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第三章
第87話 魔兵のこと
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「ところで町に説明はしなくていいんですかシャル様?」
馬車が山を下りたところで、あたしの前に座るイラスがそんなことを聞いて来た。
ちなみに彼女も冒険者っぽい服装に皮鎧と、得息武器らしいショートソードに盾装備という恰好にしてある。
ガエイン師匠はいつも通りだけど、顔を知っている人が多いため髪型は変えて、リクのコクピットにあった『さんぐらす』なる黒い眼鏡をかけてもらった。
さて、イラスが質問を投げかけてきたのであたしはそれに答えることに。
「北の鉱夫達の件でちょっと考えないといけないかもって思ったのよ。ギルドでグライアードの情報が無いか探って噂程度でもあれば町長へ……って感じね」
「うむ。その時はワシが説明をすれば良かろう。しかしこのナウい黒メガネええのう。くれんかな」
「ガエイン様……お似合いだと思います。けど……私が言うのもなんですけど、グライアードが攻めてきたらどうします……?」
おどおどしながらそういうイラス。
予定は未定なので確定なことは言えないけど、ある程度どうするかは決めている。
「サクヤ」
<はい>
「ひゃう!?」
それを話すため、あたしはサクヤをタブレットから呼び出す。リクはちょっとだけお姉さまの相手をしてもらう。……んー、まあ、土壇場で命を助けられたら惚れちゃうから仕方ないわよねえ。姉妹揃って似たタイプの男が好みってのも問題だけど……
「まだ通信ができるみたいね」
<ええ。この調子ならまだ平気かと。向こうの世界でいう電波と魔力の波は似ているのかもしれません>
「よくわからないけど、このまましばらく出ててもらえる?」
<構いませんよ。索敵と相談には乗れます>
「小人……」
<ふふ、ホログラフィックなので触れませんよ>
イラスが四つん這いで近づいてきて指を出したけど、すり抜けてしまった。
「ひぃ……ゴースト……!?」
<失礼な! まあ、それはともかく敵が現れた時の対処ですね>
「うん。ひとまず、敵の司令官を確認してそいつがどういう奴なのかイラスに聞くの」
「……? どうしてそのような……?」
「話が通じそうなら虐殺を止める。ダメそうなら直接叩く」
「……!? 撤退じゃないんですか……」
それでもいいけど、町の人達が攻撃されるなら抗戦の意思は見せないといけない。
ここまでの戦いで騎士は師匠とあたしでなんとかなると考えている。
魔兵機《ゾルダート》に関しては騎士団を相手にした場合、一網打尽の一撃が取れるけど人間一人に対して使うには大仰で小回りが利かない分逃げやすい。
「騎士をある程度倒してから撤退もありかなーって。そもそも魔兵機《ゾルダート》って攻城兵器の凄い版でしょ?」
「……さ、さすがシャル様……開発者が言っていた弱点をそのまま突いて来ますね……」
「まあ、リクとサクヤのおかげだけどさ」
<向こうの世界ではポピュラーになりつつある兵器ですから、運用方法は私やマスターの方が分かっています>
サクヤが自信ありといい笑顔で言い切った。しかし、すぐに神妙な顔になってイラスに問う。
<……イラス様、その開発者とはどのような人物かわかりますか? 名前など>
「名前は……知らないです。どこかで行き倒れていたのを保護してグライアードの城へ招かれた、とは言っていましたけど……」
<そうですか>
「気になることでもあるの?」
サクヤが顎に手を当てて考える仕草をしたので尋ねてみた。するとサクヤが意外な答えを口にする。
<魔兵機《ゾルダート》は本当に城を攻めるためだけに作られた可能性があります。ただ、鹵獲した三機はいずれもパーツの流用が容易なんです>
「そういえば腕は別のをくっつけられるみたいなことを言っていたっけ」
<はい。さらに申し上げると、拡張用スロットも設けられています>
「かくちょうようすろっと?」
イラスが可愛い声で首を傾げて呟く。あたしも聞いたことが無い。
「それは?」
<ヴァイスにもありますが、要するに装備を組み替えられる措置です。近接仕様や砲撃仕様。または防御に特化した装備……そういう状況に合わせて変更ができる箇所がある、ということですね>
「ってことは、今後そういう魔兵機《ゾルダート》が出てくる可能性がある……?」
<それは分かりません。正直なところエトワール王国を蹂躙するだけならノーマル状態の魔兵機《ゾルダート》で十分というのは立証されました>
「……」
「シャ、シャル様……」
サクヤの言葉を聞いてあたしの顔が険しくなるのがわかる。イラスがちょっと焦っていた。
「そうね。あれ一機でも町の外壁を壊して侵入することができるもの」
<はい。しかし、マスターのヴァイスが向こうにとって本当の脅威と判断された場合、本気で装備を作成する可能性があるということを考慮せねばなりません>
「……そういえば、各隊長機はなにかしら特殊な措置を取られていると聞いたことが……例えばディッター様は加速に特化していました」
<なるほど、実験機だと思いますが実用している、と。……ふむ、恐らくまだ開発ができていないのでしょうね。イラス様、ありがとうございます。少し思考する余地ができました。間もなく町が見えてくると思います>
それだけ言うとサクヤはスッとタブレット内へと消えた。そこで御者をしている師匠が声をあげた。
「見えてきたぞ」
「本当だ。……ここはまだ王都から遠いけど、グライアードはどうかしらね?」
