魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第三章

第99話 興奮

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「話は分かった。しかし、王都が陥落していては抵抗も無意味ではないかね?」
「ラウル伯爵。お気持ちは分かりますが、シャルル様がここまで見てきたことを考えるに、降伏しても男は殺すという命令は遂行されるのではないかと」
「むう……」

 ギルドマスターのジルオーが町の郊外にある貴族の屋敷へ話をしに行き、事情を説明したところ先のような回答があった。
 それでもジルオーは降伏したところで命の危険は変わらないと告げる。
 グライアード王国の騎士団も一枚岩ではないだろうが、命令には従わざるを得ないので強硬手段はありえるのだと。

「オンディーヌ伯爵は姫様に協力をすることにしたか……すでに領民がやられていることを考えれば抗戦も止む無しだが……」

 ラウル伯爵は頭を抱えてぶつぶつと呟く。
 領主としての手腕は悪くないが、消極的なきらいがある男で、白くなりつつある髪がそれを物語っていた。
 慎重になることは決して悪いことではないと、冒険者に教えているジルオーは彼の気持ちがよくわかる。しかし、今はあまり考えている時間がないのだ。

「王都が掌握されている以上、逃げ場はありませんぞ」
「わかっておる!! だから考えておるのだろうが!」
「ま、話を聞いたとき我々も驚きましたがね。実際、怪我をした人間がやってきては信じるしかありません」
「……対抗策があると姫様はおっしゃっていたと言っていたな?」
「ええ。すぐに来れそうなので、今頃――」

 と、ジルオーが返していると会議の場に使用人が慌てて駆けこんで来た。
 そして使用人は酷く狼狽えた様子で声を出す。
 
「ラウル様! 外……外に巨人がっ!」
「なに!? グライアード王国がもう来たのか……!」

 シャルルに話を聞いていたジルオーが報告を聞いて椅子から立ち上がった。対抗策があっても先に襲われてはひとたまりもないと、その場に居た全員が窓へ駆けつける。
 町の中でも小高い丘にあるこの屋敷は目線が少し高い。そして目にしたのは、白い巨人……ヴァイスの姿だった。
 ラウル伯爵やジルオーは屋敷の最上階へ行き、テラスへと躍り出る。
 外壁の向こうが見えるようになったところでヴァイスの大きさに目を丸くする一同。

「あれが巨人……!? 外壁より大きいのか!」
「た、確かにあれが少し暴れたら町はめちゃくちゃになる……ああ、もうおしまいだ……!!」
「いや、待て。攻撃をしてくる素振りはないぞ……? あ、動く――」

 ジルオーのお供としてついてきた冒険者がなにかを言おうとした瞬間、ヴァイスはブースターを使い、一足で葉案れた場所へ移動した。
 
「ええ……?!」
「は、速い……というかあの距離を一瞬で……」
「攻撃をしてこない巨人。まさかシャルル様の対抗策はあれか?」
「お、おお……」

 ジルオーの推測にラウル伯爵は目を大きく見開いて震えていた。あれが数を成して襲ってくることに恐怖しているのだろうか?
 これは逆に説得が難しいかと考えていると、ラウル伯爵は拳を握って口を開く。

「素晴らしい! あの巨体であのスピード! そしてなんといってもあのフォルム……! 美しい白で彩られた巨人は芸術品と言っても過言ではない……! ジルオーよ、近くへ行ってみるのだ! この町の防衛、ひいては国を奪い返すのは我々だ!」

 ラウル伯爵は興奮気味に捲し立てると使用人を連れて外へ駆け出す。

「おお……」
「そういや古美術収集が趣味でしたっけね」
「まあ、あれなら勝てそうな気はしてくるけどな」
「では我々も行きましょうか」

 結果的には良かったかと胸をなでおろし、ジルオー達は彼の後を追うのだった。

◆ ◇ ◆

「あなたがシャルル様ですな? このフグラを始めとするこの地域一帯の領主、ラウルと申します」
「あ、はい。エトワール王国の第二王女のシャルルです……って、なにをしているのです?」
「いえ、お構いなく」
「構うよ!?」

 キリっとした顔でヴァイスの足に頬ずりをしながらそんなことをいう。白髪交じりで鼻の下にちょび髭を生やした中年男性はこの辺の領主様らしい。
 オンディーヌ伯爵と同じ感じだが、この人はちょっとおっさんって感じだな。

「ふむ、すまない。私は芸術品に目が無くてね。この巨人はとても素晴らしい造形をしているからつい興奮してしまったのだ」
<ありがとうございます♪>
「むお!? どこからか女性の声……!? コホン。さて、話はジルオーから聞きました。グライアード王国の蛮族どもが侵略戦争を仕掛けてきたと」
「そうなの。お父様達は王都から逃げ出せているかもわからないし、騎士団も散り散りになったわ。頼れるのは自分達だけ……申し訳ないんだけど、力を貸してもらえるかしら?」
 
 シャルが頭を下げるとラウルさんは慌てて手を振って答えた。

「とんでもございません……! まあ、正直どうなるかわからないので恐ろしいですが、この巨人が居れば恐れるものはありませんぞ!」
「どっちなんだよ……」
「どこからか若造の声が聞こえてくるな? それはともかく、英雄ガエイン殿もいらっしゃる! グライアード王国など蹴散らしてくれる……!」
「テンション高いなあ」
「はっはっは! いいではないか。冒険者もやる気がある。そしてワシらもここで死ぬわけにはいかん、全力で倒すぞ」

 ラウルさんはさておき、ガエイン爺さんが不敵に笑いながら言う。その言葉に俺達は同時に頷くのだった。
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