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第三章
第111話 不和
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「……」
「あ? お前、鉱山のおっさんか。……こんな夜に散歩か?」
――深夜、ボルアは山に近い町の隅で一人立っていた。足元には大きな鉱山で使う道具袋があり、焚火をしている。
その焚火に気づいたグライアードの騎士が近づいてきて声をかけてきた。
「ちょっと夜風に当たりたくて……」
「それで焚火か? 意味がわからん……というか色のついた煙、か? ……まあいい。出歩かれちゃ困るんだ、家に戻れ。鉱山から戻った連中の家には監視をつけていたはずだが……」
「ヤツはウチで酒をぶん取ってフラフラとどこかへ行ったぞ」
「マジかい。ったくあいつは勝手なことばかりする。ほら、おっさん。送っていくから戻るぞ」
「……」
「……っ」
戻るぞと言ったグライアードの騎士がボルアの目を見て怯む。睨むといった感じではなく、暗い『なにか』を放っていた。
「行くぞ……!」
「……」
それでも騎士がボルアの腕を掴んで引っ張ると、抵抗はなく歩き出した。
彼は騎士に連れられて歩いている途中、一度だけ立ち上る煙を見る。
「急げ」
「ああ……」
騎士に急かされてボルアは再び歩き出し家路についた。
そして――
◆ ◇ ◆
「うう、寒い……」
「山の夜は仕方ないさ。ほら、お湯」
「サンキュー。町は大丈夫そうか?」
「今のところそれらしい様子はないな」
山に残った男達が焚火を囲みながら町の様子を伺っていた。ボルアが実質リーダーのようなところがあるため普段は口に出しにくい。
だが、鉱山に現れた巨人とエトワール王国の騎士による説得は無視できるものではないと思っている者もいた。
「あの日、戻ってから町に告げなかったのもな……」
「あれは俺達も同罪だ。言えなかったんだからな……」
リク達と出会った日に町へ戻ったがとくに報告をしていなかった。そのせいで警戒ができず盗賊団からの情報を得たグライアードの騎士達が有利のまま占領されてしまったのだ。
ボルアに睨まれて言わず、それから数日はなにも無かったので大丈夫かと安心した矢先に今回の事件が起こった。
「町が占拠されていてもいなくても……エトワール王国の騎士に助けを呼んだ方がいいんじゃないのか?」
「た、確かにそうかもしれない……お、俺が行ってくるぞ……」
「明るくなるまで待った方がいい。一人でウロウロしていると魔物が出る」
焚火に並べていた串に刺した肉を裏返しながら一人の男がそう呟く。
そこでどこからか狼か野犬の遠吠えが聞こえてきて、一同は委縮する。
だがそこで――
「……! おい、見ろ!」
――ボルアが焚いた煙が町から立ち昇るのが見えた。
通常の煙突などと違い、危険を知らせるためなどに使う染料を混ぜた、いわゆる煙玉が混ざっていて月明りに照らされた煙には色がついていた。
「やっぱダメそうか……! よ、よし、全員で鉱山まで行くぞ! あいつらが居れば救援を……!」
「いいから行くぞ」
「おう!」
焚火を消してからすぐに移動を始める鉱夫達。目指すは逃げてきたエトワール王国の騎士達が掘っている鉱山。
数時間かけて再び山の中腹へ登っていき、自分たちの居る鉱山へ。
さらに少し離れた場所へ行くと、そこには松明の灯りがあった。
「ま、まだやっているのか……?」
「人が居る! おおーい!」
鉱夫達が大声で叫びながら近づいていくと、先日『他国の人間』と紹介された体格のいい男が気づいた。
「ん? おや、あんた達は……」
その人物、ギャレットが声に気づいて椅子から立ち上がる。近くには騎士や平民も居て寝ていた人間も起き出してくる。
「し、下の鉱山で掘っている者だ! た、助けてくれ! 町が……グライアードの奴等に占拠されちまったらしい……!」
「なんだって? らしいってのはどういうことだ?」
「ふあ……慌ててますねえ。まずは落ち着いて説明を」
あくびをしながらバスレーナが鉱夫にそう告げながら水を差しだした。
ぐっと水を飲みほした後、彼等が状況を説明するとその場に居たエトワール王国の騎士達は腕組みをして考え始めた。
