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第二章
第57話 父娘
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「フィブリックよ、アウラ姫達は行ってしまったか」
「はい。民のために行くのだとおっしゃっておりました」
「……両親に似て気丈だな」
ヘルブスト国の王であるロイッツァは執務机で仕事をしていた。そこで宰相のフィブリックから受けた報告を聞いてポツリと呟いていた。
「助けられるならと思うが、情報が足りぬ」
「左様ですな。ひとまずグライアードへリサーチャーを派遣しました」
「ありがとう。まずは敵の内情を探らねばならん。巨人の設計図でも手に入れば確実なのだが……そもそも入国できるのだろうか」
「一応、そういったことに長けた人間を送っておりますので続報をお待ちください」
「わかった」
裏にも通じる人材を使ったかとロイッツァは考えながら椅子から立ち上がり窓から外を見て口を開いた。
「他の国にどう影響してくるかが読めない。グライアードの動向は常に把握しておくのだぞ」
「承知しております」
「うむ。それとエトワール王国に行くという鍛冶師は居たか?」
「いえ……残念ですが。興味はありそうでしたが、命と引き換えにというわけにはいかないようで」
「そうか」
予測できたことだが、やはりそうなったかと首を振るロイッツァ。強制するわけにはいかないので仕方ないだろう。
事実を語っておかないと後でなにを言われるかという問題もある。
しかしそこで一つ頭に思い浮かんだことをフィブリックへ尋ねた。
「そういえば、あのよく謁見に来ていた男はどうした?」
「あの変人でございますか」
「うむ、確か名前はギャレットだったか? ……まあ、変人といえばそうだな……しかし、妙なものを作っては献上に来ていただろう? あの男なら引き受けるのではないか?」
なにか作っては献上のため謁見を申し入れるという困った男だが性根は良いと認識ている。彼ならば珍しいものに食いつくのではないかと考えた。
しかし――
「どうも出かけているようで自宅には誰もいませんでした。本日まで声はかけたのですが……」
「そうか……帰ってきたら提案をしてみるか」
ロイッツァはアウラに手助けが殆どできなかったなと目をつぶった。
なるべく早く情報を集めてから方針を決める。窓から少しだけ見えるヴァイスの頭を見てそう思うのだった――
◆ ◇ ◆
「そいつは俺の機体だ」
謎のおっさんがヴァイスを誰のものか尋ねて来たので、俺が返事をする。
シャルが一歩前へ出ると、おっさんと娘が目を丸くして駆け寄って来た。
「おう!? 小人か!?」
「凄いよ親父……! あたい初めて見た!」
「そらおめえ俺が初めて見たんだからお前が初めてなのは当然だろうが」
「それもそうだ」
「ノリが良すぎるだろ」
娘と漫才みたいな会話を聞いてついツッコミを入れてしまった。するとおっさんの方が顎に手を当ててから微笑む。
「小人に巨人とは面白い組み合わせだな。これはどう使うものなんだ?」
「まあ、主に戦闘用だが建築の手伝いもできるし重い荷物を運んだりとかもやる。そうだなあ、そこに荷台があるだろ? それに騎士を乗せて引っ張って来た」
「え、そこの人達全員を?」
「ああ」
「馬車でも無理だぞ……?」
娘の方がヴァイスと騎士を見比べた後、目を輝かせながら両手を握って飛び跳ねる。
「見たい見たい!」
「あー、悪いな。今からエトワール王国に帰る予定なんだ。遊んでいる暇はないんだよ」
「悪いわね。そこまで嬉しそうだとちょっと心苦しいけど、急がないといけないの」
「そうなの?」
「ふむ、俺もちょっと触ってみたいんだが……ついていってもいいか?」
「ええと……それは……」
そこでアウラ様が事情を説明した。
自分達の立場とエトワール王国の現状。そしてグライアードの侵攻についてを。
すると――
「「調子にのってすみませんでしたぁぁぁぁ」」
――親子はその場で土下座をした。異世界にも土下座文化はあるんだな……起源は古代のインドらしいけど詳しくは知らない。
それはともかくそれを見たアウラ様が苦笑しながら二人へ話しかけた。
「いえ、ここはエトワール王国ではありませんし今は国を追われた身です。そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」
「「ありがとうございます……!」」
親子は青い顔で頭を上げると、アウラ様に感謝を述べていた。感情がわかりやすくていいな。そんなことを考えているとシャルも苦笑しながら言う。
「ま、そういうわけで一緒に来ても戦争に巻き込まれるだけだからついてくるのはやめておいた方がいいわ」
「ふむ……」
「親父、これは……」
「?」
シャルの言葉を聞いた後、土下座の態勢から立ち上がり親父さんはなにかを考えだし、娘も神妙な顔でヴァイスを見上げた。
程なくして目をカッと開いた親父さんがアウラ様へ向いて喋り出す。
「やはり同行させていただきたい。戦争は恐ろしいが、それ以上にこいつとグライアードの巨人が気になるので」
「ええ? 戦争中よ? 死んじゃうかもしれないのに。それに娘さんを巻き込むつもり?」
「大丈夫ですよシャルル姫様! あたいはいつでも死ぬ覚悟はできていますから!」
「嫌な覚悟をもつな!?」
俺がツッコミを入れると、親父さんが手を前に出してから問いに答えてくれた。
「こう見えても俺は鍛冶師兼発明家で、手先が器用なんでさ。もしかしたら壊れた巨人を直せるかもしれん」
「あれ? 王様に全然認められないから今日から冒険家だ! って言ってたじゃ……痛っ!」
「ぼ、冒険家の俺はもう居ない! 今日からまた発明家に戻……痛い!?」
「いきなり頭をはたくなクソ親父っ!」
照れ隠しに親父が娘の頭をはたいた瞬間、娘は親父のケツへ鋭いミドルキックを炸裂させた。
そして始まる突然の親子喧嘩。さっきまでの和やかな雰囲気はなんだったのか。
にらみ合う二人に、俺が呆れながら声をかけた。
「姫様の前で喧嘩すんなって。で、親父さんに聞きたいんだが、あんたはこういうのが好きなのか?」
「お、おお! そのとおり! 俺は新しいものを見たり作ったりするのが好きでな。それだけじゃ食えないから剣を鍛えたりしている。こんな機会もそうそうない、ぜひ同行を許可していただきたいのですが……」
「急に弱気になる親父であった」
「う、うーん……」
親子のやり取りに悩むアウラ様。俺が決定するのは違うと思うけど、声をかけておこうかね?
