108 / 141
第三章
第107話 成立
しおりを挟む
「ではこれからあなた達はあたし達の傘下に入ります」
「まさか妹姫自ら出てくるとはなあ」
俺は一旦ヴァイスに戻り、シャルを連れて町まで戻って来た。
ちなみに町の名前はルルムというらしい。
グライアードの騎士達を制圧したことを喜んでくれた町の人間はヴァイスとシャルを歓迎してくれた。
「生かしておいて大丈夫なのでしょうか……」
「ま、ウチの騎士達も常駐させるから大目に見て欲しい。こういった手を使っていかないとね。それにこのグライアードの騎士達は『まとも』だし、運が良かったわよ」
町の人間が不安そうに口にするがシャルはぴしゃりと言い放つ。この町は運が良かったと付け加える。
ソウの町やクレイブの町に起きたことを話すとその場にいた人たちはざわついていた。
「町長が刺されたのに……」
「そいつは悪いって言ったろう。傷は浅かったはずだよなあ?」
「申し訳ない。だが、我々も任務なのでな、抵抗されないよう脅しは必要なのだ」
「まあ……事情はあるだろうが……」
「侵略していてなにをぬけぬけと!!」
現状、手を縛った状態で並べられたグライアードの騎士達に業を煮やして怒声を浴びせる町の人達。それをシャルが手で制してから話を続ける。
「ごめんなさい、みなさん。でもここが占拠されていると錯覚させられれば挟撃もできるし、町も荒らされなくて済むから我慢してね」
「姫様がそうおっしゃるなら……しかし、いつまで続くのでしょうか……」
「あの白いので一気に王都の奪還はできないのですか?」
宥めるシャルへヴァイスを指しながらそう尋ねてくる。それに対してガエイン爺さんが口を開いた。
「難しいところじゃ。できなくはないだろうが、そうした場合、陛下や王妃様は当然殺されるとして、他にどういう手段をとってくるか分からんから慎重に動いておるのだ」
「むう……」
「だが、王都を奪還しなければ進軍はいつまでも終わらないのでは……」
「僕が言うのもなんだけど、正解だと思うよ。フレッサー将軍は何をしでかすかわからないからねえ」
トルコーイが肩を竦めてそう言った。
遠回りだけどこうやって一つずつ潰していくことで見えてくることもあるはずだ。
するとイラスがシャルの後ろから言う。
「ですね……ただ、勢力の拡大と男性の虐殺を狙っているので迅速に行動したほうがいいと思います……」
「お前がそっちに居るのも驚きだよなあ……ならゼルシオが無事なのは確定か」
「それは保証します……私は負けて死ぬつもりでしたけど、シャル様に止められました……」
「そりゃ英断だなあ。フレッサー将軍は女に甘いが失敗したらそれこそ夜のお供にさせられるだろうし」
「ひぃ……」
概ねビッダーやヘッジの言う通りフレッサー将軍とやらはよろしくないタイプの人間のようだ。女好きという一面も増えたな。
「ひとまずリクの提案には乗るけど、いつまでも誤魔化せるもんじゃないと思うけどねえ?」
「そりゃそうだな。だからこことフグラの町を連絡役としたいんだよ」
「あたし達の仲間を集めてその内、王都へ攻め込むってことよ」
「そんな話を我々にしてもいいのか? なにかのはずみで脱走したら喋るかもしれない」
「その時はここに居る人間を殺すしかない。俺は……それができる」
ヴァイスで誰も居ない地面を殴った。わずかな地響きが起こり、シャルやガエイン爺さん、イラス以外の人たちは冷や汗をかいて口を噤んだ。
「オッケーだ。出来る限り引っ張ってやる。こっちも様子を見たいしな。ここに駐留してきたグライアードの騎士に情報を貰うようにしてみるか」
「いいのか?」
「構わないよ。僕も蹂躙なんてつまらない任務からしばらく離れられるだろうし」
「あっさりしてんな」
「戦争なんて誰も得をしない。そう思うだろアンタも」
トルコーイがくっくと俺に笑いかけた。まったくその通りで、できればやらない方がいい。
「そういう考えの部隊なら少しは信用できるかね。それじゃ俺は一度騎士達を連れて戻ってくる。それまで爺さんとイラス、それとクレールに任せるよ」
「うむ。それまでワシらが監視しておくぞい」
