上 下
39 / 146
第一章

第38話 離反

しおりを挟む
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「チッ、そういや手に乗っていたな。落ちろ」
「「うえええええ!?」」

 ビッダーが手に持っていた冒険者二人を投げ捨て、絶叫が響き渡る。
 馬鹿どもが、人質を取っているようじゃジョンビエルと同じだってんだ。
 オレことヘッジはそんなことを思いながら揺れる操縦席の中で耐える。

 ビッダーに剣を当てていた冒険者は剣を取り上げて叩き落としてやったが……

「まだ生きているな、しぶとい」
「案外あんなのが長生きするんだ。……行くぞ、舌を噛むなよ!」

 瞬間、魔兵機《ゾルダート》が大きく揺れる。左腕しか残っていないが拳くらいなら出せるからな。

「しかし、これで良かったのかねえ!」
「今なら降格だけで済ましてやるぜ……!」
「馬鹿を言うなあんたがそんなタマか!」
「なら操縦席ごと潰してやらあ。二人まとめてあの世へ行きな!」
「フッ……!」

 ジョンビエルがハンマーを振り下ろしてきたが、それをバックして回避する。続けて横、斜めと手当たりしだいに振り回す。
 そのうちの一発が魔兵機《ゾルダート》の胸を掠り金属音がする。

「くそ、リクとかいうのにやられたままだから出力が上がらん……!」
「武器もねえしまずいか?」
「そうだな。まあいいさ、どうせどこかで死んでいた命だ。あの姫さんを助けるために使ってもいいだろう」
「違いねえ」

 結局のところ、ジョンビエルはムカつくし、急に戦争をおっぱじめたグライアードにも疑問が残る。あの剣士姫が言うのももっともなんだよな。

 理由が分からない。

 だが、陛下は魔兵機《ゾルダート》を開発したあたりからおかしくなった気がする。土地に不便はないし国交も悪くはない。
 まあ一部ジョンビエルみたいな『素行不良』な人間が居たのは確かだが。

 それでも戦争をやると決めたのはなにが目的なのか? 末端であるオレ達にはわからなかった。

「どちらにせよ、ジョンビエル相手に勝ち目はない。だが疲弊させることはできる」
「呼び捨てとは偉くなったもんだなあ、ええ!」
「うお……!?」

 足の間接にガタが来たのか、ハンマーを避ける際にガクンと膝が崩れ、ハンマーが操縦席に食い込む。歪んだ操縦席に隙間ができた。

「ひゅう……」
「間一髪だったが、次は無理だ。どうやらここまでらしい」
「動かねえか」

 オレが言うとビッダーは頷いた。
 次に振り下ろされたら今度こそ粉々にされるだろう。さっきの一撃で開かなくなったので万事休すというやつだ。

「すまないな」
「いいってことよ。どうせ親もいねえオレ達だ、最後はこんなもんだろ」
「くく……死ねぇぇぇぇ!」

 ハンマーが持ち上がり隙間から月明かりが差してくる。まったく、離反して即死亡なんてよくできているぜ。

 騎士になったときから死ぬ覚悟はできている。
 オレとビッダーは狼狽えもせず、その時を待った。

「っしゃぁおらぁぁぁぁぁ!!」
「あああああああああ!?」
「なに……! イラス――」

 だが、その時は来なかった。

「追いついたぜジョンビエル……! ここでケリをつけてやる……!」

 なぜならあのリクとかいう謎の魔兵機《ゾルダート》乗りが駆けつけてきたからだ。

「あの野郎……かっこいいじゃねえか」
「まったくだ。ああいうのを勇者と呼ぶのだろうな」

 オレ達は隙間から見える真っ白の魔兵機《ゾルダート》を見て肩をすくめるのだった――

◆ ◇ ◆

「てめえは!」
「仲間の魔兵機《ゾルダート》は沈黙させたぜ。あとはお前だけだ!」
「クソが……! どこまでも邪魔をしやがる!」
「も、申し訳ありません……」

 あのイラスとかいう魔兵機《ゾルダート》はすぐに片付いた。操縦はまあまあだったが、本来の武器はハンマーなので、あまり斧は使えなかったようだ。
 プラズマダガーで両腕を削ぎ落し、逃げ出したところを追いかけたところジョンビエルが見えたのでぶつけてやった。

「どいつもこいつも……! おらぁぁぁぁぁ!」
「わ、わあああ!?」
「な!? 止めろ! 相手は俺だ!」
「馬鹿が……! それじゃ俺の気が済まねえ……! てめえのせいで町の人間が死ぬんだ! 後悔するんだな!」
「マジかこいつ!?」

 俺に向かってくるのかと思いきやハンマーを出鱈目に振り回して、家屋を破壊し、足元に居る騎士や町の人を攻撃し始めた。

「止めろって言ってんだろうが!」
「へっ……!」
「ぐあ!?」
「隙ができたな? 俺は殺すぜ、皆殺しだ! はっははははははは!」

 イカれていやがる……。これほど人を殺すことに躊躇がない奴は初めて……いや、メビウスの連中もそうだったか。
 自分の周りにいる人間以外は敵、そんな感じの圧を感じる。

