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第三章
第105話 油断
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「なんだ……? 今、そこでなにか動かなかったか?」
「おいおい、勘弁してくれ。俺はゴーストは苦手なんだよ……」
哨戒するグライアードの騎士がそんな話をしているのが聞こえてくる。
タブレットに身を映した俺はレーダーを見ながらガエイン爺さんに小声で情報を伝えていた。
「左の方の家屋裏は誰も居ない」
「了解じゃ」
【キュオン】
「魔兵機《ゾルダート》のが崩した外壁の隙間を抜けられたのは良かったです……」
イラスの言う通り、俺達は一度周辺を確認して外壁が崩れたところを発見した。
そこから侵入したのでイラスはホッとした様子を見せている。
人感センサーがあるので人間はレーダーに映るが、町のどこかが壊れているのは目視しかない。侵入路を慎重に調査した結果いいところが見つかったというわけだ。
「ディッターが生きているから、今後は慎重に攻めてくるかもしれないけどな。隊長は結構いるんだっけ?」
「現状は魔兵機《ゾルダート》の生産が追い付いていないとかで待ちがあると聞いたことが……」
「それでも現存する隊長を潰しておけばワシらが後から動くのに都合がいい」
顔に覆面をつけたガエイン爺さんがハッキリと口にする。
今後、王都を奪還するなら敵は少ない方がいい。
すでにアウラ様達が脱出してかなりの日数を要しているため王都に戦力が集まっているのは間違いないのでこうやって少しずつでも減らしていくことは爺さんの言う通り後の作戦にも影響するだろう。
「さて、トルコーイとやらはどこに居るかねえ」
「……あまり一人でいることはないと思いますが、ゼルシオさんが囚われとなった今はどうか……」
「いつも一緒なのか? 副隊長だから濁したのかと思ったが」
「トルコーイさんは賢く冷静なのですが、鼻につく言動も多かったみたいです。だけど、それをぴしゃりと制したのがゼルシオさんで、それで気に入ったとかなんとか……」
イラスが周囲を気にしながらフードで口元を隠しながら言う。灯りのある家屋の窓を覗く。顔はイラスしか知らないので連れてきたのはそういう側面もある。
「なるほど。ジョンビエルとかと違い、引き際も良かった。常識はありそうだったんだよ」
「そうですね……交渉の余地はあるかと思いますが……」
「ならばやはり先に抑えておくのがいいか。どうだ、トルコーイとやらはいるか?」
「いえ、普通の家庭のようですね」
イラスの言葉を聞いて次の家屋へ移動する。
普通に暮らしているところを見ると、占領はしたが強制的に連れて行ったりなどはしていないようだ。
夜中なので殆どの家屋に灯りはついていないが、そうなると通常の家ではなく酒場などに行くのが良さそうだ。
「……さすがにクレールは見つかるか?」
「なら魔兵機《ゾルダート》のある場所へ行きましょう。リク様がダメージを与えたのであればメンテナンスをしているかもしれません」
「到着してそれほど時間が経っていないが?」
「ゼルシオさんが捕まっていますからね、私たちの襲撃に備えるくらいはするかも、と……」
現状、闇夜に紛れて確認するのも限界があるし魔兵機《ゾルダート》のところへ行く案は悪くないとクレールを走らせる。
見えにくいが町の隅に立っているのが分かるため、目標にしやすい。
そして――
「――幸い、装甲がへこんでいる程度なので戦闘は継続できそうです。増援はどうしますか?」
「そうだね。一応、まともな奴を呼べれば吝かじゃないかねえ。リント・アクアあたりはどうだい?」
「(……! いました、あの灰色の髪をした人がトルコーイさんです!)」
――焚火を囲んでいる騎士達の中にそいつは居た。
灰色の髪にややツリがちな目をしている。身長は170前後ってところか。
そのまま聞き耳を立てていると話が続けられた。
「彼女は南の方へ行っているので難しいのでは……」
「だっけかあ。ディッターとか呼びたくないんだがねえ」
「女性騎士であれば、フェアリア様は? 王都警備のはずですが」
「あー、アリだなあ。よし、打診してくれ。狂気じみた奴を派遣すると言ったら断れ」
「ははは、さすがにそれはフレッサー将軍が怒りますよ」
「怒らせておけってんだよなあ」
割と気さくな感じがする。まあ、同じ人間だし色んな奴がいるものだ。隊の雰囲気がいいのはウチと似ているなと思う。
しかし、これは戦い。ガエイン爺さんが俺達を見て頷くとクレールの背中を軽く叩いた。
「……! トルコーイ隊長、魔物が!」
「なに……!?」
「いい反応じゃが、遅いわ!」
「しまっ……!?」
無言で突撃をしたものの、騎士の反応は悪くなかった。
すぐに剣を手にして抜いたが、クレールの一足はさらに速く二十メートルほどを一気に縮めてトルコーイをガエイン爺さんが飛び掛かり、地面に転がして抑えた。
「動くなよ? お前さん達の隊長が一瞬で動かぬモノに変わり果てる」
「ぐ……ぬ……」
「チッ……! 油断した……まさかすぐに攻撃を仕掛けてくるとは……!」
さらにそこで騎士達の背後にあった魔兵機《ゾルダート》の一機が動き出し、驚愕な表情を浮かべる。
「なに!? 動いている!?」
「操者はここに居るのに……」
「悪いな、こっちにも色々あるんでね?」
「……! その声は白い魔兵機《ゾルダート》の――」
