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第一章

第32話 接近

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「またなでかい兄ちゃん!」
「がんばってー!」
「おう、任せとけ。お前らはちゃんと隠れてるんだぞ!」
「「「はーい!」」」

 月……と呼んでいいのか分からないけどすっかり陽が落ちた町の外で俺は子供とおじさん達が戻っていくのを見届ける。
 落とし穴は俺達が来た入口からぐるりと半円状になるくらいは掘れた。あと半分くらいあるので夜通しやっていく感じだな。
 今は布を落とし穴にかけて砂を上に乗せて偽装したところである。エネルギーを回復させるため少し休憩するか。

 と、思っているんだが。

「……お前も戻れよ。レーダーには今のところ引っ掛かっていないけど夜はだいたい危ないもんだろ」
「大丈夫よ。リク、強いし。さっきもジャイアントベアーを倒したじゃない」
「まあ、俺より全然小さいしなあ」

 シャルがあぐらをかいている俺の足元でシャルが笑いながらそんなことを言う。確かにさっきデカいクマが出てきたが16メートルある俺にはまるで相手にならない。
 腕を振り払ったら壁にぶつかりそのまま昇天してしまった。
 一方的に殺してしまったのでちょっと罪悪感があるが、凶悪な魔物ということなのでそういうものだと思うことにした。クマ鍋になるらしい。

「俺が強くても町の中が安全なのは変わりがない。できれば俺だけで魔兵機《ゾルダート》を蹴散らした後に戦いに出るくらいが好ましい」
「コクピットに……」
「万が一があるだろ? ガエイン爺さんとアウラ様が心配するだろ、大人しく戻っておけって」
「わかったわよー」

 口を尖らせるシャルに俺は苦笑する。
 相当この機体を気に入っているみたいだけど、ガエイン爺さんと一緒にアウラ様と一緒に居て欲しいんだよな。こっちは真面目に万が一ないとも限らない。

「さ、それじゃゆっくり眠っておけ。いつ来るかわからないからな」
「オッケー。穴掘り、頑張ってね」
「おう、サンキュー」

 俺はシャルをそっと手に載せて落とし穴の向こうにある門へ降ろした。中に入っていくのを確認すると俺はもう少しだけエネルギー回復に努めることにする。

<モテモテですね>
「それは古いだろ……。旧時代の死語ってヤツだぞそれ。反応は?」
<今のところは大丈夫そうです。追ってこない可能性を考えたいですが>
「AIのくせに人間っぽいな……俺もそれを願いたい。だが、不安要素を排除したいという気持ちもあるんだよ」

 戦いが好きってわけじゃないが、後ろを気にして行軍するのは少々気持ちが悪い。
 できれば徹底的に叩きのめして反撃をしたくないレベルまでもっていきたいと考えている。

<殺意高めですね>
「別に殺したいわけじゃねえよ!? 投降したら命まで取るつもりはねえさ。国や町を壊されたのはこっちの人間だ。処遇は任せるけどな」
<首以外を土に埋めて石を投げましょう>
「だから旧時代だって!?」

 そんな話をしながら少し休憩した後、俺はさらに町の周囲に穴を掘っていく。こうやって作業をしているとヴァイスは本当によくできている。
 地上戦は想定していないとエルフォルクさんは言っていたけど、奴等が数で押して来て地球へ降りた場合のことを考えた機体だ。

 ヴァッフェリーゼは高機動を実現するため足は殆どそれ自体がブースターっぽかったけどこいつはしっかり地に足をつけることができる。
 宇宙戦のみだけならヴァッフェリーゼは最適なんだけど、ヴァイスはどこでも戦える汎用性があった。
 ブースターが新型なのでヴァッフェリーゼよりも加速が凄い。

「指も複雑に動くから換装も色々考えていたんだろうなあ」
<武器は欲しかったですね。ダマスクハルバードがあれば魔兵機《ゾルダート》は一網打尽にできたでしょうし>
「長物だから振り回すだけで脅威だしな」

 無い袖は振れないからプラズマダガーで頑張るしかないのだ。まあこの世界だと光の剣とか言われるくらいには強いみたいなので全然マシではある。

「元の世界に帰れるのかねえ……」
<あの空の向こうが宇宙でどこかの銀河にある惑星だったりして>
「地球が把握していない宇宙の向こう側か……いや、どうなんだろうな……あり得るような気もするけど、小説やマンガみたいに別世界って言われた方がしっくりくるかな」
<どちらにせよ、どうやって生きていくかの指標は欲しいですね>

 指標ねえ。
 本当の身体が復活するかもわからんし元の世界へ戻れるかもわからない。乗り掛かった舟ということでエトワール王国のみんなについていくのがいいだろう。

 その後は他愛ない話をして夜通し穴を掘り進め続ける。サクヤは向こうの世界に居た際、AIらしい喋りだったがこっちに来て随分と親しみのある奴になった。
 素晴らしい開発者だぜエルフォルクさん――

◆ ◇ ◆

<マスター、マスター起きてください>

 エルフォルクさんは凄いなと思いつつ、ずっと作業をしていたのだが、気が付けば俺は寝ていたようで穴の中で座り込んでいた。

「うお……寝ていたのか俺。この姿になって初めてだな……」
<理論はよくわかりませんが急に意識がヴァイスとのリンクから切断されましたね>

 サクヤの声で目が覚めて頭を起こす。どうやら気絶みたいな感じで寝ていたようだ。

「お、五時か……明るくなってきたな」

 空を見上げると夜が明けようとしていた。
 あと一息で町の周り全てが落とし穴になる。続きといくか、そう思い立ち上がった瞬間――

<警告。レーダーに反応アリ。引っ掛かりましたね。数はソウという町で交戦した時より数が多いです>

 敵の部隊が設定していた20キロ圏内に入ったらしい。さらに数は倍近くになっているそうだ。
 撤退をして他の部隊を待ったか? その割にこの短期間で近づいてくるとは、部隊としての練度は意外と高いらしい。

「あのジョンビエルとかいうのだろうな」
<ええ。どうしますか?>
「まずは町に人間に報告だ。後はレーダーを見ながら遊撃するぞ」
<承知しました>

 ……さて、二回戦か。罠も張っておくか――
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