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第二章
第48話 国境
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「ふあ……そろそろ見えてきそうだけど……」
「灯りが見えてきた。恐らくあれだな」
仮眠から目覚めたシャルがコクピットから顔を出しながら言う。
俺の目である望遠カメラをズームすると、数キロ先に灯りが見えた。
そこから左右に長く伸びた石の壁も視界に移っているのでここが国境なのだろう。
「よし、少し速度を上げるぞ」
「オッケー」
すでに時間は深夜帯で、交代で休んでいる騎士とアウラ様は寝息を立てている状況。しかし、到着する方が先だと足を速めた。
「あ、ふあ……?」
「お姉さま、国境に来たわよ」
「う、うーん……国境……? 国境……ハッ!? も、もうですか!? きゃ!?」
「シートベルトついてるから……」
アウラ様は寝ぼけた感じで呟いた後、慌てた様子で声を上げた。そしてどうやら身を乗り出そうとしてシートベルトに引っかかったようだ。シャルが呆れ笑いな声を出す。
「ふお……!? ゆ、揺れる!」
「お、すまない。少し我慢してくれ、そろそろ到着だ」
「早いな。さすがだ」
寝ていた騎士達も起き上がりそれぞれ安堵した感じで話し合っていた。
やがて見えていた灯りが近づき、門に設置されている松明だということが分かった。
先の町の砦のような様相がある国境へ辿り着くと、慌てた人達がぞろぞろと出てくるのが見える。
「な、なんだこれは!? 止まれ! 止まらんと……」
「どうにもできん……!?」
「諦めるなー!」
当然、俺を見て混乱が見られた。
とりあえず門の近くまでは行かず、手前で止まってから片膝をつく。取り囲まれそうになる前にアウラ様と騎士達が前に足ってくれた。
「夜分遅くに申し訳ありません。私はアウラ。エトワール王国の第一王女です」
「なんですと……!?」
このやり取りも何度目か。ヘルブスト国に行くまではこの調子になりそうだと思いながら話を聞く。
<追いつかれていないのが不思議なくらいですね>
「地図を見る限り広いからな……ジョンビエルとディッターとやらがこちら側の管轄で、俺が墜としたから追手は来ないって感じだろう」
ただ、時間が経てば経つほどグライアードの侵攻が加速していく。
ディッターは皆殺しといった感じではなかったので他の連中が常識的であることを祈るばかりだな。
「リクー。話、終わったわ!」
「ん? ああ、了解だ。ヘルブスト国へは入れるのかい?」
「えっと、はい。それは問題ないのですが、リク様はどうしようということになりまして」
「あ、やっぱこの身体はまずいか?」
「うーん、そうじゃなくて、どうやってこの壁を越えるかってことが問題なのよ」
話を聞くと、ちょっと怪しいが緊急事態なのでとりあえず越えても構わないとのことだそうだ。
俺的には巨大兵器を国に入れるのはリスクかと思ったのだが、判断しかねる感じだろう。これがアウラ様でなければ多分、無理だったろうな。
さて、それはともかく壁越えか。
まあ魔兵機《ゾルダート》ならいざ知らず、ヴァイスならこれくらいの壁は余裕だ。
「オッケー、ならちょっと下がっててくれ」
「え、い、いける?」
「任せろ」
驚くシャルにサムズアップで応えると、俺は助走をつけるため後ろへ下がった。
軽くジャンプした後、前傾姿勢を取る。
そしてリヤカーを頭上に抱えてから一気に駆け出す!