「……は、早く帰ってきてくださいね……」
「大人しく待っててね?」
【キュオオン】
ひとまず夜が明けてきたのでトンボ返りになったが拠点とフグラの町へ戻ることにした。
「トルコーイが話の分かる奴で良かったわねー」
「ま、捕虜がいるからなこっちは」
俺とシャルは手に乗せたトルコーイや数人の騎士を見てそんな話をするのだった。
やがてフグラの町へ戻りゼルシオを呼んでトルコーイと再会させた。
「よ」
「トルコーイ様……!?」
「いやあ、負けてしまったよ」
「そんなあっさりと……」
トルコーイを見たゼルシオが目を丸くして驚いていた。お互いの無事を確認したところでトルコーイが口を開く。
「オッケー、間違いなくゼルシオが無事だった。アンタ達なら後から殺す真似はしないだろうし信用させてもらうとしよう」
「悪いな、とは変な言い方だが俺達の為に裏切ってもらうぜ」
「まあ、いいさあ。他の部隊のことは気になるが、できればさっさと王都を落としてもらいたいもんだ」
「簡単に言わないでよ。……あ、そうだ」
「? なんだシャル?」
「ううん、なんでもない! とりあえず次はお姉さまのところへ行くわよ!」
シャルがなにかを思いついたようだが……クレールの件で無茶をするとわかったので少し気をつけないといけないか?
トルコーイとの取り決めはそれほど難しいものではなく、魔兵機《ゾルダート》二機とグライアードの騎士をある程度残し、こちらに捕虜としてゼルシオと同じく何人か連れてくる。
一機はバラしてパーツ取りに使い、激しい戦いだったことを演出する。
その中にエトワール王国の騎士を混ぜて完了……というわけだ。
基本的に武器は木剣で町人とエトワール王国の騎士の監視の下で行動してもらうので脅威は少ないはずだ。
脱走が目下問題点ではあるが、そこは信用するしかないだろう。一つ、トルコーイがやることがあると言っていたがなんだろうな?
そして俺達はアウラ様に状況を伝えると北の町へ行っていた騎士が――
「まさか妹姫自ら出てくるとはなあ」
俺は一旦ヴァイスに戻り、シャルを連れて町まで戻って来た。
ちなみに町の名前はルルムというらしい。
グライアードの騎士達を制圧したことを喜んでくれた町の人間はヴァイスとシャルを歓迎してくれた。
「生かしておいて大丈夫なのでしょうか……」
「ま、ウチの騎士達も常駐させるから大目に見て欲しい。こういった手を使っていかないとね。それにこのグライアードの騎士達は『まとも』だし、運が良かったわよ」
町の人間が不安そうに口にするがシャルはぴしゃりと言い放つ。この町は運が良かったと付け加える。
ソウの町やクレイブの町に起きたことを話すとその場にいた人たちはざわついていた。
「町長が刺されたのに……」
「そいつは悪いって言ったろう。傷は浅かったはずだよなあ?」
「申し訳ない。だが、我々も任務なのでな、抵抗されないよう脅しは必要なのだ」
「まあ……事情はあるだろうが……」
「侵略していてなにをぬけぬけと!!」
現状、手を縛った状態で並べられたグライアードの騎士達に業を煮やして怒声を浴びせる町の人達。それをシャルが手で制してから話を続ける。
「ごめんなさい、みなさん。でもここが占拠されていると錯覚させられれば挟撃もできるし、町も荒らされなくて済むから我慢してね」
「姫様がそうおっしゃるなら……しかし、いつまで続くのでしょうか……」
「あの白いので一気に王都の奪還はできないのですか?」
宥めるシャルへヴァイスを指しながらそう尋ねてくる。それに対してガエイン爺さんが口を開いた。
「難しいところじゃ。できなくはないだろうが、そうした場合、陛下や王妃様は当然殺されるとして、他にどういう手段をとってくるか分からんから慎重に動いておるのだ」
「むう……」
「だが、王都を奪還しなければ進軍はいつまでも終わらないのでは……」
「僕が言うのもなんだけど、正解だと思うよ。フレッサー将軍は何をしでかすかわからないからねえ」
トルコーイが肩を竦めてそう言った。
遠回りだけどこうやって一つずつ潰していくことで見えてくることもあるはずだ。
するとイラスがシャルの後ろから言う。
