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第二章
第56話 進展
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謁見から二日が経った。
特に部屋から出ることもなく、鍛冶の人間や興味がある者を集めるということで城下町へ確認を取ったようだが――
「……申し訳ない。手を上げた者は誰も居なかった」
「そう、ですか」
「……」
宰相と一緒にやってきたロイード王子が、力及ばずと悔しそうな顔をして俺達へそう告げた。アウラ様は少しショックを受けていたが、元々ダメもとであると話していたのでそこまで悲観的ではなさそうだ。
「隣国が困っているというのになにもできないとは……」
「わざわざありがとうございますロイード王子。お気持ちは分かっておりますのでご自分を責めないでください」
「ありがとうアウラ姫。シャルル姫もご期待に応えられず申し訳ない」
「大丈夫ですよ。結婚、控えているんでしょう? 色々重なっているから仕方ないわ」
「知っていたのかい?」
「廊下でメイドさん達が話していたわ。あ、叱らないであげてね? みんなこの国を心配しての発言だったし」
シャルにそう言われて困った顔で笑うロイード王子。そりゃ隣国のお姫様二人がこっちへ来ていたら噂にもなる。
戦争が始まっていることを隠す必要は無い。むしろ備えをするべく通達をしているくらいだろう。
「……外にある君たちの巨人を見てきたけど、確かに人間単体であれと戦うのは無茶だと感じたよ」
「その認識は合っていますよ。それでもやるしかないし、やりようはある」
「すまない異世界の客人。しかし、手助けができる態勢ができないか調査をするつもりだ」
「無理しないでくださいね」
「ああ。君達の無事を祈っているよ」
ロイード王子はそういってから部屋を後にした。少し楽観的な感じもするが、誠実な態度は好感が持てるかな。実現できるかはともかく、その気持ちは大事だ。
俺がヴァイスに乗っているのも地球のためだ。あれは異星人だけど。
ロイード王子が出て行き、宰相と俺達だけになるとアウラ様が言う。
「残念ですがこれ以上滞在をしてご迷惑をおかけするわけにはいきません。私達はこれからエトワール王国に戻ります」
「……戻られるのですか? 危険な場所に行く必要もないかと思うのですが……」
「そういうわけにはいかないわ。あたし達だけ避難して後は民がどうなろうと知ったことがないってあなた言える?」
「いえ……」
シャルの言葉に宰相が目を泳がせて冷や汗を流す。
それもそうだろう、シャルのまとっている雰囲気が恐ろしいものに変わったからだ。
この3D映像でそれが伝わるのかと言われると難しいが、明らかに部屋の空気が違っていた。シャルは剣を使うが、日本でいう剣豪のような鋭い気配だと感じた。
「それじゃあ行きましょうお姉さま」
「ええ。それではエトワール王国の騎士に通達をお願いします」
「かしこまりました」
宰相は頭を下げてから部屋を後にし、アウラ様とシャルも荷物をまとめて外へ出た。
馬車の用意をしてくれると言っていたが俺が引っ張って帰るのでそれは不要だと断っていた。
「アウラ様、救援は無理でしたが脅威は伝えられました。それだけでも良しとしましょう」
「戦いは我々騎士が支えます。各地に散った仲間もいるでしょうしリク殿もいます。何年かかったとしてもエトワール王国を取り戻しましょう」
「そうですね。グライアードの狙いが分からないですが、ここから他国へ話がいけば彼等に対する牽制をしてくれれば犠牲は減るでしょうし、それでも価値はありました」
やがて騎士達も城の外に出てきてそんな話をしていた。アウラ様を心配させないよう色々考えていたと思われる。いい奴等だな。
全員揃っていることを確認すると、見送りも無いまま町の外へと向かう。
「外に出るまでの馬車は必要だったかしらね」
「気にしないでいいでしょう。次にいつくるかわかりませんしね」
「違いない。さっさと爺さん達と合流しないとな」
騎士が多いので目立つ俺達は町の人間に注目されていた。だがアウラ様は凛とした調子で彼等の視線は気にせず歩いていく。
「……お気をつけて」
「ええ」
敬礼する門番に挨拶をしてそのまま外へ出ると、すぐにヴァイスの下へ行く。見慣れた機体が目に入るとサクヤが声をかけてきた。
<お戻りになられましたか皆さん。大変でしたね>
「ありがとうございます、サクヤ様。しかし嘆いている暇はありません。早速ですがエトワール王国へ戻ります」
「さて、それじゃそっちに戻るか」
「ええ、もうちょっといいじゃない? サクヤでも動かせるんでしょ?」
「まあそうだけどタブレットを持ったままもきついだろ?」
「別に――」
と、シャルがなにかを言いかけたその時、大きな声が聞こえて来た。
「お、親父! ありゃなんだ!?」
「知らん!」
「おお、親父でも知らないことがあるんだな……」
「しかし待ちたまえ娘よ。見た感じ鉄の巨人のようだ。これは……やっぱりわからん!」
「あははは! 親父は素直だなあ!」
そこにはヴァイスを見上げて謎の会話を繰り広げる親子が居た。30半ばくらいの赤い髪に髭のおっさんに、同じく赤い髪をみつあみおさげにしている14、5歳くらいの女の子だ。
二人とも声がでかくて笑い合っている。
「なんだ?」
「凄く楽しそうな親子ね……?」
「む、騎士がたくさんいる……? すこし尋ねたいのだがこれはあなた達のものかな?」
俺達に気付いた親父さんが手を上げながら俺達に話しかけて来た。二人とも背中にでかいバッグを背負っているが旅人か?
