上 下
74 / 146
第二章

第73話 敵影

しおりを挟む
 ――意外、というのは言い過ぎかもしれないがグライアード軍勢と出くわさない。
 現在、丘陵を移動中だが魔物の姿が遠巻きにちらほら見えるだけだ。

「奴等の動きからすると姫様を捜索しているのは間違いない。が、エトワール王国は狭い国ではない。まずは地道に王都以外を蹂躙しているのだろう」

 ガエイン爺さん曰く、ジョンビエルやディッターに見つかったのは本当に運が悪かったとのこと。
 今のように大勢の人間を引き連れてということなら分かるが、せいぜい百人と少しが隠れながら移動すれば簡単には見つからないだろうと。

「リクみたいにレーダーがあれば先手を打てるから、あいつらが持っていなくて良かったわよ」
「まあ、そうだな」
 
 王都はかなり南の方にあるため、グライアードの戦力にもよるがディッターが追いつくか報告が回らない限り簡単には遭遇しないという目算である。
 むしろシャルが言うようにこっちが先手を取れる。

<とか言っていると北西距離200に敵がいますね>
「ワシが行こう」

 サクヤが警告《コーション》を口にすると、ガエイン爺さんは馬で飛びだして行った。
 直後、黒い犬の群れが慌てて散っていくのが見える。

「お……? なんだありゃ」
「あれはヘルハウンドね。徒党を組んで襲ってくる魔物よ。数が増えると厄介だけど、それほど脅威って感じじゃないわ」
「ふうん。でかい犬だなあ」
「リク様の世界には居なかったのですか?」

 俺が興味深いとシャルに返しているとアウラ様がそんなことを聞いてくる。

「そうだな。熊とか危険な動物は居たけど、あんなにでかかったりはしないな。海だとサメ、地上だと熊や毒蛇なんかは恐ろしい」
「それはこっちでも一緒ですね」
「サイズ感の問題だけど、毒蛇にしてもシャルの腕とあんまり変わらない太さが殆どだからこの前遭遇したアホみたいにでかいのは居ないな」

 この前のはアナコンダよりでかかったしな……異世界の特徴かわからないけど、サイズはバラバラで地球のが参考にならないのはある。
 ポイズンリザードでも子供くらいでかい。ただ、魔物自体がなんらかの変異で昆虫や動物が変化しているということもあるので小さい個体ももちろんいるのだ。

<記録《ログ》は残しておりますのでいつでも閲覧可能ですよ>
「魔物図鑑……いつの間に」
「へえ、便利ね。これ売れるくらいのクオリティじゃない……!?」

 タブレットに映し出されたのはここまで出会った魔物の一覧だった。ゲイズタートルもいつの間にやらコミカルなイラストと共に掲載されている。

「あ、ゲイズタートルが可愛いですね」
<AIにはこういうこともできるのです。えっへん>

 デフォルメされた魔物はアウラ様に好評のようだった。そんなことを話していると、ヘルハウンドを追い払ったガエイン爺さんが戻ってくる。

「とりあえず安全が確保された。進むぞい」
「了解した。この調子でどんどん行くぞ」

 と、俺達は余裕があるなと思っていたのだが――

◆ ◇ ◆

 ――凌空達が丘陵を進んでいたその時、遠くで行軍を見ていた者達が居た。

「姐さん、なんだかすげえのが歩いてます……ぜっ!?」
「お頭と呼びなっつってんだろ! ……ありゃなんだ? 巨人ってやつかい」

 筋肉自慢といった感じの男がヴァイスや魔兵機《ゾルダート》を見て振り返る。
 だが、呼び方が気に入らなかったらしい。片目を赤い髪で隠した女が男の頬に右ストレートをお見舞いした。

「さっぱりわかりませんな。ただ、鉄のようなもので出来ている感じはしますがね」

 そこで岩壁に背を預けた細身で皮鎧を着た優男が髪をかき上げながらそんなことを口にした。

「……ふむ、未知の巨人か。アタシ達、フリンク盗賊団の仕事相手に相応しいんじゃないかしら」
「賛成ですぜ姐さ……ぶへ!?」
「ビルゴ、懲りないねあんたも。それじゃ早速作戦を練るよラーク!」
「承知しましたベリエ様」

 筋肉男のビルゴの尻を蹴飛ばしながらお頭のベリエが優男のラークに指示を出す。
 フリンク盗賊団と名乗った彼女達は凌空達の集団に目をつけた。

「でもあね……お頭。俺達、三人だけなのに『盗賊団』でいいんですかい?」
「だまらっしゃい! いいんだよカッコ良ければね! さ、夜までに作戦を考えるんだ、行くよお前達……!」

 口を尖らせながらベリエが高台から移動をし二人が後を追うのだった。

◆ ◇ ◆

「よし、ここなら身を隠すこともできそうだ。休息はここで取るぞ」
「ふいー……疲れたな。飯、飯にしよう」
「あんまり量は食えないからな?」
「テントは建てられない。毛布を女子供に優先して渡せー」
「んにゃ……ご飯……」

 ということでなんとか今日も夜を迎えることができた。人も大変だけど、意外だったのは、

「もー! 起伏が激しくて歩きにくいんですけど!? 倒れたらビッダーさんに起こしてもらわないとダメだし!」
「バランスが難しいから落ち着いて。バスレーナちゃんは乗り始めてまだ日が浅いし……」
「バスレーナちゃん……! あたい、もう14歳なんですけど!?」
「いや、イラスは18歳だしなんの主張だよ」
「ヘッジさんは黙っててください……!」

 魔兵機《ゾルダート》も気を使うってところだった。腕無し二機は特にバランスを崩しやすく、足元が見えていないのでバスレーナがよく躓いていた。
 
「まあ人の方に倒れなかったのは良かったな」
「そうだな。俺が操縦してもいいんだが、魔力はこいつの方が高いんだよな」

 パンをかじりながらギャレットさんが肩をすくめる。通常の移動なら問題無さそうだけどそこは娘に甘いようだ。
 
「ま、今後もここを抜けるまで気を付けるってことで。ここは後何日で抜ける?」
「地図を見る限り後二日程度だろう。丘陵後に町が一つある」
「そうですね。町には警告を含めて立ち寄りましょうか」

 ひとまず一日の報告と明日の予定を話し合い夜は更けていった。

<……ふむ>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...