「変な親子だけど悪い奴らじゃなさそうだ。見たら満足するかもしれないし、役に立つかもしれない。一緒でもいいんじゃないか?」
「お! お兄さん話がわかるね! 付き合ってあげてもいい――」
「だ・め・よ……?」
「ひぃ!?」
「笑顔で殺気を出すなシャル。どうかなアウラ様」
「ふふ、そうですね。戦争中でも良いと言うのであればこちらからお願いしたいところです」
「「おお! やった……!」」
アウラ様が許可をすると親子は笑顔でハイタッチをして躍り出した。
「いいのでしょうか……」
「まあ技術屋として使えるかもしれないしな。それじゃ移動するからリヤカーに乗ってくれ!」
「しゅっぱーつ!」
なんかよく分からないが妙な親子が仲間になった。走り出してから俺はあることに気付く。
「そういやまだ名前を聞いていなかったな。俺は凌空。神代凌空だ」
「お、そういえばそうだな。俺はギャレット」
「あたいは娘のバスレーナよ! よろしくねリクさん、お姫様!」
「おう!」
そして俺達は再び国境を目指す。他の手を考えないといけないしな。
「はい。民のために行くのだとおっしゃっておりました」
「……両親に似て気丈だな」
ヘルブスト国の王であるロイッツァは執務机で仕事をしていた。そこで宰相のフィブリックから受けた報告を聞いてポツリと呟いていた。
「助けられるならと思うが、情報が足りぬ」
「左様ですな。ひとまずグライアードへリサーチャーを派遣しました」
「ありがとう。まずは敵の内情を探らねばならん。巨人の設計図でも手に入れば確実なのだが……そもそも入国できるのだろうか」
「一応、そういったことに長けた人間を送っておりますので続報をお待ちください」
「わかった」
裏にも通じる人材を使ったかとロイッツァは考えながら椅子から立ち上がり窓から外を見て口を開いた。
「他の国にどう影響してくるかが読めない。グライアードの動向は常に把握しておくのだぞ」
「承知しております」
「うむ。それとエトワール王国に行くという鍛冶師は居たか?」
「いえ……残念ですが。興味はありそうでしたが、命と引き換えにというわけにはいかないようで」
「そうか」
予測できたことだが、やはりそうなったかと首を振るロイッツァ。強制するわけにはいかないので仕方ないだろう。
事実を語っておかないと後でなにを言われるかという問題もある。
しかしそこで一つ頭に思い浮かんだことをフィブリックへ尋ねた。
「そういえば、あのよく謁見に来ていた男はどうした?」
「あの変人でございますか」
「うむ、確か名前はギャレットだったか? ……まあ、変人といえばそうだな……しかし、妙なものを作っては献上に来ていただろう? あの男なら引き受けるのではないか?」
なにか作っては献上のため謁見を申し入れるという困った男だが性根は良いと認識ている。彼ならば珍しいものに食いつくのではないかと考えた。
しかし――
「どうも出かけているようで自宅には誰もいませんでした。本日まで声はかけたのですが……」
「そうか……帰ってきたら提案をしてみるか」
ロイッツァはアウラに手助けが殆どできなかったなと目をつぶった。
なるべく早く情報を集めてから方針を決める。窓から少しだけ見えるヴァイスの頭を見てそう思うのだった――
◆ ◇ ◆
「そいつは俺の機体だ」
謎のおっさんがヴァイスを誰のものか尋ねて来たので、俺が返事をする。
シャルが一歩前へ出ると、おっさんと娘が目を丸くして駆け寄って来た。
「おう!? 小人か!?」
「凄いよ親父……! あたい初めて見た!」
「そらおめえ俺が初めて見たんだからお前が初めてなのは当然だろうが」
「それもそうだ」
「ノリが良すぎるだろ」
娘と漫才みたいな会話を聞いてついツッコミを入れてしまった。するとおっさんの方が顎に手を当ててから微笑む。
「小人に巨人とは面白い組み合わせだな。これはどう使うものなんだ?」
「まあ、主に戦闘用だが建築の手伝いもできるし重い荷物を運んだりとかもやる。そうだなあ、そこに荷台があるだろ? それに騎士を乗せて引っ張って来た」
「え、そこの人達全員を?」
「ああ」
「馬車でも無理だぞ……?」
娘の方がヴァイスと騎士を見比べた後、目を輝かせながら両手を握って飛び跳ねる。
「見たい見たい!」
