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第四章
第145話 偵察部隊?
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「エトワール王国はもっと南か東へ行かなければ海は無いのですが、船とはどういうことでしょうか?」
「砂漠の民が風に乗って走る船を持っていたわね、それかしら?」
「でも大きいと言っていましたし……」
「……」
報告を受けたアウラ様が困惑気味に首を傾げ、シャルが呑気なことを口にしていた。地上を走る船となるとこの世界では完全なオーバーテクノロジー……。
いや、魔兵機《ゾルダート》の時点でそうではあるんだけど、いくらなんでも世界との乖離が激しすぎる気がする。
「……行ってみるか」
「え?」
<偵察、ですか? しかしヴァイスのボディでは目立つかもしれません>
「今、見つかるのは美味しくないわね」
俺の提案にサクヤとシャルがそれぞれ難色を示す。せめて船の規模を見ておきたいのだ。
俺達の世界にある戦艦みたいな大きさなら、突っ込んでくるだけで町は壊滅状態になってしまうという危惧があるからだ。
「……光学迷彩が使えないのは痛いな。ちなみに、どのあたりか分かりますか?」
「え? え、ええっとここから北東に約150キロ……でも数日経過しているので……」
「向かっているルート予測は?」
「恐らく王都、かと」
完成した船を献上ってところかね?
さて、でかいというなら森を避けて草原か荒野を駆け抜けるだろう。そうなるとこのデカい身体は目立ちすぎる。
「そうだな――」
「なにか良い考えでも?」
アウラ様の言葉に小さく頷く。ギリースーツみたいなものを作ってみてはどうだろうかと提案する。
「ふうん、木や草の色と同化するためのマントねえ。面白そう!」
「ふむ……では、大きな布が必要だな! よし、みんなを集めてくれ――」
町長さんのはからいでヴァイスのギリ―マントを作ってくれることになった。表は俺の伝えた迷彩柄で裏地は黒にしてもらえるか注文をする。
夜に移動すれば少しは紛れて移動できるはずだ。
「それじゃ一度アウラ様を送ってくるので、よろしくお願いします」
「ええ。寸法はいただいたので、二日ほどで完成すると思いますが、大丈夫ですかね?」
「ま、相手次第ってところだな。それじゃ、アウラ様、シャル、戻ろうか」
「オッケー!」
「よろしくお願いします」
俺は片膝をついてコックピットハッチを開けると、二人が乗り込んできた。
「……すげぇな。ウチのとは大違いだ。いや、どこか似ているような――」
「ん?」
そこでカンが眉を顰めてポツリと呟いた。俺が聞き返すと、彼は少し考えた後に口を開く。
「オレ達の乗っていたモノとなんとなく似ている、って思ったんだよ」
「そうか? 俺の方が多分能力が高い」
「んなことあ先日戦って分かってんだよ! ……そうじゃねえ。なんつーか、基本? いや、違うな……まあ、なんか似てるんだよ」
カンは神妙な顔で言う。そこでカンを連れていた自警団の人間が腰についた鎖を引く。
「散歩は終わりだ、戻るぞ」
「へいへい……地上を走る船、こっちに来ちゃくれねえかなあ」
「逃がさんからな?」
自警団員にニヤニヤと笑いかけながらこの場を立ち去って行った。
似ている、か。
まあ、母親がゲーム機はどれも同じに見えるみたいなものかもしれないが、少しだけ気になる言葉だった。
そのまま二人を拠点へ送り届けると、俺は二人に提案を口にする。
「ひとまずギリ―マントが完成した後、少しだけここを離れる」
「ここを……大丈夫でしょうか……」
「シャルは強いし、狐親子も居る。ガエイン爺さんに連絡を取って戻ってきてもらうのもいいかもしれない」
<アウラ様達を守らなくていいのですか?>
珍しくサクヤが俺に意見を伝えて来た。
心配は心配だけど、この山ならそう簡単に見つかることはないと思ってのことだ。
もちろん、期日は決める。
「偵察期間は二日。ブースターも使い、 夜のみ行動だ。タブレットは置いていくから、連絡が出来そうなら繋げてくれ」
「あたしは一緒に行けないの?」
「今回は俺一人で――」
「いや、姫様は連れて行ってくれ」
俺が一人で行くと言いかけたその時、不意に声がかかる。全員がその方向に視線を向けると、そこには大剣を担いだガエイン爺さんが立っていた。
「爺さん、戻って来ていたのか」
「師匠おかえり!」
「ガエイン、無事でなによりです」
俺達が爺さんの帰りを労っていると、アウラ様の前で恭しく膝をつき頭を下げた。
「ありがたきお言葉。で、リクよ遠征に出るのであればアウラ様とシャルは連れて行くのだ」
「どうしてだ?」
ガエイン爺さんは立ち上がると再度俺にそんなことを言う。意図を尋ねると、自分の胸に手を当ててから続ける。
「お前がここを離れるのは構わないが、やはり防衛に不安が残る。ワシとて民を守りながら姫を守るのは難しい。だが、お前のこくぴっととやらは強固だろう?」
「あー」
「どういうことですか?」
意図の読めた俺が声を上げると、アウラ様は首を傾げていた。たった今やったことをすればいいだけだな。
「町へ行ったのと同じで二人をコクピットに入れて偵察だ。確かによほどのことが無ければここをこじ開けるのは簡単じゃない」
「なるほどね。あえて出ていくのか。師匠なら大丈夫だと思うけど」
「万が一がある。実際、王都襲撃の時に何もできなかったのは記憶に新しいじゃろう」
守り切れるとは思うが、混乱で攫われる可能性もあると言う。
「ちょっと狭くて長くなるけどいいかな?」
「あたしはいいわよ! おねえちゃんは?」
「わたくしも問題ありません! 敵の船、見ておきたいです」
ということで俺とお姫様二人が偵察部隊に決定した。ハッチはきちんと閉めないとな。ついでにモニターの確認もしておくかな。
そんなことを考えながら準備を進める俺達であった。
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