「なるほど……となると、北の町へ向かった我々の仲間も危険か」
「な、仲間……そりゃマズイんじゃないか」
「町もエトワール王国の協力者だと思われていたら……」
「だから占領をされたのかも」
騎士の言葉にしどろもどろに本音を口にすると、バスレーナが苛立ちを隠さずに口を開く。
「あなた方、本気でそんなことを言っているんですか!? あたい達は忠告しましたよね? グライアードの人達は容赦ないと。それを無視して協力をしなかったのはそちらでしょうが! それで今は敵が来たから助けてくれ? 虫が良すぎますねえ。協力者だと思われたくない? ならここに助けを呼ぶのは筋違いじゃないですかね!」
「あ、うう……」
「くっく、言うねえ」
馬鹿な言葉を聞いて目が覚めたとバスレーナが激昂する。苦笑するギャレット。
そこで騎士が割って入る。
「バスレーナちゃんの言うことももっともだな。エトワール王国の騎士に助けられるのはまずいのではないか?」
「う……」
「と、あまり意地悪をする時間はないか。リク様……は、今いない……我々だけでやるしかない、か」
騎士達が頷いていると、さらに眠たげな顔の男がやってきた。
「あふ……どしたー、ザナック?」
「ヘッジか。どうやら北の町にグライアードの軍勢が駐留したらしい」
「ああ、なるほどねえ。そういや見たツラだな。行くのか?」
「もちろんだ。我々はエトワール王国の民を守らねばならん」
騎士のザナックがそう言うと、ヘッジは目を大きく開いてから手を叩く。
「オッケー、相変わらずお熱いことで。リクの旦那が居ない上に町はすでに占拠されているなら魔兵機《ゾルダート》はちょっと難しいな」
「ああ。少し作戦を立てる必要がありそうだ」
「だな。それについて一つ試したいことがあるんだが、いいか?」
「ん?」
「あ、ヘッジさんが嫌な笑い方してる。これは面白くなる予感……」
「も、申し訳ない……失言をした。助けて欲しいのは間違いない、俺達で出来ることは協力する……」
バスレーナがニヤリと笑って言うと、鉱夫達は気まずそうにその様子を見ながら助けてくれることに感謝するのだった。
リク達の居ない救出作戦。まずはアウラへの報告に、ギャレット達は一度戻ることになった。
「あ? お前、鉱山のおっさんか。……こんな夜に散歩か?」
――深夜、ボルアは山に近い町の隅で一人立っていた。足元には大きな鉱山で使う道具袋があり、焚火をしている。
その焚火に気づいたグライアードの騎士が近づいてきて声をかけてきた。
「ちょっと夜風に当たりたくて……」
「それで焚火か? 意味がわからん……というか色のついた煙、か? ……まあいい。出歩かれちゃ困るんだ、家に戻れ。鉱山から戻った連中の家には監視をつけていたはずだが……」
「ヤツはウチで酒をぶん取ってフラフラとどこかへ行ったぞ」
「マジかい。ったくあいつは勝手なことばかりする。ほら、おっさん。送っていくから戻るぞ」
「……」
「……っ」
戻るぞと言ったグライアードの騎士がボルアの目を見て怯む。睨むといった感じではなく、暗い『なにか』を放っていた。
「行くぞ……!」
「……」
それでも騎士がボルアの腕を掴んで引っ張ると、抵抗はなく歩き出した。
彼は騎士に連れられて歩いている途中、一度だけ立ち上る煙を見る。
「急げ」
「ああ……」
騎士に急かされてボルアは再び歩き出し家路についた。
そして――
◆ ◇ ◆
「うう、寒い……」
「山の夜は仕方ないさ。ほら、お湯」
「サンキュー。町は大丈夫そうか?」
「今のところそれらしい様子はないな」
山に残った男達が焚火を囲みながら町の様子を伺っていた。ボルアが実質リーダーのようなところがあるため普段は口に出しにくい。
だが、鉱山に現れた巨人とエトワール王国の騎士による説得は無視できるものではないと思っている者もいた。
「あの日、戻ってから町に告げなかったのもな……」
「あれは俺達も同罪だ。言えなかったんだからな……」
リク達と出会った日に町へ戻ったがとくに報告をしていなかった。そのせいで警戒ができず盗賊団からの情報を得たグライアードの騎士達が有利のまま占領されてしまったのだ。
ボルアに睨まれて言わず、それから数日はなにも無かったので大丈夫かと安心した矢先に今回の事件が起こった。
