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第三章
第93話 同族
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親フォックスの背中に乗ったあたし達は文字通り風のような速さで道を突っ切っていく。それに師匠が並走していてイラスが驚いていた。
「ガエイン様、速いです……」
「ちょっと特殊な走り方をするのよ。あたしもできるわよ? 習得に1年半かかったけど」
「おかしいですよ……ねえ?」
【きゅうん?】
子フォックスに言っても分からないと思うけど……そんなことを考えながら前を見ていると、大きな影が目に入って来た。あれは……!
「グラップルフォックス……!?」
「別個体が居てもおかしくはないがな。先に行くぞい」
師匠がさらに速度を上げて前に出た。近づくにつれて先ほどの三人組も見えてきて、戦闘中であることがわかった。
「チィ……! さっきのとは違うヤツか!?」
「二体いるなんて聞いたことがねえぞ! ぐあ!?」
「くっ……最初の一撃で受けた傷が……」
【クァァァ……!!】
でかい……!
親フォックスも大きかったけど、こいつはさらに巨大だわ……!
グラップルフォックスが冒険者に大きな口を開けて噛みつこうとした瞬間、親フォックスが加速。師匠のうしろにぴったりくっついた。
「つぁぁぁぁ!」
【!】
師匠の斬撃がグラップルフォックスの頭に振り下ろされると、ヤツは冒険者を襲うのを止めてサッと後退した。
しかし、着地と同時に親フォックスの追撃が行われた。
【クルァァァァ!】
「ひゃああ!?」
渾身のタックルがグラップルフォックスにヒットし、大きく揺れた。イラスが子フォックスをぎゅっと抱いてびっくりする。
【ギシャァァァ……!!】
「フィジカルが強いわね。……っと!」
ズザザ……とグラップルフォックスが滑る。重い一撃だったけどそれを耐えた。
だが、親フォックスの攻撃は止まることなく爪が相手の顔面へ繰り出される。
【キュォォォ!】
【グルゥゥ!】
「爪を爪で弾き返したか。やるのう!」
【ギャッ!? ……ヒュォォォ!】
「ふむ!」
フォックス同士が交錯する中、師匠が横やりを入れた。頭を狙ったけど動かれて耳が斬れる程度にとどまった。
するとヤツはその場であたし達を吹き飛ばすように回転し、距離を取った。
「なかなかやるのう。一気に倒してしまうか」
「それがいいかも。師匠、技を使ったら?」
「そうするか――」
師匠がそう言って気合を入れると、親フォックスが大きく叫びだす。
【キュオォォォォン!】
「な、なによ?」
どっきりして首を軽く叩くと、親フォックスはチラリとこちらを見た。
『自分が倒す』
親フォックスの目はそう言っているような気がした。
「でもあんた怪我をしているし、手伝わないと逃げられちゃうわよ」
【……】
あたしがニヤリと笑ってそう言うと、少し嫌だなって感じの目を向けた後、小さく鳴いた。許可が出たらしい。
「師匠、こいつは親フォックスとなんか因縁があるみたい。とどめはこの子に」
「承知したぞ。イラス、お前は子フォックスを頼む」
「は、はい……!」
「それじゃ挨拶代わりに食らいなさい!」
【!】
あたしも親フォックスの背から降り、即座に‟疾風”を繰り出した。勘のいいグラップルフォックスがその場から飛ぶ。
直後、師匠と親フォックスが両脇から仕掛けた。
「剛の三……‟雷撃《らいげき》”」
【グァ……!?】
【キュォォン!】
雷撃は空気中の魔力を勢いよく叩きつけながら斬る技で、当たると雷に打たれたみたいに痺れる。動きが鈍くなったところで親フォックスが鼻先に噛みつく。
そのまま身をよじって鼻を千切ろうとしたけど、相手も同じ動きをしてそれを回避した。賢い。
「動きが止まっている今がチャンス!」
「その腕、貰う」
【グ、グォゥ……!!】
あたしの剣が横から脳を狙い、師匠が滑るように足を狙った。親フォックスはまだ鼻に噛みついたままなので回避のできない状況。
【グルァァァァ!】
「やるわね……!」
それでもヤツは無理やり親フォックスを振りほどき、師匠の攻撃を回避してからあたしにタックルを仕掛けてきた。
突き出した剣はずれて頭の後ろを掠め、あたしは大きく吹き飛ばされそうになる。
【キュォン】
「おっと、ありがと。追い込むわよ!」
「す、すごい……」
だけど親フォックスがクッションになってくれたので木にぶつかるようなこともなかった。近くでグレンがポカンとした顔で呟く。
【……】
態勢を立て直したあたしたちと同じく、グラップルフォックスも間合いを取り、こちらを睨んでくる。徐々に周囲の空気が重くなってくるのを感じた。
「ようやく本気か。親に手柄を取らせるため、手加減してやってるのじゃがな?」
「自分が強いと思ってるからでしょうね。子を守る親の方が強かったわよ?」
【……グォァァァァァン!!】
構え直しながら二人でそう言ってやると、表情から馬鹿にされたと判断したのか咆哮をあげた。
「うるさいっ!?」
【きゅん!?】
イラスや冒険者、子フォックスが声を上げる中であたし達は前へ出ていた。
【キュォォォン!】
【グルァァァ!】
「捌くか? ではこれならどうじゃ!」
グラップルフォックスと親フォックスが接敵し、前足での激しい攻防が始まっていた。そこへ師匠が剣を振るうとそれも防いで反撃をしてきた。
今度こそ本気でこちらを排除しようと勢いをつけてきたようね。
【クルォォォォ!!】
親フォックスの気迫も凄い。
それでも同族の方が強いらしく、攻撃を食らいながら反撃に出ていた。交錯する爪と牙。そこへ介入する師匠。
「やるわね。本気じゃないとはいえ、師匠の攻撃をいなすとは」
「お、お母さんは大丈夫なんでしょうか……!」
「あたしも行くわ。本気でね。これ以上はあの子に倒させるのは難しいかもしれないし」
あたしが突きの構えをしてそういうと、イラスが小さく頷く。子供を残して死なれるのも後味が悪い。
どっちが悪いのかわからないけど、大人しく従ってくれようとした親フォックスを信じるわ……!!
