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第一章
第22話 脱出
しおりを挟むグライアードの軍勢が町を撤退してから数時間が経過した。
まだ暗闇の中、警戒をしつつガエイン爺さんと合流し、シャルも無事だった。
「馬鹿者ぉ! お主が出てきてどうする! 姉上と共に奴等が欲する身柄ぞ、今回は無事だったから良かったものの捕まったらどうするつもりだったのじゃ!」
「いたぁ!? だって町の人達が危険な中あたしだけじっとしているなんてできないわよ!」
……無事だったが、シャルはガエイン爺さんに激しいお説教を食らっている最中だった。
「す、すみませんガエイン。私がついていながら……」
「いえ、アウラ様のせいではありません。妹ぎみ……不肖の弟子が軽はずみな行動をしたからで」
「いぎぎぎぎ……」
「あ、はい。シャル、私達はもっと多くの民を助けるために行動しているのです。以後気を付けてください」
「でも、お姉様が居れば……」
「言い訳をするなっ!」
「ひゃい!」
とまあこんな感じだ。
サクヤによるとレーダーには町の人間以外マーカーは出ていないらしいので、アウラ様達もここへ呼び込んだ。
先行して事情を説明していた騎士達から話は聞いていたので聞き訳は良かった。
ちなみに抗議の声を上げようとした人も居たのだが、ガエイン爺さんの説教する怒鳴り声で大人しくなった。
これも狙ってのことだろう。食えない爺さんである。
「アウラ王女、我々はこれからどうすれば……」
「ここに滞在すると恐らくまた占拠に来るでしょう。申し訳ありませんが、私達と共にヘルブスト国へ向かい避難をお願いします」
「……承知しました。しかし戦争とは……」
この町の長だという人が代表で話をし、アウラ様の言葉に従うことになった。
理解はできるが納得はしがたい。そんな表情だ。
「うう……。俺達の町が……」
「父ちゃん、どうなっちゃうの……?」
「母ちゃんが瓦礫の下に……うう……」
「パパ……」
その片鱗というべきか、他の人達は涙を流しながら亡くなった者達を探したり、遺体を見て膝をついていた。
戦争をして、人を殺してまで欲しいものなどあるのだろうか。俺はそんなことを考えながら町を見下ろしていた。
「準備が出来ている者は町の外へ。まだだという者は空が白くなるまで準備をしてくれ。それを過ぎたら強制的にここを発つ」
騎士がそう言って町の人達へ話すと、バラバラと別れて行くのが見えた。
「うわーん! お家がなくなっちゃったよー」
「にわとりさん、置いて行くのやだよう」
「ダメよ、せめて逃がしてあげましょうね」
可愛がっていた家畜やペットにお別れを告げる子供たちなど、痛々しい場面も多い。
<やるせないですね>
「AIにもわかるか? これが戦争だ。つまらない行為だよな。……ふむ、子供も多いし妊婦さんもいるっぽいな。陽が昇るまで少しあるし、ちょっと作ってみるか」
<なにをです?>
「ま、見てのお楽しみってやつだ」
俺はそういって崩れた家屋から使えそうな素材を拝借してとあるものを作成することにした。そこまで大きな町というわけではないけど千人近くはいそうだ。
そして子供が多いなら移動に手間がかかると思う。馬車もかなり用意されているが、ここはヴァイスの性能を活かすべきだろうと――
「ふう、できた」
<これは……四輪のリヤカー、ですか?>
――俺が引く用のリヤカーを作成した。簡素ではあるが、五十人くらいは乗れる大きさで、そこが抜けないよう厚めの木を採用。外枠はまあ雑だが、車輪と車輪を繋げる棒はプラズマダガーと指を駆使して鉄製にした。
「ひ、光の剣……?」
「光の剣を道具みたいに使ってる……!? あああ!?」
加工途中、町人がそんなことを言って悶絶していたけどなんだったのか。
光の剣と言っていたけど、よく分からなかった。
まあその人達の協力もあって完成にこぎつけたわけだが。
<これはいいですね>
「だろ? 子供や女性に乗ってもらって俺が引く形だ。ローテーションを組んで不平がないようにしたいけどな」
<屋根もつけませんか?>
「お、いいな。でかい布あるかな」
俺が周囲を探していると、足元に姉妹がやってきた。
「リク様、これは一体?」
「でかっ!? あ、もしかしてこれに乗せてくれるの?」
「正解だシャル。ただ、俺が動かせなくなる可能性もあるから、馬車はできるだけ用意して欲しい。あ、それと子供優先で次に女性だ。長旅はきついからな」
「まあ、わざわざこれを!? ありがとうございます。私から募っておきます」
「これなら馬四頭で引けるんじゃない? あ、屋根は?」
丁度シャルがサクヤと同じことをいい、俺は苦笑する。折角だし協力してもらおうかね?
「今、ちょうどそれをどうしようか考えてたところなんだ。支え棒は作れるけど、でかい布はちょっと無理だ」
「オッケー、ならあたしが聞いてきてあげる! できたら最初に乗せてよね」
「そりゃ構わないが馬は?」
「あの子は横に並んで歩いてもらうわ!」
馬も主人を乗せたいだろうに、新しい物好きのシャルのせいで不憫なことである。
「……あの、本当にありがとうございます。私達のみならず町を……。飛び出してくれたこと嬉しかったです」
「気にしないでいい。どうせ俺も行くアテもないし、あいつらは許せない」
正直、どっちが悪いのかという部分は未確認だったので微妙なラインだったんだが、無差別に町を破壊しようとしていた連中よりはアウラ様達につきたいと考えた。
もし、今後エトワール王国側も非道な行いがあれば覆すこともあるが、まあ大丈夫だろう。
「そのお体では不便も多いでしょうに……」
「まあ、元の身体の治療が終われば、多分戻れるはず……。戦いはこっちの方が楽だけどな」
「そうなのですね? あの、お体はどちらに?」
「え? ああ、コクピットの中だけど」
「お顔を拝見できないでしょうか?」
不意にそんなことを言われて面食らう。爺さんが吐くくらいだから流石にまずいだろう。そんなことを考えていると――
「姫! ダメですぞ! 操縦席はダメ、絶対!」
「ガエイン? どうしてですか?」
「戦いの後、瀕死でこの地に来たようで凄惨な姿でした。血の海でワシは吐きましたぞ」
「まあ……。そんな状況で助けに……。ますますお顔を見てお礼をしたいです」
「姫!?」
「なになになんの話?」
そこで数人の女性と戻って来たシャルが声をかけてきた。そこで事情を話すと、なら自分が様子を見るわと意気込んで言ってくる。
ガエイン爺さんは止めたが、弟子だからか強くは言わなかった。
そして――
「うぇぇぇぇぇ……」
――シャルは涙目になった。
結局、このままはまずいだろうということになり、今のうちにとコクピットの血を洗い流してくれた。
布も用意でき簡単な幌バスが完成。
空が白んで来たころ、俺達は町を後にするのだった――
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