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第一章
第24話 増援
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『それで、私の手を借りたいと』
「そうだ。一台でいい、魔兵機《ゾルダート》を貸せ」
『くく、それが人にモノを頼む態度かい? ……しかし、謎の魔兵機《ゾルダート》は興味があるな』
――グライアードのジョンビエル部隊は破壊された魔兵機《ゾルダート》の場所まで戻って来ていた。
しばらく様子を見ていたがリクが戻って来ないと判断したジョンビエルは魔力通信具《マナリンク》を使い、味方への連絡をとっていた。
エトワール王国への戦争は魔兵機《ゾルダート》が一番の功績を上げているが、本人の魔力次第で通信精度・距離が変化する魔力通信具《マナリンク》の存在も大きい。伝令で馬を走らせるより、その場で複数と交信ができることで無駄なく攻め入ることができたのだ。
その他、戦いはできなくても魔力が高ければ通信士として活躍できるので需要もできた。
ただ、平民や冒険者から魔力が高い人間を無理やり参加させているケースもあるため国内から批判の声は高かった。
『それで私はどうすればいい?』
「できれば俺の魔兵機《ゾルダート》『アンフィス』を修理して奴等を追いたい。パーツはあるか?」
『さすがに他国には持ってきていないよ。破壊されることすら想定外だ。くく』
「チッ……」
暗に『やらかしたな』といったニュアンスでそう言われ、ジョンビエルは舌打ちをする。すると魔力通信具《マナリンク》の向こうにいる男が話を続けた。
『ではこちらにある魔兵機《ゾルダート》を一台君に貸そう。私の部隊も三台運用だが、そちらの二台を回収するのに一台使おう』
「お、気が利くな。騎士も回せるか?」
『問題ない。……私も合流するからな』
「マジかディッター。いけ好かないがてめえが来るなら助かる。がだあの獲物は俺がやるからな……!」
『それは任せるよ。私の『ジズ』も実戦というものを経験しておきたいからね。ではそこで待っていてくれたまえ』
「了解だ」
ジョンビエルが魔力通信具《マナリンク》を切ってから通信士へ装置を投げて返す。
「野郎……ただじゃすまねえぞ、白い魔兵機《ゾルダート》」
◆ ◇ ◆
「――というわけでジョンビエルの援護に向かう」
先ほどまでジョンビエルと通信をしていたディッターが部隊を集めて次の指示を出していた。
「そんなことが……」
「謎の魔兵機《ゾルダート》が現れた? 馬鹿な」
「それにジョンビエル殿が負けるとも思えんが、事実ですか?」
特に謎の魔兵機《ゾルダート》による反撃でジョンビエルの敗北があったという話は集まった騎士全員が驚愕する。
「本人がそう言っていたから間違いないだろう」
「敵の白い魔兵機《ゾルダート》はエトワール王国の開発したものでしょうか……?」
「どうかな。それを調べるためにも私が出向くのだよ。もしかするとそこに王女が居る可能性もあるしね」
「なるほど。……しかしジョンビエル様の援護とは、士気が下がりますね」
「言ってやるな。戦いしかできない憐れな男なのだ。自分より弱い者を虐げてその存在を保つしかできないのだからね。さて、そんな彼でもグライアードには必要だ。汚名返上をさせてあげようじゃないか」
あまり評判のよくない上司という扱いであるジョンビエルを蔑むように騎士達へ伝えるディッター。
「さすがはディッター様。砦の方は?」
「それこそジョンビエルが居なければ攻めるのは難しいだろう? それに背後を謎の魔兵機《ゾルダート》に取られかねない」
「確かに……。よし、皆の者任務だ。魔兵機《ゾルダート》二台の回収と、ジョンビエル様の援護だ」
「「「おおおお!」」」
他の騎士と違う色の鎧を着た騎士がディッターの指針を他の人間に告げると気合の入った返事があった。
ディッターは小さく頷きながら微笑み、自らの機体である『ジグ』へ向かう。
「……さて、ジョンビエルはともかく白き魔兵機《ゾルダート》はしっかり調査せねばな。今回、初投入だというのに似たようなものが出るとは偶然とは思えないけど」
