上 下
116 / 146
第三章

第115話 救出

しおりを挟む
 ヘッジ達が町中へ展開する少し前にギルドに連れていかれたザナック達。地下牢があるので最適な場所としてグライアードの人間は使っている。
 そこで彼等が入ってくると、冒険者達が不満げな顔で口を開く。

「また捕まえたのか。グライアードの騎士ってのは卑怯者の集まりかい?」
「なんだと?」
「下にいる連中もだまし討ちみたいなもんだって聞いている。あのような巨大なモノをもちながら不意打ちとはよほど弱いと見える」
「貴様等……!」
「やんのか? ああ?」

 冒険者達は苛立ちを隠さずにギルドに入って来た二名のグライアードの騎士へ睨みを利かせていた。
 今までの町にももちろん居た冒険者。グライアードについても良いと思う者が多くてもおかしくない現状だが、実はそう考えるものは少ない。
 
「斬られたいようだな……?」
「ならこっちも報復はするぜ? それでいいならかかってこいや」

 基本的にエトワール王国内で働いている場合、他国でも世話になっている国を重視する者が多いからだ。
 戦争で攻めている側が負けてしまった場合、後の惨状は想像しやすい。ここでグライアードに与して負けたら……そう思えば侵略者に媚びを売る必要はないと考えている。
 さらに町から出るなと強制されている今、仕事もできず金を稼げないため不満はさらに積もっていくだろう。
 町の人間には世話になっているため大人しくしているが、なにかのきっかけで爆発するはずである。

「……生意気な。一人くらい殺しておくか? 騎士とただの冒険者の違いを教えてやろうか」
「望むところだ……!」
「よせ。騒ぎを大きくするな。すみませんな、ウチの連中は元気がありすぎてな」

 そこで鎧に身を包んだ大きな男が現れた。彼は謝罪を口にしながら、腰の剣を抜こうとしたグライアードの騎士の手を抑えた。

「ぬ……!」
「数日もすれば慣れます。それまではお互い不可侵でいきましょう。……ただ、町の人間を殺すようなことがあれば我々は黙っていない。自警団もこのギルドマスターである私も」
「わかっている。大人しくしていれば、な。もしかすると貴様らにも仕事が与えられるかもしれんしな」
「なんだって?」

 冒険者が眉を顰めて聞き返すと、グライアードの騎士は鼻を鳴らしながら言う。

「エトワール王国の騎士が居たということは近辺に仲間が居るはずだ。鉱山という絶好の隠れ場所もな」
「……」

 ここまでザナックは黙って聞いていた。
 目の前にいるグライアードの人間が得意げにそんなことを話しているのを冒険者と見比べながら。

「……? ふむ、ではそこで仕事ということになるのか。あの大きなものは使わないのか?」
「あれで山狩りは難しいのでな。それまで黙っていろ」
「そういうわけにもいかないな」
「え?」

 そこでようやく口を開いたザナックが首と指を鳴らす。その場に居た者は全員彼に目を向けた。

「あれ? なんで拘束が解けて――」
「貴様……! ん? なんだ? ……あ!?」

 ポカンとしているグライアードの騎士が正面から殴られ派手にふっとび椅子に絡まって気絶する。すぐにハッとなったもう一人が剣を抜こうとしたが、それはギルドマスターと名乗った男が止めた。

「暴れるなと言ったろう? なので報復だ」
「ちょ、ま――」

 体の大きなギルドマスターの拳がグライアードの騎士の頬へ突き刺さると、すぐに白目を剥いて壁に吹き飛ばされた。
 
「ふう、ありがとう。助かりました」
「いえいえ、視線からなにかするであろうことは分かっていましたからね。それでこの後はどうするおつもりですか? あ、私はハンスと申します」

 ギルドマスターの大男が名乗ると、ザナック達は頷き、グライアードの騎士お懐を探る。

「ザナックだ。エトワール王国の騎士……っと、話は後だ。まずは地下に居る三人を助けなければ」
「承知しました。……おい、動ける準備をしておけ」
「「「オッケーだぜ」」」

 ハンスが神妙な顔で冒険者に指示を出すと、嬉々として武器を叩く冒険者一同。
 それを見てザナック達は肩を竦めて、一緒に居た騎士をグライアードの男達の拘束に回し、地下へ移動する。

「牢は右の扉の先だ」

 一つ下に降りるといくつかの部屋があり、一緒に移動してきたハンスが牢の場所を教えてくれた。
 
「……」

 さっきのは演技ではないだろうか? 大丈夫か? そんなことを考えながら背後を気にしつつ先へ進むと一つだけ松明で照らされている牢があった。

「サラバス!」
「う……う……そ、その声は……」
「俺だ、ザナックだ! 今、出してやるぞ!」

 グライアードの騎士から奪った鍵を使って錠前を開ける。すぐに駆け寄ると、三人とも酷い傷で倒れていることがわかり顔を顰めた。

「ポーションだ、使ってやるといい」
「助かる。……!」

 青い薬液を傷口にかけるてやるとスゥっと開いた傷が消えていく。ザナックは即効性が高いところを見てハイポーションをくれたのかと驚いていた。
 しかし今はそれどころではないと三人へハイポーションをかけてやった。

「う、うう……ドジを踏んだものだ……すまない」
「いいさ。まさか隠れて占領し、俺達を捕まえるつもりだったとは思わなかった」
「情報屋がいたようだ……今後は、気をつけないといけないな」
「そうだな。とりあえずここで休んでいろ」
「そういえば……グライアードの連中はどうしたんだ? リク殿か……?」

 一番最初に殴られて気絶をしたオニールが頭を振りながら上半身を起こしていた。
 気絶したがために殆どダメージを受けていないからだ。

「お前は大丈夫そうだな? いや、俺達だけで作戦を決行している。シャル様やリク殿は居ない」
「そりゃ大胆な。ガエイン様もか」
「ああ」

 ザナックが頷くと口笛を吹いて苦笑する。そのままグライアードの騎士から奪った剣を渡してザナックが立ち上がる。

「ここはこれでいいか。ハンスさん、なにか武器はないだろうか?」
「あるよ。上へ戻ろう。歩きながらでいい。話を聞かせてもらえるかな?」
「もちろんだ。……できる限りのことなら」

 そういって歩き出す二人。
 道中で拠点のこと以外で彼が食いつきそうな話をいくつかした。ハンスはグライアードとすでに相対しているためすんなり受け入れてくれたようだ。

「グライアードめ、どういうつもりか聞かねばならんな」
「まったくだ。ん? なんか騒がしいな?」

 上へ戻ると、少し騒がしい声が聞こえてきた――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

処理中です...