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第四章
第144話 いつも正しい選択とは限らない
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「眺めがいいですわね」
「呑気なこと言ってる……というかおねえさま、あたしに内緒で行こうとしたでしょ!」
「な、なんのことシャル?」
慎重にレーダーを確認しながら山を登り、それから下っていく。ルルアの町へは山を迂回しないと辿り着けないからなあ。
そんな俺の緊張とは裏腹に、姉妹は何故かいがみ合っていた。俺はシャルも連れて行くのだろうと思ってタブレット経由で声をかけたのだが、どうも違ったらしい……
デートというには色気のない身体だけど、アウラ様はそれでも良かったとかなんとかにんともかんとも……
<モテモテですねマスター>
「死語だろそれは……。まあ、元の世界に戻れるかもわからんし、匿ってくれるところがあるのはありがたいが」
<元の身体にも戻りたいですものね>
「……」
戻れるのだろうかとふと考える時がある。怖くないといえば嘘になるが、割り切って活動停止までこの姿で生きるのもアリだろう。
……向こうの戦いがどうなったか、それだけは本当に心残りだが。
「リクはあたしが!」
「みなさんの英雄です!」
「……やれやれ」
そんなことを考えている内に町へと到着した。こっそり裏門へ近づくと、門番が手を振っているのが見えた。
「これはリク様! どうされましたか?」
「視察……って感じかな? アウラ様が町を見たいと言っている」
「やっほー、あたしも居るわよ」
「シャルル様……!? しょ、承知しました!」
門番が慌てて町へ入り、裏門を開けてくれた。
ちなみに急ピッチで仕上げたが、門は魔兵機に占拠されている感を出すため出入りできるよう改造した。
「おお、アウラ様!」
「みなさま、息災でしょうか? 採掘のご協力、大変感謝しております。お代は必ずお支払いしますので」
「え、ええ……」
「そうですねえ……」
町の広場へ移動すると、ヴァイスのコックピットから手を振りながらアウラ様がお礼を口にする。それを聞いていた町の人たちは金を出せと言って渋っていたらしいので、冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべていた。
そこへ一人の男性が近づいてきた。
「初めましてアウラ様。ルルアの町の町長をしております、サカシタと申します」
「初めまして。ご足労ありがとうございます。リク様、屈んでもらえますか?」
「オッケー」
ちなみにサクヤがあくまでもコクピット内からでのみ会話をすることを勧めているためこのような措置を取っている。もし射撃武器で狙われたとしても、レーダーがあればすぐにハッチを閉められるからだ。
射線も限られるためこれ以外でアウラ様を外に出す方法はあまり考えられない。
「あたしは妹のシャルルよ。よろしくね」
「ハッ……先日は父が申し訳ことをしでかしました」
「父親?」
「ええ。降伏すればと町に招き入れたのは父でした。今は牢で静かに罪を償っております」
「そうでしたか……」
そして現れたサカシタと名乗った男は前の町長の息子で、現町長となったらしい。
犯罪者の息子……という話にはならず、他に町長の仕事を引き継げる者がいなかったのが理由とのこと。
「まあ、降伏自体は悪いことでもないと思うけどな。下手に刺激して町ごと潰される可能性もあったし。実際、潰された町を俺達は見て来たからな」
「なんと……」
俺の言葉に周囲からどよめきが起こる。
色々と大変な目にあった人間もいるようだが、町長だけの責任ということでもないことを告げると、サカシタは深く頷いていた。
「……ありがとうございます。それで本日はどのようなご用件で?」
「いえ、特にはないのです。皆様にお礼を言いにきただけです。それと、必ずグライアード王国を追い出してみせます。そのことを告げに」
「ええ。必ずや彼等を倒しましょう!」
「ま、こっちにはリクも師匠も居るし、人質さえいなかったら楽勝なんだけど」
シャルがそう言って肩を竦めると、周囲から称賛の声が上がった。
しかしそこでだみ声のおっさんの声が響く。
「ケッ、おめでたい奴等だぜ。王都に居るエトワール王国の人間は全員肉壁だぜ? 王と王妃も居る。それにフレッサー将軍は生身でも魔兵機でも強い。その白いのが強くても一台ではどうにもならんよ。ふわっはっは!」
「あんた、グライアードの将軍だったやつね」
「今もそうだよ!? カン・ガンってんだ覚えときなお姫さん……さて、活きがいいようだが、こっちにゃ本国に戦力があるし、他にも博士が開発を進めているものがあるんでな」
だみ声のおっさんはグライアード将軍だった。カンと名乗った男は嫌らしい笑みを浮かべて勝ち目がないと俺達へ言う。
怯む町の人間だが、それに対してアウラ様が口を開いた。
「……それでも、何もしないで諦めるのは違うと思います。わたくしは最後まで戦います」
「……ふん、それで国民が血を流してもかい?」
「はい。覚悟は決まっています。犠牲なくしてこの戦いに勝つことはできないと」
「なら――」
アウラ様が凛とした態度で言うと、カンがなにか尋ねようとした。
だが、その時――
「伝令! 東の斥候から緊急連絡!」
「どうしたのだ? いま取り込み中で――」
――慌てた冒険者が転がるように広場へやってきた。町長が諫めようとしたが、続けて出た言葉に遮られた。
「それどころではありませんよ! グライアードの国境を越えて、地上を走る船が現れました! まるで山かと見まごうような巨大な船が!」
「なんだって……!?」
その場に居た者達は息を呑んだ。
地上を走る船……グライアードはどれだけの科学力を持っているんだ……?