「柔の一……‟瞬動《またたき》”」
特殊な移動方法を使い、瞬時に近づいていく。死角からの一撃をこの速度で避け切れるかしらね!
【グルァァァァ!】
あたしの剣が届くかというその時、ヤツの牙が親フォックスの首へ噛みついた!
でもそのまま動かないならいける! 迷わず行こうとしたところで――
「……! いかん! ‟斬鋼”」
「あ!?」
【グガ……!?】
【キュオ!?】
一瞬、本気を出した師匠の技がグラップルフォックスの首を刎ねた。
ヤツはそれを見越して腕でガードしようとしていたけど、斬鋼は鉄をも裂く技。ゲイズタートルやそれこそ魔兵機《ゾルダート》くらい硬くないと防ぎきれない。
油断していたのか、勝てると踏んでいたのか?
【グルゥウ……!】
「いけない!」
【ギャ……!? ……】
「やった……!!」
首と胴がお別れしたけど、まだ息のあったグラップルフォックスが噛む力を強めて親フォックスへトドメを刺そうとしていた。
あたしは慌てて口の間に剣を入れて下あごを切り裂いた。
「ふう」
【キュルル……】
少し声が弱々しいけど、息はある。
森に再び静寂が戻って来た瞬間だった。
「ガエイン様、速いです……」
「ちょっと特殊な走り方をするのよ。あたしもできるわよ? 習得に1年半かかったけど」
「おかしいですよ……ねえ?」
【きゅうん?】
子フォックスに言っても分からないと思うけど……そんなことを考えながら前を見ていると、大きな影が目に入って来た。あれは……!
「グラップルフォックス……!?」
「別個体が居てもおかしくはないがな。先に行くぞい」
師匠がさらに速度を上げて前に出た。近づくにつれて先ほどの三人組も見えてきて、戦闘中であることがわかった。
「チィ……! さっきのとは違うヤツか!?」
「二体いるなんて聞いたことがねえぞ! ぐあ!?」
「くっ……最初の一撃で受けた傷が……」
【クァァァ……!!】
でかい……!
親フォックスも大きかったけど、こいつはさらに巨大だわ……!
グラップルフォックスが冒険者に大きな口を開けて噛みつこうとした瞬間、親フォックスが加速。師匠のうしろにぴったりくっついた。
「つぁぁぁぁ!」
【!】
師匠の斬撃がグラップルフォックスの頭に振り下ろされると、ヤツは冒険者を襲うのを止めてサッと後退した。
しかし、着地と同時に親フォックスの追撃が行われた。
【クルァァァァ!】
「ひゃああ!?」
渾身のタックルがグラップルフォックスにヒットし、大きく揺れた。イラスが子フォックスをぎゅっと抱いてびっくりする。
【ギシャァァァ……!!】
「フィジカルが強いわね。……っと!」
ズザザ……とグラップルフォックスが滑る。重い一撃だったけどそれを耐えた。
だが、親フォックスの攻撃は止まることなく爪が相手の顔面へ繰り出される。
【キュォォォ!】
【グルゥゥ!】
「爪を爪で弾き返したか。やるのう!」
【ギャッ!? ……ヒュォォォ!】
「ふむ!」
フォックス同士が交錯する中、師匠が横やりを入れた。頭を狙ったけど動かれて耳が斬れる程度にとどまった。
するとヤツはその場であたし達を吹き飛ばすように回転し、距離を取った。
「なかなかやるのう。一気に倒してしまうか」
「それがいいかも。師匠、技を使ったら?」
「そうするか――」
師匠がそう言って気合を入れると、親フォックスが大きく叫びだす。
【キュオォォォォン!】
「な、なによ?」
どっきりして首を軽く叩くと、親フォックスはチラリとこちらを見た。
『自分が倒す』
親フォックスの目はそう言っているような気がした。
「でもあんた怪我をしているし、手伝わないと逃げられちゃうわよ」
【……】
あたしがニヤリと笑ってそう言うと、少し嫌だなって感じの目を向けた後、小さく鳴いた。許可が出たらしい。
「師匠、こいつは親フォックスとなんか因縁があるみたい。とどめはこの子に」
「承知したぞ。イラス、お前は子フォックスを頼む」
「は、はい……!」
「それじゃ挨拶代わりに食らいなさい!」
【!】
あたしも親フォックスの背から降り、即座に‟疾風”を繰り出した。勘のいいグラップルフォックスがその場から飛ぶ。
