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FILE.2 ワスレラレタムラ
39.
しおりを挟むターン!
――フルーレの放った弾丸は勢いよくサイクロプスの一つ目めがけて放たれた。このまま直撃すれば倒せると、カイルとフレーレは考えていたが、それは叶わなかった。
「ぐう……!?」
「お父さん!? どうしてそこまでして……」
エスペヒスモがサイクロプスの前に立ちふさがり、弾丸を体で受け止めたのだ。マーサが驚愕の表情で叫ぶと、戻ってきたカイルがすれ違いざまに言う。
「……そりゃ、お前さんのためだろ。それに村人たちのこともだな。村長は狂っちゃいない、至極当然のことをしているだけさ」
「……」
「カイルさん……」
事情を知っているフルーレが銃を構えたまま並走を始める。狙いはエスペヒスモだが、クレイターにも呼びかける。
「大佐! ここは俺たちが引き受けるからそっちはばらけて他の町の救援に行ってくれ」
「しかし……あ、いや承知した! みんな、カイル少尉たちの好意を無駄にしないためにも迅速行動!」
「「「ハッ! 目を集中攻撃の旨、承知しました!」」
「くそ……魔獣たちよ襲え!」
エスペヒスモが赤い珠を掲げて魔獣たちをけしかけるも、
「でかぶつじゃなければこの程度は慣れっこだってね!」
タタタタ! ターン!
ギャァァァァ!?
グルォォォォ!?
「やるな大佐達! 村長、お前の相手はこっちだ!」
「小僧ぉぉぉぉぉ!」
ザザザザザ!
カイルは一気に接近し、魔獣を駆逐するクレイターに気を取られたエスペヒスモの襟首を掴んでサイクロプスから引きはがす。
『フルーレお姉さん急ぎましょう、再生を始めています』
「大変……!? 起き上がる前にたたかないといけませんね!」
発砲するフルーレ。だが、サイクロプスは機敏な動き見せ、手で弾丸をガードし、立ち上がろうとする。
「この魔物? だんだん賢くなっているような……」
『攻撃の手を休めないでいきましょう、恐らく学習型の***です』
「え? ……う、うん分かった!」
『シュー、お姉さんの援護を。私はこのまま突撃します』
「あおぉぉぉぉぉん!!」
ガシャン、と自分の背丈よりも高いパイルバンカーを軽々と持ち上げイリスが駆け出し、フルーレとシュナイダーが追う。
「……これはイリスちゃんの武器のほうが確実。わたしはサイクロプスの気を引くほうがいいですね!」
ハンドガンをしまい、カイルの捨てたアサルトライフルを拾って乱射する。両膝をついた状態なので斜め上に向かって撃っていると、不意にその手がフルーレに伸びる。
「ハッ! 大きいからって当たりませんよ、わたしだって訓練をしていますからね! シューちゃん、乗せて!」
「わん!」
回避した腕を回り込み、懐に飛び込んで空いた目に集中砲火を浴びせるフルーレ。シュナイダーの背に乗って、片腕で撃ち続けているとサイクロプスが嫌がり顔を背け、巨大な手を――
「あ!?」
ズゥゥゥゥン……
と、手当たり次第に地面にたたきつけ始めた。直撃はしなかったものの、風圧で後方へ吹き飛ばされながら最後の手段を使う。カイルの作った六連装のマグナム弾が入った銃を懐から取り出し、発砲する。
ドン!
ドチュ……
「オオオオオオオ!?」
「血が噴き出た! イリスちゃん!」
『はい、行きます』
「わおわおーん!」
吹き飛ばされながらも姿勢を変えたシュナイダーが今度はイリスを背に乗せて駆ける! そしてシュナイダーがジャンプすると、イリスはその背からさらに飛びぶと、パイルバンカーの後部から火が噴き、加速する。
『……すみません、破壊、します』
ドッ!
『<*****>』
パイルバンカーが突き刺さった瞬間、イリスが何かを呟き、その直後、
ジャコン! ドシュ!!
突き刺さった杭が炸裂し後頭部をぶち抜いた!
「オオ……オオオオォォ……」
ブシュウウウウウ……
「馬鹿な……!? し、しかし、強力な武器がなければ他の町は潰せる! 私は死なない、逆にここでお前たちを足止めすればいいのだからな!」
「さて、そいつはどうかな……? 俺たちは一人じゃない、やりようはいくらでもあるさ」
「ほざくな小僧が……! 魔獣たちよ!」
「させるかい!」
◆ ◇ ◆
一方、町の状況は――
「オオオオオオン!」
「なんだありゃ!?」
「巨人……? う、うわ!?」
サイクロプスが町に侵入し、家屋を破壊して回っていた。さらに町中には相当数の魔獣が人々を襲う。
「魔獣だ! 魔獣が侵入しているぞ! 帝国兵は何をやってるんだ! くそ、この……!」
「数が多いから手が回らんのだ! ぐああ!?」
「逃げろ、海の中にまでは追ってこれねえはずだ!」
人々は追い立てられるように海岸沿いへ逃げていく。駐在している帝国兵はそれを援護するように攻撃を続けていた。
「ちぃ、数が多すぎるぞ……今までは森から出てくることはなかったのに急にどうして……」
「ぼやくな! 手を止めると死ぬぞ! うぐあ!?」
「こいつ!」
「ギャイン!?」
相棒の腕にかみついたキツネ型の魔獣の頭を切り裂き絶命させると、鹿型の魔獣が体当たりを仕掛けてくる。大きく吹き飛ばされた兵士が見たのは、鹿型の魔獣に、相棒の頭が噛まれるところだった。
「や、やめろぉ!?」
腕を抑えて立ち上がり、悲痛な叫びを響かせるが、他の兵士も手いっぱいで助けられる状況ではなかった。もうだめかと目をつぶると――
ターン!
「……?」
銃声が響き、片目をあけると、鹿型の魔獣の頭が吹き飛んでいた。そして、空からの来訪者が口を開く。
「ったく、結局こうなるのかよ! なんだあのでかぶつはよぅ!」
「ぼやくなドグル。でかいなら分かりやすくていい。それに、にやけているじゃないかお前。……特殊任務の遂行をするぞ」
「あの大きいのは僕たちが良さそうですねオートス」
「そうしよう。カイルもどこかにいるはずだが、まずは蹴散らすぞ」
オートス、ドグル、ダムネの三人が、飛空船からパラシュートで降下してきたのだ。さらに――
「では、掃討戦だ。『遺跡』から戻った君たちの運、見せてもらうぞ」
「……陛下は前にでないでいただきたい」
「はっはっは、私が簡単に死ぬと思うか、エリザよ。たまには体を動かさんと、な……!」
「降下した部隊は町人の救出が最優先だ! 負傷者の救出は衛生兵とセットで動けよ、散開!」
エリザと……皇帝自らが参戦していた。
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