魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

文字の大きさ
上 下
54 / 146
第二章

第53話 応じられない要求

しおりを挟む
「ロイードよ、彼女達には悪いがそれはできないのだ」
「なぜです……!」
「友好国ではあるが、エトワール王国は奪われた。そこでヘルブスト国が救援をしたとなればどうだ? 次は我が国が狙われる」
「それは……」

 救援の拒否をしたロイッツァ国王陛下。
 思ったとおり、次の標的にされる危惧をしていたようだ。さらに言葉を続ける。

「……人間同士の戦いならまだ話を聞けるのだが、魔兵機《ゾルダート》なる巨人はあまりにも強力すぎる。勝ち目の薄い戦いに民を危険に晒すわけにはいかない」
「う……」

 実際ロイッツァ国王の言うことは正しい。
 未知の戦力である魔兵機《ゾルダート》相手に奇襲とはいえほぼなにも出来ずに敗北しているのだから迎え撃ったとしても大量の機体を投入されれば危うい。
 士気を削ぐのも悪いし、救援してくれる可能性もあったからなにも言わずにここまで来たけど結果はおおよそ予測通りだったと言える。

 それはそうなのだが――

「し、しかしこのままではエトワール王国の民がどうなるかわかりません……戦いに参加しないまでも、避難民の受け入れはできないでしょうか……?」
「……心苦しいが、協力をしていると取られたらどうなるかわからない」
「そんな……! なんとか国民だけでも……」

 アウラ様とシャルは懇願するが、ロイッツァ国王は首を振った。その瞬間、二人の顔が青ざめる。

 ――国のトップとしては正解だ。
 自国民を危険に晒す奴はいないだろう。腰抜けと言われても犠牲を出さない施策は問題ないと言える。
 これを決定できたのは、先に伝令を出した人達のおかげだろう。急に言われたら感情的に手助けをする可能性がある。

 しかし、World Defense Mechanism世界防衛機構で兵士としてやっていた俺としては一応、口を挟んでおきたい。

「……無礼を承知で一言だけいいですか?」
「リ、リク?」
「おう!? ……こ、小人?」
「誰ですか?」
「申し遅れました。俺……私は神代凌空といいます。このような姿で申し訳ございません」

 驚くロイッツァ国王とロイード王子に頭を下げて自己紹介をする。そのまま続けて考えを述べることにした。

「私は外にあるヴァイスという魔兵機《ゾルダート》に似た兵器のパイロット……操縦者です。ここまで彼女達を護衛してきました」
「おお……! あなたが……!」
「はい。そして私はこの世界の人間ではありません」
「「なんと……!?」」
「リク様、それは……」

 驚く二人。
 困惑気味のアウラ様が俺になにかを言おうとするが、それを制止して続けた。

「私の世界ではこういった地上ではなく、別の星からの侵略を受けて戦争をしていました。いや、今でもやっていると思います」
「別の星……」
「あたしも初めて聞いたんだけど?」
「ガエイン爺さんには話していたけどな。まあ、面白い話でもないし」

 シャルが口をとがらせていたが、解決もしないしあえて話さなかったと言っておく。

「星……あの天にあるあれに別の人間がいるというのか?」
「そうです。それで地球という星が私の故郷ですが、別の生命体に襲われたわけですね。そこで地球にある国家は総動員し、協力して対応に当たっています」
「それは理解しました。ですが、それとアウラ様達となにか関係が……?」
「まだ続きがあります。ちょっと立場は違いますが、力を持っている相手は一つの目的を達しただけでことが済むだろうか? ということです」
「……」

 そこでロイッツァ国王が俺の言いたいことに気づいたらしく、片眉が上がる。

「エトワール王国への進撃理由がわからないのでなんとも言えませんが、ここまであっさりと占領できたということは他国にも同じことができるということ――」
「……だから協力して討たねば、エトワール王国に与するまでもなく襲われる。そう言いたいのだな」
「ご明察の通りです」
「リク……!」
「リク様!」

 意図を理解したロイッツァ国王に頷くと、救援の援護を促す話と思ったアウラ様とシャルが歓喜の声を上げる。
 
「リク殿の言いたいことはわかる。だが、魔兵機《ゾルダート》なる兵器と戦う愚策をここで決断するわけにはいかない。私とて心苦しいが分かって欲しい」
「ああ……」
「お姉さま……!? どうしてもだめなのかしら……」

 やはり無理だと返してきたロイッツァ国王の言葉にアウラ様が倒れそうになる。まあ、それでも今後に期待できそうな話にはなった気がする。
 後もう一芝居打っておくか?

「仕方ないさシャル。自国民を守る決断ってのもトップには必要だ。お前も見た通り、俺のヴァイスは魔兵機《ゾルダート》よりも数段上の機体だ。なんとか頑張ってみようじゃないか」
「リクぅ……」
「俺の世界の技術レベルは高い。腕のいい技師さえいれば鹵獲した魔兵機《ゾルダート》を使えるようにできるはず。年数はかかるかもしれないがそこから生産も可能になるかもしれないだろ」
「……」

 半ば泣きそうな顔で俺に目を向けるシャルにそう言ってやる。慰めの意味もあるが、もう一つ。

「……ふむ、我々としても自国を防衛するため魔兵機《ゾルダート》という兵器がどんなものか確認する必要はあるか。対抗策を考えねばならない。ガーディン、表にあるリク殿のヴァイスのことを鍛冶師たちに伝えてくれ。興味を持つ技師が居ればクレイブの町に派遣してどのようなものか確認させるのだ」
「よろしいので?」
「うむ。問題ない。のだからな?」

 ロイッツァ国王はそう言って指示を出した。だいたいだが、双方にとっての落としどころができたという感じか。

「承知しました」
「父上……?」
「ありがとうございます。陛下」

 困惑するロイード王子。そこへ俺が頭を下げるとロイッツァ国王はため息を吐きながら肘をつく。

「協力はできんが、こちらの利になる行動はさせてもらう」
「それでいいと思います」
「まったく……異世界の人間とは……謁見はこれで終了だ。アウラ殿とシャルル殿はこの国に残ってもらっても構わないが?」
「……いえ、私の国が窮地なのです。戻らないということは有り得ません。お話を聞いてくださいましてありがとうございます。お気遣い、感謝いたします」
「今日は休んでいくといい。女官とメイドに案内を頼む」
「ハッ! ではアウラ様、ひとまずこちらへ――」

 ヘルブスト国の騎士に案内され、俺達は謁見の間から退場する。
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...