直後、師匠と親フォックスが両脇から仕掛けた。
「剛の三……‟雷撃《らいげき》”」
【グァ……!?】
【キュォォン!】
雷撃は空気中の魔力を勢いよく叩きつけながら斬る技で、当たると雷に打たれたみたいに痺れる。動きが鈍くなったところで親フォックスが鼻先に噛みつく。
そのまま身をよじって鼻を千切ろうとしたけど、相手も同じ動きをしてそれを回避した。賢い。
「動きが止まっている今がチャンス!」
「その腕、貰う」
【グ、グォゥ……!!】
あたしの剣が横から脳を狙い、師匠が滑るように足を狙った。親フォックスはまだ鼻に噛みついたままなので回避のできない状況。
【グルァァァァ!】
「やるわね……!」
それでもヤツは無理やり親フォックスを振りほどき、師匠の攻撃を回避してからあたしにタックルを仕掛けてきた。
突き出した剣はずれて頭の後ろを掠め、あたしは大きく吹き飛ばされそうになる。
【キュォン】
「おっと、ありがと。追い込むわよ!」
「す、すごい……」
だけど親フォックスがクッションになってくれたので木にぶつかるようなこともなかった。近くでグレンがポカンとした顔で呟く。
【……】
態勢を立て直したあたしたちと同じく、グラップルフォックスも間合いを取り、こちらを睨んでくる。徐々に周囲の空気が重くなってくるのを感じた。
「ようやく本気か。親に手柄を取らせるため、手加減してやってるのじゃがな?」
「自分が強いと思ってるからでしょうね。子を守る親の方が強かったわよ?」
【……グォァァァァァン!!】
構え直しながら二人でそう言ってやると、表情から馬鹿にされたと判断したのか咆哮をあげた。
「うるさいっ!?」
【きゅん!?】
イラスや冒険者、子フォックスが声を上げる中であたし達は前へ出ていた。
【キュォォォン!】
【グルァァァ!】
「捌くか? ではこれならどうじゃ!」
グラップルフォックスと親フォックスが接敵し、前足での激しい攻防が始まっていた。そこへ師匠が剣を振るうとそれも防いで反撃をしてきた。
今度こそ本気でこちらを排除しようと勢いをつけてきたようね。
【クルォォォォ!!】
親フォックスの気迫も凄い。
それでも同族の方が強いらしく、攻撃を食らいながら反撃に出ていた。交錯する爪と牙。そこへ介入する師匠。
「やるわね。本気じゃないとはいえ、師匠の攻撃をいなすとは」
「お、お母さんは大丈夫なんでしょうか……!」
「あたしも行くわ。本気でね。これ以上はあの子に倒させるのは難しいかもしれないし」
あたしが突きの構えをしてそういうと、イラスが小さく頷く。子供を残して死なれるのも後味が悪い。
どっちが悪いのかわからないけど、大人しく従ってくれようとした親フォックスを信じるわ……!!
「柔の一……‟瞬動《またたき》”」
特殊な移動方法を使い、瞬時に近づいていく。死角からの一撃をこの速度で避け切れるかしらね!
【グルァァァァ!】
あたしの剣が届くかというその時、ヤツの牙が親フォックスの首へ噛みついた!
でもそのまま動かないならいける! 迷わず行こうとしたところで――
「……! いかん! ‟斬鋼”」
「あ!?」
【グガ……!?】
【キュオ!?】
一瞬、本気を出した師匠の技がグラップルフォックスの首を刎ねた。
ヤツはそれを見越して腕でガードしようとしていたけど、斬鋼は鉄をも裂く技。ゲイズタートルやそれこそ魔兵機《ゾルダート》くらい硬くないと防ぎきれない。
油断していたのか、勝てると踏んでいたのか?
【グルゥウ……!】
「いけない!」
【ギャ……!? ……】
「やった……!!」
首と胴がお別れしたけど、まだ息のあったグラップルフォックスが噛む力を強めて親フォックスへトドメを刺そうとしていた。
あたしは慌てて口の間に剣を入れて下あごを切り裂いた。
「ふう」
【キュルル……】
少し声が弱々しいけど、息はある。
森に再び静寂が戻って来た瞬間だった。
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