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FILE.2 ワスレラレタムラ
42.
しおりを挟む――カイルが村長であるエスピスモを倒した後、エリザたちと対峙していた村人たちはぱたりと倒れ、周囲が静まり返る。
「うおわ!? ……ってありゃ……?」
ドグルが噛まれそうになり、村人の頭に銃を突き付けたところでばたりと倒れたのでそのトリガーが引かれることは無かった。オートスもスナイパーライフルを肩に担ぎながら口を開く。
「……終わったようだな。大佐、衛生兵を」
「ああ、そうだな。カーミル大佐!」
エリザが後方に着地していた衛生兵たちに声をかける。すると、青く長い髪を一本の紐だけで結んだ女性が煙草をくわえたまま前に出てエリザに言う。
「あ、終わったー? それじゃ、みんな片付けちゃってー」
「カーミル、医療をするのに煙草はまずいんじゃないのか?」
「あ、いいのいいの。どうせやるのはみんなだし、ふはー……それにしても、とんでもなかったわね」
第六大隊の隊長、カーミルが紫煙を吐きながら目を細めてサイクロプスの亡骸を見ながらエリザへ声をかけ、エリザは頷いて返す。
「……父上が走って行ったあとに収束した……。原因が何かを知っていたというのか? カイルの居場所もわかっていたようだし……ハッ!? そうだ、カイル!」
「おお、そうだ。ウチのフルーレも回収しないとな! んじゃちょっくら行くかー」
「軽いなお前は……もう少し心配したらどうだ……」
「はっはっは! カイル君が一緒にいてどうにかなるとは思ってないからねー。いや、どうにかなっている可能性はあるのか……?」
「や、やめろ!」
エリザより年上のカーミルにからかわれていると、皇帝がこちらへ向かっているのが見えたので、敬礼で出迎える二人。
「ああ、やはり終わっているか。エリザ、カーミル大佐、ご苦労だったな。もうこの島では何も起こるまい。原因は取り除かれたしな」
「私が島に行くと言った途端付いてきたり、森の奥へ消えたりして、父上は何か知っていたのですか? それに第六大隊を動かし、結果的に助かっていますが……」
エリザが訝しむが、皇帝は明後日の方を向いてスルーしようとする。だが、エリザに詰めよられて皇帝は困り笑いをしながら返事をする。
「どうどう、娘よ。私もここに来るまでは何もわからなかったんだ。だけど、あの資料を見てピンとくるものがあってね。予想はあたった、ということだ」
「そんな説明――」
通るはずがない、とエリザは言いかけるが皇帝は話は終わりだとエリザを離し、カーミルへと顔を向けて頼みをする。
「さて、村人を弔ってやらないとな。済まないがカーミル大佐、人を集めてくれ。駐屯地で待っている」
「……へいへーい。場所は陛下がご存じってことでいいですかね? それじゃ待っててくださいな」
「父上!」
「私達は先に向かおうか、カイル君もいるだろう」
「……」
聞く耳は持たないと、皇帝は話を切り、踵を返す。エリザは無言でその背を追うしかできなかった。しかし胸中でで皇帝は――
「(……これでやつらが動いているのは確定。次はなんだ? セボックを焚きつけるか? いや、カイルが半端るするのは避けたい。まずは地盤を固めるため統一を目指すべきか……)」
◆ ◇ ◆
『お父さん、おじいちゃんが来ました』
「わん!」
「あー、ってエリザも一緒か!? それに――」
「カーミル隊長じゃないですか!?」
イリスがシュナイダーの背に乗って遊んでいると、道の向こうに再び皇帝の姿を見て驚愕するカイルに、第六大隊隊長の姿を見たフルーレも口に手を当てて驚く。
「おー、元気そうだな! どうだ、進展したか?」
「や、やめてくださいよ! どうしていつもそうバリケードが無いんですか!」
「それを言うならデリバリー……おっと、デリカシーか。やるなフルーレ」
「い、いえ、普通に間違えました……」
顔を赤くするフルーレをよそに、カイルは皇帝へ話しかける。……後ろの死体袋に目を向けながら。
「……あれは?」
「村人の遺体だよ。村長と、その娘も一緒に、な」
「だそうだ。村まで案内をしてもらえるか、カイル少尉」
「あれぇ? いつもみたいに『カイルぅ』って言わないんだー」
「……やかましい! それが黒幕か?」
カイルが頷くと、クレイターやオートス、ドグルも姿を見せる。
「……可哀想なことをしたな。もう死んでいるとはいえ」
「俺達には何があったかわからんが、手伝いをさせてもらおう」
「ったく、終わらせて飯にしようぜ、なあ?」
『同感です』
「おう!? ……嬢ちゃんか……」
ドグルがいつの間にか真横に来ていたイリスとシュナイダーにびっくりし、みなが笑う。カイルだけは難しい顔をしていたが、村人を弔うという話は悪くないと村へ案内を始める。
程なくして到着すると、カーミルが口を開く。
「ふうん、いい村だったみたいだね。自給自足もできるし、稽古場もある。開拓を任された村の割に殺伐としていないな。その村長とやら、よほど村人……仲間のことが大事だったらしい」
「ええ……じゃなきゃ復讐なんて企てたりしないと思いますよ。広場にしますか? みんなが村を見渡せるように」
フルーレの提案で村人を埋葬するための作業が始まり、オートス達も穴を掘り墓穴を作る。カイルがふと皇帝に目をやると、もの言いたげな顔で村を見渡していた。カイルは皇帝に近づき、声をかけた。
「……村長たちの埋葬の提案、あんたが決めたと聞いた」
「うむ。陛下と呼ばんか」
「お断りだ。……あんたは、血も涙もない男だと思っていた。あの時だってそうだ、上層部が全滅したにも関わらず、あんたは笑っていたな? それにエリザと俺を引き剥がすことに何の意味があった……?」
カイルは腰にある深紅の刃を手に力を込めるが、皇帝はその手の上に自らの手を置いて微笑む。
「ここでもう一つ死体を増やすのは得策じゃないなカイル君? ……私とて感傷をもつ心はある。カイルよ、疑問に思うお前の気持ちもわかる。恐らく、遠くないうちに私が行っている意味がわかるだろう」
そう言ってイリスを見て目を細める。
その瞬間に出た冷たい視線と殺気は、昔カイルが対峙したときよりもずっと鋭く寒かった。冷や汗を流すカイルは口が乾いていく感覚を味わっていると、視線に気づいたイリスがシュナイダーに乗ってやってくる。
『お父さん、お腹が空きました』
「わん!」
「……おう、埋葬が終わったらみんなでなんか食おうな」
『はんばーぐがいいです』
「ふっふ、では良い肉を出してもらわんとな」
『ぜひ』
イリスが来てから緊張は解け、平常の空気感に戻る。カイルが汗を拭っていると、皇帝がぼそりとカイルにだけ聞こえるように呟く。
「……カイル、お前は何者かを思い出すべきだ。それができたとき、パズルは完成するだろうな」
「!? どういう――」
カイルが問いただそうとしたが、
「カイルさんー! さぼってないで手伝ってくださいよ!」
「カイル、父上と話さず、私と話してくれ」
「はは……今行くよ」
カイルは疲れたように笑い、イリスの頭を撫でる皇帝をチラリと見て、カイルはフルーレ達のもとへ戻っていった。
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