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第三章
第118話 矜持
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「お、部屋ん中が騒がしいな。戦闘になっちまったか? おっと」
「グライアードの人間がなぜエトワールに加担している!」
「まあ、色々あってな? 悪いがお前達はここで抑えさせてもらうぜ」
「黙れ!」
「……オイラは戦闘が苦手なんだ、悪いけど撤退する」
「おう、その辺の部屋に隠れてろ」
通路で会話をしながら斬り結ぶヘッジと騎士。
ヘッジはザナック達が踏み込んだ部屋が騒がしいことに気づき、肩を竦めていた。
アンロックはすぐに騎士とは逆方向に移動して適当な部屋に入っていく。
「ジョンビエル隊はほぼ全滅。オレは投降してエトワールの側についてってわけだ。今ごろエトワールの王都にディッター殿が戻っているんじゃないか?」
「なんだと……いったいお前は……!!」
「動揺が見えるぜ」
ヘッジが横薙ぎに剣を振るうと、苦悶の表情を上げて後退させられる騎士。
生身であればヘッジの『力が強い』という能力はかなり活かせる。
「おい、さっきの笛の音はなんだ!」
「なんだ? 仲間同士で……?」
そこでヘッジの背後にグライアードの騎士が現れた。剣を構えて対峙する二人を見て困惑していた。
ヘッジはまごうことなきグライアードの鎧をまとっているため、その態度は仕方のないことだ。
「お、おお、いいところに! こいつは裏切り者だ! 斬れ!」
「裏切り者だって……? いったい何が――」
「悪いな、ちょっと黙ってもらうぜ」
挟み撃ちになっている状況に、ヘッジは一度煙を吹いた後、くるりと身を翻して増援に来た騎士達へ向かっていく。
「理由を説明しろ!」
「おう、グライアードのやり方が気に入らねえ。フレッサーの野郎と陛下がなにを考えているのか確認したくてよ!」
「……!?」
「くそ、通路に引っかかる……!」
通路の広さを見れば二人並ぶのは難しい場所なので結局一対一の状況になる。
しかし、詰まっていて逃げ場がない状況ならまず身動きが取りにくい方を制圧するのが楽だとヘッジは考えた。
「そらよ!」
「ぐぬ……! 舐めるな!」
「ハッ、やるな!」
「手が痺れる……そういえばやけに腕力の強い男がいると聞いたことがある。それがお前か……!」
正解、とヘッジは笑いながら斬撃を繰り返す。
剣はもとより、肩やガントレットといった部位を狙いダメージを与えていた。
殺すつもりは無いので戦闘不能にできればそれでいい。ヘッジがここに来たのはグライアードの目くらましと、自らの力が役に立つと考えていたからだ。
「後ろががら空きだ」
「わかってるっての」
ヘッジが咥えていた煙草を指に挟み、そのまま背後にピッと飛ばす。
「おう!?」
「そらよ!」
背後に迫っていた騎士が煙草にびっくりして一瞬動きを止めた。それを見逃さず、後ろに蹴りを繰り出して再び通路の奥へと吹き飛ばした。
「こいつ……!」
「しかしこの人数だ。笛の音も外まで響いていた。増援もすぐ来る」
「さて、そいつはどうかな?」
「どういう意味だ……?」
ヘッジと剣を交えながら眉を顰めるグライアードの騎士。お互い致命的な一撃を与えられないまま拮抗が続く。
「さぁて、どこまで耐えられるかなオレ」
「ふざけているのか……」
ギリギリと鍔迫り合いをするヘッジがくっくと笑い、騎士が訝しむ。そこでいつまで立っても外から増援が来ないことに気づいた。
「おかしい、いくらなんでも遅すぎる……! いったいなにが起きているんだ!」
「さあな? 外は大変なことになっているかもしれないぜ? ここに居て大丈夫かあ?」
「くそ……! お前達は外へ行け、どうせこの通路じゃ戦えん」
「わかった」
三人来ていた騎士の内二人を調査に向かわせようと声をあげた。ここで挟み撃ちをしていれば少なくともヘッジはここから動けないと判断。
しかしそこで、騎士達の背後にある扉が開き、二人の騎士が派手にぶつかった。
「ほべ!?」
