帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪

文字の大きさ
上 下
84 / 133
FILE5.キョウキノカガクシャ

81.

しおりを挟む
 
 「カイル! 一体どういうことだ!」
 「エリザ? どうしたんだいきなり」
 『エリザお姉さんです!』
 「わおわおーん♪」
 「ああああ……はいはい、分かったからちょっと大人しくしててね?」

 ――公園でガイラルと話をしてから数日。
 
 カイルの体調はほぼ回復し、一度隊に顔を出そうかと思って部屋で寝転んでいたところにエリザが物凄い剣幕で自宅へ突撃してきた。
 群がるイリスとシュナイダーを脇に抱えて椅子に座らせたエリザはくしゃくしゃになった紙を広げてカイルに突きつけながら憤慨する。

 「これはどういうことだ!」
 「なんだよ急に……これはどういうことだよ!?」
 「私が聞いているの!!」

 エリザの差し出した紙を広げてカイルはエリザに顔を近づけて大声をあげると、エリザも言い返す。
 お互いが寝耳に水。そういった内容が書かれており――

 『辞令:第五大隊所属 カイル=ディリンジャー少尉 以上の者の任を解き、新設する第零小隊の隊長を命ずる』

 「私の下から外れるとは聞いていないわよ!」
 「俺だって……あ、いや……」
 「なに? 心当たりがあるの?」
 
 歯切れの悪いことを言いながら目を逸らすカイルに、襟首を掴んだエリザが訝しげな眼を向けて尋ねる。
 そこでカイルは公園での会話を思い出す。


 ◆ ◇ ◆


 「……うめえ。暑い日はアイスだな……」
 「エリザが町に出るたび欲しそうな顔をして我慢していたのを思い出すな」
 「へえ。まあ、あいつは欲しいものを欲しいって言わねえからな」
 「うむ。だからこそお前と結婚したいと言いだした時は驚いたものだ。ちょうどこれくらいのころだったか。……よく似ている」
 『?』
 「……」

 イリスの頭を撫でながら穏やかに笑うガイラルに目を向け、黙ってアイスをかじるカイル。
 するとアイスを食べきったガイラルが立ち上がり、帽子を頭に乗せてから口を開く。

 「……すまんなカイル。お前はもう少し私のために利用させてもらう。全てが終われば――」
 「あん? どういうこった? 利用って今更だろうが」
 「フッ、確かにそうだな。では、そうさせてもらうとしようか」

 ◆ ◇ ◆


 「(あの時のセリフはこれのためか? しかし俺を隊長にするとは第零小隊とはなんだ?)」
 「……い、おい、聞いているのかカイル!」
 「い、いや、皇帝に話を聞かない限りは俺もさっぱりだ」
 「またお父様が!」

 さらに怒りをあらわにするエリザになにを言ってもダメかと考えを巡らせていると、イリスが二人の袖を引いてぽつりと呟く。

 『うう……喧嘩しちゃダメですよ……』
 「わおう」
 「ほら、イリスが泣くぞ。とりあえず本当に俺は知らないんだ。今から行くが、お前も来るか?」
 「ああ、ご、ごめんなさい、イリス」
 『怒っちゃダメです……』
 「そうね……。カイル、お父様のところへ行きましょう。こんな告知、納得がいかない」
 「……そうだな」

 恐らく、エリザの抗議はさらりと躱されるのだろうと思いながら支度を始めるカイル。
 
 「(先日の話からだいたいの予想はつく。が、プロトタイプの俺を使うメリットがあるのか? むしろ――)」
 
 疑問は聞いて解消すればいい。
 そう考えつつ、程なくしてガイラルの私室へ到着するカイル達。中へ入るなりエリザが即座に詰め寄って行った。


 「お父様! これは一体どういうことですか!」
 「どうしたんだいエリザ、そんなに怒っていては美人が台無しだぞ」
 「茶化さないで答えてください!」

 娘の剣幕にくっくと笑いながらソファに誘導するガイラル。
 三人と一匹が着席したのを確認すると、ガイラルは静かに語りだす。

 「さて、どこから話したものか。先日のシュトレーンとの戦いは覚えているな?」
 「……ええ」
 「あの時戦ったニックという男。あれと同じ存在が『遺跡』に眠っているのだ。イリスと同じくな」
 「では、お父様はイリスやあの男の正体を知っていると認識してよろしいですか?」

 エリザの言葉に眉をわずかに動かす。
 流石は自分の娘と思うべきか、勘が鋭いことを苦々しく思うべきかと胸中で苦笑しながら続ける。

 「私は皇帝だぞ? ある程度は把握している。そもそも、イリスという被検体があるのだ、しかるべきだろう」
 「まあ……」
 「よせよせ、皇帝相手は分が悪いぞエリザ。……で、今度は俺になにをさせたいんだ?」
 「話が早くて助かる。カイル、お前には各地にある『遺跡』を巡ってもらいたい。目的は『回収』だ」
 「……なるほどな」

 イリスを起動できた自分ならこちらに引き入れることが可能だろうと思考を巡らせる。同類ならもしかしたら自分を知っているかも、という期待もある。

 だが、カイルは一つだけ懸念があった。

 「もし、あのウォールというヤツに俺がやられたらどうする? ブロウエル大佐が居なかったらあのまま連れて行かれていたかもしれねえ。賭けとしては正直、分が悪いと思うぜ」
 「カイル、一体なにを……?」

 たったひとつ。
 だけど、急所。
 イリスも連れて行くとなれば終末の子は博士とやらの手に落ち、地上を攻撃するコマを増やしてしまうことになるのだ。

 それについてはガイラルも考えていたようで、小さく頷くと口を開く。

 「もちろん、考えている。お前を中心とした編成は……こうだ」
 「ん。……!? お、おい、正気かよ!?」
 「どうかな、私はすでに壊れているのかもしれんからな――」


 そう言って笑うガイラルのが差し出したメンバーは――

 隊長:カイル=ディリンジャー少尉
 副隊長:ブロウエル=モーント大佐
 補佐:ゼルトナ=イーブル少佐
 相談役:ガイラル=D=ゲラート

 「ゼルトナ爺さん!?」
 『ハンバーグの人です!』
 「相談……ちょっとお父様!?」
 「……少々確かめたいことがあってな。エリザ、お前はライオットと共に内部調査を頼む」
 「お兄様と……?」
 「なに考えてんだ皇帝?」

 訝しむカイルとエリザ。
 
 だが、時が止まることは無く、カイル達は謎の中へ足を踏み入れることになる――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...