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第三章

第80話 拠点

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「よーし、この辺はもう地盤を固めたから基礎を作っていいぜ」
「サンキュー! しかし巨人は便利だな」

 いよいよザラン山に到着した俺達。そこから拠点づくりが開始された。
 基本的には木を伐採して家を建てるだけだが、山の麓から少し上ったところにしているため立てにくいというのはある。
 なので、斜面については小回りのきくヴァイスが掘り返して平地にするなどの措置が必要なのだ。

「大きい兄ちゃんー! こいつを牧場に入れてやってよ」
「ん? おお、牛か」

 子供たちがのんびりした顔の牛を連れていた。牧場に入れてくれと頼んで来たので抱えて入れてやった。

「んもー」
「なんでこいつは牧場に居なかったんだよ」
「なんか一頭だけ別のところにいたみたい。のんびりしているから移動しそこなったんじゃないかって」
「まあ……のんびりした顔だもんな」

 俺がそういうともう一回「んもー」と鳴いてみんなを笑わせていた。
 名前はちゃんとあるらしく『ガルテン』とのこと。妙にカッコイイ。乳牛の雌なのだが体が大きいな。

「わあ、ありがとうございます! どこ行ってたの?」
「んもー」
「メェ」

 簡易だが先に作った牧場の柵の内側へ入れると、問い詰めるように羊や牛がやってきてガルテンを取り囲んでいた。

「ありがとー!」
「おう、なんかあったら呼べよ」

 小さい女の子が両手の親指を手てて腕を上げていたので、俺もヴァイスで手を振って返しておく。
 自然が溢れると現代っ子は嫌な顔をするけど、こっちの子供は元気だな。

「うおおおお!」
「ガエイン殿、無理をなさらないでくださいよ!」
「若い者には負けんわい!」

 ガエイン爺さんも土地を切り開くのに懸命だ。勝手に切り開いて問題ないのかって?
 まあ、この辺を牛耳っている貴族はいるかもしれないが、基本的には王族のアウラ様が優先されるそうなので緊急的接収という感じである。

「すみませんリク殿。こちらを手伝ってもらえませんか?」
「ああ」

 ビッダーに頼まれた先に行くと積まれた丸太がたくさんあった。大剣を使って木の板にしようとしているみたいだが、まあ大剣じゃ厳しいよな。

<プラズマダガーでいきましょうか>
「だな」
「助かります。今日は難しいでしょうが、明日から家屋らしきものが建てられると思いますよ」
「そうだな。アウラ様の寝る場所は今日中に確保したいとこだが。他の騎士達は?」
「ひとまず周辺の探索に向かいました。二名一組で全方位ですね」
「流石だな」

 俺の言葉に、コクピットのハッチを開けているビッダーが頷く。そういやヘッジはどうしたんだろうな?

「ヘッジは数人の大人と子供を連れて近くの川へ行きましたよ。釣りをするようです」
「釣りか、いいなあ」

 サクヤの周辺調査で川が近くにあるところにしたのでその調査を含めてのようだ。
 一応、大雨が来て氾濫しても大丈夫な場所を計算しているそうなので上手くやれば水路を引けるかもしれないな?

「よし、それじゃさっさと木材を捌いておきますかね」
「お願いします」

 そんな調子で木材を削っていると、ギャレットさんが近づいてくるのが見えた。

「おーい、リク殿」
「んあ? どうしたんだいギャレットさん?」
「いや、相談なんだが工房を作ってもらえねえかと思ってよ」
「工房?」
「そー。ちょっと広めにとって欲しいんだよね」

 後から来たバスレーナもそんなことを言う。詳しく聞いてみると、魔兵機《ゾルダート》の部品を作成するのに広いところが欲しいそうだ。
 そりゃそうかと俺はアウラ様に許可を取ってくれればと返しておく。

「先に言ってきたよ! いいって」
「お、早いな」
「お前、いつの間に……」
「ふっふっふ、親父はまだまだ甘いね。こういうのはトップに聞いておくもんだよ」
「生意気な」
「仲が良くて結構なことですね」

 ギャレットさんとバスレーナが顔を見合わせて不敵に笑うのを見てビッダーも笑っていた。
 とりあえずある程度削ったので場所を確認するためこの場を離れる。

「そんじゃアウラ様の家は頼むよ」
「ええ。大工の方が居るので問題ないかと思います」

 らしい。
 ヘッジもそうだが、随分町の人間と交流しているなと感じる。まあ、俺は見ていないがディッター戦ではかなり命をかけていたらしいからな。

「ヘッジさんも生身で魔兵機《ゾルダート》を奪ったらしいし、強いよね」
「みたいだな。子供に人気だし」
「そうそう。あたいも釣り行きたかったけど、魔兵機《ゾルダート》の方が興味あるしね」
「お前もたいがい変わってるよな」
「俺の娘だしな」
「「あんたが言うな」」

 俺に手に乗る親子。
 とりあえず笑うギャレットさんにツッコミを入れながら指定場所へ向かう。

◆ ◇ ◆

「うあああ、また餌だけ盗られた……!!」
「シャル様これで三回目ー! 僕の方が釣れているよ」
「くう……!」

 子供たちに交じって釣りをしているシャルが男の子に苦い顔を向ける。そこへ座ってのんびり煙草を吸いながら釣りをしているヘッジが声をかけてきた。

「へっへ、お姫様は戦いができるけど釣りは苦手かあ?」
「うるさいわね! これでも冒険者みたいな生活をしていたことがあるんだから」
「そうらしいよな。アウラ様のためにかい?」
「そうよ」
「ふうん、いいね。仲がいいって感じだぜ」
「?」

 煙を吐きながらそう言うヘッジに眉を顰めるシャル。
 
「あんたはグライアードの騎士になる前はなにをしてたのよ?」
「ん? いや、普通に暮らしていたぜ。ビッダーとは腐れ縁だが……あいつが騎士になるっつったからなったって感じだな」
「ふうん、凄いわね。騎士って明日なります! って言ってなれるもんじゃないからさ」
「おっと、予期せぬお姫様からのお褒めのお言葉だ。惚れた?」
「んなわけないでしょ」
「そりゃそうだ。リク殿一筋っぽいもんなあ」

 ヘッジがくっくと笑いながらからかうように言う。するとシャルはあっけらかんとした感じで応えた。

「そうよ。……あいつを治す方法も考えないと。あのまま治るような気がしないのよね」
「あら、あっさり言っちゃう? からかいがいがないねえ」
「本人にも言いたいんだけどさ。今の状況だと負担になりそうだから言わないのよ。あたし、ハッキリしないと気が済まないタチだし」
「ひとすじ?」
「まだ、あんた達には早いわね。ほら、釣るわよ。ヘッジ、あんた実はいいとこの出身?」

 子供に釣りを促しながら、不意にシャルがそうヘッジに聞く。

「……どうしてそう思うんだ?」
「なんとなく、ね。あたし、勘はいいのよ」
「いやいや、孤児院出身だぜ? ビッダーに聞けばわかる」
「そう? ま、どっちでもいいけど。負けないわよー」

 そんなシャルを見てヘッジは肩を竦めて苦笑し、煙草の煙を空に吐いていた。
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