「……あ、すみません」
「なんだお前!?」
適当な部屋に逃げていたアンロックが扉を開けて移動を阻止した。激昂する騎士を見て冷や汗を掻きながら再び扉を閉めた。
「あ、おい、逃げるな! なんだあいつ!?」
「いい仕事するなあいつ。ん?」
「くそ、今度こそ……!」
ヘッジが笑いながらアンロックの仕事を称賛していると、背後から再び蹴飛ばされた騎士が駆けてくるのが見えた。
しかし――
「うおおおおお!」
「たぁぁぁぁぁ!」
「え!? なに――」
――その直後、カンの居る部屋の扉が破壊され傷だらけの二人が飛び出して来た。とてつもない形相をしたザナックとカンに巻き込まれて騎士が壁に叩きつけられて気絶した。
「おっと、そっちも戦闘中だったか」
「はあ……はあ。……ヘッジか! 見ての通りだ、残り二人はまだ中に居る」
「そう簡単に上手くはいかない……かっと!」
「う……!? まだそんな力を!?」
カンをまだ捕らえられていないと知ったヘッジが対峙している騎士達三人へ本気で打ち込み始める。
「タイマンでそいつとそれだけやり合えていたら十分だろ」
「ふう……貴様、ジョンビエル隊から来たという騎士か……裏切りものが」
「別になんと言われようと構わないけどなオレは。どうせグライアードに家族はいねえから人質の心配はねえし」
「それでグライアードを騙り襲撃か。騎士の風上にも置けんな」
「なら黙ってエトワールを奇襲したグライアードはなんなんだ? あん?」
「……」
煙草を取り出して口に咥えながらそう言うと、カンは口をへの字にして目を細めた。
「さてな。命令は命令だ。侵略も、町の人間の殺戮も、陛下が望んでいるのであればそれに応えるのが騎士であろうよ……!」
「その心意気はわかるんだがよ? ま、そろそろケリをつけようぜ。ザナックはまだいけんのかい? 変わる?」
「うるさいぞ。この男は強い……だが、騎士として強者と戦うのは誉れでもある。任せてもらおう」
「こっちはこっちで暑苦しいねえ。ならもう少し耐えるとすっか」
煙草の紫煙を吐きながら、ヘッジはさらに力を入れて剣を握る。
そのころ別行動をしていたギャレット達にも動きがあった。
「グライアードの人間がなぜエトワールに加担している!」
「まあ、色々あってな? 悪いがお前達はここで抑えさせてもらうぜ」
「黙れ!」
「……オイラは戦闘が苦手なんだ、悪いけど撤退する」
「おう、その辺の部屋に隠れてろ」
通路で会話をしながら斬り結ぶヘッジと騎士。
ヘッジはザナック達が踏み込んだ部屋が騒がしいことに気づき、肩を竦めていた。
アンロックはすぐに騎士とは逆方向に移動して適当な部屋に入っていく。
「ジョンビエル隊はほぼ全滅。オレは投降してエトワールの側についてってわけだ。今ごろエトワールの王都にディッター殿が戻っているんじゃないか?」
「なんだと……いったいお前は……!!」
「動揺が見えるぜ」
ヘッジが横薙ぎに剣を振るうと、苦悶の表情を上げて後退させられる騎士。
生身であればヘッジの『力が強い』という能力はかなり活かせる。
「おい、さっきの笛の音はなんだ!」
「なんだ? 仲間同士で……?」
そこでヘッジの背後にグライアードの騎士が現れた。剣を構えて対峙する二人を見て困惑していた。
ヘッジはまごうことなきグライアードの鎧をまとっているため、その態度は仕方のないことだ。
「お、おお、いいところに! こいつは裏切り者だ! 斬れ!」
「裏切り者だって……? いったい何が――」
「悪いな、ちょっと黙ってもらうぜ」
挟み撃ちになっている状況に、ヘッジは一度煙を吹いた後、くるりと身を翻して増援に来た騎士達へ向かっていく。
「理由を説明しろ!」
「おう、グライアードのやり方が気に入らねえ。フレッサーの野郎と陛下がなにを考えているのか確認したくてよ!」
「……!?」
「くそ、通路に引っかかる……!」
通路の広さを見れば二人並ぶのは難しい場所なので結局一対一の状況になる。
しかし、詰まっていて逃げ場がない状況ならまず身動きが取りにくい方を制圧するのが楽だとヘッジは考えた。
「そらよ!」
「ぐぬ……! 舐めるな!」
