魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

文字の大きさ
上 下
28 / 146
第一章

第27話 到着

しおりを挟む

「こっちは任せとけ。そら」
「おお、ありがとうございますリク殿」

 ――水辺の場所からさらに数十時間を費やし移動をしていた。50キロは徒歩でだいたい30時間弱。馬もあるから速く移動できる……はずなのだが人数が多すぎるのでそこまで距離を稼げていない。
  魔物も結構出ていて、今も遠くに四足歩行の魔物が居たので岩を投げつけてから追い払った。

「暗くなってきたから灯りは出しとくよ。それより町はまだかかるな……」
「そうですわね。そろそろ休みましょうか。ガエイン、皆に休憩を!」
「承知しました!」

 アウラ様がコクピットから顔を出してそう言うと、ガエイン爺さんが返事をする。
 その言葉を聞いた町人がため息を吐いていた。

「ふう……」
「よかった。足が棒になってしまったよ」
「町長は馬に乗ってもいいですよ」
「まだまだ若いものには負けんさ」

 そんな中、町長さんが困った顔で他の人に元気アピールをしていた。町はもうないが、トップとして頑張っているのが聞こえてくるな。
 さて、荒地が増えて来たから歩きはきついと思う。とりあえず渓谷には入っているのであと一息といったところだ。

<残り17キロ……。時間は22時を回りましたね>
「だな。荷台の子供たちも寝てしまったし、徒歩組もそろそろ限界だろう」
「そうですね。シャルもさっき目を閉じてしまいました」

 アウラ様が笑っているような感じで言う。
 最初に乗り込んできた時はかなり興奮気味だったので落ち着いたなと苦笑してしまう。

「グループで集まってキャンプだ。リク殿が屋根を作ってくれる。寝ている者は起こさず食事だけ用意しておいてほしい」

 そんな話をしていると、騎士達が後退してきて今日はここまでにして野営をするので止まるよう指示を出していた。そこであちこちで安堵のため息が聞こえてくる。

「や、やっと休憩か……早く町へ到着したいぜ……」
「情けないことを言うんじゃないよ! 一日歩いただけで軟弱な」
「俺はデスクワークだったからさあ……」
「くそ……なんでこんな目に……」
「まったくだ。……これもグライアードの馬鹿どものせいだ……。嫁さんが死んだんだのもな……」

「依頼料は払ってもらうからな?」
「俺達はどこへ行ってもいいだろうが!」
「いや、今はしたがってくれ情報を売られても困る」
「なんだと……!」
「なんの騒ぎじゃ?」
「あ、ガエイン殿――」

 疲労もあってか愚痴を言いだす人もいるな……。
 まったくもってその通り。なのでグライアードの奴等にはそれなりの報復をしてやりたいなどと話している男達もいた。
 身内が死んだ人も多い。気持ちが分かるとは言い難いが、俺も同僚をメビウスとの戦いで失っているので似たようなものだ。
 他では騎士に憤っている武装した男達が好きにさせろという。旅人って感じだが今の状況でグライアード王国に襲われたら口を割ってしまうだろう。
 騎士の判断は正しいと思う。

「……」
「自分のせいとか思ったらダメだぜ。国が守るのはそうだが、無理なこともあるしな」
「あ、はい。ありがとうございます……」
<大丈夫です。取り返せばいいのですから>
「そう、ですね」

 サクヤがAIらしからぬことを言い、アウラ様の声色はわずかに緊張からほぐれていた。
 とりあえず怖いのは『グライアード憎し』が『守ってくれなかったエトワール王国』に変わることだろう。抵抗できなければ矛先が変わる。
 なのでできればそれを逸らすためにもアウラ様には先に行って欲しかったってのもあるんだが……。まあ、ここで奮闘するしかないだろうな。
 追手が来ない可能性もあるが、鹵獲した魔兵機《ゾルダート》をそのままにしておくとも思えない。

「こいつにも食わせるのか? 食料もそんなに多くないんだけど……」
「魔兵機《ゾルダート》のことやグライアードについて色々吐いてもらう必要がある。すまんが頼む」
「ガエイン様が頭を下げる必要はありませんよ!? わ、わかりましたから!」

 ガエイン爺さんがグライアードの騎士に食事を与えるようお願いしていた。貴重な捕虜だ、心証は良くしておいた方が口が軽くなる可能性は高いしな。

「すまない」
「ふん……侵略しといてよく言うぜ……」
「……」

 地面に座らせているグライアードの騎士がスープの入った器を受け取り礼をいう。
 それに対して町人は冷ややかな目を向けて怒りの言葉を投げかけていた。

「離れて食べるぞ」
「わかった」

 捕虜を連れてこの場を離れていく。町の人は殺してやりたいと思っているだろうけどな。一人は見せしめに殺すとかいいそうだけど。

「……辛いですね」
「戦争はそうだな。やりたくないぜ、仕掛けた側も一番困るのは町の人達だからなあ」
「そうですね」
「とりあえず水だけでも飲んでおきなよアウラ様。飯は町についてからでもいいけど」
「……! 知っていたのですか……」

 アウラ様は俺と初めて会った時から食事を殆どとっていない。実はシャルもである。水を少し飲みつつ移動し、パンだけでいいと食事を受け取りつつ食料袋に戻していた。

「俺は遠くまで見える目があるしな。倒れたら心配する。次の町では食事をとってくれよ? シャルもな」
「……はい」

 捕虜が食ってお姫様が食わないってのも変な話だが、責任を感じているってところかな。
 
 そして翌日、俺達は魔物の攻撃を回避しつつ町へと到着した。

「お、な、なんだ……? 凄い人数だぞ!?」
「急な訪問で申し訳ありません! 私はエトワール王国の王女アウラ。王都がグライアード王国に侵略され陥落。今も追手に狙われているのです。途中に立ち寄ったソウの町もやられました。そのことについてお話があります」
「ひ、姫様!?」
「町長を呼んで来いー!」
「すごいな……と、とりあえず入ってくれ!」
「でかい……!? ゴーレムなのか……?」

 クレイブの町に到着した際、門番と思われる人が驚愕していた。俺の姿もそうだが引き連れている人数にもだ。

<周辺情報を取得。周囲に渓谷があり、町には約5メートルほどの防壁があります>
「サンキュー。魔兵機《ゾルダート》相手には心許ないが、前の町より壁が高いな」
<渓谷ですから、崖から飛んでくる魔物を警戒しているのかと>

 そう言われれば納得だ。
 さて、とりあえず作戦を考えないといけないな?
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若
大衆娯楽
人気の地域紹介ブログ「コニーのおすすめ」にて紹介された浜薔薇の耳掃除、それをきっかけに新しい常連客は確かに増えた。 しかしこの先どうしようかと思う蘆根(ろこん)と、なるようにしかならねえよという職人気質のタモツ、その二人を中心にした耳かき、ひげ剃り、マッサージの話。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

処理中です...