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第三章
第85話 姉妹
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「強制はできません。町の方々にも生活がありますからね」
「しかし、いざグライアードが攻めて来た場合、情報をリークされないでしょうか?」
「構わないわ。今まで立ち寄った町や村でもそうなるでしょうし、孤立している状況は変わらないからね」
「シャルの言う通りじゃ。鉱山を拓いて、ワシらはワシらでやっておくのがよかろう」
「承知しました。では次に――」
さて、鉱山から戻った俺達は夕方未明に会議を開いていた。議題は鉱山で出会った鉱夫達の件である。
協力を得ることができなかったことをアウラ様達へ報告すると先の回答を得ることができた。
アウラ様なら言うだろうなと思ったが、シャルとガエイン爺さんは「協力させるべき」とか言いそうだったので意外だった。
「なによリク?」
「別に」
「目を逸らしたぞ。怪しいのう?」
「なんでもないって」
鋭い。
それはともかく、あの町は今、拠点を作っているこの場所と逆サイド、北側の麓にあるのだそうだ。
標高はそこそこ高いが、確認したところ鉱山までの道をきちんと整備していた。こちらもそうすべきだと明日からその作業をするチームが編成される。
「――金策ですが、ひとまず町の人たちが集めた資金があります。それを使ってくれという意見が大半でした」
「それはありがたいですが今はそのままにしておきましょう」
「そうね。ギリギリまで使わないでおくのがいいと思うわ」
「かしこまりました。続いて魔石ですが、現在リク殿が発見し慎重に掘り進めているところです。加工できるものはギャレット殿を含めて10人程度。その者達は工房で働いてもらう形になりました」
「よろしくお願いしますとお伝えください」
アウラ様の屋敷の横に洞窟を掘っていて、そこを会議室にしたため100名からなる騎士達も全員参加できている。
「農業はある程度、形になりそうです。ただ、人数が多いので家屋と畑を作る土地はもっと必要でしょうね」
「そこは俺がやろう。ちょっと山が禿げちまうけど」
「大木も必要なので構いません。ここは大きな山なのでそれほど変化は見られないと思います」
その後も医療施設を先に作る必要があるといった生活基盤を整えていく施策が発言されていた。
そしてこの世界ならではという話に切り替わった。
「魔物の生息状況ですが、まずまずといったところです。我々が巡回すれば拠点に影響はないと思われます」
「あたしも見たけどそうかもね。だけど、食料は必要だから食べられそうな魔物は積極的に狩りに行くわよ。騎士も冒険者と同じように振舞う必要があると思う」
「は、その件はまた部隊を編成して報告致します」
「斥候の方も頼むぞ」
「ええ、ここからまた別の案になりますが南側にある町にも調査と警告をしに行くべきと考えます」
「もちろん北の町にも派遣します。鉱夫が話すかも怪しいので」
「そうですね。できれば納得していただきたいのですが」
アウラ様が困った顔で笑う。グライアードの進行具合がどの程度のものか分からないが、予断は許さない。で、町の人間が言うように『自分達の暮らし』を優先するなら支配者に尻尾を振るのは間違いでもないからな。
「では明日にでも編成して町へ向かいましょう」
「私も――」
「いえ、姫様は残ってください。リク殿のヴァイスも護衛のためこの近くで作業をお願いします」
「証拠になりそうな俺が居た方がいいんじゃないか?」
「そこはビッダー機に任せるつもりです」
騎士と魔兵機《ゾルダート》が一機でもあれば説得する材料になるだろうとのことだ。
難しいかと考えたが確かにビッダー機はほぼメンテが出来ているから有事の際は動けるかと思いなおす。
「南へはどうしますか?」
「そっちはあたしと師匠、それとイラスで行くわ」
魔兵機《ゾルダート》は一機のみしか使わないようで、南の町はさっきガエイン爺さんが言っていた偵察をするため出動するとのこと。
「き、危険ではないですかシャル? リク様を連れて行った方が……」