「ハッ、やるな!」
「手が痺れる……そういえばやけに腕力の強い男がいると聞いたことがある。それがお前か……!」
正解、とヘッジは笑いながら斬撃を繰り返す。
剣はもとより、肩やガントレットといった部位を狙いダメージを与えていた。
殺すつもりは無いので戦闘不能にできればそれでいい。ヘッジがここに来たのはグライアードの目くらましと、自らの力が役に立つと考えていたからだ。
「後ろががら空きだ」
「わかってるっての」
ヘッジが咥えていた煙草を指に挟み、そのまま背後にピッと飛ばす。
「おう!?」
「そらよ!」
背後に迫っていた騎士が煙草にびっくりして一瞬動きを止めた。それを見逃さず、後ろに蹴りを繰り出して再び通路の奥へと吹き飛ばした。
「こいつ……!」
「しかしこの人数だ。笛の音も外まで響いていた。増援もすぐ来る」
「さて、そいつはどうかな?」
「どういう意味だ……?」
ヘッジと剣を交えながら眉を顰めるグライアードの騎士。お互い致命的な一撃を与えられないまま拮抗が続く。
「さぁて、どこまで耐えられるかなオレ」
「ふざけているのか……」
ギリギリと鍔迫り合いをするヘッジがくっくと笑い、騎士が訝しむ。そこでいつまで立っても外から増援が来ないことに気づいた。
「おかしい、いくらなんでも遅すぎる……! いったいなにが起きているんだ!」
「さあな? 外は大変なことになっているかもしれないぜ? ここに居て大丈夫かあ?」
「くそ……! お前達は外へ行け、どうせこの通路じゃ戦えん」
「わかった」
三人来ていた騎士の内二人を調査に向かわせようと声をあげた。ここで挟み撃ちをしていれば少なくともヘッジはここから動けないと判断。
しかしそこで、騎士達の背後にある扉が開き、二人の騎士が派手にぶつかった。
「ほべ!?」
「……あ、すみません」
「なんだお前!?」
適当な部屋に逃げていたアンロックが扉を開けて移動を阻止した。激昂する騎士を見て冷や汗を掻きながら再び扉を閉めた。
「あ、おい、逃げるな! なんだあいつ!?」
「いい仕事するなあいつ。ん?」
「くそ、今度こそ……!」
ヘッジが笑いながらアンロックの仕事を称賛していると、背後から再び蹴飛ばされた騎士が駆けてくるのが見えた。
しかし――
「うおおおおお!」
「たぁぁぁぁぁ!」
「え!? なに――」
――その直後、カンの居る部屋の扉が破壊され傷だらけの二人が飛び出して来た。とてつもない形相をしたザナックとカンに巻き込まれて騎士が壁に叩きつけられて気絶した。
「おっと、そっちも戦闘中だったか」
「はあ……はあ。……ヘッジか! 見ての通りだ、残り二人はまだ中に居る」
「そう簡単に上手くはいかない……かっと!」
「う……!? まだそんな力を!?」
カンをまだ捕らえられていないと知ったヘッジが対峙している騎士達三人へ本気で打ち込み始める。
「タイマンでそいつとそれだけやり合えていたら十分だろ」
「ふう……貴様、ジョンビエル隊から来たという騎士か……裏切りものが」
「別になんと言われようと構わないけどなオレは。どうせグライアードに家族はいねえから人質の心配はねえし」
「それでグライアードを騙り襲撃か。騎士の風上にも置けんな」
「なら黙ってエトワールを奇襲したグライアードはなんなんだ? あん?」
「……」
煙草を取り出して口に咥えながらそう言うと、カンは口をへの字にして目を細めた。
「さてな。命令は命令だ。侵略も、町の人間の殺戮も、陛下が望んでいるのであればそれに応えるのが騎士であろうよ……!」
「その心意気はわかるんだがよ? ま、そろそろケリをつけようぜ。ザナックはまだいけんのかい? 変わる?」
「うるさいぞ。この男は強い……だが、騎士として強者と戦うのは誉れでもある。任せてもらおう」
「こっちはこっちで暑苦しいねえ。ならもう少し耐えるとすっか」
煙草の紫煙を吐きながら、ヘッジはさらに力を入れて剣を握る。
そのころ別行動をしていたギャレット達にも動きがあった。
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