「呑気なこと言ってる……というかおねえさま、あたしに内緒で行こうとしたでしょ!」
「な、なんのことシャル?」
慎重にレーダーを確認しながら山を登り、それから下っていく。ルルアの町へは山を迂回しないと辿り着けないからなあ。
そんな俺の緊張とは裏腹に、姉妹は何故かいがみ合っていた。俺はシャルも連れて行くのだろうと思ってタブレット経由で声をかけたのだが、どうも違ったらしい……
デートというには色気のない身体だけど、アウラ様はそれでも良かったとかなんとかにんともかんとも……
<モテモテですねマスター>
「死語だろそれは……。まあ、元の世界に戻れるかもわからんし、匿ってくれるところがあるのはありがたいが」
<元の身体にも戻りたいですものね>
「……」
戻れるのだろうかとふと考える時がある。怖くないといえば嘘になるが、割り切って活動停止までこの姿で生きるのもアリだろう。
……向こうの戦いがどうなったか、それだけは本当に心残りだが。
「リクはあたしが!」
「みなさんの英雄です!」
「……やれやれ」
そんなことを考えている内に町へと到着した。こっそり裏門へ近づくと、門番が手を振っているのが見えた。
「これはリク様! どうされましたか?」
「視察……って感じかな? アウラ様が町を見たいと言っている」
「やっほー、あたしも居るわよ」
「シャルル様……!? しょ、承知しました!」
門番が慌てて町へ入り、裏門を開けてくれた。
ちなみに急ピッチで仕上げたが、門は魔兵機に占拠されている感を出すため出入りできるよう改造した。
「おお、アウラ様!」
「みなさま、息災でしょうか? 採掘のご協力、大変感謝しております。お代は必ずお支払いしますので」
「え、ええ……」
「そうですねえ……」
町の広場へ移動すると、ヴァイスのコックピットから手を振りながらアウラ様がお礼を口にする。それを聞いていた町の人たちは金を出せと言って渋っていたらしいので、冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべていた。
そこへ一人の男性が近づいてきた。
「初めましてアウラ様。ルルアの町の町長をしております、サカシタと申します」
「初めまして。ご足労ありがとうございます。リク様、屈んでもらえますか?」
「オッケー」
ちなみにサクヤがあくまでもコクピット内からでのみ会話をすることを勧めているためこのような措置を取っている。もし射撃武器で狙われたとしても、レーダーがあればすぐにハッチを閉められるからだ。
射線も限られるためこれ以外でアウラ様を外に出す方法はあまり考えられない。
「あたしは妹のシャルルよ。よろしくね」
「ハッ……先日は父が申し訳ことをしでかしました」
「父親?」
「ええ。降伏すればと町に招き入れたのは父でした。今は牢で静かに罪を償っております」
「そうでしたか……」
そして現れたサカシタと名乗った男は前の町長の息子で、現町長となったらしい。
犯罪者の息子……という話にはならず、他に町長の仕事を引き継げる者がいなかったのが理由とのこと。
「まあ、降伏自体は悪いことでもないと思うけどな。下手に刺激して町ごと潰される可能性もあったし。実際、潰された町を俺達は見て来たからな」
「なんと……」
俺の言葉に周囲からどよめきが起こる。
色々と大変な目にあった人間もいるようだが、町長だけの責任ということでもないことを告げると、サカシタは深く頷いていた。
「……ありがとうございます。それで本日はどのようなご用件で?」
「いえ、特にはないのです。皆様にお礼を言いにきただけです。それと、必ずグライアード王国を追い出してみせます。そのことを告げに」
「ええ。必ずや彼等を倒しましょう!」
「ま、こっちにはリクも師匠も居るし、人質さえいなかったら楽勝なんだけど」
シャルがそう言って肩を竦めると、周囲から称賛の声が上がった。
しかしそこでだみ声のおっさんの声が響く。
「ケッ、おめでたい奴等だぜ。王都に居るエトワール王国の人間は全員肉壁だぜ? 王と王妃も居る。それにフレッサー将軍は生身でも魔兵機でも強い。その白いのが強くても一台ではどうにもならんよ。ふわっはっは!」
「あんた、グライアードの将軍だったやつね」
「今もそうだよ!? カン・ガンってんだ覚えときなお姫さん……さて、活きがいいようだが、こっちにゃ本国に戦力があるし、他にも博士が開発を進めているものがあるんでな」
だみ声のおっさんはグライアード将軍だった。カンと名乗った男は嫌らしい笑みを浮かべて勝ち目がないと俺達へ言う。
怯む町の人間だが、それに対してアウラ様が口を開いた。
「……それでも、何もしないで諦めるのは違うと思います。わたくしは最後まで戦います」
「……ふん、それで国民が血を流してもかい?」
「はい。覚悟は決まっています。犠牲なくしてこの戦いに勝つことはできないと」
「なら――」
アウラ様が凛とした態度で言うと、カンがなにか尋ねようとした。
だが、その時――
「伝令! 東の斥候から緊急連絡!」
「どうしたのだ? いま取り込み中で――」
――慌てた冒険者が転がるように広場へやってきた。町長が諫めようとしたが、続けて出た言葉に遮られた。
「それどころではありませんよ! グライアードの国境を越えて、地上を走る船が現れました! まるで山かと見まごうような巨大な船が!」
「なんだって……!?」
その場に居た者達は息を呑んだ。
地上を走る船……グライアードはどれだけの科学力を持っているんだ……?
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