当然、姉であるアウラ様が心配しないはずもなくオロオロしながら声をかけた。するとガエイン爺さんが腕組みをして頷きながら言う。
「ワシの弟子じゃ。危険など承知しておる。こういう時こそ――」
「ガエインは黙って! もしものことがあったら私……」
アウラ様が珍しく大声を出してガエイン爺さんが座ったまま飛び上がる。
今までは仕方なく移動していたけど、こうやって拠点を構えるようになったので不安になってきたらしい。
「大丈夫よお姉さま。町人の格好をしていくし、冒険者のフリもできるから。それにその辺の男よりも強いからね!」
「で、でも……」
「今は各自、できることをしないと。ね? 危なかったらすぐ逃げてくるって」
「うーん……」
あっけらかんというシャルに対し、アウラ様は難色を示していた。そこでタブレットに立つ俺が一言。
「俺も心配だ。だけどガエイン爺さんが居ればなんとかなるだろ? 人間で勝てるヤツはそう居ないと思うけどな」
「うむ」
「そうですが……」
<ではこうしましょう。念のためタブレットを持ち歩いてもらいます>
「サクヤ?」
アウラ様の渋い顔に、俺と同じくタブレット上に姿を現したサクヤが指を立てて言う。
「電波が届くかどうか怪しいぞ」
<それも含めてどこまでならいけるのかを確認したいのです。その内、敵から魔力通信具《マナリンク》を奪って解析したいところですが>
「物騒な。だけどいいんじゃないか? シャルもやる気だし、ガエイン爺さんがついているならさ」
「……ふう、わかりました。そこまで言うなら。シャル、絶対気を付けてくださいね? あなたになにかあったら私の心臓が止まってしまいます」
「もちろんよ」
「ガエインはお酒を飲みすぎないようにしてくださいね?」
「う」
目を瞑って頷いていたガエイン爺さんが酒のことを言われてビクンと跳ねた。酒を飲むのか。しかしあの冷や汗の量は怪しいな?
「では北の町への折衝、鉱山の開拓、そして南の町を調査を目標に定めましょう。グライアードの者が現れたら都度対応。基本的に倒す方向で動きますが、無益な殺生は避けましょう」
「「「ハッ! 承知しました!」」」
という感じで会議は幕を閉じた。
俺はこっちに残るから、他のみんなに任せる形となるな。シャルと爺さんはともかく、北の町はどうかねえ?
「しかし、いざグライアードが攻めて来た場合、情報をリークされないでしょうか?」
「構わないわ。今まで立ち寄った町や村でもそうなるでしょうし、孤立している状況は変わらないからね」
「シャルの言う通りじゃ。鉱山を拓いて、ワシらはワシらでやっておくのがよかろう」
「承知しました。では次に――」
さて、鉱山から戻った俺達は夕方未明に会議を開いていた。議題は鉱山で出会った鉱夫達の件である。
協力を得ることができなかったことをアウラ様達へ報告すると先の回答を得ることができた。
アウラ様なら言うだろうなと思ったが、シャルとガエイン爺さんは「協力させるべき」とか言いそうだったので意外だった。
「なによリク?」
「別に」
「目を逸らしたぞ。怪しいのう?」
「なんでもないって」
鋭い。
それはともかく、あの町は今、拠点を作っているこの場所と逆サイド、北側の麓にあるのだそうだ。
標高はそこそこ高いが、確認したところ鉱山までの道をきちんと整備していた。こちらもそうすべきだと明日からその作業をするチームが編成される。
「――金策ですが、ひとまず町の人たちが集めた資金があります。それを使ってくれという意見が大半でした」
「それはありがたいですが今はそのままにしておきましょう」
「そうね。ギリギリまで使わないでおくのがいいと思うわ」
「かしこまりました。続いて魔石ですが、現在リク殿が発見し慎重に掘り進めているところです。加工できるものはギャレット殿を含めて10人程度。その者達は工房で働いてもらう形になりました」
「よろしくお願いしますとお伝えください」
アウラ様の屋敷の横に洞窟を掘っていて、そこを会議室にしたため100名からなる騎士達も全員参加できている。
「農業はある程度、形になりそうです。ただ、人数が多いので家屋と畑を作る土地はもっと必要でしょうね」
「そこは俺がやろう。ちょっと山が禿げちまうけど」
「大木も必要なので構いません。ここは大きな山なのでそれほど変化は見られないと思います」