特に部屋から出ることもなく、鍛冶の人間や興味がある者を集めるということで城下町へ確認を取ったようだが――
「……申し訳ない。手を上げた者は誰も居なかった」
「そう、ですか」
「……」
宰相と一緒にやってきたロイード王子が、力及ばずと悔しそうな顔をして俺達へそう告げた。アウラ様は少しショックを受けていたが、元々ダメもとであると話していたのでそこまで悲観的ではなさそうだ。
「隣国が困っているというのになにもできないとは……」
「わざわざありがとうございますロイード王子。お気持ちは分かっておりますのでご自分を責めないでください」
「ありがとうアウラ姫。シャルル姫もご期待に応えられず申し訳ない」
「大丈夫ですよ。結婚、控えているんでしょう? 色々重なっているから仕方ないわ」
「知っていたのかい?」
「廊下でメイドさん達が話していたわ。あ、叱らないであげてね? みんなこの国を心配しての発言だったし」
シャルにそう言われて困った顔で笑うロイード王子。そりゃ隣国のお姫様二人がこっちへ来ていたら噂にもなる。
戦争が始まっていることを隠す必要は無い。むしろ備えをするべく通達をしているくらいだろう。
「……外にある君たちの巨人を見てきたけど、確かに人間単体であれと戦うのは無茶だと感じたよ」
「その認識は合っていますよ。それでもやるしかないし、やりようはある」
「すまない異世界の客人。しかし、手助けができる態勢ができないか調査をするつもりだ」
「無理しないでくださいね」
「ああ。君達の無事を祈っているよ」
ロイード王子はそういってから部屋を後にした。少し楽観的な感じもするが、誠実な態度は好感が持てるかな。実現できるかはともかく、その気持ちは大事だ。
俺がヴァイスに乗っているのも地球のためだ。あれは異星人だけど。
ロイード王子が出て行き、宰相と俺達だけになるとアウラ様が言う。
「残念ですがこれ以上滞在をしてご迷惑をおかけするわけにはいきません。私達はこれからエトワール王国に戻ります」
「……戻られるのですか? 危険な場所に行く必要もないかと思うのですが……」
「そういうわけにはいかないわ。あたし達だけ避難して後は民がどうなろうと知ったことがないってあなた言える?」
「いえ……」
シャルの言葉に宰相が目を泳がせて冷や汗を流す。
それもそうだろう、シャルのまとっている雰囲気が恐ろしいものに変わったからだ。
この3D映像でそれが伝わるのかと言われると難しいが、明らかに部屋の空気が違っていた。シャルは剣を使うが、日本でいう剣豪のような鋭い気配だと感じた。
「それじゃあ行きましょうお姉さま」
「ええ。それではエトワール王国の騎士に通達をお願いします」
「かしこまりました」
宰相は頭を下げてから部屋を後にし、アウラ様とシャルも荷物をまとめて外へ出た。
馬車の用意をしてくれると言っていたが俺が引っ張って帰るのでそれは不要だと断っていた。
「アウラ様、救援は無理でしたが脅威は伝えられました。それだけでも良しとしましょう」
「戦いは我々騎士が支えます。各地に散った仲間もいるでしょうしリク殿もいます。何年かかったとしてもエトワール王国を取り戻しましょう」
「そうですね。グライアードの狙いが分からないですが、ここから他国へ話がいけば彼等に対する牽制をしてくれれば犠牲は減るでしょうし、それでも価値はありました」
やがて騎士達も城の外に出てきてそんな話をしていた。アウラ様を心配させないよう色々考えていたと思われる。いい奴等だな。
全員揃っていることを確認すると、見送りも無いまま町の外へと向かう。
「外に出るまでの馬車は必要だったかしらね」
「気にしないでいいでしょう。次にいつくるかわかりませんしね」
「違いない。さっさと爺さん達と合流しないとな」
騎士が多いので目立つ俺達は町の人間に注目されていた。だがアウラ様は凛とした調子で彼等の視線は気にせず歩いていく。
「……お気をつけて」
「ええ」
敬礼する門番に挨拶をしてそのまま外へ出ると、すぐにヴァイスの下へ行く。見慣れた機体が目に入るとサクヤが声をかけてきた。
<お戻りになられましたか皆さん。大変でしたね>
「ありがとうございます、サクヤ様。しかし嘆いている暇はありません。早速ですがエトワール王国へ戻ります」
「さて、それじゃそっちに戻るか」
「ええ、もうちょっといいじゃない? サクヤでも動かせるんでしょ?」
「まあそうだけどタブレットを持ったままもきついだろ?」
「別に――」
と、シャルがなにかを言いかけたその時、大きな声が聞こえて来た。
「お、親父! ありゃなんだ!?」
「知らん!」
「おお、親父でも知らないことがあるんだな……」
「しかし待ちたまえ娘よ。見た感じ鉄の巨人のようだ。これは……やっぱりわからん!」
「あははは! 親父は素直だなあ!」
そこにはヴァイスを見上げて謎の会話を繰り広げる親子が居た。30半ばくらいの赤い髪に髭のおっさんに、同じく赤い髪をみつあみおさげにしている14、5歳くらいの女の子だ。
二人とも声がでかくて笑い合っている。
「なんだ?」
「凄く楽しそうな親子ね……?」
「む、騎士がたくさんいる……? すこし尋ねたいのだがこれはあなた達のものかな?」
俺達に気付いた親父さんが手を上げながら俺達に話しかけて来た。二人とも背中にでかいバッグを背負っているが旅人か?
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