魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第一章

第33話 接敵

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「来たか……!」
「い、いざそうなると緊張するな」
「そりゃそうだろ。……下手したら死ぬんだぞ? 気合入れていくんだ」

 夜明け前に町へ入り騎士へ伝令をお願いし、アウラ様やガエイン爺さんなどを起こしてもらうことに。
 まあ俺が一旦町へ入ったことでなにごとかと町の人達も起きてきたわけだが。

「それにしても前もそういうことがあったが、わかるのか?」
「ああ。敵の数までわかる。この有利を活かせば大負けはないはずだ」
「承知した。どれくらいでここに到着するか?」

 レーダーのことをガエイン爺さんを含めみんなに話しておく。グライアードの騎士が居ないことを確認して、だ。
 すると緊張していた空気が少し緩んだ気がする。

「まだ慌てる必要は無いよ。まだ15キロくらいある。それに今は進軍がとまっている」
「なんでだ……?」
「あれだ、ウチの時みたいに夜襲だろ」

 ソウの町の人が口にしたように俺も夜襲狙いだと思っている。だからまだ反撃をする策を練ることができる。

「抜けて町に入って来た連中をロープを張ってこけさせよう」
「お、いいなそれ。曲がり角に牛とか置いとくか」
「悪くねえな……」
「それウチの牛だろ!? 勝手に使うなよ!?」

 俺が言うまでもなくみんなやる気のようだ。とりあえずこっちは任せるとして俺は外に行くか。

「それじゃ外の哨戒に出るぜ。みんな死なないように危なかったら逃げるんだぜ」
「ああ! 落とし穴にはまった奴等をボコボコにしてやるよ!」
「母ちゃんつええ」

 そんなやり取りを聞きながら踵を返して外壁を飛び越えようとしたその時、アウラ様とシャル、それとガエイン爺さんがやってきた。

「リク様、お気をつけて!」
「ん? ああ、なあにこの前の戦いを見たろ? なんとかするって」
「ワシも出るぞ」
「え? 爺さんはアウラ様を護衛した方がいいんじゃないか?」
「町に奴等が入った時点で戻るからいいわい。……その前に終わらせればいい」

 ニヤリと笑いながら大剣を担ぐガエイン爺さん。根っからの戦士ってことかね。
 ならばと手に乗せてやる。

「ずるいー!」
「お前はアウラ様と一緒にいるのだ。剣の腕は騎士にも負けん。ワシの剣技『真剛』の教えを忘れるな」
「もうー……わかったわよ! 師匠とリク、気を付けてね!」
「ああ! シャルもな!」

 俺達は手を振りながら今度こそ外壁を登って外へと出る。着地をして爺さんを降ろしてからサクヤに声をかける。

「敵は?」
<停止中《ノーリアクション》。予測通り夜まで待つつもりでしょう>
「こちらの町の位置は把握しておるようじゃし、間違いなかろう。しかしリクの方が一枚上手。これは叩けるぞ」
「そのつもりだ。無理はするなよガエイン爺さん。そういや魔兵機《ゾルダート》はどうやって倒したんだよ?」

 初見で4機倒したと言っていたことを思い出して尋ねてみる。すると爺さんは肩を竦めてから話し出す。

「あの時は城での戦闘じゃったからやりようはあった。わざと柱や壁の後ろに隠れてやり過ごし、背後から足の関節部分を大剣でぶっ叩くのじゃ」
「あー」

 力任せにぶっ叩けばたしかにそれは出来るかもしれない。
 向こうも実戦で使うのは初めてだろうしイレギュラーな対応にはすぐ対処できないだろう。

「ここだと崖を利用して上からと背後に回り込むかのう」
「まあまあ魔兵機《ゾルダート》は俺に任せてくれ。騎士達をなんとかした方がいい」
「それもそうか。よし、では奴等が来るまでコクピットに乗せてもらおうかの」
「なんでだよ」
「快適じゃからな。夜まで待つならそっちの方がいい。開けておいてくれたらすぐに出られるからな」

 理屈に合っているんだかあってないんだか……時間がかかるのはその通りなので爺さんをコクピットに乗せてハッチを開けておいた。
 片膝をついて載せたあとは崖の上に飛び移り敵の動きを待つ。

「望遠カメラで見れるな」
<休憩をしていますね。さすがに突撃前は休みというところでしょうか>
「行軍して疲労もあるだろうしな。すぐに来ないなら奇襲するか?」
「それもアリじゃが、その間に抜けて町へ向かう者が居るかもしれん」
「分散されると面倒か。そのために渓谷を戦場に選んだわけだし、待とう」

 俺は片膝をついて連中の動きを待つ。

◆ ◇ ◆

「やれやれ、足並みをそろえるのは大変だ」
「うるせえ。お前の魔兵機《ゾルダート》と一緒にするんじゃねえ。で、町はどっちだ」
「ここから渓谷に入った先に町があります」
「夜に襲撃をしたい。どのくらいで到着できそうだい?」
「地図を見る限り……もう少し先でとどまっておいた方がいいかと」

 ジョンビエルとディッターの混成部隊がクレイブの町がある渓谷前で休息を取っていた。リク達の予想通り、夜襲を想定していた。
 グライアードの騎士達の鎧や魔兵機《ゾルダート》は黒を基調としているので見つかりにくいというのもある。

「今のうちに飯を食っとけ。戦闘中に吐いたらただじゃおかねえからな?」
「了解しました!」

 ジョンビエルが借りた魔兵機《ゾルダート》のコクピットから顔を出して指示を出すと騎士達は食事と水の用意を始める。そこへディッターが水を飲みながら尋ねてきた。

「作戦はどうする? 例の魔兵機《ゾルダート》はここにある三台で止めるかい?」
「……一気に町を襲うぞ。野郎にゃ借りがあるが、勝ちにいくなら町だ。向こうは一台しかいねえ。俺達の内誰かは止められるかもしれねえが、町の人間は蹂躙できるだろ?」
「オッケー、悪くない」

 ディッターは直情的に見えるジョンビエルはこういう時に冷静になることを知っていた。故に今、作戦を聞いてみたのだ。
 
「(さて、と。三台の魔兵機《ゾルダート》を倒したエトワール王国の巨兵……ようやく会えそうだ)」
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