魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第一章

第35話 激戦

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「くらえ!」
「速いね」
 
 ディッターは俺が町へ行けないよう張り付いてきた。少しでも攻撃の手を緩めると猛攻が飛んでくる。
 先の戦闘と違い道はそれなりに広いのでお互い、相手の横へ回り込むような動きをを繰り返していた。

「ははは! 私の動きについてこれるとは凄いじゃないか! そら!」
「ウチの隊長に比べたら止まって見えるぜ」
「言うじゃないか。たぁぁ!」
「はあ!」

 長剣の一撃を左腕で弾き、プラズマダガーをボディに突き出す。しかしそれを少しの動作で回避してくるディッター。
 操縦系統を確認していないがこいつはなかなか技術が高い。大きく避けないことで張り付くことができるからだ。

「ヘッドクラッシャー!」
「両手もちか!」
「これを避けるか……! ぐっ……!?」

 大技っぽい攻撃は受けずに避ける。そこへ回し蹴りをくらわしてやるとディッターの機体が揺れる。

「あんたの機体じゃ俺には勝てないぜ」
「ここで足止めができればいいからね? ……負けるつもりはないけど」

 そう言って長剣を振り回してくる。突き、横薙ぎと多彩な技で攻めてくる。

「速さが強みである魔兵機《ゾルダート》のジグがガードすらさせらないだと……!」

 抜けられて焦ったが、今は段々と落ち着いてきた。そうなると隊長どころかケーニッヒに比べたとしても全然遅い。
 それに素早さはあるが、一撃はそれほど重くない。ジョンビエルの大剣や鹵獲した機体の斧の方が威力はある。

「見えて来たぜ」
「なんと……!? ぐあ……」

 長剣をプラズマダガーで弾きタックルでバランスを崩させる。反応がいいのでタックルを盾でガードしたが大きく下がっていった。

「やる!」
「今ので倒れないとはあんたもやるぜ! うおおおお!」
「くっ、光の剣……!」

 踏ん張ったところへ俺が前へ出ると、ディッターはそのままの態勢で剣を振り払い接近を拒む。しかし俺はそれを身をかがめて回避する。

「柔軟な動きを……!? これではまるで人間――」
「技術力の差が出たな。もらった……!」

 プラズマダガーを容赦なくコクピットへ向ける。殺しているんだ、殺されても文句は言えない。そう思っているとディッターの機体が大きくずれた。

「う、おおおおおお!」
「な……!?」

 その瞬間、長剣を持っていた右腕を付け根から貫き、大きな音を立てて地面に転がった。

「甘く見すぎていたか。ジョンビエルがやられたのも頷ける! ここは退かせてもらおう」
「仲間を見捨てるのか!」
「魔兵機《ゾルダート》を破壊されるわけにはいかないのでね。お前、名前は?」
「……神代凌空」
「リクか。覚えておこう」
「まあ、今ここで倒してやるけどな?」
「ふむ、やる気なのはいいことだが……町は大丈夫かな?」
「……!?」

 確かに町は心配だ。だがこいつを逃すとまた攻めてくる。今、トドメを刺しておかないと――

<警告、町へ一機接近中。騎士は落とし穴にかかりますが魔兵機《ゾルダート》は乗り越えられる可能性があります>
「くっ……」
「また会おうリク!」
「あ、待て!」

 こういう逃げにも使うために速いのかあいつは……! ソウの町で見た花火のような信号弾を上げながら全速力で後退していく。腹立たしいので背中に岩を投げてやった。

「ぐあ!? お、のれ……覚えているがいいよ……」
「仕方ない、町へ戻るぞ」
<はい>

◆ ◇ ◆

「リクを無視するか。考えておるわい! じゃが、タダで通れると思うなよ!」
「ぎゃ!?」
「陰に待ち伏せしている敵がいるぞ! 散れ!」
「ふん、お望みならば出てやるわい」

 ロープを張って騎士の乗る馬を転ばしていくガエイン。落馬した騎士の首を斬り裂きながら大剣を振り回す。

「ガ、ガエインだ! こいつも褒賞の対象だ、首を獲れ!」
「貴様等ごときにはまだまだ負けんわ!」
「ひっ……!?」

 渓谷中に響き渡る怒声。それに怯んだ騎士の首が飛ぶ。そのまま襲い来る敵を薙ぎ払い命を刈り取っていく。

「つ、強い……!」
「囲んでも有利に思えないとは」

 真後ろに居てもあっという間に大剣が飛んでくる。剣や盾で受けても武器ごと吹き飛ばされてしまい、近づくことさえままならない。
 
「それが全力か! グライアードの騎士は大したことないのう!」
「なにを……!!」
「ほう、いい筋をしておる。ワシが相手でなければ、良かったのじゃが!」
「ぐあ……!?」

 数度の剣を交えた後、仕掛けた騎士はプレートアーマーごと胸を切り裂かれ血を噴出させた。
 騎士達が攻めあぐね始めたその時、ガエインの周囲がフッと暗くなる。

「む!」
「じじいがはりきりすぎだぜ、おい!」
「ふん、デカブツに乗らねば戦えぬ男に言われたくはないわ!」

 目の前に現れたのはジョンビエル搭乗の魔兵機《ゾルダート》だった。ガエインが声を荒げると持っていた斧を振り下ろしてきた。

「ぬかせ! お前等、じじいは俺が止める。イラスも町へ行け!」
「しょ、承知しました!」
「了解」
「チッ……。うぬ!」
「行かせるかよ」

 ガエインが斧を避けて騎士へ迫ろうとした。しかしジョンビエル斧を振り上げた勢いで地面を転がっていく。

「死ね……!」
「まだじゃ……!」
「受け流せるのかよ!? ん? 撤退信号だと? ディッターがやられたのか!?」

 振り下ろした斧を起き上がりながら大剣で逸らしジョンビエルが驚愕する。
 さらに蹴りを繰り出すがガエインはサッと身をかわし馬を斬り倒した。

 実際、魔兵機《ゾルダート》は乱戦に強いが人間を一人相手にするには効率が悪い。目標が小さすぎて達人クラスには当たらないのだ。

「ちょこまかと……!」
「図体ばかりではな……!」
「くっ……!」

 足の間を縫って背後に回ったガエインは間接に一撃を入れてジョンビエル機をぐらつかせる。

「倒れぬか……!」
「舐めた真似を!」
「うおおお!?」

 ジョンビエルはかかとを使い、土を抉りながらガエインを攻撃する。咄嗟にガードをするが勢いがすさまじく大剣ごと吹き飛ばされた。

「とどめ―― ……!」
「っと、大丈夫か爺さん!」
「リ、リクか! 助かったぞ」

 吹き飛ばされたガエインを受け止めたのはディッターを排除してこちらへ向かってきたリクだった。ヴァイスを見てジョンビエルは目を細めて呟くように言う。

「てめえか……この短時間でディッターをやるとはな……」
「逃がしちまったけどな。でもお前は今度こそ倒す」
「上等だ……!」
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