134 / 141
第四章
第133話 伝達
しおりを挟む
「そら、きりきり歩け」
「うるせえな。こっちは大人数なんだ、ゆっくり進ませろってんだ」
「グライアードの連中は野蛮人か? ……ぐあ!?」
「口の利き方に気をつけろ? リント殿、物資と数人以外は殺した方が楽になると思わないか」
「「「……!?」」」
キャラバンを接収したグライアード一行。
歩みが遅いことに気が付いたディッター隊が商人を急がせる。しかし遅延をしたい商人はそれに逆らっていた。
そんな彼等に冷ややかな笑みを浮かべながら殺せばいいと口にする。
『よせ、ディッター殿。なにも殺す必要はない。それにこれだけの物資を我々だけで運ぶのは骨が折れる。そこで裏切り者に襲撃されてはたまらない』
「……」
リントが外部スピーカーで窘めると、ディッターは自身も魔兵機《ゾルダート》に戻る。
そこで魔力通信具《マナリンク》を通してリントへ話しかけた。
『リント殿、どうして我々を『侵略者』と言った?』
『……相手を力で屈服させ、こうやって物資を奪っているのだ。侵略でないと言えるのか?』
『まあ、いい。休憩は終わりだ、進ませようじゃないか』
ディッターは目を細めて笑みを消すと、魔力通信具《マナリンク》を閉じて歩き出す。リントは小さくため息を吐きながら胸中で呟く。
「(こちらが『侵略者』と口にしても驚くそぶりを見せなかった。ということはこの一団はすでにグライアードの部隊と出会っていると考えていい。それに乗っている物資は食料よりも鉱石や木材などが多い……)」
彼女が侵略者という言い方をしたのは彼等が『知っているかどうか』を確認するためであった。
概ね怯えるか怒声を浴びせてくるかどちらかが返ってくるものだが、極めて冷静に「戦争か」と返って来たことに違和感を覚えていた。
「(やはり、彼らはディッターが襲った人間か救援を得た王女の補給と考えるべきか。妙に行軍を遅らせているのもそのせいだろう。しかし、それで根本的な解決にはならないがどうする気だ?)」
リントは恐らくすでにこちらを知っている人間が混じっていると判断した。
その上で殺すのはやはり悪手だと考え、この後のことを考える。
「(このまま町まで行くとして、そこに王女がいる……というわけにはいかないだろうな。待ち伏せされている可能性もある、か?)」
どちらにせよディッターは抑えておかねばならないかとリントは魔兵機《ゾルダート》を進ませるのだった。
――そしてグライアードの軍勢に出会ったその日の夜間に脱出したシーフは山の西側にある町へと向かっていた。
「……あの行軍速度なら先に到着できる。だけど町に騎士様はいるのかねえ」
たまに後ろを振り返り、追手が居ないことを確認するシーフの男。馬を全力で走らせているが、休憩もはさまないと馬がへばってしまうため常に気をしていた。
他に連れて来た人間は居ない。下手に数を増やすとバレる可能性が高くなるからである。
「水と食料はある。が、あと三日はかかるか……町に近いところで見つからずに済んだのが幸いってところだな」
馬に水を与えながらそんなことを呟くシーフの男は少し休憩をした後に出発した。
そのまま行軍を続け夜もしっかり休むことで自身と馬の負担を減らし、不幸中の幸いと言うべきか魔物にもグライアードにも見つからずシーフの男は山から西にある町へと到着した。
「ふう……と、到着した……すまねえ、エトワールの騎士さんは居るか!」
「どうした、偉く疲れているな」
「俺はここに物資を持ってくる予定だった者だ。途中でグライアードの連中に見つかって一人伝達に来た……」
「……!? 待ってろ!」
グライアードの件もあり怪訝な顔で尋ねた門兵に、シーフの男が馬の首を撫でながら答えた。
門兵の頭には一瞬、グライアードの連中に脅されているといった考えが浮かんだが、もしそうであれば一気に攻めてくるはずかとひとまず信用することにした。
周囲を確認しながらシーフの男を町に入れてから扉をしめ、程なくしてエトワールの騎士がやってきた。
「すまない、あなたがオンディーヌ伯爵からの使者か」
「ふう……まあ、俺だけじゃないんだがね。それで――」
と、シーフの男はグライアードの部隊と会ってからキャラバンが接収され、ここに至るまでの経緯を話した。
この町、ルルアはリリアと違い、アウラとシャルルが山に向かう前に立ち寄った町で一応の経緯は知っている。
「これはあの白い巨人を防衛に回していただくのが良さそうですが、どうでしょう?」
一緒に出向いていた町の長が騎士へそう進言する。多角的に町を攻めているのでなければ救援に来てもらえないかと。
「そうですね。それがいいでしょう。ひとまず私は拠点へ向かいこのことを伝えてきます。すまない、敵の規模などを聞いておいてくれ」
「承知しています」
精悍な顔つきの騎士が頷き、シーフの男から覚えている限り敵の戦力を聞き出してくれと頼んだ。
「さて……アウラ様に報告だな。リク殿と魔兵器《ゾルダート》がいくつか出られればなんとかなるか……?」
馬にまたがり拠点を目指しながら騎士はそう呟くのだった。
そして――
「うるせえな。こっちは大人数なんだ、ゆっくり進ませろってんだ」