「リク!」
「シャルか! 危ないから下がっていろ!」
「で、でも、まだ息がある人が! お姉さまなら……きゃぁぁぁぁ!」

 そこへ倒れた人を助けようとするシャルが見えた。するとその近くへハンマーを振り下ろしシャルは宙に浮いた。
 
「へっ、でしゃばるからだ。まあ、生きてるだろ。こうなったらこいつを回収して撤退するしか――」
「貴様ぁ!」

 シャルが倒れるのを見て、俺は怒りが頂点に達する。体が熱い、まるで人間の身体のような――

<……戦闘モード変更。システムSAKUYAからCHIRUYAへ移行。フェイズドライブ、フルコントロール>
「な、なんだ……!? おい、サクヤどうした」
<ノー。ワタシはシステムCHIRUYA。エネルギー解放……89……95……完了。エクスカリバーの使用が可能になりました」
「なんだ……頭に浮かぶ……エクス……カリバー……」

 俺が呟くと、右手にエネルギーで出来た剣が浮かび上がっていく。重さは感じない。ただそこに『ある』という感覚だけ。

「これで……終わりだ……!!」
「……! 光の剣がなんだってんだ! な!? 速――」

 ジョンビエル機が踏み込むと同時に俺も前へ出る。しかしその時、すでに終わっていた。ハンマーは虚しく空を切り――

「馬鹿な……!? いくらなんでも強すぎる……! うお――」

 左肩から袈裟懸けに振り下ろされたエクスカリバーが魔兵機《ゾルダート》を半分に切り裂いていた。

 爆発をしながら崩れていき、上半身が地面に落ちると燃え上がった。

<コンプリート。システム通常モードSAKUYAへ変更>

 そこでAIが無機質な言葉を吐く。

「ま、待て、お前はなんだ? サクヤじゃなくチルヤとか言ったな、そんなシステム俺は知らない。なんなんだ!」
<マスター? どうなさいましたか? おや、敵を真っ二つにしているじゃありませんか>
「戻った……」
<なんのことです?>
「いや、なんでもない。……騎士達を掃討する」

 いつの間にかエクスカリバーとやらも消えていた。なんだか分からないが、この機体、なにか俺の知らないモノがある……?

 それはともかくまずは事態を収束しなければと俺はシャルを手に取り安全な場所へ連れて行った。

◆ ◇ ◆

「はあああああ!」
「ぎゃあ!?」
「つ、強い……!?」
「エトワール王国の騎士を舐めるなよ!」

「おい、ジョンビエル殿が敗れたぞ……!」
「ば、馬鹿な……!? くそ、ディッター殿もイラス殿も撤退している……これ以上は無理か……! 撤退だ! 撤退ぃぃぃぃ!!」

 俺が町の門へ駆けつけるとガエイン爺さんと騎士達が激しい争いを繰り広げていた。
 だが、魔兵機《ゾルダート》が全機敗北したことを知ると、一人の騎士の声を受けて撤退を開始しだした。

「ま、待ってくれ!」
「くそ……覚えていろよ……!」

 捨て台詞を残す者、投降する者、落とし穴からやっとはいでたら敗北していた者など様々だ。

 背中を見せた騎士を斬ることまではしないとエトワール王国の騎士達は息を切らせながら敗走するグライアードの騎士達を見送っていた。

「終わったか……」
「リクか。ああ、ワシらの勝ちじゃ。だが――」

 ガエイン爺さんに声をかけると勝ったと宣言していた。しかし、俺達の後ろは敵味方ともにケガ人と死者を残していた。

「くそ……俺がもう少し手こずらなければ……」
「言うな。戦いに絶対はない……。逃がせば良かった。そういう選択もあったが。ワシらは抗戦を選んだのじゃからな」

 それだけ口にすると町へと踵を返して歩き出す。
 やるせないなと思いつつ、俺も騎士達とその後を追う。
 
 帰りには落とし穴に落ちたグライアードの騎士達を拘束し、広場へ転がしておいた。

「うう……あんたぁ……」
「父ちゃん……」
「う、うう……俺の腕が……」

 傷ついた人も多く、遺体もあり俺は胸が痛くなるが、俺達はひとまずの勝利を手にすることができたのだった――

◆ ◇ ◆

「……やれやれ、ほぼ壊滅、か」
「も、申し訳ありません……。ジョンビエル殿もイラス殿も負けるとは……」
「いいさ。私もこっぴどくやられたし、これは相手が悪かったと思わざるを得ない」
「どうしますか? 今なら追撃すれば――」
「無理だ。あの謎の魔兵機《ゾルダート》がいては中途半端に攻めても勝てないだろう。一度、退却してエトワール王国の王都へ帰還する。報告をして対策を練ろう」
「ハッ……!」

 先に退却していたディッターが同じく退却してきた騎士達を集めて話し合いをしていた。
 魔兵機《ゾルダート》を計5機を失い、戻った時のことを思いこめかみを抑える。

「今は勝利の美酒でも飲んでおくといい。次は……こちらが――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

処理中です...