146 / 146
第四章
第145話 偵察部隊?
しおりを挟む
「エトワール王国はもっと南か東へ行かなければ海は無いのですが、船とはどういうことでしょうか?」
「砂漠の民が風に乗って走る船を持っていたわね、それかしら?」
「でも大きいと言っていましたし……」
「……」
報告を受けたアウラ様が困惑気味に首を傾げ、シャルが呑気なことを口にしていた。地上を走る船となるとこの世界では完全なオーバーテクノロジー……。
いや、魔兵機《ゾルダート》の時点でそうではあるんだけど、いくらなんでも世界との乖離が激しすぎる気がする。
「……行ってみるか」
「え?」
<偵察、ですか? しかしヴァイスのボディでは目立つかもしれません>
「今、見つかるのは美味しくないわね」
俺の提案にサクヤとシャルがそれぞれ難色を示す。せめて船の規模を見ておきたいのだ。
俺達の世界にある戦艦みたいな大きさなら、突っ込んでくるだけで町は壊滅状態になってしまうという危惧があるからだ。
「……光学迷彩が使えないのは痛いな。ちなみに、どのあたりか分かりますか?」
「え? え、ええっとここから北東に約150キロ……でも数日経過しているので……」
「向かっているルート予測は?」
「恐らく王都、かと」
完成した船を献上ってところかね?
さて、でかいというなら森を避けて草原か荒野を駆け抜けるだろう。そうなるとこのデカい身体は目立ちすぎる。
「そうだな――」
「なにか良い考えでも?」
アウラ様の言葉に小さく頷く。ギリースーツみたいなものを作ってみてはどうだろうかと提案する。
「ふうん、木や草の色と同化するためのマントねえ。面白そう!」
「ふむ……では、大きな布が必要だな! よし、みんなを集めてくれ――」
町長さんのはからいでヴァイスのギリ―マントを作ってくれることになった。表は俺の伝えた迷彩柄で裏地は黒にしてもらえるか注文をする。
夜に移動すれば少しは紛れて移動できるはずだ。
「それじゃ一度アウラ様を送ってくるので、よろしくお願いします」
「ええ。寸法はいただいたので、二日ほどで完成すると思いますが、大丈夫ですかね?」
「ま、相手次第ってところだな。それじゃ、アウラ様、シャル、戻ろうか」
「オッケー!」
「よろしくお願いします」
俺は片膝をついてコックピットハッチを開けると、二人が乗り込んできた。
「……すげぇな。ウチのとは大違いだ。いや、どこか似ているような――」
「ん?」
そこでカンが眉を顰めてポツリと呟いた。俺が聞き返すと、彼は少し考えた後に口を開く。
「オレ達の乗っていたモノとなんとなく似ている、って思ったんだよ」
「そうか? 俺の方が多分能力が高い」
「んなことあ先日戦って分かってんだよ! ……そうじゃねえ。なんつーか、基本? いや、違うな……まあ、なんか似てるんだよ」
カンは神妙な顔で言う。そこでカンを連れていた自警団の人間が腰についた鎖を引く。
「散歩は終わりだ、戻るぞ」
「へいへい……地上を走る船、こっちに来ちゃくれねえかなあ」
「逃がさんからな?」
自警団員にニヤニヤと笑いかけながらこの場を立ち去って行った。
似ている、か。
まあ、母親がゲーム機はどれも同じに見えるみたいなものかもしれないが、少しだけ気になる言葉だった。
そのまま二人を拠点へ送り届けると、俺は二人に提案を口にする。
「ひとまずギリ―マントが完成した後、少しだけここを離れる」
「ここを……大丈夫でしょうか……」
「シャルは強いし、狐親子も居る。ガエイン爺さんに連絡を取って戻ってきてもらうのもいいかもしれない」
<アウラ様達を守らなくていいのですか?>
珍しくサクヤが俺に意見を伝えて来た。
心配は心配だけど、この山ならそう簡単に見つかることはないと思ってのことだ。
もちろん、期日は決める。
「偵察期間は二日。ブースターも使い、 夜のみ行動だ。タブレットは置いていくから、連絡が出来そうなら繋げてくれ」
「あたしは一緒に行けないの?」
「今回は俺一人で――」
「いや、姫様は連れて行ってくれ」
俺が一人で行くと言いかけたその時、不意に声がかかる。全員がその方向に視線を向けると、そこには大剣を担いだガエイン爺さんが立っていた。
「爺さん、戻って来ていたのか」
「師匠おかえり!」
「ガエイン、無事でなによりです」
俺達が爺さんの帰りを労っていると、アウラ様の前で恭しく膝をつき頭を下げた。
「ありがたきお言葉。で、リクよ遠征に出るのであればアウラ様とシャルは連れて行くのだ」
「どうしてだ?」
ガエイン爺さんは立ち上がると再度俺にそんなことを言う。意図を尋ねると、自分の胸に手を当ててから続ける。
「お前がここを離れるのは構わないが、やはり防衛に不安が残る。ワシとて民を守りながら姫を守るのは難しい。だが、お前のこくぴっととやらは強固だろう?」
「あー」
「どういうことですか?」
意図の読めた俺が声を上げると、アウラ様は首を傾げていた。たった今やったことをすればいいだけだな。
「町へ行ったのと同じで二人をコクピットに入れて偵察だ。確かによほどのことが無ければここをこじ開けるのは簡単じゃない」
「なるほどね。あえて出ていくのか。師匠なら大丈夫だと思うけど」
「万が一がある。実際、王都襲撃の時に何もできなかったのは記憶に新しいじゃろう」
守り切れるとは思うが、混乱で攫われる可能性もあると言う。
「ちょっと狭くて長くなるけどいいかな?」
「あたしはいいわよ! おねえちゃんは?」
「わたくしも問題ありません! 敵の船、見ておきたいです」
ということで俺とお姫様二人が偵察部隊に決定した。ハッチはきちんと閉めないとな。ついでにモニターの確認もしておくかな。
そんなことを考えながら準備を進める俺達であった。
しおりを挟む
あなたにおすすめの小説
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。