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第二章
第46話 防衛の意思
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――オンディーヌ伯爵はこの辺り一帯の領主で、この砦を町にまで発展させた張本人とのこと。
お父様はそれを了承していたようですが、王都から離れている地域なので私達はそこまで知りえないことでした。
そんな彼が町砦であるイワンを発展させた。領地経営の手腕は高いと見ていいでしょう。やや目つきは鋭いですが、真面目な性格のようで私とシャルの説明に耳を傾けている。
そして――
「――というわけで私達はなんとか逃げてきたというわけです」
「王都が陥落……!? まさかそんな……」
「グライアードが攻撃を仕掛けてくるとはな。特にいい噂もないが、悪い話も聞かない。エトワール王国とそれほど変わらない国だと思っていたが」
現状を話すと驚くオンディーヌ伯爵。それと自論を口にしているのはギルドマスターのウォーグさんだ。
「騎士団でも勝てない……。それほどなのですか魔兵機《ゾルダート》と呼ばれる兵器は」
「はい、ジーエルさん。今、町の外に助けてくれたリク様が居なければ追いつかれてしまい、きっと捕まるか殺されていたでしょう。こちらにはガエインが居ましたが、他の騎士達がどうなったか……」
「むう……」
町長であるジーエルさんは冷や汗を流しながら呻いていた。見たことがない、得体のしれないものにどう反応していいのか分からないという感じですね。
「魔兵機《ゾルダート》に関しては外にいるリク様を見ていただければどういうものか分かります。彼はグライアードのそれとは異なりますが、能力は彼等より上です」
「ほう、ということは勝てると?」
ギルドマスターのウォーグさんが片眉を上げて顎に手を当てて尋ねてきた。そこへシャルが私に変わり話を続けてくれた。
「それはもうホントに強いわ。一人で魔兵機《ゾルダート》を三台相手にして勝っちゃったんだから!」
「三対一でか。人間同士でもその状況を覆せるのはかなり強い。ならそのリクという者が居れば反攻はできそうだな」
「奇襲ならね。相手に何台いるかわからないしそこはまだ考えるような状況じゃないわ。あたし達が寄ったのはそういうのがここに来るかもしれないからそれに対しての防衛をやってもらいたいの」
ウォーグさんの言葉を未来のこととしてあっさり横に置いておき『今』やらなければいけないことを口にする。
そこで町長のジーエルさんが小さく頷いて、先程からずっと考えているオンディーヌ伯爵に声をかけた。
「伯爵、この町砦は強固ですが魔兵機《ゾルダート》なるもの相手は少々厳しいと思います。冒険者や自警団でも犠牲が出るかと」
「……そうだな。なにか案があるか?」
「投石器の増設を提案します」
「投石か……確かにこの辺りは岩が多いしいいかもしれないな」
「投石器、ですか?」
聞きなれない言葉に私が聞き返すと、ジーエルさんがそれに答えてくれた。
「砦には外壁上から下にいる敵に向かって岩を投げて攻撃する兵器なのです。あまり使うことがないものですが、今の話を聞く限り魔兵機《ゾルダート》に巨大な岩をぶつけるのはいいかと思ったのです」
「本来は大型の魔物に襲われたり、集団で行動しているサンドウルフのような魔物の牽制に使うもんだ。デカブツならアリだろうな」
ウォーグさんが提案をいいじゃないかと口にし、そのまま話をつづけた。
「なら俺は冒険者連中に声かけだな。専属の冒険者以外は町を出るのを考慮してもいいかもしれん。もちろん、作戦を建てる前に出て行ってもらうが」
「そうだな。どうするかは先に決めておこうか。ありがとうございますアウラ様。どれだけ持つかわかりませんが、対策は立てておきます」
「すみません、このようなことしか言えず……」
「いえ、仕方ありません。それでヘルブスト国へ行くのですね」
オンディーヌ伯爵が眼鏡の位置を直しながら言う。私とシャルはそれに頷いて肯定する。
「支援が得られるかはわかりません。いえ、もしかすると無理かもしれません」
「……ではどうして?」
「グライアードがエトワール王国だけでなく、他の国を侵略しようとしているのであれば次は近隣に魔の手が伸びるでしょう」
「そうですね。そういう意味では恩を売れるとも言えますか」
「ま、見て見ぬふりはできないと思うけど」
シャルはそう口にするけど、実はグライアードにつく可能性も考えなければいけない。もしヘルブスト国が私達の話を聞いて、グライアードにつくと決めた場合は私とシャルの身は一番危険なところに身を寄せることになるのだ。
「では、先を急ぐのでお話はこれくらいで」
「わかりました。それでは、出発前に昼食などいかがでしょう。時間もちょうどいい。その間に我々はリク様という勇者を見ておきたいです」
「それならあたしが案内するわ! お姉さまはご飯を食べてて」
「でも……」
それは私もやりたいところなのに……とは言い出せず、リク様のところへはシャルに任せることにしました。
万が一なにかあっても私と違いきちんと戦える力がありますから。
「では、シャルル様よろしくお願いいたします。まずは私とウォーグで見てくるから、アウラ様のお相手はジーエル殿に任せるぞ」
「かしこまりました。後でわたしめも見に行くので早めに帰ってきて下さいよ? 伯爵」
「町の危機だと言うのに相変わらずなんてやつだ」
肩を竦めてオンディーヌ伯爵はウォーグさんと一緒に会議室の外へ出ていく。
その後にシャルと騎士二人がついていき、リク様のところへ向かっていった。
「それにしてもグライアードの悪行、許せませんな」
「ええ……」
「ヘルブスト国がなんというか……それが心配ですよ」