「うおおおおお!」
「おおおお! 速い!」
「だけどあの体でジャンプできるのか……!?」
騎士達の言葉を聞きながら壁に近づいて行き、いい距離になったところで地面を蹴って飛ぶ。
<このままだとつま先が引っ掛かりそうです>
「よし、ブースター起動!」
重力下でも浮かべる設計になっているので、俺は頂点に達する付近でブースターを吹かす。
「と、飛んだ!?」
実際には浮いているだけだが、飛んでいるようにも見えなくはない。さらに飛んで壁を越えると向こう側が少し騒がしかった。
<壁の厚さは3メートルですね。魔兵機《ゾルダート》なら体当たりでもすぐに壊されないレベルでしょう>
「お、調べていたのか。それならすぐには来れないか」
<他国を侵略するつもりがあれば、ですが>
「……まあな」
決め打ちでエトワール王国だけを狙っているなら他国への侵略は無いかもしれない。ただ、ここに居ることが知られたらアウラ様を引き渡せといった要求はありえそうだ。
そんな話をしていると国境を越えてきたエトワール王国のみんなが合流してきた。
「すごーい! リク、そんなこともできたの?」
「ああ。エネルギーは使うし、あんまり持続時間が無いから滅多に使わないけどな」
「ふう……良かったです。ここをリク様が越えられなければちょっと困ると考えていたので」
シャルとアウラ様が対照的な表情を見せながらそれぞれ口にする。
広い場所ならブースターを使って相手を翻弄しながら魔兵機《ゾルダート》と戦える。
そこへ騎士と、最初に話していた人と違う門番が来た。
「す、凄いですな……とりあえず目立つので入国をしてもらいましたが、王都へは入らないようにしていただきたい」
「わかった」
「ダメ、でしょうか」
「はい。流石にこれだけの物では。暴れられたら手に負えないですが、そこはエトワール王国を信用するということで。もちろん、道中は我々ヘルブストの者が同行するのでご了承ください」
「もちろんいいわ。やましいことなんて考えてないし」
ということでやはりというか当然ながらヘルブストの兵士がついてくるそうだ。
アウラ様とシャルはお供の騎士と馬車に乗せられた。人質というところまではいかないが、俺に対するけん制といったところだろう。
「ここから王都までどれくらいある?」
「馬車で三日です。途中、町があるので休憩は問題ありませんよ」
「そんな……急がないといけないのに……」
「ここはエトワール王国ではないので、申し訳ありませんがこちらに従っていただけると……」
馬車内の音声を拾うとそんな会話が聞こえてきた。アウラ様とヘルブストの兵士、両方の言い分は理解できる。
<長いですね>
「話がすんなりいけばすぐ戻れるさ。とりあえず従わないことには救援のお願いも出来ない」
俺はサクヤにそういってリヤカーを引いて歩き出すのだった。
「灯りが見えてきた。恐らくあれだな」
仮眠から目覚めたシャルがコクピットから顔を出しながら言う。
俺の目である望遠カメラをズームすると、数キロ先に灯りが見えた。
そこから左右に長く伸びた石の壁も視界に移っているのでここが国境なのだろう。
「よし、少し速度を上げるぞ」
「オッケー」
すでに時間は深夜帯で、交代で休んでいる騎士とアウラ様は寝息を立てている状況。しかし、到着する方が先だと足を速めた。
「あ、ふあ……?」
「お姉さま、国境に来たわよ」
「う、うーん……国境……? 国境……ハッ!? も、もうですか!? きゃ!?」
「シートベルトついてるから……」
アウラ様は寝ぼけた感じで呟いた後、慌てた様子で声を上げた。そしてどうやら身を乗り出そうとしてシートベルトに引っかかったようだ。シャルが呆れ笑いな声を出す。
「ふお……!? ゆ、揺れる!」
「お、すまない。少し我慢してくれ、そろそろ到着だ」
「早いな。さすがだ」
寝ていた騎士達も起き上がりそれぞれ安堵した感じで話し合っていた。
やがて見えていた灯りが近づき、門に設置されている松明だということが分かった。
先の町の砦のような様相がある国境へ辿り着くと、慌てた人達がぞろぞろと出てくるのが見える。
「な、なんだこれは!? 止まれ! 止まらんと……」
「どうにもできん……!?」
「諦めるなー!」
当然、俺を見て混乱が見られた。
とりあえず門の近くまでは行かず、手前で止まってから片膝をつく。取り囲まれそうになる前にアウラ様と騎士達が前に足ってくれた。
「夜分遅くに申し訳ありません。私はアウラ。エトワール王国の第一王女です」