そこで胸元にあるタブレットに姿を映して声を出すと、トルコーイが片目を細めて呟いた。さて、交渉といきますかね。
「おいおい、勘弁してくれ。俺はゴーストは苦手なんだよ……」
哨戒するグライアードの騎士がそんな話をしているのが聞こえてくる。
タブレットに身を映した俺はレーダーを見ながらガエイン爺さんに小声で情報を伝えていた。
「左の方の家屋裏は誰も居ない」
「了解じゃ」
【キュオン】
「魔兵機《ゾルダート》のが崩した外壁の隙間を抜けられたのは良かったです……」
イラスの言う通り、俺達は一度周辺を確認して外壁が崩れたところを発見した。
そこから侵入したのでイラスはホッとした様子を見せている。
人感センサーがあるので人間はレーダーに映るが、町のどこかが壊れているのは目視しかない。侵入路を慎重に調査した結果いいところが見つかったというわけだ。
「ディッターが生きているから、今後は慎重に攻めてくるかもしれないけどな。隊長は結構いるんだっけ?」
「現状は魔兵機《ゾルダート》の生産が追い付いていないとかで待ちがあると聞いたことが……」
「それでも現存する隊長を潰しておけばワシらが後から動くのに都合がいい」
顔に覆面をつけたガエイン爺さんがハッキリと口にする。
今後、王都を奪還するなら敵は少ない方がいい。
すでにアウラ様達が脱出してかなりの日数を要しているため王都に戦力が集まっているのは間違いないのでこうやって少しずつでも減らしていくことは爺さんの言う通り後の作戦にも影響するだろう。
「さて、トルコーイとやらはどこに居るかねえ」
「……あまり一人でいることはないと思いますが、ゼルシオさんが囚われとなった今はどうか……」
「いつも一緒なのか? 副隊長だから濁したのかと思ったが」
「トルコーイさんは賢く冷静なのですが、鼻につく言動も多かったみたいです。だけど、それをぴしゃりと制したのがゼルシオさんで、それで気に入ったとかなんとか……」
イラスが周囲を気にしながらフードで口元を隠しながら言う。灯りのある家屋の窓を覗く。顔はイラスしか知らないので連れてきたのはそういう側面もある。
「なるほど。ジョンビエルとかと違い、引き際も良かった。常識はありそうだったんだよ」
「そうですね……交渉の余地はあるかと思いますが……」
「ならばやはり先に抑えておくのがいいか。どうだ、トルコーイとやらはいるか?」
「いえ、普通の家庭のようですね」
イラスの言葉を聞いて次の家屋へ移動する。
普通に暮らしているところを見ると、占領はしたが強制的に連れて行ったりなどはしていないようだ。
夜中なので殆どの家屋に灯りはついていないが、そうなると通常の家ではなく酒場などに行くのが良さそうだ。
「……さすがにクレールは見つかるか?」
「なら魔兵機《ゾルダート》のある場所へ行きましょう。リク様がダメージを与えたのであればメンテナンスをしているかもしれません」
「到着してそれほど時間が経っていないが?」
「ゼルシオさんが捕まっていますからね、私たちの襲撃に備えるくらいはするかも、と……」
現状、闇夜に紛れて確認するのも限界があるし魔兵機《ゾルダート》のところへ行く案は悪くないとクレールを走らせる。
見えにくいが町の隅に立っているのが分かるため、目標にしやすい。
そして――
「――幸い、装甲がへこんでいる程度なので戦闘は継続できそうです。増援はどうしますか?」
「そうだね。一応、まともな奴を呼べれば吝かじゃないかねえ。リント・アクアあたりはどうだい?」
「(……! いました、あの灰色の髪をした人がトルコーイさんです!)」
――焚火を囲んでいる騎士達の中にそいつは居た。
灰色の髪にややツリがちな目をしている。身長は170前後ってところか。
そのまま聞き耳を立てていると話が続けられた。
「彼女は南の方へ行っているので難しいのでは……」
「だっけかあ。ディッターとか呼びたくないんだがねえ」
「女性騎士であれば、フェアリア様は? 王都警備のはずですが」
「あー、アリだなあ。よし、打診してくれ。狂気じみた奴を派遣すると言ったら断れ」
「ははは、さすがにそれはフレッサー将軍が怒りますよ」
「怒らせておけってんだよなあ」
割と気さくな感じがする。まあ、同じ人間だし色んな奴がいるものだ。隊の雰囲気がいいのはウチと似ているなと思う。
しかし、これは戦い。ガエイン爺さんが俺達を見て頷くとクレールの背中を軽く叩いた。
「……! トルコーイ隊長、魔物が!」
「なに……!?」
「いい反応じゃが、遅いわ!」
「しまっ……!?」
無言で突撃をしたものの、騎士の反応は悪くなかった。
すぐに剣を手にして抜いたが、クレールの一足はさらに速く二十メートルほどを一気に縮めてトルコーイをガエイン爺さんが飛び掛かり、地面に転がして抑えた。
「動くなよ? お前さん達の隊長が一瞬で動かぬモノに変わり果てる」
「ぐ……ぬ……」
「チッ……! 油断した……まさかすぐに攻撃を仕掛けてくるとは……!」
さらにそこで騎士達の背後にあった魔兵機《ゾルダート》の一機が動き出し、驚愕な表情を浮かべる。
「なに!? 動いている!?」
「操者はここに居るのに……」
「悪いな、こっちにも色々あるんでね?」
「……! その声は白い魔兵機《ゾルダート》の――」
そこで胸元にあるタブレットに姿を映して声を出すと、トルコーイが片目を細めて呟いた。さて、交渉といきますかね。
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