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第二章

第62話 ガエイン

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「……! 来たか……! 敵襲だ! 皆の者、備えろ!!」

 毎日、町の外門で待機をしているガエインが微かな行軍音が耳に入り立ち上がる。
 すぐに外壁の上にいる騎士へ声をかけると、鐘の音が鳴り響く。
 その瞬間、町の中が騒然となり魔兵機《ゾルダート》用の門が開かれて左腕のない機体が姿を現した。

「ついに来ましたか」
「そのようだ。リクは間に合わなかったが、これも天の采配か。ワシらで食い止めるしかあるまい」
「はい。エトワール王国の騎士殿は穴の内側で待機をお願いします。俺が前へ出ます」
「承知しました、ビッダー殿! お互いご武運を!」

 ビッダーの駆る魔兵機《ゾルダート》がエトワールの騎士達の声を受けて腕を上げてから落とし穴の前へ出た。その様子を見ながらガエインは渓谷に向かって駆け出していく。

「状況を確認する。いざとなれば奇襲も辞さない」
「距離は?」
「まだ渓谷の半ばというところだな」
「了解」

 外壁に立てかけてあった魔兵機《ゾルダート》用大剣を掴んで戦闘に備えるのが見えた。
 そのままガエインは夜の渓谷を走り、身を潜めながら敵部隊へと近づいていく。
 数十分ほど進んだところで行軍の音が大きくなり、ガエインは高い場所へ移動した。

「……騎士の数はそれほど変わらんな。代わりに魔兵機《ゾルダート》とやらが増えておるか」

 目を細めて眼下を見るガエイン。
 そこには計四機の魔兵機《ゾルダート》が前衛と後衛に二機ずつ分かれて進軍をしていた。

「あの後ろに居る肩の意匠が違う者が指揮官か。ふむ、少しでも足止めをしておくか」

 ガエインは一言呟くと手にした大剣を掲げて空に浮かぶ月明かりを反射させて眼下の敵を照らす。

「なんだ……? チカチカとしている?」
「……! 上だ! 誰かいるぞ!」
「ふん、気づくのが遅いわ!」
「う、うお――」

 グライアードの騎士達が高台へ目を向けた時にはすでにガエインの姿は無く、地上で数人が切り伏せられた。
 そこでディッターの声が周囲に響く。

「おっと、一人で突っ込んでくるとは思わなかった。……騎士はこのままその男と交戦をしてくれ。魔兵機《ゾルダート》は予定通りこのまま町へ移動する」
「チッ」

 指揮官の判断に舌打ちをする。
 ここで自分を潰すために足止めをしてくれるかと少しだけ期待したが、そこは敵も馬鹿ではないかと。

「行かせん……!」
「老いぼれが生意気な!」
「邪魔をすれば死ぬだけだぞ」

 騎士を吹き飛ばしながらガエインは先頭を進む魔兵機《ゾルダート》へ迫っていく。それに対して行く手を阻む騎士達。

「ぐ……強いな。だが、数で押せば!」
「なんの!」

 四方から迫るグライアード騎士が振り下ろした剣を避けると、騎士を踏み台にしてジャンプして囲まれる前に脱出をするガエイン。
 騎士達を蹴りながら前方に見える魔兵機《ゾルダート》の足関節を狙おうとしたところで真横から衝撃を受けた。

「ぬう……!?」
「まったく。元気な爺さんだ」

 衝撃の正体はディッターの攻撃によるものだった。飛んだ高さは巨大な腕を当てるのにちょうどよかったのだ。
 ガエインは大剣で咄嗟にガードしたものの衝撃はすさまじく、崖に叩きつけられていた。

「おのれ……!」
「動けるのか!? 頑丈すぎるだろう。だが、今のうちに進ませてもらう。騎士達はそこの爺さんを足止めす――」
「させんと言っておる!」

 ディッターが笑いながら進み、騎士に指示を出そうとしたところでガエインが崖を蹴ってディッター機へ迫る。

「でやぁぁぁ!!」
「馬鹿な……!?」

 一足でディッター機に肉薄して大剣を叩きつけると、ディッターのコクピットが揺れ驚愕の声を上げた。
 装甲の一部を吹き飛ばされたので足元に居た騎士達が即座に離れていく。

「おいぼれが!」
「まだまだぁ!」
「なんて奴だ……! ディッター様を援護しろ! 弓だ!」
「邪魔をするな! 指揮官を墜とせば!」
「お前が落ちるのだな!」

 グライアードの騎士達がディッター機に取りついたガエインに矢を放つ。コクピットを狙おうとしたが矢の猛攻とディッターの暴れにより地上へと落下。

「落ちてきたぞ! 着地を狙……ぐあ!?」
「ふん!」

 ガエインは着地を待っていた騎士の頭を割り、地面へ足をつけた。

「行くぞ……!」
「待て!」
「そう言われて待つ者がいるかね? 突撃だ」
「うおおお!」
「逃がさんぞ!!」

 ディッター機に手を伸ばすガエインに襲い掛かるグライアードの騎士達。
 そこでガエインはこの場はここまでかと大剣を振り回して崖を駆け上がっていく。

「なんなんだあのジジイは……!?」
「くそ、町へ向かうぞ! どうせそこからは離れられん!」

◆ ◇ ◆

「音が近づいてきた……!」
「前へ出ます。魔兵機《ゾルダート》には極力手を出さないでください」
「気をつけろよビッダー。その魔兵機《ゾルダート》じゃマジで盾にしかならねえ」
「ああ」

 地響きのような魔兵機《ゾルダート》の足音が聞こえてきたと騎士が声を上げ、ビッダーが動き出す。
 外壁にいるヘッジがそう言うと、一言だけ返事をしてゆっくりと渓谷に入る道へ。

「来たか」
「魔兵機《ゾルダート》!? 奪われたやつか……!」
「問題ない。元々、俺の乗っていたものだ」

 ビッダーが渓谷の道に立ってからしばらくすると先行していたグライアードの魔兵機《ゾルダート》が驚いた声をスピーカーから出していた。
 ビッダーが冷静に返すと、二機の魔兵機《ゾルダート》は長剣を頭上に振り上げて突っ込んで来た。

「操縦者は裏切者か! 貴様は必要ないが、その魔兵機《ゾルダート》は返してもらおうか!」
「まだ利用価値があるからそれはできん。……今だ!」
「おお!」
「なんだ……!? うお!?」

 ビッダーが声を上げると、敵の魔兵機《ゾルダート》の足元に太いロープが張られ一機はバランスを崩し、もう一機は派手に転倒した。

「くらえ」
「暗闇に隠れていたのか!? この深夜に起きている者がいるとは! しかし!」
「む……!」

 バランスを崩して悪態をつきながらも敵は倒れず身を翻してビッダーの大剣を受け止めた。

「片腕で大剣は威力がないな……!」
「押し切るまで。皆さんは逃げてください」
「わかった! 無理をするんじゃあないぞ! うわあ!?」

 ロープを張った騎士達が後退をしようとした騎士を、起き上がる魔兵機《ゾルダート》の手に巻き込まれた。

「逃がすか……! おい、裏切者は頼む。俺は町へ向かう!」
「任せろ!」
「……よし」

 この機体で撃退をするには少々難しいかと思案しながら、魔兵機《ゾルダート》を動かし、ビッダーは長剣を持つ機体に再び攻撃を仕掛けていく。
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