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第三章

第82話 予定

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「どうだい?」
「例の設計図から右腕を作成しているが、魔石が足りない。関節に使う量が多くてな」

 と、昨日ギャレットさんに聞いた話は簡単なものだった。だが、ことはそう簡単ではないらしい。

「魔石かあ。王都にならストックがあると思うけど、今は確かに入手困難かもね」
「魔物を倒すか鉱山で採掘するかのどちらからしいですね」
「そうなのか。町からいくつか持って来たらしいけど、右腕一本作るのに結構かかるもんなんだな」
<グライアードが使っていた魔石は大型で、町から持って来たのは小さいものですからね。加工してなんとか肩関節に使える程度にしかならなかったようです>

 朝食時にタブレットに移動していた俺とサクヤが、アウラ様とシャルを前にそんな話をする。
 ちなみに採れたて卵のスクランブルエッグと持って来たトマトに堅そうなパンにお茶というメニューである。
 卵は牧場に放たれたニワトリのもので、町の人が持ってきてくれたもの。
 これは旅の途中もそうだったけど、王族二人にはきちんと食べて欲しいという思いの親切心のようである。
 牛は乳牛しかおらず、食用豚は数頭。まずは数を増やさないといけないため、食べることはしていない。
 まあ、魔物の肉が美味しいというのが一番あるので、家畜は最終手段だろう。

 というわけで今の問題である魔石に戻そう。
 
「そういえばこの山を選んだ理由が鉱石が採れるからじゃなかったっけ? 採掘はできないのか?」
「ええ、リク様の言う通りです。この山に出稼ぎに来ている人も居たはずなので、採掘場があると思います」
「居たはず……ってことは、今はどうなんだろう」

 俺が腕を組んでそう尋ねると、アウラ様は目を瞑って答えてくれた。

「ご存じの通り、私は外の世界に疎いので現状がどうなっているかを知らないのです……シャルも修行に出てはいますが――」
「細かいところはお父様たちしか知らないのよね」

 レタスらしき葉っぱを食べながら言うシャル。鉱山として開いてはいるけど、人間が居るかどうかまで分からないってことらしい。

「なら今日は鉱洞があるか確認に行ってみるか」
「そうじゃのう。男衆を連れて山登りか」
「ガエイン爺さんはアウラ様の護衛だろ? 俺が行ってくるよ」
「あたしも!」

 そこでシャルが手を上げて立ち上がる。一緒についてくると言いたいようだがそこに俺が口を挟む。

「シャルもこっちでみんなの手伝いの方がいいんじゃないか? 鉱洞があったとしてお姫様がツルハシを持ってカンカンするのは違うだろ」
「えー、一緒に……」
「わ、わたしも……」
「シャルは私とお留守番です。イラスさんもシャルと一緒に居なければだめですので邪魔をしてはいけませんよ?」
「むう」
「そんなあ……やっぱり死ぬしか……」
「ぬしらはワシと護衛じゃな。魔物が来ることも多いから戦力は残しておきたい」

 アウラ様がぴしゃりと言ってくれた。シャルは不満げに呻くがガエイン爺さんも説得にあたり渋々了承。
 実際、魔物が相手ならヴァイスではオーバーキルになる。なのでセンサーもあるし鉱洞調査の方がいい。

「それじゃ今日の俺の仕事は山登りってことで」
「お願いいたします。魔物を倒すために騎士を連れて行ってください」
「助かるよ」

 そんな感じで一日の目標を決めた俺達は各々の持ち場へと移る。俺とサクヤもタブレットからヴァイスに移動してギャレットさんにスケジュールを伝えた。

「お、なら俺も行くぜ! バスレーナも行くよな?」
「もちろん! うぇっへっへ……金目の物があるといいですねえ……」
「鉱夫としてついてくる人も頼むよ」
「「「おお!」」」

 数百人単位で鉱山へ向かう人が集まり、心強い限りだ。移動して来た人達の職業も色々なものがあるから応用力は高い。町二つの人間がいるため探せばいるって感じだ。

「おー、皆さん集まってどうしたんだい?」
「ヘッジか。今から魔石がないか探しに行くんだ」
「あー、魔兵機《ゾルダート》の腕を直すのか」
「そうそう! ヘッジさんもいきませんかね? 一攫千金のチャンス……!」
「そりゃいいな」

 ヘッジがくっくと笑いながらバスレーナとハイタッチをする。すると彼は顎に手を当てて俺に言う。

「よし、オレも行くぜ! 魔兵機《ゾルダート》のことだし役に立つかもしれねえしな」
「お、やった」
「いいのか?」
「ああ。どうせ釣りで食料を掴まえるしかねえしな。あ、でもその内ちょっとガエイン爺さんに頼みたいことがあるかも」
「ふうん?」
 
 まあそれは後でいいと手をひらひらさせるヘッジ。とりあえず移動しようと男衆を連れて移動を始める俺達。
 今、拠点にしているところは海抜600メートル程度の場所(サクヤ調べ)なのでそこそこ麓の麓が見える。そこからさらに登っていくと、段々下界の様子が見えてくる。

「山って急だったり平地があったりと様々だな……都会っ子だった俺はあんまり山に足を踏み入れたことは無いからなあ」
<ここから南東に建造物が見えますね。町でしょう>
「その内、行かないとダメだな。明日はアウラ様を連れて町かな?」

 振り返ってそんなことを考えていると、ギャレットさんが口を開く。

「山なんてどこにでもありそうなもんだけどな」
「ハチミツを採るなら山ですよやっぱり。あと、鹿魔物の肉は美味しいんですよね」

 俺が下界の様子を見ていると、足元でそんなことをいう。逞しい親子である。

「場所はわかってんのかい?」
「ん? ああ、探知センサーでもう少し上に広い場所があるみたいなんだ。多分そこにあるな」
「相変わらず便利だねえ」

 ヘッジが肩を竦めて笑う。
 実際、ヴァイスのセンサーが無いともっと事態は面倒だったはずだからみんなが俺をありがたがるのはそういうものだと思う。

「ま、適材適所ってやつだ」
「違いねえ。バスレーナ、こういう旦那みたいに冷静な男を見つけるんだぜ?」
「ですねえ。やはり結婚相手は堅実な人がいいですし」
「ま、まだ嫁に行くには早いぞ……!」
「あははは! まだまだ親父を残してはいけませんよー。お母さんが怒りますって」

 そういって笑いながらバスレーナがヘッジをギャレットさんの尻を叩いていた。娘しかいないし、ギャレットさんは焦るか。

「おっと、リク殿、ビンゴのようですよ」
「らしいな。人も居るな?」

 騎士がそう言ってすり鉢状になっている眼下を見て言う。まだ生きている鉱山のようで、人が所狭しと仕事をしていた。ひとまず話しかけてみるか。……俺以外が。
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