「グライアードの連中は野蛮人か? ……ぐあ!?」
「口の利き方に気をつけろ? リント殿、物資と数人以外は殺した方が楽になると思わないか」
「「「……!?」」」
キャラバンを接収したグライアード一行。
歩みが遅いことに気が付いたディッター隊が商人を急がせる。しかし遅延をしたい商人はそれに逆らっていた。
そんな彼等に冷ややかな笑みを浮かべながら殺せばいいと口にする。
『よせ、ディッター殿。なにも殺す必要はない。それにこれだけの物資を我々だけで運ぶのは骨が折れる。そこで裏切り者に襲撃されてはたまらない』
「……」
リントが外部スピーカーで窘めると、ディッターは自身も魔兵機《ゾルダート》に戻る。
そこで魔力通信具《マナリンク》を通してリントへ話しかけた。
『リント殿、どうして我々を『侵略者』と言った?』
『……相手を力で屈服させ、こうやって物資を奪っているのだ。侵略でないと言えるのか?』
『まあ、いい。休憩は終わりだ、進ませようじゃないか』
ディッターは目を細めて笑みを消すと、魔力通信具《マナリンク》を閉じて歩き出す。リントは小さくため息を吐きながら胸中で呟く。
「(こちらが『侵略者』と口にしても驚くそぶりを見せなかった。ということはこの一団はすでにグライアードの部隊と出会っていると考えていい。それに乗っている物資は食料よりも鉱石や木材などが多い……)」
彼女が侵略者という言い方をしたのは彼等が『知っているかどうか』を確認するためであった。
概ね怯えるか怒声を浴びせてくるかどちらかが返ってくるものだが、極めて冷静に「戦争か」と返って来たことに違和感を覚えていた。
「(やはり、彼らはディッターが襲った人間か救援を得た王女の補給と考えるべきか。妙に行軍を遅らせているのもそのせいだろう。しかし、それで根本的な解決にはならないがどうする気だ?)」
リントは恐らくすでにこちらを知っている人間が混じっていると判断した。
その上で殺すのはやはり悪手だと考え、この後のことを考える。
「(このまま町まで行くとして、そこに王女がいる……というわけにはいかないだろうな。待ち伏せされている可能性もある、か?)」
どちらにせよディッターは抑えておかねばならないかとリントは魔兵機《ゾルダート》を進ませるのだった。
――そしてグライアードの軍勢に出会ったその日の夜間に脱出したシーフは山の西側にある町へと向かっていた。
「……あの行軍速度なら先に到着できる。だけど町に騎士様はいるのかねえ」
たまに後ろを振り返り、追手が居ないことを確認するシーフの男。馬を全力で走らせているが、休憩もはさまないと馬がへばってしまうため常に気をしていた。
他に連れて来た人間は居ない。下手に数を増やすとバレる可能性が高くなるからである。
「水と食料はある。が、あと三日はかかるか……町に近いところで見つからずに済んだのが幸いってところだな」
馬に水を与えながらそんなことを呟くシーフの男は少し休憩をした後に出発した。
そのまま行軍を続け夜もしっかり休むことで自身と馬の負担を減らし、不幸中の幸いと言うべきか魔物にもグライアードにも見つからずシーフの男は山から西にある町へと到着した。
「ふう……と、到着した……すまねえ、エトワールの騎士さんは居るか!」
「どうした、偉く疲れているな」
「俺はここに物資を持ってくる予定だった者だ。途中でグライアードの連中に見つかって一人伝達に来た……」
「……!? 待ってろ!」
グライアードの件もあり怪訝な顔で尋ねた門兵に、シーフの男が馬の首を撫でながら答えた。
門兵の頭には一瞬、グライアードの連中に脅されているといった考えが浮かんだが、もしそうであれば一気に攻めてくるはずかとひとまず信用することにした。
周囲を確認しながらシーフの男を町に入れてから扉をしめ、程なくしてエトワールの騎士がやってきた。
「すまない、あなたがオンディーヌ伯爵からの使者か」
「ふう……まあ、俺だけじゃないんだがね。それで――」
と、シーフの男はグライアードの部隊と会ってからキャラバンが接収され、ここに至るまでの経緯を話した。
この町、ルルアはリリアと違い、アウラとシャルルが山に向かう前に立ち寄った町で一応の経緯は知っている。
「これはあの白い巨人を防衛に回していただくのが良さそうですが、どうでしょう?」
一緒に出向いていた町の長が騎士へそう進言する。多角的に町を攻めているのでなければ救援に来てもらえないかと。
「そうですね。それがいいでしょう。ひとまず私は拠点へ向かいこのことを伝えてきます。すまない、敵の規模などを聞いておいてくれ」
「承知しています」
精悍な顔つきの騎士が頷き、シーフの男から覚えている限り敵の戦力を聞き出してくれと頼んだ。
「さて……アウラ様に報告だな。リク殿と魔兵器《ゾルダート》がいくつか出られればなんとかなるか……?」
馬にまたがり拠点を目指しながら騎士はそう呟くのだった。
そして――
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
99
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる