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第四章
第141話 偵察
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「シンジ、白い魔兵機についてどう思う?」
夕食時、珍しくザラーグド宰相に呼ばれて晩餐をすることになった真司。
そこには将軍の一人であるワイアードとリントも同席していた。
「(関わっていた人間を集めたって感じだな。まあ、好都合か……やりたいことができた。後は――)」
ヴァイスについての意見を聞く名目で集められたのは間違いないかとスープを飲みこんだ後に口を開く。
「リントさんに聞いた感じだと、魔兵機《ゾルダート》に比べて二……いや三世代ほど先の機体だと見受けられます。装甲は言わずもがな、機動力がディッター隊長のジズを凌駕するとなると単騎はまず無理で、部隊全員でも難しいでしょう」
「むう……」
「基本的に5体ほどで編成していますからね。正直、シンジ殿の言う通り全員でかかっても取り押さえられるとは思えません」
リントも同意して頷く。するとワイアードがテーブルを叩きながら激高する。
「それをなんとかするのが貴様ら操縦士の役目だろうが! 高い金で出来ておるのだぞ、無駄に消耗するものではない」
「申し訳ありません。ディッター隊長は一度目撃したことがあったようなので、報告があれば……」
「ま、そこですな。ディッター殿は手柄のためか報告しなかった。リントさんに責はないと思いますよワイアード将軍」
「まあ、そういう見方もあるか」
「シンジ殿……ありがとうございます」
リントが頭を下げるとシンジはウインクをしながら手を軽く振っていた。するとすぐにザラーグドは話を続ける。
「その点はシンジ殿に同意でいいだろう。ディッターは戦死……死人に口なしというが彼の遺族には金を出しておく」
「ジョンビエル殿は?」
「あいつは孤児でただの冒険者だった男だ。グライアード王国の所有物だと思っていい」
「はっ……」
粗暴な男であったが騎士団の仲間だった男の死をそれで終わらせるということに遺憾なものを覚えたがそれを口にすることは無かった。
「今は終わったことより、これからのことに目を向けねばならん。リントは整備が終わったらフレッサー将軍のところへ行くのだ」
「了解しました」
「魔力通信具《マナリンク》で事情は伝えておく。そしてエトワール王都へ全部隊を集める」
「……」
シンジは白い魔兵機《ゾルダート》の件を口にするなら今か、と挙手をした。
「どうしたシンジ殿?」
「魔力通信具《マナリンク》で将軍に連絡ができるなら、リントさんと私で白い魔兵機《ゾルダート》を偵察したいんだ」
「それは……許可しがたいな。貴殿がいなければ魔兵機《ゾルダート》の整備はどうするのだ?」
「そこはオーラットとギノベルが居るので。だいたい前線にもう機体は出ているから王都に行くのが一番いい」
「しかし地上戦船はどうする?」
「あれも1番と2番は発進できます。まあ、まだ試作なので乗せて移動くらいしかできませんが、あれの試乗運転を兼ねてというのは?」
ワイアードの言葉にそれらしく話を誘導する。するとザラーグドは少し考えた後、口を開いた。
「……確かに前線の整備はそろそろ必要なころか。オーラット技師には叩き込んでくれているのだな?」
「戻ってくる間、任せても問題ありませんよ」
最終的な調整以外はできるようにしていたため、特にオーラットは右腕として相応しい腕前なので製造だけなら十分な能力を持っていたのだ。
「よかろう。リント隊と共に調査を許可する」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします、シンジ殿」
案外、素直に受け入れてくれたなとシンジは胸中でそう呟いてほくそ笑む。
この世界に来て外の世界に出たことがないためそういう意味でも嬉しい話であった。
「では、目下の目標は白い魔兵機《ゾルダート》の調査で?」
「そうなるな。ディッターとリントの二部隊を相手に圧勝するような存在だ、下手に手を出してやられるのは悪手だな」