その後も医療施設を先に作る必要があるといった生活基盤を整えていく施策が発言されていた。
そしてこの世界ならではという話に切り替わった。
「魔物の生息状況ですが、まずまずといったところです。我々が巡回すれば拠点に影響はないと思われます」
「あたしも見たけどそうかもね。だけど、食料は必要だから食べられそうな魔物は積極的に狩りに行くわよ。騎士も冒険者と同じように振舞う必要があると思う」
「は、その件はまた部隊を編成して報告致します」
「斥候の方も頼むぞ」
「ええ、ここからまた別の案になりますが南側にある町にも調査と警告をしに行くべきと考えます」
「もちろん北の町にも派遣します。鉱夫が話すかも怪しいので」
「そうですね。できれば納得していただきたいのですが」
アウラ様が困った顔で笑う。グライアードの進行具合がどの程度のものか分からないが、予断は許さない。で、町の人間が言うように『自分達の暮らし』を優先するなら支配者に尻尾を振るのは間違いでもないからな。
「では明日にでも編成して町へ向かいましょう」
「私も――」
「いえ、姫様は残ってください。リク殿のヴァイスも護衛のためこの近くで作業をお願いします」
「証拠になりそうな俺が居た方がいいんじゃないか?」
「そこはビッダー機に任せるつもりです」
騎士と魔兵機《ゾルダート》が一機でもあれば説得する材料になるだろうとのことだ。
難しいかと考えたが確かにビッダー機はほぼメンテが出来ているから有事の際は動けるかと思いなおす。
「南へはどうしますか?」
「そっちはあたしと師匠、それとイラスで行くわ」
魔兵機《ゾルダート》は一機のみしか使わないようで、南の町はさっきガエイン爺さんが言っていた偵察をするため出動するとのこと。
「き、危険ではないですかシャル? リク様を連れて行った方が……」
当然、姉であるアウラ様が心配しないはずもなくオロオロしながら声をかけた。するとガエイン爺さんが腕組みをして頷きながら言う。
「ワシの弟子じゃ。危険など承知しておる。こういう時こそ――」
「ガエインは黙って! もしものことがあったら私……」
アウラ様が珍しく大声を出してガエイン爺さんが座ったまま飛び上がる。
今までは仕方なく移動していたけど、こうやって拠点を構えるようになったので不安になってきたらしい。
「大丈夫よお姉さま。町人の格好をしていくし、冒険者のフリもできるから。それにその辺の男よりも強いからね!」
「で、でも……」
「今は各自、できることをしないと。ね? 危なかったらすぐ逃げてくるって」
「うーん……」
あっけらかんというシャルに対し、アウラ様は難色を示していた。そこでタブレットに立つ俺が一言。
「俺も心配だ。だけどガエイン爺さんが居ればなんとかなるだろ? 人間で勝てるヤツはそう居ないと思うけどな」
「うむ」
「そうですが……」
<ではこうしましょう。念のためタブレットを持ち歩いてもらいます>
「サクヤ?」
アウラ様の渋い顔に、俺と同じくタブレット上に姿を現したサクヤが指を立てて言う。
「電波が届くかどうか怪しいぞ」
<それも含めてどこまでならいけるのかを確認したいのです。その内、敵から魔力通信具《マナリンク》を奪って解析したいところですが>
「物騒な。だけどいいんじゃないか? シャルもやる気だし、ガエイン爺さんがついているならさ」
「……ふう、わかりました。そこまで言うなら。シャル、絶対気を付けてくださいね? あなたになにかあったら私の心臓が止まってしまいます」
「もちろんよ」
「ガエインはお酒を飲みすぎないようにしてくださいね?」
「う」
目を瞑って頷いていたガエイン爺さんが酒のことを言われてビクンと跳ねた。酒を飲むのか。しかしあの冷や汗の量は怪しいな?
「では北の町への折衝、鉱山の開拓、そして南の町を調査を目標に定めましょう。グライアードの者が現れたら都度対応。基本的に倒す方向で動きますが、無益な殺生は避けましょう」
「「「ハッ! 承知しました!」」」
という感じで会議は幕を閉じた。
俺はこっちに残るから、他のみんなに任せる形となるな。シャルと爺さんはともかく、北の町はどうかねえ?
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