方になる。
背の高さが違う親子の攻撃はかなり効果的で、カイルが気を利かせて挟み撃ちにするなどの動きで必ずイリスと別角度から攻め立てるため回避が上手い彼も徐々に深い傷が増えていく。
しかしNo.8も同じく‟終末の子”大剣を細かく動かしカイルの左腕を裂いた。
「チッ、これくらいで!」
『くっ……!』
『わ!?』
「イリス!?」
劣勢と見たNo.8がカイルを斬ると同時にイリスの攻撃を避けながら小脇に抱えて交代した。
そのまま片腕で大剣を構え、無言のままカイルを見据える。
「ふん、人質ってわけか? 薄情なもんだな、同じ‟終末の子”なのに殺すつもりか?」
『……こ、ころす……オレが……』
「喋れるんじゃねえか。もしそのつもりならその前にこいつがお前の脳天を貫くぜ?」
『お父さん、イリスに構わず撃っちゃってください!』
ふん、と鼻をならしながらじたばたするイリスに呆れた顔をしながら――
「シュナイダー!」
「わおわおーん!!」
――背後に回り込んでいたシュナイダーに号令をかけ、イリスを掴んでいる腕に噛みついた。カイルはそれと同時に狙いをつける。
『大きいシュー!』
『は、なせ……』
「もらったぜ!」
赤い銃から弾丸が発射され、大剣を持つ左腕、腹部に一発ずつ命中。
たまらず大剣を取り落とし膝をつくNo.8はイリスから手を放し、両手で頭を抱えて呻き出した。
『う、うう……ううう……No.4……? ……それにカイ、ル?』
「な、なんだ?」
カイルが訝しむとモルゲンがガイラルの剣を受けながら口を開く。
「む、いかんね。調整が完全じゃないからダメージを受けるのはよろしくないか、なるほどなるほど」
「チッ、随分粘るなモルゲン!!」
「ガイラル、歳は取りたくないってことさ」
「減らず口を!!」
「おっとぉ!? ……チッ、いい加減鬱陶しいか、ウォールここは撤退するよ。No.8は廃棄でいい」
ガイラルの一撃でたたらを踏み、追撃で白衣を切り裂かれ眼鏡の奥にあるにやけていた目を鋭くさせながらブロウエルと交戦していたウォールへ合図を出す。
直後、ブロウエルのダガーを回避しながらモルゲンを担ぎ上げて一直線に階段へ走る。
「待て!」
「ガイラル、君との決着は必ずつけるから安心していいよ! ……必ず」
そう言って指を鳴らすモルゲン。
直後、
『ぐ……うううう!?』
「お、おい!? てめぇなにを!」
「処分だよ。送り込む時は君の父親に邪魔されたからね、自爆装置をつけられなかったのさ! あはははははははは! 使えないおもちゃは壊すだけ。リサイクルなんて流行らないからね!」
「ま、待て……!」
「ブロウエル!」
カイルの撃った弾丸を振動ブレードで弾きながらウォールに抱えられたまま階段の奥へ消えていく。
激しい攻防に立ち尽くしていたコンブリールと、ガイラルに指示されたブロウエルが後を追い、カイル達はNo.8の下へ。
「カイル、なんとかなるか? このまま死なせるにはしのびない」
「腹が吹っ飛んでる、ここには治療道具もねえから飛空船まで戻らねえと……! おい、死ぬなよ!」
『う……ぐ……だ、大丈夫だ……簡単には死なん……。が、治療はしてもらえると助か、る……』
「ひゅう、さすがはお仲間。丈夫だな。シュナイダー、こいつを乗せて走れるか」
「うぉふ……!!」
「イリスも乗れ。皇帝、走れねえとか言わねえよな?」
「フッ、準備運動は終わっている、……行くぞ」
不敵に笑うガイラルが駆け出し、その後をシュナイダーが走る。カイルは頭を掻きながら肩を竦めて走る。
「激戦だったんだがな。あれを準備運動って言えるかね」
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