「確かに……フレッサー将軍も方面軍としてきちんと仕事をさせねばなりませんな」
そんな話を続けながら晩餐は終わり、シンジは部屋へと戻っていく。出発は三日後で、それまでに地上戦船の稼働をして侵攻ということになっている。
「……バリスタや石を飛ばす兵器は積んでいるけど、例の魔兵機《ゾルダート》には効果はなさそうだ。威嚇偵察になるかな? ……それにしても特徴を聞く限り、ヴァッフェリーゼに似ているんだよな……まさかあっちから誰か来たのだろうか? だとしたら俺はどうする……? エトワール王国に攻め入っている理由はどうもキナ臭いし――」
グライアード王国を出ることも考慮しなければならないとベッドに寝転がりながら考える。
グライアード王国ではザラーグド宰相や国王に助けられた恩を返した形だが、その国王が病に伏せている。
エトワール王国は野蛮な国であるとは聞いているが、それが本当かどうかは分からない。
「実際に目で見ないとわからんからな。理論を構築する、実際に作る、結果を見る。研究者は全部やってこそ『確証』を得る。曖昧なままなのは嫌いなんだよねっと」
上半身を起こしたシンジはパソコンを手にしてキーを打ち込み始める――
◆ ◇ ◆
「おじさーん! 水はこっちだよ!」
「おじさんじゃねえっってんだろ!」
「ほら、口じゃ無く手を動かして? あなたを助けてあげたのは誰だったかしら?」
「くっ……」
女の子に笑われながらジョンビエルは水をガラスの容器へと流し込む。近くの川から取れる水はとてもきれいでそのままでも飲めるほどで、一日に二回、汲みに行く。
それはともかくリク達との戦闘後、彼は生き延びることができ、村の親子に助けられていた。
最近、ようやく身体が動くようになったところである。
「そこのガキだ……くそ、なんだって俺が……」
「よくわからないけど、助かった命なんだから大切にしなさいよ? ウチの旦那みたいに無茶して死んだら何にもならないんだから」
「……チッ」
いつもなら暴力に訴えるところだが、彼女は強かった。元・冒険者ということで、今は子供がいるため引退したと聞いた。騎士であった彼とほぼ互角で、彼女のスペックの高さが伺える。
「(いつまでもこんなところにゃ居られねえな。別に殺す必要もねえし、さっさと王都へ行くとするか――)」
夕食時、珍しくザラーグド宰相に呼ばれて晩餐をすることになった真司。
そこには将軍の一人であるワイアードとリントも同席していた。
「(関わっていた人間を集めたって感じだな。まあ、好都合か……やりたいことができた。後は――)」
ヴァイスについての意見を聞く名目で集められたのは間違いないかとスープを飲みこんだ後に口を開く。
「リントさんに聞いた感じだと、魔兵機《ゾルダート》に比べて二……いや三世代ほど先の機体だと見受けられます。装甲は言わずもがな、機動力がディッター隊長のジズを凌駕するとなると単騎はまず無理で、部隊全員でも難しいでしょう」
「むう……」
「基本的に5体ほどで編成していますからね。正直、シンジ殿の言う通り全員でかかっても取り押さえられるとは思えません」
リントも同意して頷く。するとワイアードがテーブルを叩きながら激高する。
「それをなんとかするのが貴様ら操縦士の役目だろうが! 高い金で出来ておるのだぞ、無駄に消耗するものではない」
「申し訳ありません。ディッター隊長は一度目撃したことがあったようなので、報告があれば……」
「ま、そこですな。ディッター殿は手柄のためか報告しなかった。リントさんに責はないと思いますよワイアード将軍」
「まあ、そういう見方もあるか」
「シンジ殿……ありがとうございます」
リントが頭を下げるとシンジはウインクをしながら手を軽く振っていた。するとすぐにザラーグドは話を続ける。
「その点はシンジ殿に同意でいいだろう。ディッターは戦死……死人に口なしというが彼の遺族には金を出しておく」
「ジョンビエル殿は?」
「あいつは孤児でただの冒険者だった男だ。グライアード王国の所有物だと思っていい」
「はっ……」
粗暴な男であったが騎士団の仲間だった男の死をそれで終わらせるということに遺憾なものを覚えたがそれを口にすることは無かった。
「今は終わったことより、これからのことに目を向けねばならん。リントは整備が終わったらフレッサー将軍のところへ行くのだ」
「了解しました」
「魔力通信具《マナリンク》で事情は伝えておく。そしてエトワール王都へ全部隊を集める」
「……」
シンジは白い魔兵機《ゾルダート》の件を口にするなら今か、と挙手をした。
「どうしたシンジ殿?」
「魔力通信具《マナリンク》で将軍に連絡ができるなら、リントさんと私で白い魔兵機《ゾルダート》を偵察したいんだ」
「それは……許可しがたいな。貴殿がいなければ魔兵機《ゾルダート》の整備はどうするのだ?」
「そこはオーラットとギノベルが居るので。だいたい前線にもう機体は出ているから王都に行くのが一番いい」
「しかし地上戦船はどうする?」
「あれも1番と2番は発進できます。まあ、まだ試作なので乗せて移動くらいしかできませんが、あれの試乗運転を兼ねてというのは?」
ワイアードの言葉にそれらしく話を誘導する。するとザラーグドは少し考えた後、口を開いた。
「……確かに前線の整備はそろそろ必要なころか。オーラット技師には叩き込んでくれているのだな?」
「戻ってくる間、任せても問題ありませんよ」
最終的な調整以外はできるようにしていたため、特にオーラットは右腕として相応しい腕前なので製造だけなら十分な能力を持っていたのだ。
「よかろう。リント隊と共に調査を許可する」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします、シンジ殿」
案外、素直に受け入れてくれたなとシンジは胸中でそう呟いてほくそ笑む。
この世界に来て外の世界に出たことがないためそういう意味でも嬉しい話であった。
「では、目下の目標は白い魔兵機《ゾルダート》の調査で?」
「そうなるな。ディッターとリントの二部隊を相手に圧勝するような存在だ、下手に手を出してやられるのは悪手だな」
「確かに……フレッサー将軍も方面軍としてきちんと仕事をさせねばなりませんな」
そんな話を続けながら晩餐は終わり、シンジは部屋へと戻っていく。出発は三日後で、それまでに地上戦船の稼働をして侵攻ということになっている。
「……バリスタや石を飛ばす兵器は積んでいるけど、例の魔兵機《ゾルダート》には効果はなさそうだ。威嚇偵察になるかな? ……それにしても特徴を聞く限り、ヴァッフェリーゼに似ているんだよな……まさかあっちから誰か来たのだろうか? だとしたら俺はどうする……? エトワール王国に攻め入っている理由はどうもキナ臭いし――」
グライアード王国を出ることも考慮しなければならないとベッドに寝転がりながら考える。
グライアード王国ではザラーグド宰相や国王に助けられた恩を返した形だが、その国王が病に伏せている。
エトワール王国は野蛮な国であるとは聞いているが、それが本当かどうかは分からない。
「実際に目で見ないとわからんからな。理論を構築する、実際に作る、結果を見る。研究者は全部やってこそ『確証』を得る。曖昧なままなのは嫌いなんだよねっと」
上半身を起こしたシンジはパソコンを手にしてキーを打ち込み始める――
◆ ◇ ◆
「おじさーん! 水はこっちだよ!」
「おじさんじゃねえっってんだろ!」
「ほら、口じゃ無く手を動かして? あなたを助けてあげたのは誰だったかしら?」
「くっ……」
女の子に笑われながらジョンビエルは水をガラスの容器へと流し込む。近くの川から取れる水はとてもきれいでそのままでも飲めるほどで、一日に二回、汲みに行く。
それはともかくリク達との戦闘後、彼は生き延びることができ、村の親子に助けられていた。
最近、ようやく身体が動くようになったところである。
「そこのガキだ……くそ、なんだって俺が……」
「よくわからないけど、助かった命なんだから大切にしなさいよ? ウチの旦那みたいに無茶して死んだら何にもならないんだから」
「……チッ」
いつもなら暴力に訴えるところだが、彼女は強かった。元・冒険者ということで、今は子供がいるため引退したと聞いた。騎士であった彼とほぼ互角で、彼女のスペックの高さが伺える。
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