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第一章
第27話 到着
しおりを挟む「こっちは任せとけ。そら」
「おお、ありがとうございますリク殿」
――水辺の場所からさらに数十時間を費やし移動をしていた。50キロは徒歩でだいたい30時間弱。馬もあるから速く移動できる……はずなのだが人数が多すぎるのでそこまで距離を稼げていない。
魔物も結構出ていて、今も遠くに四足歩行の魔物が居たので岩を投げつけてから追い払った。
「暗くなってきたから灯りは出しとくよ。それより町はまだかかるな……」
「そうですわね。そろそろ休みましょうか。ガエイン、皆に休憩を!」
「承知しました!」
アウラ様がコクピットから顔を出してそう言うと、ガエイン爺さんが返事をする。
その言葉を聞いた町人がため息を吐いていた。
「ふう……」
「よかった。足が棒になってしまったよ」
「町長は馬に乗ってもいいですよ」
「まだまだ若いものには負けんさ」
そんな中、町長さんが困った顔で他の人に元気アピールをしていた。町はもうないが、トップとして頑張っているのが聞こえてくるな。
さて、荒地が増えて来たから歩きはきついと思う。とりあえず渓谷には入っているのであと一息といったところだ。
<残り17キロ……。時間は22時を回りましたね>
「だな。荷台の子供たちも寝てしまったし、徒歩組もそろそろ限界だろう」
「そうですね。シャルもさっき目を閉じてしまいました」
アウラ様が笑っているような感じで言う。
最初に乗り込んできた時はかなり興奮気味だったので落ち着いたなと苦笑してしまう。
「グループで集まってキャンプだ。リク殿が屋根を作ってくれる。寝ている者は起こさず食事だけ用意しておいてほしい」
そんな話をしていると、騎士達が後退してきて今日はここまでにして野営をするので止まるよう指示を出していた。そこであちこちで安堵のため息が聞こえてくる。
「や、やっと休憩か……早く町へ到着したいぜ……」
「情けないことを言うんじゃないよ! 一日歩いただけで軟弱な」
「俺はデスクワークだったからさあ……」
「くそ……なんでこんな目に……」
「まったくだ。……これもグライアードの馬鹿どものせいだ……。嫁さんが死んだんだのもな……」
「依頼料は払ってもらうからな?」
「俺達はどこへ行ってもいいだろうが!」
「いや、今はしたがってくれ情報を売られても困る」
「なんだと……!」
「なんの騒ぎじゃ?」
「あ、ガエイン殿――」
疲労もあってか愚痴を言いだす人もいるな……。
まったくもってその通り。なのでグライアードの奴等にはそれなりの報復をしてやりたいなどと話している男達もいた。
身内が死んだ人も多い。気持ちが分かるとは言い難いが、俺も同僚をメビウスとの戦いで失っているので似たようなものだ。
他では騎士に憤っている武装した男達が好きにさせろという。旅人って感じだが今の状況でグライアード王国に襲われたら口を割ってしまうだろう。
騎士の判断は正しいと思う。
「……」
「自分のせいとか思ったらダメだぜ。国が守るのはそうだが、無理なこともあるしな」
「あ、はい。ありがとうございます……」
<大丈夫です。取り返せばいいのですから>
「そう、ですね」
サクヤがAIらしからぬことを言い、アウラ様の声色はわずかに緊張からほぐれていた。
とりあえず怖いのは『グライアード憎し』が『守ってくれなかったエトワール王国』に変わることだろう。抵抗できなければ矛先が変わる。
なのでできればそれを逸らすためにもアウラ様には先に行って欲しかったってのもあるんだが……。まあ、ここで奮闘するしかないだろうな。
追手が来ない可能性もあるが、鹵獲した魔兵機《ゾルダート》をそのままにしておくとも思えない。
「こいつにも食わせるのか? 食料もそんなに多くないんだけど……」
「魔兵機《ゾルダート》のことやグライアードについて色々吐いてもらう必要がある。すまんが頼む」
「ガエイン様が頭を下げる必要はありませんよ!? わ、わかりましたから!」
ガエイン爺さんがグライアードの騎士に食事を与えるようお願いしていた。貴重な捕虜だ、心証は良くしておいた方が口が軽くなる可能性は高いしな。
「すまない」
「ふん……侵略しといてよく言うぜ……」
「……」
地面に座らせているグライアードの騎士がスープの入った器を受け取り礼をいう。
それに対して町人は冷ややかな目を向けて怒りの言葉を投げかけていた。
「離れて食べるぞ」
「わかった」
捕虜を連れてこの場を離れていく。町の人は殺してやりたいと思っているだろうけどな。一人は見せしめに殺すとかいいそうだけど。
「……辛いですね」
「戦争はそうだな。やりたくないぜ、仕掛けた側も一番困るのは町の人達だからなあ」
「そうですね」
「とりあえず水だけでも飲んでおきなよアウラ様。飯は町についてからでもいいけど」
「……! 知っていたのですか……」
アウラ様は俺と初めて会った時から食事を殆どとっていない。実はシャルもである。水を少し飲みつつ移動し、パンだけでいいと食事を受け取りつつ食料袋に戻していた。
「俺は遠くまで見える目があるしな。倒れたら心配する。次の町では食事をとってくれよ? シャルもな」
「……はい」
捕虜が食ってお姫様が食わないってのも変な話だが、責任を感じているってところかな。
そして翌日、俺達は魔物の攻撃を回避しつつ町へと到着した。
「お、な、なんだ……? 凄い人数だぞ!?」
「急な訪問で申し訳ありません! 私はエトワール王国の王女アウラ。王都がグライアード王国に侵略され陥落。今も追手に狙われているのです。途中に立ち寄ったソウの町もやられました。そのことについてお話があります」
「ひ、姫様!?」
「町長を呼んで来いー!」
「すごいな……と、とりあえず入ってくれ!」
「でかい……!? ゴーレムなのか……?」
クレイブの町に到着した際、門番と思われる人が驚愕していた。俺の姿もそうだが引き連れている人数にもだ。
<周辺情報を取得。周囲に渓谷があり、町には約5メートルほどの防壁があります>
「サンキュー。魔兵機《ゾルダート》相手には心許ないが、前の町より壁が高いな」
<渓谷ですから、崖から飛んでくる魔物を警戒しているのかと>
そう言われれば納得だ。
さて、とりあえず作戦を考えないといけないな?
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