「なんですと……!?」
このやり取りも何度目か。ヘルブスト国に行くまではこの調子になりそうだと思いながら話を聞く。
<追いつかれていないのが不思議なくらいですね>
「地図を見る限り広いからな……ジョンビエルとディッターとやらがこちら側の管轄で、俺が墜としたから追手は来ないって感じだろう」
ただ、時間が経てば経つほどグライアードの侵攻が加速していく。
ディッターは皆殺しといった感じではなかったので他の連中が常識的であることを祈るばかりだな。
「リクー。話、終わったわ!」
「ん? ああ、了解だ。ヘルブスト国へは入れるのかい?」
「えっと、はい。それは問題ないのですが、リク様はどうしようということになりまして」
「あ、やっぱこの身体はまずいか?」
「うーん、そうじゃなくて、どうやってこの壁を越えるかってことが問題なのよ」
話を聞くと、ちょっと怪しいが緊急事態なのでとりあえず越えても構わないとのことだそうだ。
俺的には巨大兵器を国に入れるのはリスクかと思ったのだが、判断しかねる感じだろう。これがアウラ様でなければ多分、無理だったろうな。
さて、それはともかく壁越えか。
まあ魔兵機《ゾルダート》ならいざ知らず、ヴァイスならこれくらいの壁は余裕だ。
「オッケー、ならちょっと下がっててくれ」
「え、い、いける?」
「任せろ」
驚くシャルにサムズアップで応えると、俺は助走をつけるため後ろへ下がった。
軽くジャンプした後、前傾姿勢を取る。
そしてリヤカーを頭上に抱えてから一気に駆け出す!
「うおおおおお!」
「おおおお! 速い!」
「だけどあの体でジャンプできるのか……!?」
騎士達の言葉を聞きながら壁に近づいて行き、いい距離になったところで地面を蹴って飛ぶ。
<このままだとつま先が引っ掛かりそうです>
「よし、ブースター起動!」
重力下でも浮かべる設計になっているので、俺は頂点に達する付近でブースターを吹かす。
「と、飛んだ!?」
実際には浮いているだけだが、飛んでいるようにも見えなくはない。さらに飛んで壁を越えると向こう側が少し騒がしかった。
<壁の厚さは3メートルですね。魔兵機《ゾルダート》なら体当たりでもすぐに壊されないレベルでしょう>
「お、調べていたのか。それならすぐには来れないか」
<他国を侵略するつもりがあれば、ですが>
「……まあな」
決め打ちでエトワール王国だけを狙っているなら他国への侵略は無いかもしれない。ただ、ここに居ることが知られたらアウラ様を引き渡せといった要求はありえそうだ。
そんな話をしていると国境を越えてきたエトワール王国のみんなが合流してきた。
「すごーい! リク、そんなこともできたの?」
「ああ。エネルギーは使うし、あんまり持続時間が無いから滅多に使わないけどな」
「ふう……良かったです。ここをリク様が越えられなければちょっと困ると考えていたので」
シャルとアウラ様が対照的な表情を見せながらそれぞれ口にする。
広い場所ならブースターを使って相手を翻弄しながら魔兵機《ゾルダート》と戦える。
そこへ騎士と、最初に話していた人と違う門番が来た。
「す、凄いですな……とりあえず目立つので入国をしてもらいましたが、王都へは入らないようにしていただきたい」
「わかった」
「ダメ、でしょうか」
「はい。流石にこれだけの物では。暴れられたら手に負えないですが、そこはエトワール王国を信用するということで。もちろん、道中は我々ヘルブストの者が同行するのでご了承ください」
「もちろんいいわ。やましいことなんて考えてないし」
ということでやはりというか当然ながらヘルブストの兵士がついてくるそうだ。
アウラ様とシャルはお供の騎士と馬車に乗せられた。人質というところまではいかないが、俺に対するけん制といったところだろう。
「ここから王都までどれくらいある?」
「馬車で三日です。途中、町があるので休憩は問題ありませんよ」
「そんな……急がないといけないのに……」
「ここはエトワール王国ではないので、申し訳ありませんがこちらに従っていただけると……」
馬車内の音声を拾うとそんな会話が聞こえてきた。アウラ様とヘルブストの兵士、両方の言い分は理解できる。
<長いですね>
「話がすんなりいけばすぐ戻れるさ。とりあえず従わないことには救援のお願いも出来ない」
俺はサクヤにそういってリヤカーを引いて歩き出すのだった。
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