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第一章

第29話 考慮

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 一通り今後来る災厄について話を終えた後、エバールさんとグレオさんの二人が腕を組んで目を瞑る。
 ここを防衛拠点にして反撃をすると言ったので、自分たちはどう動くかを考えているのだろう。町の人間を
 しばらく無言で待っているとエバールさんが先に口を開いた。

「……お話はわかりました。正直に申し上げます。ここから逃げ出すべきだと考えます」
「ふむ」
「エバールさんはその考えか」
「……」

 町長の判断としては間違っていない……と、思う。俺はそういう責任を負うことはなかったから感情的な部分だけど。
 WDMで兵士としてやっていた俺としてはここは難しいところだなと感じる。
 
 戦う場合、町を危険に晒し、負けた時は全てなくなる。
 逃げだした場合は生き残れるが、万が一追いつかれればなにも準備をしていない状態で町の人間を守り切るのは難しい。

 そして追手がいる場合、逃げたとしても追いつかれる可能性が高い。それはここまで町の人達を引っ張ってきたことでも証明されている。
 向こうは馬や魔兵機《ゾルダート》などを使って追いかけてくるわけだからな。

「では俺の案だが、町の人間全員の脱出は正直不可能だと考える。だから籠城して対抗した方がいい。もちろん、町の人間に話して逃げたい奴はヘルブストか砦へ向かってもらう」
「そうだな……」

 グレオさんの意見は俺とほぼ同じか。ただ、逃げたい奴がいれば逃がすというものだな。それについてエバールさんはそれもそうかと同意する。
 そこで俺が口を出すことにした。

「すまない、俺からもいいか?」
「む、どうぞ」
「とりあえず言えることは追手が来ている場合あまり時間がない。だから決めるのは迅速にした方がいい。それと防衛に関しては俺が魔兵機《ゾルダート》を死ぬ気で留める。あの鹵獲した機体は俺が倒した三機の内の一機だ、増援が来ても三機同時までなら相手できる」
「そうじゃな。リクがあっちを止めてくれれば後は騎士と騎士の戦いになる。ソウの町では遊撃になったが待ち受けるならこちらが有利になる。町の者が罠でも張ってくれれば」

 そこでガエイン爺さんが俺の言葉に続けてくれた。ここで戦う肝はまさにそこで、待ちの戦法で人間同士なら当たり負けはしないと思っている。
 正確な数は見ていないが、こちらより数が多いという感じはしなかった。それとソウの町で数人倒している。

「なるほど。そうですね、時間が無いのはその通りだと思います。町の人間を集めて意見を集めることにします」
「だな。ソウの町の連中はどうするんだ?」

 事態は切迫していることを伝え、勝てなくはない可能性も教えておく。町の人に戦えとは言いにくいが、もし武器を手にしてくれるなら勝てる確率は上がる。
 そう言うとエバールさんは席を立ち、役所へと入っていった。
 グレオさんはサイモンさんへソウの町の人間について尋ねていた。

「移動中に話し合いを終えています。子供や女性は戦いませんがこの町に留まり、戦う者が多数でした。望むものは食料を分けてもらい旅立ってもらいます」
「そうか。……よし、俺は冒険者に話してくるかな。ソウの町の冒険者は?」
「依頼中に町を空けてしまったのであまり残ってはいませんね。ギルドに書置きは残していますが……」
「ギルドマスターは?」

 グレオさんの言葉にサイモンさんは首を振る。あの夜襲で命を落としたのだそうだ。

「……オッケーだ」
「現時点で敵影は無い。俺は外で警戒をするからなにか決まったら教えてくれ」
「よいのか?」
「ああ。どうせ腹も減らねえしな。レーダーをチェックして敵の位置を探るさ」

 ガエイン爺さんの言葉に俺は立ち上がりながら頷く。数の有利プラス状況を把握できるのが強みだ。それを活かさない手は無い。

「あ、ならあたしも!」
「お前は重要人物だろ。アウラ様と一緒に居ろって。剣が使えるんだろ? 姉ちゃんを守っておけ」
「えー! あたしも前線で戦えるわ!」
「シャル、我儘を言ってはいけません。リク様はお一人の方が強いと私は思います」
「だからこくぴっとに――」
「人手を減らすんじゃねえよ!? それじゃ、俺は行くからな」
「頼む」

 俺は建物や人を潰さないようにゆっくりと来た道を戻り、町の外へ哨戒につくのだった――

◆ ◇ ◆

「――ことで、我々は選択肢がある。ここで残って戦うか、町を出るかだ。話が本当なのはソウの町から来た客人の話と、姫様の――」

 緊急で町の人間を集めた町長のエバールが広場で概要を説明していた。魔兵機《ゾルダート》という巨大兵器があるものの、リクがそれを対処できること、勝てる可能性があることなどを。
 
「マジかよ……」
「ここにも来るのか、倒せなかったんだな」
「あのデカブツが荒らしまわったんだ、家なんかあっという間にバラバラだぜ……」

 話の内容に戦慄するクレイブの人間達。それを裏付けるようにソウの町人が当時の様子を話してみなの表情は曇っていた。

「俺はやるぜ。町を潰されてたまるか! ソウの町の連中はやる気だ。俺達の町は俺達で守ろうぜ!」
「おお! 卑怯者のグライアード王国に好き勝手させるわけにゃいかねえ!」
「アタシたちも出来ることがある。籠城戦ならご飯が必要だ、炊き出しをやるよ!」
「ええ!」
「すまない。役所も備蓄を出す、救護班もだ」
「あたし達王族もちゃんと戦うからね!」

 殆どの人は戦うことを決意し、戦えない子供たちなどは地下室のある家などに隠れるなどを決定していた。
 いざとなれば逃げることも考慮し、荷物はまとめておくことをシャルやアウラが続けていた。

 しかしそんな中、渋い顔をする者がいた。

「……くそ、宿で寝てたら襲撃とはな」
「ここまで来たが、俺達が逃げる必要あるか……? エトワール王国の出身ってわけじゃねえし」
「確かにそうだな。……どうするかねえ」

 ソウから移動して来た冒険者三人が、シャルと魔兵機《ゾルダート》を見ながらそんな会話をしていた。
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