「どきどき……」
拠点を出て五時間あたし達は昼前に町へと到着した――
馬車が山を下りたところで、あたしの前に座るイラスがそんなことを聞いて来た。
ちなみに彼女も冒険者っぽい服装に皮鎧と、得息武器らしいショートソードに盾装備という恰好にしてある。
ガエイン師匠はいつも通りだけど、顔を知っている人が多いため髪型は変えて、リクのコクピットにあった『さんぐらす』なる黒い眼鏡をかけてもらった。
さて、イラスが質問を投げかけてきたのであたしはそれに答えることに。
「北の鉱夫達の件でちょっと考えないといけないかもって思ったのよ。ギルドでグライアードの情報が無いか探って噂程度でもあれば町長へ……って感じね」
「うむ。その時はワシが説明をすれば良かろう。しかしこのナウい黒メガネええのう。くれんかな」
「ガエイン様……お似合いだと思います。けど……私が言うのもなんですけど、グライアードが攻めてきたらどうします……?」
おどおどしながらそういうイラス。
予定は未定なので確定なことは言えないけど、ある程度どうするかは決めている。
「サクヤ」
<はい>
「ひゃう!?」
それを話すため、あたしはサクヤをタブレットから呼び出す。リクはちょっとだけお姉さまの相手をしてもらう。……んー、まあ、土壇場で命を助けられたら惚れちゃうから仕方ないわよねえ。姉妹揃って似たタイプの男が好みってのも問題だけど……
「まだ通信ができるみたいね」
<ええ。この調子ならまだ平気かと。向こうの世界でいう電波と魔力の波は似ているのかもしれません>
「よくわからないけど、このまましばらく出ててもらえる?」
<構いませんよ。索敵と相談には乗れます>
「小人……」
<ふふ、ホログラフィックなので触れませんよ>
イラスが四つん這いで近づいてきて指を出したけど、すり抜けてしまった。
「ひぃ……ゴースト……!?」
<失礼な! まあ、それはともかく敵が現れた時の対処ですね>
「うん。ひとまず、敵の司令官を確認してそいつがどういう奴なのかイラスに聞くの」
「……? どうしてそのような……?」
「話が通じそうなら虐殺を止める。ダメそうなら直接叩く」
「……!? 撤退じゃないんですか……」
それでもいいけど、町の人達が攻撃されるなら抗戦の意思は見せないといけない。
ここまでの戦いで騎士は師匠とあたしでなんとかなると考えている。
魔兵機《ゾルダート》に関しては騎士団を相手にした場合、一網打尽の一撃が取れるけど人間一人に対して使うには大仰で小回りが利かない分逃げやすい。
「騎士をある程度倒してから撤退もありかなーって。そもそも魔兵機《ゾルダート》って攻城兵器の凄い版でしょ?」
「……さ、さすがシャル様……開発者が言っていた弱点をそのまま突いて来ますね……」
「まあ、リクとサクヤのおかげだけどさ」
<向こうの世界ではポピュラーになりつつある兵器ですから、運用方法は私やマスターの方が分かっています>
サクヤが自信ありといい笑顔で言い切った。しかし、すぐに神妙な顔になってイラスに問う。
<……イラス様、その開発者とはどのような人物かわかりますか? 名前など>
「名前は……知らないです。どこかで行き倒れていたのを保護してグライアードの城へ招かれた、とは言っていましたけど……」
<そうですか>
「気になることでもあるの?」
サクヤが顎に手を当てて考える仕草をしたので尋ねてみた。するとサクヤが意外な答えを口にする。
<魔兵機《ゾルダート》は本当に城を攻めるためだけに作られた可能性があります。ただ、鹵獲した三機はいずれもパーツの流用が容易なんです>
「そういえば腕は別のをくっつけられるみたいなことを言っていたっけ」
<はい。さらに申し上げると、拡張用スロットも設けられています>
「かくちょうようすろっと?」
イラスが可愛い声で首を傾げて呟く。あたしも聞いたことが無い。
「それは?」
<ヴァイスにもありますが、要するに装備を組み替えられる措置です。近接仕様や砲撃仕様。または防御に特化した装備……そういう状況に合わせて変更ができる箇所がある、ということですね>
「ってことは、今後そういう魔兵機《ゾルダート》が出てくる可能性がある……?」
<それは分かりません。正直なところエトワール王国を蹂躙するだけならノーマル状態の魔兵機《ゾルダート》で十分というのは立証されました>
「……」
「シャ、シャル様……」
サクヤの言葉を聞いてあたしの顔が険しくなるのがわかる。イラスがちょっと焦っていた。
「そうね。あれ一機でも町の外壁を壊して侵入することができるもの」
<はい。しかし、マスターのヴァイスが向こうにとって本当の脅威と判断された場合、本気で装備を作成する可能性があるということを考慮せねばなりません>
「……そういえば、各隊長機はなにかしら特殊な措置を取られていると聞いたことが……例えばディッター様は加速に特化していました」
<なるほど、実験機だと思いますが実用している、と。……ふむ、恐らくまだ開発ができていないのでしょうね。イラス様、ありがとうございます。少し思考する余地ができました。間もなく町が見えてくると思います>
それだけ言うとサクヤはスッとタブレット内へと消えた。そこで御者をしている師匠が声をあげた。
「見えてきたぞ」
「本当だ。……ここはまだ王都から遠いけど、グライアードはどうかしらね?」
「どきどき……」
拠点を出て五時間あたし達は昼前に町へと到着した――
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