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第三章

第113話 暗闇

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「カン隊長、ジョンビエル隊の者が救援に来られています」
「なに? あいつの隊だと?」

 酒を片手に町の権力者の屋敷でのんびりとしていたカンはジョンビエルの名を聞いて眉間に皺を寄せた。
 あのイカれた男の部下ならそいつもロクでもないであろうという算段がつくからだ。
 それでも味方ということであれば無下にもできない。が、会うのは面倒くさいため扉越しに自身の部下へ指示を出す。

「今日のところはもう遅い。明日、話を聞くから適当に休ませておけ」
「捕虜もいます。それと――」
「それくらいなんとかしろ! 後はなんだ? 今でないとダメなのか? 俺は眠いんだよ!」
「ハッ!? し、失礼しました!」

 カンがグラスを扉に投げつけると派手に割れる音が響いた。そこで部下の騎士は慌てて返事をするとガチャガチャと鉄の具足の足音をさせながら廊下を駆けて行った。

「ったく……ひとまずここまでの疲れを癒せばいいのだ。どうせ男どもを殺すという面倒くさい仕事をせねばならんのだからな」

 カンはそう呟いた後、ベッドへ潜り込んだ。町を占拠したことにより脅威がないと高を括っていたのだった。
 そしてまんまと入り込んだヘッジ達はというと――

◆ ◇ ◆

「カン様はお休みになられている。今日のところは宿に行ってくれ」
「オッケーだ。捕虜は?」
「騎士は先の三人と同じところに置く。娘は……」
「おっと、こいつはオレがいただくからダメだ」
「はは、お前も好きだねえ。なら男どもは連れて行くぞ」
「頼むぜ」

 と、ヘッジはバスレーナだけを手元に残してザナック達を見送った。
 周囲に人の気配が居なくなったところでヘッジは彼女を連れて宿の中へと入っていく。

「い、いらっしゃいませ……」
「そう警戒しなさんな。こいつと一緒でいい。一部屋いくらだ? できれば一階がいい」
「い、いえ……お代は受け取れません……」
「そうかい? オレは別に払うけどよ」

 ヘッジが受付の男にそう言うが、部屋の鍵を無言で差し出してくる。
 まあいいかとバスレーナを連れて一旦部屋へ行くかと離れたところで――

「……嬢ちゃん、可哀想になあ」

 ――男がポツリと呟いた。

「親父さん、そりゃどういう意味だ?」
「どうもこうも無いさ、その娘も手籠めにするんだろう? 町の人間はいつ娘が連れていかれるか気が気じゃあないんだ……ウチを娼館みたいに使って……っと、申し訳ございません……命ばかりはお助けを……!」
「いや、いいけどよ。ま、侵略されちまったら仕方ねえさ。あんなデカブツ見せられたら」
「え? あ、はあ……」

 ヘッジがあっさり言い放ち、煙草に火をつけてくっくと笑う。そこでバスレーナが言う。

「あたいはいいけどね? そりゃ嫌がる女の子の方が多いけどさ」
「へ?」
「アホなことを言ってねえで行くぞ。っと、そうだ。親父、この宿に騎士は何人泊っているかわかるか?」
「え? お、恐らく十人ほどかと……」
「ありがとよ。オレはついさっきここに到着したばかりでな? ちっとばかしうるさくなるかもしれねえがよろしく頼むわ」
「んじゃねー」
「ええ……?」

 捕まっているのに随分と明るいお嬢さんだと思いながら宿の男はポカンと口を開けたままヘッジ達を見送った。
 
「うし、まずは拠点を確保っと」
「角部屋だけどいいの?」
「いざってときに片方からだけの方が楽だ。ロープをほどいてやる」
「で、エッチするの?」
「しねぇっての。そんなセリフはもちっと出るとこが出てからいいやがれ」
「確かに」

 腕を縛っていたロープを外しながら、お互い不敵に笑いつつ話を続ける。
 
「オレはこのまま門まで行って二人を拘束してくる。その間一人でここに居るんだ」
「オッケーだよ! それで親父達を招き入れてから隊長の居る場所を襲撃、と」
「だな」

 隊長に会わせてくれと頼んだヘッジの本当の目的はカンがどこに居るのかを確認するためだった。こんな夜更け、ましてジョンビエルのところに居た人間とは会わないだろうという推測での行動だった。
 もちろん、会うと言うならその場で大暴れするつもりだったので計画の内容に変わりはなかった。

「ザナックさん達は大丈夫ですかね?」
「ま、そこは信用するしかねえな」
「元グライアードの騎士がなにを言っているのやら……あ、煙草を吸いながら作戦をしないでくださいよ?」
「もちろんだぜ。それじゃ、行ってくるか」
「お気をつけて~♪」

 ヘッジは窓から出ると、煙草を地面に捨ててから踏みつける。火が消えたことを確認してから身を低くして宿の庭を抜けていった。

「意外と未練もないもんだ。むしろこいつらが能天気に受け入れてくれる方がお笑いだねえ」

 口角を上げてそんなことを呟きながら家屋の陰に隠れつつ門へと向かう。入口は二か所あり、一つは機体が置いてある出口になる。
 だが、ギャレット達を引き入れるため、ひとまず鉱山に近い方から開けることにしていた。

「あれは後でいただくとして……あの三人組も探しておかねえとな。多分、今回の騒動は……っと、いたいた。さて、どうやって拘束しようか」

 松明の灯りが騎士を照らす。あくびをしていて隙だらけだと思い忍び寄る。
 声をかけた方が早いか? そう思った瞬間――

「ぐ……!? あ――」
「……!?」

 ――騎士の一人が崩れ落ちた。
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