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第三章

第110話 見当違い

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「……お、おい、どうするんだよ……」
「あれ、エトワール王国の騎士団……じゃないよな……」
「黒い巨人……あの人達が言っていたことは本当だったのか」

 山の麓近く。
 そこで鉱山に行っていた男達が町に集まっていく魔兵機《ゾルダート》を見て戦慄していた。
 陽が落ちる中、鉱山の仕事から戻ってきたのだが、町が侵略者に接収されているところを目撃した。
 そして先日エトワール王国の騎士や襲撃された町の人間が言っていたことだということを思い出す。

「……チッ」
「ど、どうする……?」
「どうもこうもねえ。俺達は戻るだけだ。エトワール王国の協力者ってわけでもねえ、鉱石が目的なら売りつける。そうだろ?」
「さすがはボルアさんだ。騎士に恐れることもないねえ」

 初めて会ったリク達の話に耳を貸さず、鉱石を渡さないと語った男、ボルアが鼻を鳴らして町へ足を進める。
 何人かは彼についていき、数人ほどその場に立ち尽くす。

「行かないのか? 家族がどうなっているか分からないぞ?」
「ま、あいつらは騒いでいたが、戦争だと言っても抵抗しなければ無茶はしないだろ」
「う、むう……い、いや、俺は様子見をする。いざとなったら焚火をして報せてくれ……」
「相変わらず臆病だなヒューオは。ま、大丈夫だと思うがな」

 そう言ってボルア達は町へと戻っていった。ヒューオと呼ばれた男と数人はその場に残り、野営の準備を始める。
 
「……だ、大丈夫かなあ。アキは心配だけどいざとなったらあの大きな騎士に助けを呼ばないといけないだろうし……」
「母ちゃんは心配だが、あいつらになにもなければ戻るか……」

 居残り組はボルア達の背を見ながらそんなことを呟くのだった。
 そして、しばらくして下山した町に戻った組が目にしたのは――

◆ ◇ ◆

「……戻ったぞ」
「なんだお前達は?」
「鉱山に従事している者だが、お前達こそなんだ? ……がっ!?」

 町に戻ったボルアが門番に話しかけると、近くにいたグライアード王国の騎士に何者か尋ねられた。逆に聞き返すとグライアードの騎士にいきなり殴られる。

「口の利き方に気を付けるんだな」
「野郎……! うっ……」
「動いたら楽に死ねるが、それでいいならその拳を振り抜きな」
「チッ……」

 さらに騎士が集まって鉱夫達に剣を抜いたため、冷や汗をかきながら拳を下した。

「鉱石か、悪くないな。寄越してもらおう」
「おい、こいつは俺達のだ。欲しいなら金を払え」
「あ? この町は我等が接収した。貴様等に反論の余地はない」

 リク達と同じような文言を繰り返すが、グライアードの人間は『なにを馬鹿なことを言っているんだ?』と蔑むように見てきた。

「どうせ殺すんだ、ここで殺しちまおうぜ」
「!?」

 首筋に剣を当てられて怯むボルア。有無を言わさずに要求を突き付けてくる彼らに戦慄する。

「待て。鉱山の場所を聞かねばならん。フレッサー将軍に報告の必要があるだろう」
「たしかに。あのエトワール王国の騎士のところへ連れて行くか」

 すると別の騎士が鉱山の場所を聞くために生き残らせろと言い、この場は難を逃れた。持って帰った鉱石の荷台を没収され、ボルア達は町の中へと入れられる。
 それほど多くはないがちらほらと騎士の姿が見え、そこで知った顔を見て目を見開く。

「へへ、良かったぜ。また頼む」
「……」
「エラ!」

 それは娘のエラだった。騎士に肩を抱かれて宿から出てくるのが見えて大声を出した。

「……! 父さん! うっ……」
「あ、待つんだエラ! 貴様、エラになにをした! ……ぐあ!?」

 泣きながら駆けて行く娘になにかあったと悟ったボルアが騎士に詰め寄ると腹を殴られ悶絶する。

「男と女が宿から出たらなにをしたかわかるだろうにな? あんたが親父かいい女を育てたな! あっははっはは! ぐは!?」
「貴様……! 殺してやる!」
「お、おい、やめろボルア!」

 怒りを露わにしたボルアが騎士を拳で殴りつけた。後のことを考えない行動に鉱山の仲間が声を荒げるがすぐにボルアの悲鳴で場が収まることになった。

「ぐあああああああ!?」
「馬鹿が、一人でなにができるというのだ? この町は人も物も全て我等のもの。貴様の娘だろうが関係あるか」

 左腕を後ろから剣で刺され、血を流しながら地面に転がるボルア。彼を見て冷ややかな目をして語るグライアードの騎士を見て怒りとも焦燥ともつかぬ目をしていた。

「ぐうう……」
「ボ、ボルア……」

 そのまま引きずられるように連れていかれた場所は、エトワール王国の騎士三人が縛られて座らされている広場だった。
 そこに鉱山から戻った男達も突き飛ばされて転がる。

「どこに王女が居る!」
「ぐはっ……!? こ、答えられんな」
「貴様は!」
「僕だって同じさ。仲間を売るような……真似はしない。さっさと殺したらどうだい? あぐぁ!?」
「あ、ああ……これは……」
「こいつらはエトワール王国の騎士だ。町の人間を説得しに来たらしいが、一足遅くてな。難なくとらえることができた」
「そ、そんな……馬鹿な……」

 くっくと笑うグライアードの騎士達を見てボルアは今更、自分たちがやったことの罪の大きさに気づく。
 以前、鉱山で出会った時に町へ相談すると言っていたが、実のところ彼らはそれをしていなかったのだ。
 もし、あの時、エトワール王国の申し入れを受け入れていれば白い巨人に守ってもらえたかもしれない。

「あ、甘かったのは俺の方……エラも……」
「次はお前達だからな。鉱山の場所をさっさと吐いたら助けてやってもいいがな?」
「う……」

 エトワール王国の騎士三人が殴られる中、次はお前達だとグライアードの騎士がにたりと笑う。
 しばらく続いたが、陽が暮れてきたところでいったん終了となりボルア達は家に帰された。だが、入り口に監視がつくことになったため逃げることは難しい。

「……う、うう……」
「すまん……エラ……」
「なんであんたが謝るのさ……ああ、でも可哀想に……」
「……」

 ボルアは泣いている我が子を見て顔を歪めていた。そこへ監視をしていた騎士が扉を開けて入ってくる。

「へへ、お邪魔するぜ……」
「ひっ……!? いやあ!」
「貴様……!」

 それは宿から出てきた男だった。舌なめずりをしながらエラに視線を合わせると、彼女は酷く取り乱した。

「ちょっと部屋を貸してくれ。ああ、娘もな」
「ちょ、やめておくれよ! もう十分だろう! ああ……!?」
「ババアは黙ってろ! ほら、行こうぜ~」
「父さん助けて……!!」
「おっさんは手を出したら殺されるからなあ。お前も大人しく俺のモノになれよ」
「いやぁぁぁ!」
「……!」

 娘の悲鳴を聞いたボルアは――
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