魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第二章

第49話 交代

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 国境を越えてひた走る……というわけには行かず、アウラ様とシャルが乗った馬車に合わせての移動だ。
 一歩が全然違うので俺としてはかなりやりづらい。

「リク殿、大丈夫ですかー?」
「ああ、ちょっと歩きにくいけど道は広いから大丈夫だ」

 幸いなのは街道が広く、平地だということだろう。いわゆる道路ですれ違いができる広さといえば伝わるか。馬車がすれ違えるようにしているそうである。

「木が少ないのもありがたいか」
「ヘルブスト国の国境付近は多かったですけどね。なにかあった時にすぐ攻められないようにしているのだと思います」

 騎士が理由を教えてくれ合理的にわざと木を残しているのだと言う。魔兵機《ゾルダート》にはどこまで通用するかわからないけど、足止めにはなるかな。
 ここからさらに三日かかるが、ひとまず姫二人が隣国へ逃れることができたのでエトワール王国の騎士達も世間話ができる程度には緊張が解けたようだ。

「ま、見晴らしがいいのは助かるけどな」
<接近警報>

 そこでサクヤが敵性存在の接近を俺に告げる。レーダーを確認すると馬車の右前方に赤いマーカーが見えた。

「おっと、6体か。人間か?」
<いえ、ネズミに似た生物のようです>
「オッケーだ」

 それを聞いた俺は適当に拾った石をマーカーのあたりに全力で投擲する。

【ブォォォン!?】
「おお……!?」

 着弾と同時に魔物の声が響き渡る。まだ夜明け前で静かなのでよく聞こえてくるな。前を走る馬車の御者さんがびっくりしていた。
 二頭ほど倒したところで残りが慌てて散っていくのが見えた。

「ありがとうリクー!」
「おう」

 馬車の荷台についている窓からシャルが顔を出して手を振ってくれたので、俺も手ごろな岩を捨てて返しておく。
 ちなみに魔物とはこれで二回目の遭遇である。

「エトワール王国の時より出会うなあ」
「地域性もありますからね。町の周辺などは冒険者達が狩ってくれていたりしますよ」
「ゲイズタートルみたいなのは居るのか?」
「もちろんいます。大型の魔物は倒すのが大変なのであまり刺激しないようにしていますがね」

 魔物への対応はどこも大変らしく、貿易の要になる商人の移動時も今みたいに襲われないように冒険者を雇ったり魔物避けの薬を撒いたりと工夫をしているそうだ。

「しかし、リク殿が居れば魔兵機《ゾルダート》すらも打倒ができる! 姫様を一緒に守り切ってもらえる!」
「ヘルブスト国へ到着できたのもあなたのおかげです。本当にありがとうございました」
「まだ終わったわけじゃないさ。むしろこれからだろ」
「はい。それでもこの国に入った時点でとりあえずの安全は確保できましたからね」

 俺の働きを騎士達が絶賛してくれていた。まあ、今の内ならいいか。この人達もここまで緊張と戦いの連続だったしな。
 そんな話をしながら先を急ぎ、二時間ほど移動したところで町が見えてきた。

「寄るのかい?」
「ええ、ここで少し休憩します。次の町は今から馬車で移動すると昼を少し過ぎたくらいになるでしょう。そこで一泊ですね」
「了解した」

 町に到着したのは午前四時ごろだった。
 俺を除く全員が町へ移動し、しばらく待つことになったのだが、二時間ほどで戻って来た。

「アウラ様、お体を大事にしてください!」
「ご厚意は嬉しく思います。ですが、私達は早く王都に行かなければならないのです……!」
「あたし達の国だけの問題だけじゃない可能性もあるし、分かって欲しい」
「それは……」

 ヘルブスト国の兵士はゆっくりして欲しかったようだが、どうやらアウラ様とシャルがそれを拒否して出発を選んだらしい。
 シャルが困った顔で笑いながらヘルブストの人間に告げていた。
 占領目標がエトワール王国だけとは限らないのでシャルの言い分は正しいと言える。
 救援とは別に一刻も早く対策ができるようにしておくのが大事なのだ。

「では、我々は戻ります。ご無事をお祈りしております」
「ありがとうございました」
「この兵器があれば大丈夫とは思いますが」
「これが話のあった……巨人……」

 門番をしていた兵士はここで折り返すらしく、今度は別の人間が同行するようだ。
 装備を固めた人が俺達の前に来て敬礼をした。

「ロクサスと申します。護衛が少なく恐縮ですが、最近魔物が多く、戦力が回せないのです。ご理解いただけると幸いです」
「ハーセスです。他国のお姫様の護衛とは光栄です。王都までよろしくお願いいたします」

 と、自己紹介する二人の他、三人の護衛が増えた。馬車はまた別のものに変わり、再び出発となった。

 町を大きく迂回して進む。相変わらず道が広いが馬車に合わせるのは大変だ。そこでなんとなく俺は馬車と並走し、ヘルブストの質問を投げかけた。

「この国、魔物が多いんですか?」
「巨人……リク様でしたか? ええ、この時期は増えるんですよ。魔素が濃くなるので」
「マソ?」
「ご存じではないのですか?」
「ああ、リクは知らないわね。魔素っていうのは空気中に含まれている魔力の粒子よ。魔法を使うのもこれがあるから使えるの」
「しかし、空気と違い動物や木に蓄積されることがあるのです。それが魔物や魔樹といった事態を引き起こします」

 淀んだ空気みたいなものだろうか。
 ダンジョンと呼ばれる洞窟や深い森の中などでそういった現象があるらしい。で、この時期はその魔素というのが増えるのだそうだ。

<花粉……?>
「俺も思ったがそんな単純なものじゃないだろ」

 サクヤの言葉に呆れるが俺もちょっとそう思ったのでそれ以上は言わない。
 そしてそんな話を裏付けるかのごとく、その後も何度か遭遇することになった。
 にしてもエトワール王国に比べると多いな……?

 そう感じたが王都までの道のりは、調査する暇もなく処理をし続けるのみだった。
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