上 下
145 / 146
第四章

第144話 いつも正しい選択とは限らない

しおりを挟む
「眺めがいいですわね」
「呑気なこと言ってる……というかおねえさま、あたしに内緒で行こうとしたでしょ!」
「な、なんのことシャル?」

 慎重にレーダーを確認しながら山を登り、それから下っていく。ルルアの町へは山を迂回しないと辿り着けないからなあ。
 そんな俺の緊張とは裏腹に、姉妹は何故かいがみ合っていた。俺はシャルも連れて行くのだろうと思ってタブレット経由で声をかけたのだが、どうも違ったらしい……
 デートというには色気のない身体だけど、アウラ様はそれでも良かったとかなんとかにんともかんとも……

<モテモテですねマスター>
「死語だろそれは……。まあ、元の世界に戻れるかもわからんし、匿ってくれるところがあるのはありがたいが」
<元の身体にも戻りたいですものね>
「……」

 戻れるのだろうかとふと考える時がある。怖くないといえば嘘になるが、割り切って活動停止までこの姿で生きるのもアリだろう。
 ……向こうの戦いがどうなったか、それだけは本当に心残りだが。

「リクはあたしが!」
「みなさんの英雄です!」
「……やれやれ」

 そんなことを考えている内に町へと到着した。こっそり裏門へ近づくと、門番が手を振っているのが見えた。

「これはリク様! どうされましたか?」
「視察……って感じかな? アウラ様が町を見たいと言っている」
「やっほー、あたしも居るわよ」
「シャルル様……!? しょ、承知しました!」

 門番が慌てて町へ入り、裏門を開けてくれた。
 ちなみに急ピッチで仕上げたが、門は魔兵機に占拠されている感を出すため出入りできるよう改造した。

「おお、アウラ様!」
「みなさま、息災でしょうか? 採掘のご協力、大変感謝しております。お代は必ずお支払いしますので」
「え、ええ……」
「そうですねえ……」

 町の広場へ移動すると、ヴァイスのコックピットから手を振りながらアウラ様がお礼を口にする。それを聞いていた町の人たちは金を出せと言って渋っていたらしいので、冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべていた。
 そこへ一人の男性が近づいてきた。

「初めましてアウラ様。ルルアの町の町長をしております、サカシタと申します」
「初めまして。ご足労ありがとうございます。リク様、屈んでもらえますか?」
「オッケー」

 ちなみにサクヤがあくまでもコクピット内からでのみ会話をすることを勧めているためこのような措置を取っている。もし射撃武器で狙われたとしても、レーダーがあればすぐにハッチを閉められるからだ。
 射線も限られるためこれ以外でアウラ様を外に出す方法はあまり考えられない。

「あたしは妹のシャルルよ。よろしくね」
「ハッ……先日は父が申し訳ことをしでかしました」
「父親?」
「ええ。降伏すればと町に招き入れたのは父でした。今は牢で静かに罪を償っております」
「そうでしたか……」

 そして現れたサカシタと名乗った男は前の町長の息子で、現町長となったらしい。
 犯罪者の息子……という話にはならず、他に町長の仕事を引き継げる者がいなかったのが理由とのこと。

「まあ、降伏自体は悪いことでもないと思うけどな。下手に刺激して町ごと潰される可能性もあったし。実際、潰された町を俺達は見て来たからな」
「なんと……」

 俺の言葉に周囲からどよめきが起こる。
 色々と大変な目にあった人間もいるようだが、町長だけの責任ということでもないことを告げると、サカシタは深く頷いていた。

「……ありがとうございます。それで本日はどのようなご用件で?」
「いえ、特にはないのです。皆様にお礼を言いにきただけです。それと、必ずグライアード王国を追い出してみせます。そのことを告げに」
「ええ。必ずや彼等を倒しましょう!」
「ま、こっちにはリクも師匠も居るし、人質さえいなかったら楽勝なんだけど」

 シャルがそう言って肩を竦めると、周囲から称賛の声が上がった。
 しかしそこでだみ声のおっさんの声が響く。

「ケッ、おめでたい奴等だぜ。王都に居るエトワール王国の人間は全員肉壁だぜ? 王と王妃も居る。それにフレッサー将軍は生身でも魔兵機でも強い。その白いのが強くても一台ではどうにもならんよ。ふわっはっは!」
「あんた、グライアードの将軍だったやつね」
「今もそうだよ!? カン・ガンってんだ覚えときなお姫さん……さて、活きがいいようだが、こっちにゃ本国に戦力があるし、他にも博士が開発を進めているものがあるんでな」

 だみ声のおっさんはグライアード将軍だった。カンと名乗った男は嫌らしい笑みを浮かべて勝ち目がないと俺達へ言う。
 怯む町の人間だが、それに対してアウラ様が口を開いた。

「……それでも、何もしないで諦めるのは違うと思います。わたくしは最後まで戦います」
「……ふん、それで国民が血を流してもかい?」
「はい。覚悟は決まっています。犠牲なくしてこの戦いに勝つことはできないと」
「なら――」

 アウラ様が凛とした態度で言うと、カンがなにか尋ねようとした。
 だが、その時――

「伝令! 東の斥候から緊急連絡!」
「どうしたのだ? いま取り込み中で――」

 ――慌てた冒険者が転がるように広場へやってきた。町長が諫めようとしたが、続けて出た言葉に遮られた。

「それどころではありませんよ! グライアードの国境を越えて、地上を走る船が現れました! まるで山かと見まごうような巨大な船が!」
「なんだって……!?」

 その場に居た者達は息を呑んだ。
 地上を走る船……グライアードはどれだけの科学力を持っているんだ……?
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...