魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第二章

第44話 加速

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「コクピットから落ちるなよ」
「私は『しいとべると』があるので大丈夫です。シャル、しっかり掴まっていてくださいね」
「大丈夫よ。あたしは体を鍛えているしね! というか速いわねー」

 クレイブの町を出てからリヤカーを引いて渓谷を駆けていた。
 道はヴァイス用に作られていないので凄く速いわけでもなく、俺は頭をぶつけたりしているけどな。
 
<警告、前方にヴァイスでは抜けられないアーチ状の通り道があります>
「オッケー」

 サクヤの言葉を聞いた後、すぐにその場所に辿り着く。腰を曲げれば通れそうだがここはプラズマダガーで破壊してしまおう。

「あ、光の剣」
「プラズマダガーっていうんだ。よっと」
「おお……あの岩があっという間に……」

 橋みたいになっていたので左右の根元を斬ってアーチを外した。崖の上に斬った岩を置いて再び走り出す。

「ううむ……これは本当に凄いな……」
「リク殿が居れば王都奪還は夢ではないな」
「相手がどれくらい魔兵機《ゾルダート》を保有しているか分からないからなあ。こっちも同じ状況にするのが望ましいけどな」
「捕獲した二機を参考に……」
「複雑な感じだし、技師がいるかどうかよね。いつから作ってたのかわからないけどアレを実戦レベルにしていっぱいある事実は正直怖いわ」

 シャルが背後のリヤカーで話し合っている騎士達の言葉を聞いてそんなことを言う。ちなみに集音マイクを使っているので後ろに居るけど会話は可能だ。
 コクピット内にいる二人の声も向こうに届く。

「そういえば操縦者の二人もメンテナンスはできるけど、大掛かりな修理は無理だと言っていましたね」
「遠征に出た時それじゃ困らないのだろうか?」
「逆だ。こういう時のために教えていないんだろうぜ」
「と、いいますと?」

 騎士の疑問に俺の見解を話す。
 なにごとも『絶対』というのは滅多に存在しない。魔兵機《ゾルダート》はたしかに強力な兵器だが負けない保証もない。
 だからあえて現地でメンテナンスが出来る知識程度にとどめておいたのだろう。
 鹵獲されても敵が使えないようにすれば台数が減るだけでなんとかなる。

「騎士や兵士は生身だから負ければ死ぬ。捕虜になったとして、寝返るよう促されても多くはそうしないだろ? でも機体は意思がない。乗る人間次第で敵にも味方にもなるんだ」
<え?>
「お前は黙ってろ」

 サクヤが『そんな……!』みたいな驚き方をしていたが、この世界のおいては例外だ。向こうの世界ならAIを改良されてあっさり寝返るだろうし。

「鉱山のある地域と技師が居れば手に入れた魔兵機《ゾルダート》を作れるでしょうか?」
「それは……わからないな。少なくとも一機はバラしてパーツと設計図を作らないと無理だろう」
<設計図は私が解析機能を使ってバラバラにしていく過程で作れると思いますよ>
「お、マジか」
「では資材と技師、ですね……」

 アウラ様は真剣な声色で一言、呟いていた。
 両親も心配だろうし町がいつ先の二つみたいに襲われるかわからない。
 まあ、町を襲うメリットはそれほど多くないがジョンビエルみたいな無差別殺戮をする輩が他にもいれば状況は変わるけど。
 
「あ、渓谷を抜けたわね」
「よし、ここから速度を上げるからよろしく頼むぜ」
「ええ」
「よろしくお願いいたします」

 陽が頭上になりつつあり、そろそろ昼を教えてくれた。飯は申し訳ないが荷台やコクピット内で食べてもらい、俺はひたすら走り続ける。これならロスは少ない。

「ゴガァァァ!」
「ああ?」
「ひゃいん!?」

 視界の広い草原地帯に入り、街道をひた走る。途中で魔物という動物の強いやつと遭遇するが俺のひと睨みで逃げていく。

「ゲイズタートルほどの根性はなさそうだ」
「あいつは特殊個体だからね。本来はそんなに遭遇する魔物じゃないから運は相当悪かったの」

 ゲイズタートルが特殊だったようで、あれほど巨大なのはあまり居ないらしい。ちなみに冒険者がゲイズタートルを倒そうと思ったら二十人以上は必要で、冒険者ランクがA以上は欲しいとのこと。
 そのあたりはよく分からないがヴァイスとまともにぶつかり合えるからめちゃくちゃ強いという認識だ。

<マスターも冒険者の扱いになるんですかね?>
「騎士じゃないのは確かだな」
「あ、あ、そ、それなら私の専属騎士になりましょう……!」
「お姉さまずるい! リクはあたしの戦友なんだから!」
「別に宣言しなくても、お前達は守るって」
「「うう……」」

 何故か喧嘩を始めた二人にそう言ってやると、呻いていた。
 なし崩しに助けたからエトワール王国の人間に理解があるけど、もし放浪したら大変なことになりそうだから自分の身も含めて安全策を取りたい。
 そこでシャルが不意に声をあげた。

「あら? これはなにかしら?」
「なんだ?」
「石板、でしょうか? でもなんだかつるつるしていますね」

 なんとなくアウラ様が首をかしげているイメージが湧く言い方をしていた。コクピット内は俺が視認できない。代わりにサクヤが話し出す。

<それはタブレットです。どこかにあると思っていましたがやはりありましたね>
「たぶれっと? 石板じゃないの? そういえばガラスだけど……」
<横にボタンがあると思いますが押してもらえますか?>
「ん……あ、これね」
「だ、大丈夫シャル……?」

 なんの疑いも無くボタンを押すシャルに呆れるアウラ様。いつもこんな感じなんだろうなと思っていると、シャルが口を開く。

「なにか文字が浮かび上がってきたわね。……なに? リクと女の子……!?」
「あ! ホーム画面か! それは向こうの世界に居る妹とその親友なんだ。妹がどうしてもそれにしておけってうるさくて」
「ふーん」
「なんだよ」
「なんでもない!」
「こら、シャル。……いいなあ」
「アウラ様?」

 なんでもありそうなシャルとなにか呟いていたアウラ様。なにを言っていたか分からない。

<シャル様、申し訳ありませんがそのタブレットをこのコネクタに接続してくださいませ>
「こねくた? ……ひゃ!? こ、この線ね。ここかな?」
<結構です。マスター、タブレットの改造許可を>
「改造? できるのか。まあ、どうせ見れないからいいけど」
<フッ、ありがとうございます>

 なんで今笑ったよお前。
 よくわからないが任せてみるか。そんな話をしながら行軍を続けていく俺であった――
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