「チェックオッケーです」
「ありがとう」
技術士官に小さく手を上げて挨拶し、片膝をついている魔兵機《ゾルダート》へ乗り込む。
「マテリアルストーン変換コンバータ良好、魔力量チェック……コンプリート。各部動作は……ま、オッケーだろう。魔兵機《ゾルダート》『ジグ』出撃する」
ディッターがそう口にして右上にあるスイッチを押した。その瞬間ハッチが閉じて正面と左右についている水晶玉のようなものから外の風景が映し出される。
「装備チェック……オッケー。行くぞ皆の者!」
そして剣と盾を手に持ち、右手の剣を頭上に掲げてから、外に向かって音声を出し、騎士達を鼓舞する。すると騎士達は進軍を開始した。
ディッターがそれを見て満足げに微笑み、ジョンビエル機とは違い、頭部と肩アーマーの形が違う魔兵機《ゾルダート》がゆっくりと歩き出した。
「戦争は実につまらないものだったからね。もう少し血を見せてもらおうか」
そう呟いて目を細めるディッター。彼もまたジョンビエルとは違う意味での危険人物を伺わせる笑みを浮かべていた。
――そして数時間後、ジョンビエルとの合流を果たしたディッター達は町へと向かう。
◆ ◇ ◆
「さすがに逃げ出した後か。まったくツイてねえぜ」
「まあ、その点で言えば同情するね。いわば私達が魔兵機《ゾルダート》でエトワール王国を強襲したのと同じだ」
「こっちも新型を使ってそれは言い訳にもならねえだろうが」
「野蛮な君にしては殊勝な発言だ。……おっと」
ディッターがそんな発言をすると、ジョンビエルが彼の頬へ殴りかかる。それを回避されてジョンビエルが唾を吐きながら魔兵機《ゾルダート》に乗り込むため歩き出す。
「うるせえぞディッター! とりあえずもうここには用はねえ。追撃だ」
「そうだね」
くっくと笑うディッターへ騎士がかけより声をかけた。
「大丈夫ですか? まったく、騎士の風上にもおけないですね……」
「いやいや、それでも彼は負けた言い訳をしないんだ。その点においては私も認めているんだよ」
「はあ……」
そんなものですかねと呟く騎士の肩を叩いて、ディッターは笑うのだった。
「そうだ。一台でいい、魔兵機《ゾルダート》を貸せ」
『くく、それが人にモノを頼む態度かい? ……しかし、謎の魔兵機《ゾルダート》は興味があるな』
――グライアードのジョンビエル部隊は破壊された魔兵機《ゾルダート》の場所まで戻って来ていた。
しばらく様子を見ていたがリクが戻って来ないと判断したジョンビエルは魔力通信具《マナリンク》を使い、味方への連絡をとっていた。
エトワール王国への戦争は魔兵機《ゾルダート》が一番の功績を上げているが、本人の魔力次第で通信精度・距離が変化する魔力通信具《マナリンク》の存在も大きい。伝令で馬を走らせるより、その場で複数と交信ができることで無駄なく攻め入ることができたのだ。
その他、戦いはできなくても魔力が高ければ通信士として活躍できるので需要もできた。
ただ、平民や冒険者から魔力が高い人間を無理やり参加させているケースもあるため国内から批判の声は高かった。
『それで私はどうすればいい?』
「できれば俺の魔兵機《ゾルダート》『アンフィス』を修理して奴等を追いたい。パーツはあるか?」
『さすがに他国には持ってきていないよ。破壊されることすら想定外だ。くく』
「チッ……」
暗に『やらかしたな』といったニュアンスでそう言われ、ジョンビエルは舌打ちをする。すると魔力通信具《マナリンク》の向こうにいる男が話を続けた。
『ではこちらにある魔兵機《ゾルダート》を一台君に貸そう。私の部隊も三台運用だが、そちらの二台を回収するのに一台使おう』
「お、気が利くな。騎士も回せるか?」
『問題ない。……私も合流するからな』
「マジかディッター。いけ好かないがてめえが来るなら助かる。がだあの獲物は俺がやるからな……!」
『それは任せるよ。私の『ジズ』も実戦というものを経験しておきたいからね。ではそこで待っていてくれたまえ』
「了解だ」
ジョンビエルが魔力通信具《マナリンク》を切ってから通信士へ装置を投げて返す。