「町が占拠されていてもいなくても……エトワール王国の騎士に助けを呼んだ方がいいんじゃないのか?」
「た、確かにそうかもしれない……お、俺が行ってくるぞ……」
「明るくなるまで待った方がいい。一人でウロウロしていると魔物が出る」
焚火に並べていた串に刺した肉を裏返しながら一人の男がそう呟く。
そこでどこからか狼か野犬の遠吠えが聞こえてきて、一同は委縮する。
だがそこで――
「……! おい、見ろ!」
――ボルアが焚いた煙が町から立ち昇るのが見えた。
通常の煙突などと違い、危険を知らせるためなどに使う染料を混ぜた、いわゆる煙玉が混ざっていて月明りに照らされた煙には色がついていた。
「やっぱダメそうか……! よ、よし、全員で鉱山まで行くぞ! あいつらが居れば救援を……!」
「いいから行くぞ」
「おう!」
焚火を消してからすぐに移動を始める鉱夫達。目指すは逃げてきたエトワール王国の騎士達が掘っている鉱山。
数時間かけて再び山の中腹へ登っていき、自分たちの居る鉱山へ。
さらに少し離れた場所へ行くと、そこには松明の灯りがあった。
「ま、まだやっているのか……?」
「人が居る! おおーい!」
鉱夫達が大声で叫びながら近づいていくと、先日『他国の人間』と紹介された体格のいい男が気づいた。
「ん? おや、あんた達は……」
その人物、ギャレットが声に気づいて椅子から立ち上がる。近くには騎士や平民も居て寝ていた人間も起き出してくる。
「し、下の鉱山で掘っている者だ! た、助けてくれ! 町が……グライアードの奴等に占拠されちまったらしい……!」
「なんだって? らしいってのはどういうことだ?」
「ふあ……慌ててますねえ。まずは落ち着いて説明を」
あくびをしながらバスレーナが鉱夫にそう告げながら水を差しだした。
ぐっと水を飲みほした後、彼等が状況を説明するとその場に居たエトワール王国の騎士達は腕組みをして考え始めた。
「なるほど……となると、北の町へ向かった我々の仲間も危険か」
「な、仲間……そりゃマズイんじゃないか」
「町もエトワール王国の協力者だと思われていたら……」
「だから占領をされたのかも」
騎士の言葉にしどろもどろに本音を口にすると、バスレーナが苛立ちを隠さずに口を開く。
「あなた方、本気でそんなことを言っているんですか!? あたい達は忠告しましたよね? グライアードの人達は容赦ないと。それを無視して協力をしなかったのはそちらでしょうが! それで今は敵が来たから助けてくれ? 虫が良すぎますねえ。協力者だと思われたくない? ならここに助けを呼ぶのは筋違いじゃないですかね!」
「あ、うう……」
「くっく、言うねえ」
馬鹿な言葉を聞いて目が覚めたとバスレーナが激昂する。苦笑するギャレット。
そこで騎士が割って入る。
「バスレーナちゃんの言うことももっともだな。エトワール王国の騎士に助けられるのはまずいのではないか?」
「う……」
「と、あまり意地悪をする時間はないか。リク様……は、今いない……我々だけでやるしかない、か」
騎士達が頷いていると、さらに眠たげな顔の男がやってきた。
「あふ……どしたー、ザナック?」
「ヘッジか。どうやら北の町にグライアードの軍勢が駐留したらしい」
「ああ、なるほどねえ。そういや見たツラだな。行くのか?」
「もちろんだ。我々はエトワール王国の民を守らねばならん」
騎士のザナックがそう言うと、ヘッジは目を大きく開いてから手を叩く。
「オッケー、相変わらずお熱いことで。リクの旦那が居ない上に町はすでに占拠されているなら魔兵機《ゾルダート》はちょっと難しいな」
「ああ。少し作戦を立てる必要がありそうだ」
「だな。それについて一つ試したいことがあるんだが、いいか?」
「ん?」
「あ、ヘッジさんが嫌な笑い方してる。これは面白くなる予感……」
「も、申し訳ない……失言をした。助けて欲しいのは間違いない、俺達で出来ることは協力する……」
バスレーナがニヤリと笑って言うと、鉱夫達は気まずそうにその様子を見ながら助けてくれることに感謝するのだった。
リク達の居ない救出作戦。まずはアウラへの報告に、ギャレット達は一度戻ることになった。
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