「あー、悪いな。今からエトワール王国に帰る予定なんだ。遊んでいる暇はないんだよ」
「悪いわね。そこまで嬉しそうだとちょっと心苦しいけど、急がないといけないの」
「そうなの?」
「ふむ、俺もちょっと触ってみたいんだが……ついていってもいいか?」
「ええと……それは……」
そこでアウラ様が事情を説明した。
自分達の立場とエトワール王国の現状。そしてグライアードの侵攻についてを。
すると――
「「調子にのってすみませんでしたぁぁぁぁ」」
――親子はその場で土下座をした。異世界にも土下座文化はあるんだな……起源は古代のインドらしいけど詳しくは知らない。
それはともかくそれを見たアウラ様が苦笑しながら二人へ話しかけた。
「いえ、ここはエトワール王国ではありませんし今は国を追われた身です。そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」
「「ありがとうございます……!」」
親子は青い顔で頭を上げると、アウラ様に感謝を述べていた。感情がわかりやすくていいな。そんなことを考えているとシャルも苦笑しながら言う。
「ま、そういうわけで一緒に来ても戦争に巻き込まれるだけだからついてくるのはやめておいた方がいいわ」
「ふむ……」
「親父、これは……」
「?」
シャルの言葉を聞いた後、土下座の態勢から立ち上がり親父さんはなにかを考えだし、娘も神妙な顔でヴァイスを見上げた。
程なくして目をカッと開いた親父さんがアウラ様へ向いて喋り出す。
「やはり同行させていただきたい。戦争は恐ろしいが、それ以上にこいつとグライアードの巨人が気になるので」
「ええ? 戦争中よ? 死んじゃうかもしれないのに。それに娘さんを巻き込むつもり?」
「大丈夫ですよシャルル姫様! あたいはいつでも死ぬ覚悟はできていますから!」
「嫌な覚悟をもつな!?」
俺がツッコミを入れると、親父さんが手を前に出してから問いに答えてくれた。
「こう見えても俺は鍛冶師兼発明家で、手先が器用なんでさ。もしかしたら壊れた巨人を直せるかもしれん」
「あれ? 王様に全然認められないから今日から冒険家だ! って言ってたじゃ……痛っ!」
「ぼ、冒険家の俺はもう居ない! 今日からまた発明家に戻……痛い!?」
「いきなり頭をはたくなクソ親父っ!」
照れ隠しに親父が娘の頭をはたいた瞬間、娘は親父のケツへ鋭いミドルキックを炸裂させた。
そして始まる突然の親子喧嘩。さっきまでの和やかな雰囲気はなんだったのか。
にらみ合う二人に、俺が呆れながら声をかけた。
「姫様の前で喧嘩すんなって。で、親父さんに聞きたいんだが、あんたはこういうのが好きなのか?」
「お、おお! そのとおり! 俺は新しいものを見たり作ったりするのが好きでな。それだけじゃ食えないから剣を鍛えたりしている。こんな機会もそうそうない、ぜひ同行を許可していただきたいのですが……」
「急に弱気になる親父であった」
「う、うーん……」
親子のやり取りに悩むアウラ様。俺が決定するのは違うと思うけど、声をかけておこうかね?
「変な親子だけど悪い奴らじゃなさそうだ。見たら満足するかもしれないし、役に立つかもしれない。一緒でもいいんじゃないか?」
「お! お兄さん話がわかるね! 付き合ってあげてもいい――」
「だ・め・よ……?」
「ひぃ!?」
「笑顔で殺気を出すなシャル。どうかなアウラ様」
「ふふ、そうですね。戦争中でも良いと言うのであればこちらからお願いしたいところです」
「「おお! やった……!」」
アウラ様が許可をすると親子は笑顔でハイタッチをして躍り出した。
「いいのでしょうか……」
「まあ技術屋として使えるかもしれないしな。それじゃ移動するからリヤカーに乗ってくれ!」
「しゅっぱーつ!」
なんかよく分からないが妙な親子が仲間になった。走り出してから俺はあることに気付く。
「そういやまだ名前を聞いていなかったな。俺は凌空。神代凌空だ」
「お、そういえばそうだな。俺はギャレット」
「あたいは娘のバスレーナよ! よろしくねリクさん、お姫様!」
「おう!」
そして俺達は再び国境を目指す。他の手を考えないといけないしな。
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