「野郎……ただじゃすまねえぞ、白い魔兵機《ゾルダート》」
◆ ◇ ◆
「――というわけでジョンビエルの援護に向かう」
先ほどまでジョンビエルと通信をしていたディッターが部隊を集めて次の指示を出していた。
「そんなことが……」
「謎の魔兵機《ゾルダート》が現れた? 馬鹿な」
「それにジョンビエル殿が負けるとも思えんが、事実ですか?」
特に謎の魔兵機《ゾルダート》による反撃でジョンビエルの敗北があったという話は集まった騎士全員が驚愕する。
「本人がそう言っていたから間違いないだろう」
「敵の白い魔兵機《ゾルダート》はエトワール王国の開発したものでしょうか……?」
「どうかな。それを調べるためにも私が出向くのだよ。もしかするとそこに王女が居る可能性もあるしね」
「なるほど。……しかしジョンビエル様の援護とは、士気が下がりますね」
「言ってやるな。戦いしかできない憐れな男なのだ。自分より弱い者を虐げてその存在を保つしかできないのだからね。さて、そんな彼でもグライアードには必要だ。汚名返上をさせてあげようじゃないか」
あまり評判のよくない上司という扱いであるジョンビエルを蔑むように騎士達へ伝えるディッター。
「さすがはディッター様。砦の方は?」
「それこそジョンビエルが居なければ攻めるのは難しいだろう? それに背後を謎の魔兵機《ゾルダート》に取られかねない」
「確かに……。よし、皆の者任務だ。魔兵機《ゾルダート》二台の回収と、ジョンビエル様の援護だ」
「「「おおおお!」」」
他の騎士と違う色の鎧を着た騎士がディッターの指針を他の人間に告げると気合の入った返事があった。
ディッターは小さく頷きながら微笑み、自らの機体である『ジグ』へ向かう。
「……さて、ジョンビエルはともかく白き魔兵機《ゾルダート》はしっかり調査せねばな。今回、初投入だというのに似たようなものが出るとは偶然とは思えないけど」
「チェックオッケーです」
「ありがとう」
技術士官に小さく手を上げて挨拶し、片膝をついている魔兵機《ゾルダート》へ乗り込む。
「マテリアルストーン変換コンバータ良好、魔力量チェック……コンプリート。各部動作は……ま、オッケーだろう。魔兵機《ゾルダート》『ジグ』出撃する」
ディッターがそう口にして右上にあるスイッチを押した。その瞬間ハッチが閉じて正面と左右についている水晶玉のようなものから外の風景が映し出される。
「装備チェック……オッケー。行くぞ皆の者!」
そして剣と盾を手に持ち、右手の剣を頭上に掲げてから、外に向かって音声を出し、騎士達を鼓舞する。すると騎士達は進軍を開始した。
ディッターがそれを見て満足げに微笑み、ジョンビエル機とは違い、頭部と肩アーマーの形が違う魔兵機《ゾルダート》がゆっくりと歩き出した。
「戦争は実につまらないものだったからね。もう少し血を見せてもらおうか」
そう呟いて目を細めるディッター。彼もまたジョンビエルとは違う意味での危険人物を伺わせる笑みを浮かべていた。
――そして数時間後、ジョンビエルとの合流を果たしたディッター達は町へと向かう。
◆ ◇ ◆
「さすがに逃げ出した後か。まったくツイてねえぜ」
「まあ、その点で言えば同情するね。いわば私達が魔兵機《ゾルダート》でエトワール王国を強襲したのと同じだ」
「こっちも新型を使ってそれは言い訳にもならねえだろうが」
「野蛮な君にしては殊勝な発言だ。……おっと」
ディッターがそんな発言をすると、ジョンビエルが彼の頬へ殴りかかる。それを回避されてジョンビエルが唾を吐きながら魔兵機《ゾルダート》に乗り込むため歩き出す。
「うるせえぞディッター! とりあえずもうここには用はねえ。追撃だ」
「そうだね」
くっくと笑うディッターへ騎士がかけより声をかけた。
「大丈夫ですか? まったく、騎士の風上にもおけないですね……」
「いやいや、それでも彼は負けた言い訳をしないんだ。その点においては私も認めているんだよ」
「はあ……」
そんなものですかねと呟く騎士の肩を叩いて、ディッターは笑うのだった。
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