ジーエルさんはそう呟いた後、昼食の準備をするとやはり会議室を出ていった。その後すぐにメイドが現れ、ひとまず食堂へと案内される私達だった。
お父様はそれを了承していたようですが、王都から離れている地域なので私達はそこまで知りえないことでした。
そんな彼が町砦であるイワンを発展させた。領地経営の手腕は高いと見ていいでしょう。やや目つきは鋭いですが、真面目な性格のようで私とシャルの説明に耳を傾けている。
そして――
「――というわけで私達はなんとか逃げてきたというわけです」
「王都が陥落……!? まさかそんな……」
「グライアードが攻撃を仕掛けてくるとはな。特にいい噂もないが、悪い話も聞かない。エトワール王国とそれほど変わらない国だと思っていたが」
現状を話すと驚くオンディーヌ伯爵。それと自論を口にしているのはギルドマスターのウォーグさんだ。
「騎士団でも勝てない……。それほどなのですか魔兵機《ゾルダート》と呼ばれる兵器は」
「はい、ジーエルさん。今、町の外に助けてくれたリク様が居なければ追いつかれてしまい、きっと捕まるか殺されていたでしょう。こちらにはガエインが居ましたが、他の騎士達がどうなったか……」
「むう……」
町長であるジーエルさんは冷や汗を流しながら呻いていた。見たことがない、得体のしれないものにどう反応していいのか分からないという感じですね。
「魔兵機《ゾルダート》に関しては外にいるリク様を見ていただければどういうものか分かります。彼はグライアードのそれとは異なりますが、能力は彼等より上です」
「ほう、ということは勝てると?」
ギルドマスターのウォーグさんが片眉を上げて顎に手を当てて尋ねてきた。そこへシャルが私に変わり話を続けてくれた。
「それはもうホントに強いわ。一人で魔兵機《ゾルダート》を三台相手にして勝っちゃったんだから!」
「三対一でか。人間同士でもその状況を覆せるのはかなり強い。ならそのリクという者が居れば反攻はできそうだな」
「奇襲ならね。相手に何台いるかわからないしそこはまだ考えるような状況じゃないわ。あたし達が寄ったのはそういうのがここに来るかもしれないからそれに対しての防衛をやってもらいたいの」
ウォーグさんの言葉を未来のこととしてあっさり横に置いておき『今』やらなければいけないことを口にする。
そこで町長のジーエルさんが小さく頷いて、先程からずっと考えているオンディーヌ伯爵に声をかけた。
「伯爵、この町砦は強固ですが魔兵機《ゾルダート》なるもの相手は少々厳しいと思います。冒険者や自警団でも犠牲が出るかと」
「……そうだな。なにか案があるか?」
「投石器の増設を提案します」
「投石か……確かにこの辺りは岩が多いしいいかもしれないな」
「投石器、ですか?」
聞きなれない言葉に私が聞き返すと、ジーエルさんがそれに答えてくれた。
「砦には外壁上から下にいる敵に向かって岩を投げて攻撃する兵器なのです。あまり使うことがないものですが、今の話を聞く限り魔兵機《ゾルダート》に巨大な岩をぶつけるのはいいかと思ったのです」
「本来は大型の魔物に襲われたり、集団で行動しているサンドウルフのような魔物の牽制に使うもんだ。デカブツならアリだろうな」
ウォーグさんが提案をいいじゃないかと口にし、そのまま話をつづけた。
「なら俺は冒険者連中に声かけだな。専属の冒険者以外は町を出るのを考慮してもいいかもしれん。もちろん、作戦を建てる前に出て行ってもらうが」
「そうだな。どうするかは先に決めておこうか。ありがとうございますアウラ様。どれだけ持つかわかりませんが、対策は立てておきます」
「すみません、このようなことしか言えず……」
「いえ、仕方ありません。それでヘルブスト国へ行くのですね」
オンディーヌ伯爵が眼鏡の位置を直しながら言う。私とシャルはそれに頷いて肯定する。
「支援が得られるかはわかりません。いえ、もしかすると無理かもしれません」
「……ではどうして?」
「グライアードがエトワール王国だけでなく、他の国を侵略しようとしているのであれば次は近隣に魔の手が伸びるでしょう」
「そうですね。そういう意味では恩を売れるとも言えますか」
「ま、見て見ぬふりはできないと思うけど」
シャルはそう口にするけど、実はグライアードにつく可能性も考えなければいけない。もしヘルブスト国が私達の話を聞いて、グライアードにつくと決めた場合は私とシャルの身は一番危険なところに身を寄せることになるのだ。
「では、先を急ぐのでお話はこれくらいで」
「わかりました。それでは、出発前に昼食などいかがでしょう。時間もちょうどいい。その間に我々はリク様という勇者を見ておきたいです」
「それならあたしが案内するわ! お姉さまはご飯を食べてて」
「でも……」
それは私もやりたいところなのに……とは言い出せず、リク様のところへはシャルに任せることにしました。
万が一なにかあっても私と違いきちんと戦える力がありますから。
「では、シャルル様よろしくお願いいたします。まずは私とウォーグで見てくるから、アウラ様のお相手はジーエル殿に任せるぞ」
「かしこまりました。後でわたしめも見に行くので早めに帰ってきて下さいよ? 伯爵」
「町の危機だと言うのに相変わらずなんてやつだ」
肩を竦めてオンディーヌ伯爵はウォーグさんと一緒に会議室の外へ出ていく。
その後にシャルと騎士二人がついていき、リク様のところへ向かっていった。
「それにしてもグライアードの悪行、許せませんな」
「ええ……」
「ヘルブスト国がなんというか……それが心配ですよ」
ジーエルさんはそう呟いた後、昼食の準備をするとやはり会議室を出ていった。その後すぐにメイドが現れ、ひとまず食堂へと案内される私達だった。
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