上 下
36 / 146
第一章

第35話 激戦

しおりを挟む
「くらえ!」
「速いね」
 
 ディッターは俺が町へ行けないよう張り付いてきた。少しでも攻撃の手を緩めると猛攻が飛んでくる。
 先の戦闘と違い道はそれなりに広いのでお互い、相手の横へ回り込むような動きをを繰り返していた。

「ははは! 私の動きについてこれるとは凄いじゃないか! そら!」
「ウチの隊長に比べたら止まって見えるぜ」
「言うじゃないか。たぁぁ!」
「はあ!」

 長剣の一撃を左腕で弾き、プラズマダガーをボディに突き出す。しかしそれを少しの動作で回避してくるディッター。
 操縦系統を確認していないがこいつはなかなか技術が高い。大きく避けないことで張り付くことができるからだ。

「ヘッドクラッシャー!」
「両手もちか!」
「これを避けるか……! ぐっ……!?」

 大技っぽい攻撃は受けずに避ける。そこへ回し蹴りをくらわしてやるとディッターの機体が揺れる。

「あんたの機体じゃ俺には勝てないぜ」
「ここで足止めができればいいからね? ……負けるつもりはないけど」

 そう言って長剣を振り回してくる。突き、横薙ぎと多彩な技で攻めてくる。

「速さが強みである魔兵機《ゾルダート》のジグがガードすらさせらないだと……!」

 抜けられて焦ったが、今は段々と落ち着いてきた。そうなると隊長どころかケーニッヒに比べたとしても全然遅い。
 それに素早さはあるが、一撃はそれほど重くない。ジョンビエルの大剣や鹵獲した機体の斧の方が威力はある。

「見えて来たぜ」
「なんと……!? ぐあ……」

 長剣をプラズマダガーで弾きタックルでバランスを崩させる。反応がいいのでタックルを盾でガードしたが大きく下がっていった。

「やる!」
「今ので倒れないとはあんたもやるぜ! うおおおお!」
「くっ、光の剣……!」

 踏ん張ったところへ俺が前へ出ると、ディッターはそのままの態勢で剣を振り払い接近を拒む。しかし俺はそれを身をかがめて回避する。

「柔軟な動きを……!? これではまるで人間――」
「技術力の差が出たな。もらった……!」

 プラズマダガーを容赦なくコクピットへ向ける。殺しているんだ、殺されても文句は言えない。そう思っているとディッターの機体が大きくずれた。

「う、おおおおおお!」
「な……!?」

 その瞬間、長剣を持っていた右腕を付け根から貫き、大きな音を立てて地面に転がった。

「甘く見すぎていたか。ジョンビエルがやられたのも頷ける! ここは退かせてもらおう」
「仲間を見捨てるのか!」
「魔兵機《ゾルダート》を破壊されるわけにはいかないのでね。お前、名前は?」
「……神代凌空」
「リクか。覚えておこう」
「まあ、今ここで倒してやるけどな?」
「ふむ、やる気なのはいいことだが……町は大丈夫かな?」
「……!?」

 確かに町は心配だ。だがこいつを逃すとまた攻めてくる。今、トドメを刺しておかないと――

<警告、町へ一機接近中。騎士は落とし穴にかかりますが魔兵機《ゾルダート》は乗り越えられる可能性があります>
「くっ……」
「また会おうリク!」
「あ、待て!」

 こういう逃げにも使うために速いのかあいつは……! ソウの町で見た花火のような信号弾を上げながら全速力で後退していく。腹立たしいので背中に岩を投げてやった。

「ぐあ!? お、のれ……覚えているがいいよ……」
「仕方ない、町へ戻るぞ」
<はい>

◆ ◇ ◆

「リクを無視するか。考えておるわい! じゃが、タダで通れると思うなよ!」
「ぎゃ!?」
「陰に待ち伏せしている敵がいるぞ! 散れ!」
「ふん、お望みならば出てやるわい」

 ロープを張って騎士の乗る馬を転ばしていくガエイン。落馬した騎士の首を斬り裂きながら大剣を振り回す。

「ガ、ガエインだ! こいつも褒賞の対象だ、首を獲れ!」
「貴様等ごときにはまだまだ負けんわ!」
「ひっ……!?」

 渓谷中に響き渡る怒声。それに怯んだ騎士の首が飛ぶ。そのまま襲い来る敵を薙ぎ払い命を刈り取っていく。

「つ、強い……!」
「囲んでも有利に思えないとは」

 真後ろに居てもあっという間に大剣が飛んでくる。剣や盾で受けても武器ごと吹き飛ばされてしまい、近づくことさえままならない。
 
「それが全力か! グライアードの騎士は大したことないのう!」
「なにを……!!」
「ほう、いい筋をしておる。ワシが相手でなければ、良かったのじゃが!」
「ぐあ……!?」

 数度の剣を交えた後、仕掛けた騎士はプレートアーマーごと胸を切り裂かれ血を噴出させた。
 騎士達が攻めあぐね始めたその時、ガエインの周囲がフッと暗くなる。

「む!」
「じじいがはりきりすぎだぜ、おい!」
「ふん、デカブツに乗らねば戦えぬ男に言われたくはないわ!」

 目の前に現れたのはジョンビエル搭乗の魔兵機《ゾルダート》だった。ガエインが声を荒げると持っていた斧を振り下ろしてきた。

「ぬかせ! お前等、じじいは俺が止める。イラスも町へ行け!」
「しょ、承知しました!」
「了解」
「チッ……。うぬ!」
「行かせるかよ」

 ガエインが斧を避けて騎士へ迫ろうとした。しかしジョンビエル斧を振り上げた勢いで地面を転がっていく。

「死ね……!」
「まだじゃ……!」
「受け流せるのかよ!? ん? 撤退信号だと? ディッターがやられたのか!?」

 振り下ろした斧を起き上がりながら大剣で逸らしジョンビエルが驚愕する。
 さらに蹴りを繰り出すがガエインはサッと身をかわし馬を斬り倒した。

 実際、魔兵機《ゾルダート》は乱戦に強いが人間を一人相手にするには効率が悪い。目標が小さすぎて達人クラスには当たらないのだ。

「ちょこまかと……!」
「図体ばかりではな……!」
「くっ……!」

 足の間を縫って背後に回ったガエインは間接に一撃を入れてジョンビエル機をぐらつかせる。

「倒れぬか……!」
「舐めた真似を!」
「うおおお!?」

 ジョンビエルはかかとを使い、土を抉りながらガエインを攻撃する。咄嗟にガードをするが勢いがすさまじく大剣ごと吹き飛ばされた。

「とどめ―― ……!」
「っと、大丈夫か爺さん!」
「リ、リクか! 助かったぞ」

 吹き飛ばされたガエインを受け止めたのはディッターを排除してこちらへ向かってきたリクだった。ヴァイスを見てジョンビエルは目を細めて呟くように言う。

「てめえか……この短時間でディッターをやるとはな……」
「逃がしちまったけどな。でもお前は今度こそ倒す」
「上等だ……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...