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第四章

第124話 エトワールとグライアード

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「いずれこちらから攻め込む必要はあるため、今はその戦力を集めているところです」
「それであの巨人を……グライアードが攻めてきているのは分かりましたが、エトワール全土をどうにかするつもりなのかい?」

 シャルが一通り説明をし、その場に居たエトワール側の人間からはどよめきが起こった。対してグライアード側は目を瞑って素知らぬ顔だ。
 そこでギルドマスターのハンスという男ががグライアード側に質問を投げかけた。

「……予定ではそうなっているな」
「トルコーイ、貴様」
「吠えるなよなあ、カン。こうなっては僕達が死なないために立ち回るべきだと思うがねえ?」
「ふん、死を恐れて戦いができるか」
「その理屈はわかるけどねえ。ただ、僕はここで死ぬわけにはいないのでね」
「……」

 隊長二人の会話を黙って聞く俺達。ジョンビエルやディッター達とはまた違った感じに見えるな。

「どちらにしても仕掛けてくるなら死人はでるぞ」
「白い魔兵機《ゾルダート》の操縦士か」
「なんだと? エトワールにもあるのか……?」
「それはとりあえず置いてくれ。お前達から休戦の提案はできないのか? 隊長格ならってのとジョンビエルやディッターより話がわかると思ったからなんだが……」

 俺がそう言うと、カンという男が腕組みをして目を瞑る。

「奴等か……ふむ、アレと同じにしないのは好感がもてるが、無理だな」
「どうして?」
「フレッサー将軍はなにがあっても町を落とせと言っていた。抵抗するなら殺せ、と。特に男には容赦なく皆殺しだとな」
「な……!?」
「それはジョンビエルやヘッジから聞いている。この国を変えるつもりというのもな。俺はそういうところから来たからはわかるんだ。ただ、本国からどれだけの数が来ているかわからないが、現実的に無理じゃないかと考えている」

 こっちも人が集まっているのと敵も責任者が居るので突きつけてみた。ここまでの戦いを通じて分かりやすく言えば、町を抑えられなければほぼ五分まで持ち込むことができるのだと。

「……そうだねえ。君の言いたいことはわかるよ、部隊数は教えられないがね。ただ、それでも魔兵機《ゾルダート》があればどうとでもなる、そう思っていたのは確かだ」
「あんなものに頼ったのが間違いなのだ! 陛下は一体どうされたのか……」
「国王様から命令されたんじゃないのか?」
「もちろんだ。だが……ザラーグドが……いや、お前達には関係ない話だ」

 カン・ガンという名前の隊長が顔を顰めて知らない人物の名を口にした。
 トルコーイの眉が一瞬動いたのを俺は見逃さなかった。

「ザラーグドってのは?」
「なに、グライアードの宰相さあ。陛下と国の政治を担っている人物ってやつだなあ」
「宰相……」

 国のナンバー2ってところか。俺はそう思いながら話を続ける。

「あんまりいい人物ではなさそうねえ」
「ふん……魔兵機《ゾルダート》の開発を進めたのはあいつだったからな」
「いいのか喋って?」
「それくらいでグライアードは揺るがん! ……とはいえこの戦いの一旦はあいつが拾ってきた男のせいではあるか」
「どういうことよ?」

 シャルが聞き返すとカンの部下であるという副隊長が口を開いた。

「……ザラーグド殿がどこかで一人の男を連れて帰って来たのだ。そやつが魔兵機《ゾルダート》を造ったのだ」
「マジか。一人で……?」
「だなあ。もちろん組み立てや素材の加工などは他の職人たちもやっていたけどなあ。だけど誰一人、あの仕組みを理解できる者はいなかったよ」

 トルコーイが副隊長の言葉に続き、肩を竦めてそう語った。ワンマンで全部構築したってのか? そんな天才がいるものなのか?

「メンテナンスはできるようになったが、未だに触るのは怖いぞ。やはり戦いは斬り合わねば面白くない! そうだろうエトワール王国の騎士よ」

 そこでカンがザナックに向かってそんなことを口にした。

「できれば殺し合いなんてしたくないんだがな? まあ、確かにリク殿が居なければジョンビエルの魔兵機《ゾルダート》部隊にやられて終わりだったろうから、言いたくはないが判断は間違っていないのか……」
「そこは予想外だったなあ。僕はその男と戦ったけど、正直な話、魔兵機《ゾルダート》じゃあ歯が立たない」
「ほう……」

 カンが俺を見て目を光らせていた。
 それはともかく、戦争の発端はその開発者ってことになるのか……国王よりもザラーグドの方がちょっと怪しいが結託して「やる」と決めたかもしれないのでそれはいいか。
 もう一つ、重要なことを聞いておくとしよう。

「なら次だ。フレッサー将軍というのはどういう人物だ? やっぱ白兵戦も強いのか」
「将軍か……強いな。それ以外に言えることがないくらいには」
「そうだねえ。まあ、嫌いな人間は多いかなあ? 性格は難がある」
「ホント、ペラペラ喋るわねえ」
「喋ったとて、それほど変わることがないということだ。それにこちらの戦力を喋るつもりは無い」

 自信ありとカンが言う。
 それでも個々の話に意味がないとは思わない。例えばどう性格が悪いのかで作戦を立てることもできるからだ。
 
「とりあえず、今すぐに役に立ちそうな情報は無しってところか。あんた達は各町で軟禁状態。占領しているフリをしてもらう」
「そう上手くいくかな? 俺達が叫べば町を壊滅させるくらいはできる」
「それくらいは想定している。それでも手を出させないためのあんた達だ」
「……」

 トップに不満がある奴等はそれで仮想敵を作り、仲間意識を高める。ちょっと聞いただけだが、ザラーグドとフレッサーは割と多数に嫌われているのかもしれない。
 ならこいつらを盾にできるはずだ。

「敵の数がわからないと攻めるのが難しいですね」
「地道に潰していくしかないかもしれねえな。捨て石になるくらいなら、ザラーグドに聞いたほうがいいと思うがね、オレは」

 ひとまず話し合いは終わりとグライアードの人間を連れて外に出る。最後にヘッジが煙草に火をつけながらそんなことを言った。

「部下を無駄死にさせるわけにはいかんということだ」
「なるほど、ご立派だぜ隊長さんはよ。なるべく死人がでない立ち回りをしたいとこだぜ」
「ヘッジの言う通りだわ。だけど、向かってくるなら殺さないとこっちがやられるから、手加減はしないわよ」

 シャルは徹底抗戦の意思があるとカン達に宣言していた。降伏を促さなければ、斬ると。
 それでも王都攻略について考えるには早いか……そう思いながらリリアの町を後にするのだった。
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