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第四章

第135話 作戦開始

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『町が見えてきた』
『だな。これで人質の数も増えるし、奴が出て来ても足を止められる』
『奴? 敵に知っている者がいるのか?』
『エトワールの騎士達と戦ったことがあるのだから当然だろう? 奪われた魔兵機《ゾルダート》が襲ってくる可能性のことだ』

 行軍から三日ほど経過したころ、リント達とキャラバンはルルアの町が視認できるところまで進んでいた。
 そこでディッターが嬉しそうについた言葉をリントが訝しむ。それと同時にキャラバンのリーダー格であるフェンロバも胸中で疑問を抱く。

「(ディッターという男は姫様を追い回していた部隊の一人だったな。となるとリクさんと戦ったことがあるはず。俺達が居るからか? リク殿の話をしないのは……何故だ?)」

 一番の脅威であるリクの話は出ず、もっぱら奪われた魔兵機《ゾルダート》の対策ばかりを気にしていることに違和感があった。
 
「(とはいえ、上手いこと遅らせることができたが町には着いちまった……上手く伝達ができているといいが――)」

 キャラバンに参加した人間はそれなりに戦闘経験がある者を選定しているため簡単にやられることはない。混戦になれば逃げることもできる。
 ちゃんと先に到着していればその前提は伝えられているはずだ。
 
『よし、私が町に話をする。ディッター殿はキャラバンの監視をしてくれ』
『待ち構えられていたらどうするのだ? 有無を言わさず仕掛けた方がいい。どうせ殺すのだからな』
『……それは――』

 リントが機体をディッターに向けたその時――

◆ ◇ ◆

「……来たな」
<向こうにレーダーが無いのは助かりますね>
「ああ」

 サクヤの言葉に俺は短く返事をする。俺達も通って来たこの道は丘陵が多く、苦労したものだ。少し高い位置から見える敵部隊を見ながらそう思う。
 今回はこれを利用する形になるので面白いものである。
 そしてこちらは一方的に攻撃を仕掛けられるのは大きなアドバンテージがあり、町中をすでに占拠されているのと違い、完全な屋外フィールドが戦場となる。
 撤退戦でも防衛戦でもないため、俺《ヴァイス》の能力

「リクの旦那、準備はオッケーでさあ」
「サンキュー、ヘッジ。オニールさん、そっちはどうだ?」
「こっちも問題ありません! エトワールの騎士三十名、いつでも戦えます」

 騎士のオニールさんはリリアの町に説得へ行った騎士の一人だが、彼だけ一瞬で気絶したため他の二人と違いほぼ無傷だった。
 今回は強さランクの中で騎士団長に近い人間として抜擢した形になる。

「イラス・ケネリー、いつでも出られます」
「お、やっぱり機体に乗ると性格がしゃんとするな」
「ん、んふん……や、やめてくださいリク様……」
「ビッダー機、問題無しですね。エトワールの騎士殿には申し訳ないですが、イラスと俺についてきてください」
「わかり、ました」

 照れるイラス。本来は監視も必要なのでシャルが居た方がいいのだけど、今回は俺がいるからということで連れてきた。裏切る可能性があるとしたらこいつだけだが……まあ、なんか大丈夫そうな感じはする。
 そしてビッダーが魔兵機《ゾルダート》に乗り込んだエトワールの騎士に指示を出していた。
 二人は魔兵機《ゾルダート》の操縦先駆者ではあるが、グライアードを裏切った者がきちんと戦ってくれるか不安そうではあるけど背に腹は代えられない。
 ここは信用するだけだ。

<あの機体、見たことがありますね。ディッターという男の者です>
「……なるほど、なんとなく状況が見えてきたな」

 このまま真っすぐ西へ向かえばオンディーヌ伯爵の居る町やヘルブスト国への国境がある。
 ディッターはその前にある渓谷の町で足止めを食らったが、地図を持っていれば俺達の居る場所を把握していてもおかしくない。
 援軍と共に探しに来たってことだろうな。それにしても数は少ない気がするけど、舐めた性格をしていたしそんなものかもしれない。

<ふむ、ディッター機に前は無かった武器を携えていますね。他の魔兵機《ゾルダート》も足になにかついていますね>
「強化してきたか。それでもレーダーが無いなら大した差にはならないだろうな」
<そうですね。マスターが状況ですし>

 サクヤが含み笑いをするような感じでそういうと、ビッダー機の肩に乗っていたヘッジが煙草の煙を吐きながら口を開く。

「まあ、今回はこっちも働きますからご期待くださいってことで。……どちらかというとあの機体……リント・アクアがいることに注意ですかねえ」
「あれがそうなのか。それでも負ける要素は無いけどな」

 トルコーイの副官であるゼルシオ曰く、短期間で一番に魔兵機《ゾルダート》を理解し、操縦ができるようになったいわゆる天才枠とのこと。
 腕前はディッターやジョンビエル、さらにトルコーイなどより上手いそうだ。

「トルコーイは上手かったんだが、それ以上、ね」
「旦那なら余裕でしょうよ」
「ま、今回ばかりはそういっておくよ」

 士気に関わるしな。
 とはいえ負ける気はないので嘘でも無いけどな。

「……それじゃ、行くぞ。作戦決行だ!」
「「「おおお!!」」」

 その瞬間、俺はブースターを吹かして丘を蹴る。
 距離は約千。
 まずは俺単騎で突撃を図った。進軍しているリントというヤツの魔兵機《ゾルダート》を強襲する。
 だが、運は彼女を味方したのか途中で止まり、ディッター機を振り返る。その途中で俺を視認したようだ。

『……!? 敵襲だ! 魔兵機《ゾルダート》……いや、なんだこの白い魔兵機《ゾルダート》は……!?』
「それを考える時間はないな!」
『速い……!? リント様!』
「おっと、やるな。だが!」
『ティアーヌ!?』

 一直線にリントを狙って奇襲をかけたが、一機の魔兵機《ゾルダート》が庇うように目の前に出て来て阻まれた。その可能性を考慮していないわけじゃない。
 俺は左腕で殴りつけてやった。

『くぅ!?』
「ハッ!」

 そしてすぐにプラズマダガーを振り下ろす。
 バランスを崩した魔兵機《ゾルダート》の頭を潰すつもりだったが、体を逸らしたため左腕にヒットした。
 肩から入ったダガーは豆腐でも斬るかのようにあっさりと装甲を溶かし、肘のあたりからボトリと落ちた。

『光の剣……!』
「どうかな?」
『出たな、白い魔兵機《ゾルダート》……! 食らえ!』
「……!」
<飛び道具! マスター下がってください>

 ディッターの声がした瞬間、そちらを振り向くとサクヤが判断して警告を出してくれた。

「おっと」
『チッ……』
『きゃ――』

 俺は回避をすると、奴の腕から放たれた矢のようなものは左腕を失った魔兵機《ゾルダート》のコクピット付近を貫いた。
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