「ですね……ただ、勢力の拡大と男性の虐殺を狙っているので迅速に行動したほうがいいと思います……」
「お前がそっちに居るのも驚きだよなあ……ならゼルシオが無事なのは確定か」
「それは保証します……私は負けて死ぬつもりでしたけど、シャル様に止められました……」
「そりゃ英断だなあ。フレッサー将軍は女に甘いが失敗したらそれこそ夜のお供にさせられるだろうし」
「ひぃ……」
概ねビッダーやヘッジの言う通りフレッサー将軍とやらはよろしくないタイプの人間のようだ。女好きという一面も増えたな。
「ひとまずリクの提案には乗るけど、いつまでも誤魔化せるもんじゃないと思うけどねえ?」
「そりゃそうだな。だからこことフグラの町を連絡役としたいんだよ」
「あたし達の仲間を集めてその内、王都へ攻め込むってことよ」
「そんな話を我々にしてもいいのか? なにかのはずみで脱走したら喋るかもしれない」
「その時はここに居る人間を殺すしかない。俺は……それができる」
ヴァイスで誰も居ない地面を殴った。わずかな地響きが起こり、シャルやガエイン爺さん、イラス以外の人たちは冷や汗をかいて口を噤んだ。
「オッケーだ。出来る限り引っ張ってやる。こっちも様子を見たいしな。ここに駐留してきたグライアードの騎士に情報を貰うようにしてみるか」
「いいのか?」
「構わないよ。僕も蹂躙なんてつまらない任務からしばらく離れられるだろうし」
「あっさりしてんな」
「戦争なんて誰も得をしない。そう思うだろアンタも」
トルコーイがくっくと俺に笑いかけた。まったくその通りで、できればやらない方がいい。
「そういう考えの部隊なら少しは信用できるかね。それじゃ俺は一度騎士達を連れて戻ってくる。それまで爺さんとイラス、それとクレールに任せるよ」
「うむ。それまでワシらが監視しておくぞい」
「……は、早く帰ってきてくださいね……」
「大人しく待っててね?」
【キュオオン】
ひとまず夜が明けてきたのでトンボ返りになったが拠点とフグラの町へ戻ることにした。
「トルコーイが話の分かる奴で良かったわねー」
「ま、捕虜がいるからなこっちは」
俺とシャルは手に乗せたトルコーイや数人の騎士を見てそんな話をするのだった。
やがてフグラの町へ戻りゼルシオを呼んでトルコーイと再会させた。
「よ」
「トルコーイ様……!?」
「いやあ、負けてしまったよ」
「そんなあっさりと……」
トルコーイを見たゼルシオが目を丸くして驚いていた。お互いの無事を確認したところでトルコーイが口を開く。
「オッケー、間違いなくゼルシオが無事だった。アンタ達なら後から殺す真似はしないだろうし信用させてもらうとしよう」
「悪いな、とは変な言い方だが俺達の為に裏切ってもらうぜ」
「まあ、いいさあ。他の部隊のことは気になるが、できればさっさと王都を落としてもらいたいもんだ」
「簡単に言わないでよ。……あ、そうだ」
「? なんだシャル?」
「ううん、なんでもない! とりあえず次はお姉さまのところへ行くわよ!」
シャルがなにかを思いついたようだが……クレールの件で無茶をするとわかったので少し気をつけないといけないか?
トルコーイとの取り決めはそれほど難しいものではなく、魔兵機《ゾルダート》二機とグライアードの騎士をある程度残し、こちらに捕虜としてゼルシオと同じく何人か連れてくる。
一機はバラしてパーツ取りに使い、激しい戦いだったことを演出する。
その中にエトワール王国の騎士を混ぜて完了……というわけだ。
基本的に武器は木剣で町人とエトワール王国の騎士の監視の下で行動してもらうので脅威は少ないはずだ。
脱走が目下問題点ではあるが、そこは信用するしかないだろう。一つ、トルコーイがやることがあると言っていたがなんだろうな?
そして俺達はアウラ様に状況を伝えると北の町へ行っていた騎士が――
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
99
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる